2015/09/13 - 23:10~03:27 のログ
ご案内:「路地裏」にビアトリクスさんが現れました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 ブラウス ロングスカート>
ビアトリクス > 人気のない、落第街の路地裏。
周囲には塗料の臭いが立ち込めている。

ビアトリクスは壁に背を預け、疲れた様子でへたり込んでいた。
傍らにはスプレーや刷毛、脚立といった道具の数々。
向かい合う壁には、星々瞬く満面の宇宙――の絵。
その中央には、大きな縞猫が躍っていた。
今しがた作品を完成させたところだった。

ビアトリクス > いわゆるストリートアートやスプレーアートなどと呼ばれているものである。
ビアトリクスはたまに気が向いた時にこうして突発的に落第街地区に訪れて
壁面に素早く作品を描きつけては去っていくことをしていた。

なぜわざわざ落第街でやっているかというと、
許可無く路上でこういうことを行うのは器物損壊にあたる犯罪となるからである。
公式には存在しない落第街で行えばそういった問題はクリアされるのだ。
翌日にはペンキで上書きされているかもしれないが、それは別に構わない。
もちろん残っていることに越したことはないが。

チャコールグレイのスマートフォンを取り出し、撮影して保存しておく。

ビアトリクス > 「ふう……」
足を投げ出して、首を回しながら。
以前落第街に足を踏み入れたときのことを回顧する。
確か《魔術師喰い》を討伐してやろうと目論んでいたのだったか。
どうしてあそこまで焦っていたのだろうか、自分は?

目を閉じる。永久イーリス――母親の声が甦る。
甘やかすような――それに含まれる確かな侮り。

母親が自分に求めるもの。
自分が母親に求めるもの。
ずいぶん冷静になった今、それは掴みかけている。
しかし言葉にして確認することは、ビアトリクスにはできなかった。

ご案内:「路地裏」に織一さんが現れました。<補足:血腥い黒甚平>
織一 > 「……まずいな」

いつものように島を彷徨いていたら、いつのまにか落第街まで来てしまった。
こんな危ないところに気づかず突っ込むとは私もまだまだだな、と思い、踵を返して立ち去ろうとして__
生ぬるい風が吹き、塗料の匂いを運んできた。

その匂いに興味を引かれ、匂いを頼りに歩き出す。
少しして匂いの元にたどり着き、そこに有ったものを確かに捉えた。
色の染み付いた刷毛、色とりどりのスプレー、壁一面に描かれた宇宙と、その中心で躍る縞猫。
絵の事はよくわからないが、上手だな、とは思った。

「……お前が描いたものか」

猫を思わせる無音の足取りで、壁に背中を預ける何者かに話しかける。

ビアトリクス > (功名心も、欲望も。消えたわけではない)
(どうすればいいんだろうなあ)

などと、ぼんやり思索にふけっていると、人の気配がする。
反射的に傍らに放っておいた鞄に手を伸ばしかけ――
この街区の住民にありがちな粗雑な敵意や害意のあるわけでもないことも感じ取った。
声や背格好からして、年若い少年だというのがわかる。
しかしどこか異質な臭いはあった。

「まあね。……一応軽犯罪だから、誰かに見られる前に退散しようかと思ってたけど。
 きみはここの住人かい?」
壁にもたれたままの姿勢で、目だけをそちらに向けて答える。

織一 > 「いや、私は未開拓地区のものだ」

そう静かに答えながら、目の前の少女?少年?の声に少し驚く。
男にしては華奢で、女にしては未成熟な、性を感じない体型。
その声はしゃがれていて、しおれた花のような「疲れ」を思わせる。
壁に体をもたれ掛からせる今のポーズも相まって、人形めいた人だと感じた。

「……お前は何故、絵を描く」

壁一面に描かれた絵を見ながら、そう問いかける。
芸術、というのは生きる上で無意味なことだが、その「無意味なこと」に深い意義を見出だすものもいる。
そういったものたちの心理は意味不明で、だからこそ知りたくなるものだ。

ビアトリクス > 「何故、と来たか。どう答えていいか難しいな。
 ……きみは美術はやらなさそうだね」

粗野な印象を受ける少年だ。
塗料の臭気とも、古紙の薫りからも縁の遠そうな雰囲気。
刷毛に残った青い塗料を用意していた古い新聞紙で拭いながら、問への答えを考える。
そして口を開く。

