2015/09/07 - 21:01~01:53 のログ
ご案内:「図書館」に茨森 譲莉さんが現れました。<補足:ぼさぼさとした髪の毛に、目が悪いので悪い目付き、服装はブラウスとカーディガンの組み合わせ。>
茨森 譲莉 > 新入生であるアタシが、真っ先にやるべき事は何か。
それは、校内の地理の把握だ。この常世学園という場所は、とにもかくにも広い。
地図を広げて校内を歩き回っていたが、一向にその広大な校舎の全容は見えてこない。
クラスメイトに案内を頼めればいいのだが、生憎そこまでのコミュ力は持ち合わせていなかった。
―――そしてまた、新しいドアが目の前に現れる。
手元で開いている地図……といっても、スマートフォンのアプリだ。
それを見ると、どうやらここは図書館らしい。
正直そろそろ疲れたし、暫く本を読んで過ごすのも悪くないかもしれない。
そう考えて、アタシはその目の前のドアを開いて、図書館に足を踏み入れた。
茨森 譲莉 > 図書館の中に入れば紙の香りがアタシの鼻をくすぐる。
たっぷりとその空気を吸いこんでから、アタシはその図書館を見回した。
「―――すごい。」
思わず口からそんな声が漏れた事を、アタシは知らない。
そこに並んでいるのは、巨大な書架の数々だ。
並べられた机には数人の生徒が腰掛けている。
よくよく見れば電源も完備されているらしく、パソコンを持ち込む事も出来るようだ。
愛用のモバイルノートを持ってこなかった事を内心で後悔しつつ、アタシはその本の森に足を踏み入れた。
これだけ本があれば、モバイルノートが無くとも悲鳴を上げるアタシの足が休憩する時間くらいは稼げるだろう。
適当に本を手に取り、パラパラと捲っては本棚に戻していく。
茨森 譲莉 > 本は少なくとも嫌いじゃない。正直、好きでもない。
でも、図書館という場所は好きだ。何しろ、人と関わらなくていい。
これだけ本があったら目当ての本を探すのは無理だろうし、そもそもそんな本は無い。
だから私は、図書委員の今週のオススメと
手書きのポップが飾られている所に置かれていた本を手に取った。
こんな妙な学校でも、図書委員会はちゃんとあるんだな。
同時に、これだけバカみたいな量があったら仕事はさぞ大変なんだろうな。
そこからさらに思考を進めて、よし、絶対に図書委員会にはならないようにしよう。
―――と心に誓いながら、その巨大な書架の数々の間を、これまた大量に並べられた机のほうへと歩いて行く。
そもそも、この学園の委員会というのは普通に委員会活動をしているのだろうか。
この図書館を含めて、何もかもが常識外れのこの学園の事を思ったアタシの口からは、
ただただ、ため息が漏れ出た。
茨森 譲莉 > 然程混雑しているという事も無いが、アタシはあえて隣に人が居る席を選んで座る。
読んでる最中に「お隣宜しいですか?」なんて言われた日には、間違いなく舌打ちの一つ二つはしてしまうからだ。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。というのは全くもって意味が違う。
違うが、常に不意打ちを警戒しながら安息できない時間を過ごすくらいならば。
「……お隣、失礼しまぁーす。」
まるで蚊の鳴くような声でこっそりこっそりとその席についた人に声をかけると、
宣言した通りにその隣の席の椅子を引いて、そこに腰掛ける。
夏はあけたばかりの秋先といえど、図書室は若干肌寒い。
鞄からひざ掛けを取り出しながら、小さく音を立てて、アタシは本を捲りはじめた。
―――蚊の鳴くような声というのは『蚊の羽音のようにか細い声』という意味らしいけど、
蚊の羽音のような声は確かにか細くとも、十二分にうざいんじゃなかろうか。
ご案内:「図書館」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (男がその席を選んだのは、たまたま書架から手近だったからだ。
美術系の書籍が並ぶ棚から、二、三冊の理論書を抜き取って閲覧席に向かう。
赤毛の少女が本を読み始めたばかりの、その隣)
「失敬」
(お隣いいですか、とか、失礼します、など尋ねるでもなく、低く小さな声がただ一言。
むやみにひょろ長い腕の四本指が、少女の視界の端に映り込むやも知れない。
慣れた様子で、音もなく椅子を引いて席に着く)
茨森 譲莉 > 『失敬』という小さく、低い声が、アタシの脳を揺さぶった。
片隣に人が居て、これだけ席が空いているにも関わらず、あえてそこに座るのは一体どんな変人か。
視線を少しだけ向けたアタシの視界に、奇妙なものが映った。
人、というには、些か長すぎる腕、そして、4本しかない指。
