2015/09/04 - 21:03~03:11 のログ
ご案内:「保健室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (雨のぱらつくこと、湿気の多いこと、潮風に身を晒すこと。
 差の多少はあれ、そうしたものにヨキの『古傷』は弱かった。

 人間の姿を取って十余年。
 今やぶっ倒れこそしないが、心身が重くなることには変わらない。
 そういうわけで、保健室のベッドに横になっていた。

 通り雨が過ぎ去って、外は晴れ。
 雲間から差し込む陽光に、九月の乾き始めた風が交じる)

ヨキ > (枕元に、外した眼鏡と飲みかけの経口補水液。
 ベッドの上に長身を丸め、薄手のタオルケットを被っている。
 終始いびきのひとつも掻かずに、肩がゆっくりと上下している)

(チャイムの音。)

(深みの奥底から引き上げられるような緩やかさで、瞼を開く。
 大きく深呼吸をして目を擦り、壁の時計を見る。正午だった)

「…………、うーーん……」

(ずるずると上体をを起こす。
 ベッドの上に座り直すと、波打つ癖毛がよけいにくしゃりと絡んで垂れた)

ご案内:「保健室」に蓋盛 椎月さんが現れました。<補足:養護教諭 亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン>
蓋盛 椎月 > くたびれた白衣を羽織った養護教諭が、書類ケースを抱えて戸を開き現れる。
「どーも」
ベッドに座すヨキの姿に一瞥くれると、さして興味もなさそうにデスクの前の事務椅子に座った。

「案外脆くて居らっしゃる……
 なんかいります?」
薬とか、ビタミン剤とか。
書類をパラパラと検分しながら、ヨキのほうを向かずそう口にする。

ヨキ > (手櫛で髪の毛を荒く梳いて、目を擦る。
 袖口で眼鏡のレンズを拭いて掛け直すと、養護教諭の戻ってきたところだった)

「――ああ、蓋盛……お疲れ様。
 済まんな、世話になった」

(首を右へ左へ解しながら、寝起きの擦れて低い声が応える。
 何か要るか、との問いには、いや、と短く辞した)

「女の月のものと変わらん。去れば元通りだ。

 ……やれやれ。君に優しくされる生徒を羨むべきか、
 気を使わせずに済む教師の身分を有難く思うべきか」

(何の気なしの独り言。
 ぽつりと零して、履いたブーツのベルトを締め直す)

蓋盛 椎月 > 「教師に優しくしても給料は上がりませんからね……
 手厚く看護して欲しいなら、そうしますけど」
椅子を回して振り向く。背もたれが棚にごつとぶつかった。
アルカイックな笑み。

確認していた書類のうち一枚を抜き出して、
見えるように保健室のテーブルの上に置く。

「秋からたちばな学級に新たに編入する可能性のある生徒のリスト――だそうです。
 そちらももう受け取ってるかも知れませんけど……一応、目を通しておいていただければ」
つまるところ、所持異能が要観察対象たる生徒である。
数名の生徒の名前が簡易な備考とともにリストアップされていた。
かの平岡ユキヱの名前も含まれていた。

ヨキ > 「要らん。君を手厚く甘やかすことなら興味はあるがね」

(服の裾を直し、書類の置かれたテーブルまで歩み寄る。
 スツールに腰掛けて、ざっと目を通す。
 後頭部の髪が一房、寝癖に跳ねている)

「有難う。話は聞いていたがね、……。
 ――この『平岡ユキヱ』という生徒は、いったい何があったのだろうな。
 そう知った間柄でもないが、たちばな学級への編入が考えられるようには見えなかったからな。
 異能が暴走でもしたか」

蓋盛 椎月 > 「あら、つれないお方ですわ」
相好を崩して、デスクに肘をつく。

「あたしも、詳しいことまでは。
 ……この間また風紀委員会の施設で諍いがあったじゃないですか。
 それがひょっとしたら原因の一端かもしれませんね……」
やれやれ、また馬鹿どものおかげで仕事が増える、と嘆息。

「しかしまあ、厄介払い先みたいな扱いなのには今更言うことはないんですけど、
 生徒ばっかり増えても手に余る、ってのが正直なところですね。
 教員のほうも増えないかな……タフな人が」