「あいにくと、これ故に筆を執る、というものはないよ。
 もちろん始めたきっかけはあったが、なにぶん長くてね。
 今はもうきっとどうでもいいことなんだろう」

ゆったりとした口調。

「それとも、明確な理由がなければ、納得できないかい?」

織一 > 「そうだな、私は芸術というものを捉えることができないようだ」

獣に芸術は理解できない、芸術という不定形に真に形を与えられるのは「人」だけだ。
織一は現状芸術をよく理解していないが、半分とはいえ「人」が混じっているため理解できる可能性もある、という状態だ。
それに何年掛かるかは解らないが。

彼の答えを聞き、静かに口を開く。

「……そうか、私はその答えで満足だ」

そう言って、絵に向けていた顔を彼のほうに向ける。

「……お前の絵が見たくなった」

「その意義の元に描かれた絵が、どういうものなのか興味がある、
……何か持っていないか?」

鮮血色の瞳が、青い眼を射抜くように見つめた。

ビアトリクス > 「ふむ……」

鞄から何か取り出して、暗がりから立ち上がり、
少年へと歩み寄る。

「見せるために描いたものじゃないから、
 そのへんは容赦してほしいけど……」

そう言って差し出したのは一冊のスケッチブックだ。
表紙に『日恵野 ビアトリクス yy/09/01 ~』とサインペンで記されている。
名前と使い始めた年月日らしい。
開けば常世島の各所の細かいオブジェクトについての
鉛筆のスケッチで半分ほどのページが埋められている。
街路樹、消火器、電柱、ポスト、側溝……
背中を向けた猫、鼠の死体、電線に止まる雀、生い茂る雑草、散らかったゴミ集積所。
いかにもモチーフとして興味を引きそうなものからそうでないものまで、
丁寧に写実的な筆致で描かれていた。

「普段は学園の美術部で活動してるから、
 そこに行けばもっとまともな作品も見せられるけど」

織一 > 差し出されたスケッチブックを受け取り、ぺらぺらと捲る、中には沢山の写実的なスケッチが描かれていた。
織一も見たことがある風景から、誰も気に留めないようなオブジェクトまで、色々なものが丁寧に描かれていた。
ゆっくりとスケッチブックの中身を観賞して、見終わると彼に返した。

「ありがとう……日恵野ビアトリクス、だったか」

表紙に描かれていた名前は彼のことだろうか、それにしては随分と女性的な名前だと思うが。

「絵も見せてもらったし、何か渡したいところだが……何か空の容器はないか?」

聞きながら、甚平の合わせに手を滑らせる。
一瞬はだけた胸の上、革製の__にしては牛革にも合成革にも見えない__ベルトのようなものが見えるだろうか。

ビアトリクス > 「……ああ。日恵野ビアトリクスという。よろしく」
スケッチブックを受け取って戻す。
芸術を捉えられない――と称していたが、満足してくれただろうか?

「空の容器? こういうのでいいかい」
何をするつもりだろうか。
少し怪訝そうに、たまたま鞄に入っていた、空のペットボトルを見せる。
胸がはだけられるのには意表を突かれ、慌てて目を逸らしてしまった。
(なんだろう……?)

織一 > 「そういえば名乗っていなかったな、織一という」

下の名前だけ名乗りながら、空いている片手でペットボトルを受けとる。
合わせに入れた手を引き抜き、折り畳んだ状態のバタフライナイフを取り出した。
くるりと回して展開させる、暗闇の中で尚目立つ、艶のない有機的な赤い刀身が露になる。

「痛い光景が嫌いなら、耳を塞いでおけ」

ペットボトルの蓋を開けて、ビアトリクスに背を向ける。
左手をビアトリクスから隠すように立ち__有機的な赤色が舞い、左手の人差し指、第二関節を狙い綺麗に切断する。
そのまま血を流す人差し指をペットボトルの口に突っ込み、鮮やかな流血を容れていく。

「……これでいいか」

ペットボトルが半分ぐらい血で満たされると、人差し指を引き抜く。
振り向き、奇妙な魔力に満ちた血を入れたペットボトルをビアトリクスへ差し出した。
__人差し指は、痕も無く綺麗に再生していた、ただ痛々しく血液が付着しているのみ。
相当凄まじいスピードで切り捨てたのか、ナイフに返り血は付いていない。

ビアトリクス > 「うわ」
さすがに驚きに声が出た。
何のつもりなのか、と問う暇もなくそれは行われる。
血を見て失神するほどやわではないが、スプラッタな光景を眺める趣味もない。
流血が注がれる間、顔を背ける。

やがて声がかけられて、恐る恐る振り向いて――ペットボトルを受け取る。
切り裂かれたはずの指が元通りになっているのを認めた。
なかなかおどろおどろしいものを贈られてしまったらしい。