腕については、個人差はあるとスルーするとして、4本しかない指は一体如何なる産物だろう。
アタシに思い当たるのは、それでも尚ファンタジーではあるが、テレビで見た指を詰めるというヤツだ。
治安がいいように見せかけて、この学園は思った以上に恐ろしい場所なんだろうか。
そんな恐ろしい人間が隣に座ったのかもしれない、一体どんな顔をしているんだろうか。
どうしても気になったアタシは、本から視線を逸らし、その男の顔を見た。
「………い、異邦人。」
小さく、アタシの口からそんな声が漏れて、慌てて口を押えた。
それでも尚、見まごう筈もない垂れ下がった猟犬の耳にどうしても視線が吸い込まれてしまう。
ヨキ > (隣にはみ出すとか、音を立てるとか、そういった迷惑な存在感はほとんどない。
人が居ようと居なかろうと、近くが空いていたから座っただけ、というのが当人の理屈らしい)
(机上に積んだのは、絵画論やら、現代美術の解説書といった専門書である。
何の気なしに本を開こうとして――隣からの声に、ふと顔を上げる。薄く垂れた、猟犬の耳が揺れる)
「……ん?」
(波打つ黒髪の下。スクエアフレームの黒縁眼鏡の奥に、金色の瞳。
いやに大きく見える唇の隙間に、尖った牙が覗く。
彫りの深い日本人めいた顔立ちをして、それにしては何かが違う……
顔の筋肉の動きが、人間とは少し違うような)
(所作は人間と何も変わらないのに、どこか言いようのない違和感のある顔のつくり。
日本人からすればどう見てもコスプレにしか見えないようなローブ姿で、にこりと穏やかに笑い掛ける)
「ああ、うん。こんにちは。
異邦人を近くで見るのは、初めてかな」
(少女の先に座っていた生徒がこちらへ顔をちらと上げるが、すぐに読書に戻ってしまう。
どうやらこの男を知っていて、然して二人の会話を気にすることもないらしい)
茨森 譲莉 > 男の手元で開かれているのは、どうやら現代の美術書らしい。
本がアタシの領域を犯す事が無い事を考えると、それなりに常識を弁えている人間である。
という事は容易に想像がついた。
しかし、そんな美術書の数々の内容に目を通す事はなく、
アタシの視線はその顔に吸い込まれる。具体的にどう、とは言い難い違和感。
例えるならば、醤油に1滴だけソースが混じったような違和感を感じながらも、
アタシは、咄嗟に出た『異邦人』という言葉で傷つけたかもしれないと考えて、小さく頭を下げた。
「……あ、いえ、その。……失礼、しました。」
頭を下げれば、視線が下がる。
今度はその男のローブ姿が目に入った。
垂れ下がる耳、不気味に輝く牙、そして、
何とも言えない違和感を感じるその顔に気を取られていたが、
その服装も、おおよそアタシの居た場所で見られるようなものではない。
まるでファンタジー映画から抜け出て来たような、そんなローブだ。
「はい、異邦人を見るのは初めて、です。」
確認するような男の問いかけに、反射的にそんな言葉が口から漏れ出た。
そんな事より、アタシとしてはどうしても確認したい事がある。
「……えっと、アタシの事、食べたりはしませんか?」
異邦人には人を食べるモノも居ると聞いた事がある。
キラキラとチラつく凶器、どうしても視界に入る尖った牙を見ながら、
アタシはそんな事は無いと思いつつも、その目の前の男に向けて質問を投げかけた。
ヨキ > (相手の謝罪に、気を害した様子はない。いや、とだけ短く笑って、首を振る。
彼女の疑問がそのまま表れたような視線の動きにも、見られるままにしていた。
自分を食べたりはしないか、という問いに、ふっと笑む)
「ふむ、そうだな。
君が落第したり、万引きをしたり……そういうときには、食べてしまうかも」
(意味深に薄く笑って答えたのが――やがて愉快げに、小さく笑い出す)
「ふッ……ふふふ。なんてな。安心したまえ。
君のことを食べはしないから。
名前はヨキ。美術の先生だ。
昨日の夕食は、ごはんと味噌汁と、ピーマンの肉詰めと、なすの揚げ浸しと、冷奴と、白身魚の天ぷら、……
そういうものばかりを食べてる。
新入生かね?心配になるのも仕方ないさ」
(献立の品数がいやに多い。痩躯に見えて、よほどの大食らいらしい。
再び笑って、小首を傾げる)
茨森 譲莉 > 「食べてしまうかも」という言葉に、身体が縮こまる。
ああ、噂は本当だったんだ、異邦人は人を食べるんだ。
万引きはともかく、落第はあるかもしれない、アタシは勉強が得意なほうではないし。
常世学園、なんて恐ろしい所なんだろう。必死に勉強して餌にならないように―――。
そう目をぐるぐると回していると、目の前の男は小さく笑いだした。
……それも、なんだか愉快そうに。
「か、からかったんですか?