ぼやきながら残りの書類を流し読みしていたが、少しすると立ち上がる。
湯沸し器に水を注いでスイッチを入れた。

ヨキ > 「どちらがつれないんだか」

(くっと笑う。
 テーブルに頬杖を突きながら、リストアップされた生徒らの備考を読んでゆく)

「養護教諭といい、たちばな学級といい、君の気苦労は尽きんな。
 先日も図書館で爆発があって、貴重書のいくつかが除籍に追い込まれたというし……
 この学園も、平穏には先が長いな」

(嘆息する蓋盛を、横目で見遣る)

「そうだな。たちばな学級にはどうしたって人手が足りない……
 ヨキが他の子どもらを見るのを辞めたとて、教師は欲しいな。
 ……タフでなくて悪かったが。

 それにしたって、蓋盛……君、ちゃんと休みは取れているのか?」

蓋盛 椎月 > 「はしゃぐならもっと迷惑のかからないところでやっていただきたいものです。
 誂えたように、落第街なんて場所があるわけだし……。
 ま、どこも火薬庫みたいなものだ、って言われたら、そうなんですけど」
騒動は波のごとく島の端を削り続ける。
この島がこの島であるかぎり、そう簡単に平穏などというものは来まい。

「なあに、長い間やめないで続けられている――というだけで、
 充分にタフですよ。
 ……おや、あたしを気遣っていただけているんですか?
 正しく休むのも業務のうち、ですよ。
 それに、やる事が多いのはお互いさまでしょう」
くすぐったそうな笑み。
湧いた湯を急須に注いで緑茶を湯のみに淹れた。

ヨキ > 「全くだ。
 スラムで暴れでもすれば、騒げもするし『人のいい』風紀委員と交戦も出来ように。
 ……新鮮な火薬の供給され続ける倉庫、だな。本当に。
 その火薬が花火でもあれば、まだ観ようがあると言うに。まったくの弾薬ばかりだ」

(椅子の上で、くるりと蓋盛へ向き直る。
 テーブルに半身を向けて、肘を突く)

「なあに。ヨキにあるのは、最低限の体力だけだ。
 互いにやることが多くたって……
 君は、まだ若い。
 それに強力な異能を持っているとて、身体は普通の人間に過ぎんだろう。
 同僚を気遣うのも、また務めのひとつだ。
 たとえ給料が上がらなくたって、ヨキは君を気遣う」

(茶を入れる蓋盛に向かって、にやりと笑んだ)

蓋盛 椎月 > 「『人のいい』、と来ましたか。言いますねえ」

肩をすくめる。
皮肉げな左右非対称の表情。

「やれやれ……。誰も彼も。
 まったく最近、気遣われてばかりだ。
 人の良さは、教師としての資質だとでも言うんですかね?」

湯気ののぼる湯のみをヨキの前に置く。
もうひとり分茶を淹れた。

「ま、気持ちは受け取っておきますよ。
 もう少し老成しときたいもんですね」

ヨキ > 「そりゃあな」

(それだけ言って目を伏せる。
 出された湯呑に礼を告げて、足を組んだ)

「資質……のひとつではあるやも知らんが、
 少なくとも『常世学園の教師』に求められているとは思わんな。
 ヨキの場合は、単なる習性だ」

(茶を啜る。
 老成という言葉に、苦い顔をした)

「老成ね。ご立派なことだよ。
 ヨキなど、いつまで経っても老成できる気がしない。
 君など十分すぎるほどだと思うが」

蓋盛 椎月 > 「習性――犬としての?」

席につき直し、自身も茶をすする。

「そうですか? ヨキ先生のほうが、よほど落ち着いているように見えますが。
 ……隣の芝は青い、というやつかな。
 あたしはずっと、不貞腐れているだけの子供ですよ。
 大人のごっこ遊びをしているだけ」

窓の外に視線を向ける。彩度の低い晴天。

「中途半端なんですよね。
 いっそずっと子供のままだったらいいのに」

ヨキ > 「そう。犬だって、人を気遣うことくらいはするさ。
 その代わり、気遣わない相手も居る。
 ヨキより『上』か、『下』か――で、判断する」

(手のひらを上下で二回、水平に動かして、ヒエラルキーのかたちを示す)

「いつまでも綱渡りをしているようなものさ、このヨキは。
 奈落の底に、いつ落っこちたっておかしくないようなことばかりだ。

 ごっこ遊び。
 ……『何だって遊びで、何だって仕事』か。
 もし君が『ごっこ遊び』を辞めたら、どんな風になるのやら」

(外へ向く目に視線はつられず、ただ蓋盛の顔を見る)