「……貧血にでも見えた?」

苦笑して、冗談交じりにそう口にしてみせる。
魔性の存在の血肉――例えば人魚のそれには不老不死の力が宿るらしい。
そういったものと同類かはわからないが――何かただならぬものは感じ取れる。

織一 > 「貧血か、これなら貧血ぐらい簡単に治せるだろうな」

冗談に真顔で答えながら、人差し指の血液を服で乱雑に拭う。

「この血液に、私の「再生」と「執着」の権能を籠めた。
飲み干せば腕一本分ぐらいなら即座に「再生」するし、
何かに「執着」したいときに少し舐めると意識が”切り替わる”。
少々魔力としては癖が強いが……魔道具や術式にも使えるな。
消費期限は……大体一年後ぐらいか、相応の容器に移せばさらに延びるな」

そう説明して、バタフライナイフを閉じてホルスターにしまった。

「まあなんだ、加護のようなものとでも思え」

「再生」の魔力の影響で鮮やかな赤を保つペットボトルを見て、そう纏める。

ビアトリクス > 「そりゃ、ありがたいな。
 貧血になりやすい知り合いがいるんだ」

鼻を鳴らす。

血液に込められた効力についての説明を、相槌を入れながら聴く。
受け取ったペットボトルを注意深く新聞紙でくるみ、鞄にしまう。
空気に触れても赤赤しいのを見るにそう簡単に劣化はしないものなのだろう。

「なるほどね。大体理解したよ。ありがとう。
 絵を見せた対価としては少々過ぎた加護にも思えるけど――有効に使わせてもらおう。
 ……これはそういう異能? それともそういう種族なの?」

絵を描くのに使った道具を片付けはじめながら、
そんなことを何の気なしに訊く。

織一 > 「この力は父からの遺伝だ、八岐大蛇の神性が人の胎に宿って産まれたのが私らしい。
……簡単に説明するなら、酒呑童子と同じ生まれ、だな」

そっと近くの画材をビアトリクスに寄せたりしながら、疑問に答える。
片付けを手伝うにしても何をすればいいのかよくわからないので、
とりあえず遠い位置にあるものをビアトリクスが取りやすい位置に置いている。

神と人の境界が再度曖昧になった現代において、自分のような「混血」は少ないながら着々と数を増やしているようだ。
それの良し悪しはわからないが__自分のようなものは、確かにこの世界が”変わった”証なのだろうか。

ビアトリクス > 「そりゃまたずいぶんとビッグネームだ」
肩をすくめて、慄く素振り。
織一に軽く礼を言いながら画材や道具をひとまとめにしていく。

「ぼくは実は怪物の胎から産まれたんだ。
 きみと違って大したものは受け継がなかったけどね。
 ――それが良いことか悪いことかは、知らないが」

母親のことを口にすると微かに皮肉に唇が歪む。
彼女は人の形をとってはいたし、人間であるように振る舞ってみせてはいるが――
怪物と呼んで差し支えはないだろう。なにせ父親が《いない》のだ。

「きっときみやぼくのような存在は、もう“普通”なんだろうな」
つまりは、そんなもの存在しないということである。

織一 > 「そうか」

ビアトリクスの言葉に刺々しいものを感じ、短く答えるのみに止めた。
……言葉の刺は母に向けたものか、それともビアトリクス自身か。
彼も肉親のことで面倒なものを抱えているようだ、面倒事の方向性は違うだろうが。

「”普通”、か」

何気ない一言が少し心に引っ掛かり、小さく呟く。
私達が”普通”になったのか、それとも世界が私達に歩み寄ったのか。

「……今日はありがとう、また今度美術部に遊びにくる」

ビアトリクスの荷物がある程度片付いたのを見て、そう声を掛ける。
それだけ言って、建物のパイプや柵に人間離れした運動神経で跳び移り、上へと姿を消した。

ご案内:「路地裏」から織一さんが去りました。<補足:血腥い黒甚平>
ビアトリクス > 「ああ、じゃあまた」
跳躍して去っていくのを、静かに見送る。

絵を描くことに意味は無い。
しかし生きていることも同様に意味は無い。
父か母のどちらかが化生であろうとも、
立ち向かわなければならない問題はそれほど目新しくはないように。
きっと何もかもがつまらなく、何もかもが重要な事柄なのだろう。

まとめ終わった荷物を抱えて、ビアトリクスも去る。
後には猫と宇宙という、妙な取り合わせの壁画が残された。

ご案内:「路地裏」からビアトリクスさんが去りました。<補足:褪せた金髪 青い瞳 ブラウス ロングスカート [乱入可]>