あぁ……良かった、一瞬本気で心配したわ。」
思わず、口から安堵の息と共にそんな言葉が漏れた。
普段なら、そんな冗談を本気にしてぐるぐると目を回すなんて失態を犯す事は無い。
ちらりと、その男の風貌をもう一度見る。間違いなく、この変人染みたビジュアルが悪い。
こんな恰好で言われたら、指から死の魔法が出せるんだと言われても冗談に聞こえないだろう。
「先生だったんですね、アタ…私は篠森譲莉です。
はい、つい先日常世学園に編入したばかりで。
本当、変な事を聞いてしまってすみませんでした。」
そう改めて頭を下げて、僅かに警戒心を緩めた。
この変な服装は、芸術家特有のアレなのだろうか。
それとも、異邦人特有の衣装なんだろうか。改めてその服をじろじろと眺める。
「随分と沢山食べるんですね。
アタシもピーマンの肉詰めは好きですよ。」
アタシは男の笑みに苦笑いを返しながら、
未だにドキドキと高鳴る胸のあたりを手で押さえる。決して、恋ではない。
冷静になれば、その男、どうやらヨキ先生と言うらしい。
ヨキ先生の近くに詰まれていた美術書が気になった。
「……授業の準備ですか?」
ヨキ先生と同じく、アタシも小首を傾げる。
図書館というのは、本来ならば人と関わる事の少ない場所だ。
でも、なんとなく心が乱されたからだろう。
先ほどまで読んでいた本は、既に閉じられていた。
内容もすっかり忘れてしまったが、なんとなく面白かった事だけは覚えている。
帰るときには借りて行ってもいいかもしれない。
ヨキ > 「やあ、済まん。そんなに心配をさせてしまったか、悪かったな。
こう見えて、君ら日本人と暮らしはそう変わらないさ。
テレビを観れば、マンガも読むし、スマートフォンでゲームだってする」
(人差し指を動かして、スマートフォンを操作する仕草。
椅子に横向きに座り直し、身体を相手に向ける)
「茨森君。ああ、どうぞよろしく。
気にすることはない。地球の人間にとっても、異邦人にとってもここは異世界のようなものさ。
逆に異邦の者たちが不慣れから粗相をしてしまっても、大らかに許してやってほしいと思う」
(身体に沿った細身の衣服の、広い袖口を軽く持ち上げてみせる。
奇妙なディテールではあるが、その布地や仕立てはきちんとしているらしい)
「ヨキは獣人といって……犬と人間の中間、のようなものだからな。
人間の身体で、犬のように早く強く動くには、とてもカロリーが要るのさ。
燃えるのが早いから、こんな凝った服をいつまでも着ていられる」
(ピーマンの肉詰めが好きと聞いて、仲間を見つけたかのように喜んで笑う。
閉じて積まれた本を一瞥して、うん、と頷く)
「半分はそう。もう半分は、趣味。
趣味と実益を兼ねて先生をやらせてもらってるようなものさ。
君は……茨森君は、異能を得てこの学校に?」
茨森 譲莉 > 異邦人はスマートフォンでゲームもするのか。
一体どんなゲームをするのだろう。スマートフォンだと多いパズルゲームだろうか。
RPGだろうか、それとも、ソーシャルゲームの類だろうか。
音楽ゲーム……は、4本指だと不便な気がする。
何であれ、この風貌でガチャガチャの結果やら、ゲームの結果やらに一喜一憂していると考えると可笑しくて、
ヨキ先生のスマートフォンを操作するような仕草に思わず口元が緩んでしまった。
「はい、分かりました。
やっぱり、少し怖いですけどね。」
笑うたびに見える牙は、やはり視界に入ってしまう。
しかし、その牙がピーマンの肉詰やら、豆腐を噛み砕くモノと考えると、
先ほどよりは恐ろしいものには見えなくなってきた。
豆腐を噛んだら、さぞサクッと刺さるんだろう。あんなに鋭いし。
「………獣人、ですか。
やっぱり、そういう人達も居るんですね。ここには。」
視線を横に動かして、耳に目をやる。
奇抜なファッションのついでにつけているつけ耳、とかではなく。
やはり本物らしい。少し触ってみたいような気がしたが、ぐっと堪えた。
獣人、獣と人のあいの子、ちゃんと仲良くできるだろうか。
きっと、食文化も何もかもちが……くなかったな。
ヨキ先生玉ねぎは食べれるんですか?と聞いてみたい衝動に駆られたが、これもまた堪える。
「美術の先生だとやっぱりそうですよね。