「……じゃあ蓋盛、君にはいったい何が足りていないと思うんだ。
 中途半端、の残りの空白に入るものは?」

蓋盛 椎月 > 「人だって、気遣う相手を選ぶことぐらいはしますけど――
 ヨキ先生のそれは、ずいぶん明確に定められたもののように見えますね。
 なんというか、機械みたい」

瞬きをひとつ。
嘲るでも皮肉るでもなく、感心したような口調。

「足りないもの? いくらでもありますよ。あたしには。
 取りこぼして、忘れて、置き去りにしてきたものばかりで。
 あえて言うなら――」

唇に指先を当てて、少し黙考し。

「――愛、かな。なんて」

おちゃらけた表情を、ヨキに向けた。

「ヨキ先生は、ご存知? 愛を」

ヨキ > 「機械?――ふ、いつかもそう言われたか。
 そこいらを歩いている犬が人語を解せば、似たような口を利くと思うが……
 ヨキも犬と話が出来るわけではないからな。
 あるいはヨキだけの性質、なのかもなあ」

(どこか他人事のように。
 蓋盛の砕けた表情に、ふっと目を細める)

「愛。愛ね。また大層なものを欠かしているな、君も。
 ……さあ、このヨキが知っているように見えるか?
 知っているかと問われたら、訳知り顔でこう言うのさ。
 『奇遇なことに、ヨキもそれに飢えているんだ。
  一緒に探してみようじゃないか』……とね。

 愛が本当にあるかどうか、考えるのもくだらんな。
 ある種の執着が、呼び名を変えたに過ぎんと思うが」

蓋盛 椎月 > 軽く吹き出して、(本当に似ているな)、と口の中で呟いた。

「少なくともナンパの口上はお上手らしい。
 今度どこかで使わせていただきますよ、それ」

目を細めて、手をかざすと白色の弾丸が宙に現れて、
日差しの下にきらきらと輝いた。

「人間のすることなんていつもそう。
 くだらない性欲や満足に砂糖をキラキラにまぶして、
 美しいものを抱いている気になっているだけ」

ぽい、と、淡く輝く弾丸を放る。
保健室の隅に、流れ星のように落ちる。

「でも、あたしは砂糖菓子が好き……。
 触れてしまえば、汚れ砕けてしまうようなものだけど。
 それがいいの」
頬に手をあてて、少女のような横顔で、
霧散していく異能の輝きに、視線を落としていた。

ヨキ > (目を細め、意地悪く笑う)

「使え使え。使用料は取らん」

(口を閉じる。
 光る弾丸を見つめて、無下に放られた放物線を一瞥する。
 消えゆく様子には目もくれず、相手へ視線を戻す)

「全く愛から遠い異能だな、《イクイリブリウム》は。
 砂糖菓子に似て、甘やかさのひとつもない」

(少し黙る。
 目を伏せた蓋盛に、唇をへの字に結ぶ。
 渋い顔をして、再び口を開く)

「……では、足りない、と思っているそれを、君はどうしているんだ。
 どこかを探しているのか。誰かに求めることはあるのか。

 ……『砂糖菓子』と喩える言葉を持てるほど、君は『愛』を感じたことがあるのか?」

蓋盛 椎月 > ヨキへと顔を向ける。
またしてもぱちくりと瞬きをして。

「……なぜそんな、不服そうな表情を?

 愛とは、つまりは毒ですよ。
 不死の怪物を、死に至らしめるに値するもの。
 与えれば救いに、裏切れば滅びとなるもの。
 奈落へと身投げさせる、蠱惑の輝き……」

やおら立ち上がる。
壇上の芝居人のように腕を広げた。

「『一生あなたを愛する』。
 『きみだけを見ている』。
 なんて甘やかな言葉――。
 けれどそんなものは遂行されることはない、嘘。
 人の気持ちというのは有限。そうでしょう」

「その正しさを確かめるほどの勇気を、
 あたしは持たない、それだけの話……」

ヨキ > 「……理解が出来ないからだ。そんなあやふやなものを。
 受け入れられるなら受け入れる。不服ならば切り捨てる。
 ヨキはそうしてきただけで、生徒への愛に溢れているとか、人間に対する愛が足りないとか評された。

 愛すれば怪物は死ぬのか。
 愛されたことがないからヨキは死なんのか?」

(朗々と語る蓋盛を、身じろぎもせず見上げる)

「……君が今の在りようから離れん限り、ヨキは一生君を受け入れ続けるよ、蓋盛。
 君にとって、それは『愛』と呼べる代物か?