ああ、いえ、アタシは普通の人間だけが暮らしている地域の学校から、
共存のモデルケースになっている常世学園を見学してくるように、と言われて。
……一時的な交換留学みたいなものなので、アタシは異能はさっぱりです。」
ヨキ > 「ふふ。これからきっと、君は沢山の異邦人を目にするだろうから。
我々も変わらず生きていることを、知ってほしい。
怖く思ってしまうのは、知らないことの多い所為に他ならないのだから」
(穏やかに話しながら、椅子の背凭れに肘を載せる。
腕に触れてひらと揺れる耳は、犬の形に人間の肌の質感をしていた。
彼女が飲み込んだ質問や衝動には気付く由もなく、言葉を続ける)
「うん。いろんな種族が居るよ、この島にはね。
君がきっと、フィクションの中でしか知らなかったような者たちが沢山な。
気のいい異邦人も、人付き合いの苦手な地球人もいろいろさ」
(茨森の身の上に、ほう、と耳を傾ける)
「一時的な交換留学、か。
外界にとっては、異能や魔術や異邦人は、まだまだ未知の世界だろうからな。
……ふふ、君の見聞きしたことが、これからの君の母校にも関わってくるわけだな。
もしかすると……君自身にも、いつか不意に異能が宿る日が来るかもしれない。
ここの皆も、『さっぱり』だったところから始めたからな。
気負わず、新しい国や文化を楽しむつもりで居てくれたらいい」
茨森 譲莉 > 話ながら、ヨキ先生は身体を崩した。
それに連れ立って揺れる耳は人間のそれとも、獣のそれとも違う。
見る限り、人の肌のような質感。触ったら気味の悪い感触がするような気がする。
犬の耳を期待して触ったら人肌の感触。
中身がたっぷり入ってると思って持ち上げた牛乳の残りが、
案外少なかったような感覚に襲われる気がする。
身体を崩す姿にドキりとしたが、それが乙女の恋心なのか、
やっぱり少し怖いのか、それは判断に迷う事案だ。
いや、どう考えても怖いんだろうけど。
「………そうですよね。
これから、しっかりと知っていけるようにしたいと思います。
知ったらもっと怖くなるような事もあるかもしれませんけど、
もし、そうなっても食べないでくださいね?」
ヨキ先生は知的な雰囲気で、話し方も落ち着いていて、丁寧で、
獣らしさは少なくとも外見以外には微塵も感じない。
獣人というのは全てがこのようなモノなのか、それとも、ヨキ先生が変わっているのかは、
ヨキ先生が言うようにこれから知って行けばいい。
「そうですね、外の世界全てがそうではないと聞いてはいますが、
少なくともアタシが住んでいた地域では、異能者や異邦人は『化物』と言われていました。
提案を受けても、誰も行きたいとは言わなかったそうですよ。
……得体の知れない物は、皆、怖いですからね。
こういってしまっては失礼かもしれませんが、アタシも正直そうですから。」
自分にも異能が、なんてことは考えた事も無かった。
異能というのは、どういう風に身につくものなのだろう。
ある日、目が覚めたら突然秘められた力が目覚めたりするんだろうか。
そもそもヨキ先生は、異能者なんだろうか。
「あの、ヨキ先生、ヨキ先生は異能は使えるんでしょうか。
……あとヨキ先生も、ある日突然異能が使えるようになったんですか?」
ヨキ > 「大丈夫。怖がられたって、君を食べはしないさ。
もしお腹が空いたら、君を誘ってごはんを食べに行くよ」
(くすくすと喉を鳴らして笑う。
紅を差した目尻に、くしゃりとした笑い皺が薄く浮かんだ)
「『化物』。そうだなあ、当然の反応だ。
ここにはそう呼ばれて、追い立てられるようにやって来る者も少なくない。
あるいは地球人こそを『化物』と思っている異邦人も居る。
まだまだ『共生』には程遠いが……幸いにも、ヨキの見てきた生徒は人のいい子が多くてな。
何、失礼などないさ。ヨキとて、怖がられることには慣れているからね。
未知のものと相対して、こわい、と感じるのは、生きものとして当然の本能だ」
(だから今のうちに、存分に怖がっておくがよい、と。
怖がるな、とは、決して言いはしなかった。
自身の異能について尋ねられると、わずかに茨森へ顔を寄せる。
人間の男と何ら変わりのない、オリエンタル系の薄い香水の匂い)
「ヨキの異能かい?