 もし在りようを変えた君を、ヨキがそれでも受け入れたならば。
 それこそを『愛』と呼ぶべきか?」

(緩く首を振って、テーブルに突いていた腕を緩く広げた)

「砂糖がきらきらに輝くほどに、まぶしてあるのだろ。
 なぜそれを一息に呑まない?
 厚く覆った砂糖の、甘さに酔って酔い痴れて、砂糖が溶けた末に溶け出したものが毒ならば。
 ああ自分はつまり愛によって死ぬのだと――老いの果てに気付くような、それが人間ではないのか。

 ……大人のごっこ遊びをしてるから、『危ないものは口へ入れない』と、恐れているつもりか」

蓋盛 椎月 > 「…………」
少しの間静止して、沈黙。

「ええ、愛されれば死にますよ。
 稲妻に打たれたように事切れるものもいれば、
 自ら気づけないほどにゆるやかに朽ち果て続けるものもいるでしょう。
 あたしはそうやって怪物を一人、殺しました」

事も無げにそう口にする。

「ええ、あなたのおっしゃるように、恐れている。
 しかし、食べ物のかたちで供されたからといって、
 そのまま口に入れるばかりが味わい方ではないでしょう。
 その輪郭を、気配を、楽しむことも、またひとつのやり方――
 と、あたしは思います。
 あなたは、それを否定なさる?」

落ち着いた、穏やかな表情と口調。
何かをつまむような形で手で口元を覆い、上唇を舌でなぞった。

「あたしはあまり自分の、あやふやで、決定的でない
 在り方を好いてはいませんが。
 あなたも同じお気持ちですか?
 ――そして、矯正すべきものと思っている?」

小さく首を傾げて、答えを待った。

ヨキ > 「……その怪物が羨ましい」

(喉奥で笑う)

「食物を、ヨキはただ食うことの他に知らん。

 ヨキの獣のこの目には――
 実際のところ、色が判らない。
 じっとしている君の顔が判らない。
 それと同じように、食物を食する他に楽しむこともまた。

 試したことは、ある。だが真に理解はできなかった。
 ……自ら断ぜられないものを、否定することは出来ん」

(茶を一口、飲む込む音。
 濡れた唇を、二、三度柔く咬む)

「好くも嫌うもないさ。
 だがこの在り方が疑うべくもないと、矯正する必要などないと思っている以上――
 ヨキは自分のそれを、好いているのだろう。

 もしヨキのこの『機械のような明確さ』が、これからの常世島には邪魔だ、と。
 受け入れられぬものであるというならば……ヨキはそれを、矯正せねばならないと思う」

蓋盛 椎月 > 「……そう」

とだけ、相槌を打つ。
すでに空になっている湯のみに口をつけ、飲む素振り。

「あたしも矯正する必要はない、と思っていますよ。
 嫌いなものとも付き合う、って、“大人”っぽいでしょう?」

薄笑い。

「ふふ……大丈夫だと思いますよ。
 教員はいつだって不足してますから。

 にしても。
 そうやって、理解できないものに対していらだちを見せる姿は、
 実に人間らしいものに見えますよ」

湯のみを置いて、ヨキに背を向ける。小刻みに肩を揺らした。

「やれやれ、若者らしく青臭い談義をすると疲れる……」

別れの挨拶も残さずに、保健室を出て行ってしまった。

ご案内:「保健室」から蓋盛 椎月さんが去りました。<補足:養護教諭 亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン>
ヨキ > 「君は……大人というものに対して、随分と斜に構えているようだな。
 幼い時分を経ても、これから老いることもないヨキには、その装い方さえ判らない」

(苛立っている、と評されると、わずかに眉を下げて笑う)

「ふふ、苛立ちなど。多弁が過ぎたな。
 ……『人間らしい』談義をさせてくれて有難う、蓋盛」

(残りの冷めた茶を煽る。
 しばらく独り窓の外を眺めていて――

 いつの間にか、保健室は再び無人)

ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>