もちろん持っているよ。見ていてごらん、こう……」
(言って、右の手のひらの上で、左の指をくるりと回す。
まるで氷が解ける映像を逆再生したように、手のひらの上にぷくりと金色の粒が芽吹く。
その金色がみるみるうちに膨らんで、小花の形に音もなく花開く。
ちょうどアンティークのブローチに似た、真鍮の花が現れる)
「……これが、ヨキの異能だ。金属を操る力さ。
使えるようになる切っ掛けは、あったよ。
ヨキはもともと、金属とは縁遠い獣だったからな。
それが金属にはじめて触れて――異能を得た。
理屈とか、理由なんてものは判らない。とにかく、『そうなってしまった』」
茨森 譲莉 > 「常世学園の食事処には疎いですし、その時には喜んでご一緒させて頂きます。」
紅を刺したヨキ先生の目尻がくしゃりと歪む。
きっと、アタシの顔にも笑顔が浮かんでいることだろう。
大分と緊張も解れて来たのか、その口元の牙ばかりに目が行くことも無くなった。
なんとも、見れば見るほどお洒落な先生だ。どんな所でご飯を食べるのだろう。
先ほど聞いたメニューから察すると和食だろうか。………お金、足りるかな。
「……すみません、ありがとうございます。」
怖がるなとは言わないのは、ヨキ先生の優しさだろうか。
心底丁寧な先生で、最初に会った先生がこの人で良かったと心の底から思う。
今のうちに怖がっておけ。言葉の裏を返せば、知って行けばきっと怖いという事はなくなるよ。
―――と、いう事なんだろう。
そんな生徒思いの先制になんだか失礼な事を言ってしまった自分が恥ずかしくて、
顔が熱くなったのを感じて、そっと顔を伏せた。
元居た学校にも、これほどまでに生徒思いのいい先生は居なかったような気がする。
そうして顔を伏せていると、顔が寄せられる。鼻をくすぐるのは香水の匂い。
本当にお洒落な先生だな、と繰り返し思いつつ、その手を覗き込む。
みるみるうちに作られていく真鍮の花。
その光景は、異能という未知の恐ろしさよりも、むしろ―――。
「―――きれい」
思わず、そう感嘆の声が漏れる。
お洒落なヨキ先生に似合った、とても素敵な異能だ。
異能は恐ろしいモノばかりだと思っていたけれど、こんな異能もあるのなら、
アタシも少しだけ、欲しいなと考えてしまう。
「そうだったんですか。きっかけは人其々なんですね。
……それがきっかけだったのかは知りませんが、
今のヨキ先生はとても人間らしい、素敵な先生だとアタシは思います。」
素直な賞賛の言葉は、少し気恥ずかしい。
また顔が熱くなるのを感じて、視線を逸らした。ふと、傍らに置いたスマートフォンが目に入る。
イヤホンが垂れ下がり、悲しくもそこから誰も聞く事の無いそれには、時計が備えられている。
つい話し込んでしまったが、お仕事の邪魔をしてしまったかもしれない。
「ヨキ先生、アタシ、そろそろ失礼しますね。
お仕事中なのに色々とお話してくださって、ありがとうございました。」
そういって、アタシは静かに席を立つ。
ヨキ > 「気兼ねなく来るといい。ヨキはここに暮らして長いのが取り柄だからな。
ガイドブックにも乗らないような店に、ひょいひょい入るのが好きなのさ」
(あちこちうろつき回ることを示すように、左手をひらひらと動かしてみせる。
どうやら好奇心が旺盛で、どこへでも食べに行くらしい――
懐具合の心配が不要であると知れるのは、また別の話だろう。
茨森の物腰が少しずつ柔らかくなってゆくことに、ゆったりと笑みを深める)
「恐れることに慣れすぎると、今度は本当の『危険』に鈍くなってしまうものだ。
そうなってしまう前に、君と共に学んで、君を守る……それが教師で、大人で、異邦人のヨキの仕事さ。
いつでもヨキを尋ねてくるがいい。ヨキは君の『恐怖』にはならないと、約束するよ」
(現れた金色の花に上がった感嘆の声に、ほっとしたように目を伏せる)
「この異能は……こうして綺麗なものも、人を傷つける刃物も、何だって作れてしまう。
異能の使い方や考え方は、本当に人それぞれだ。
ヨキは君にそうやって褒めてもらえる方が、ずっと気分のよいものだと思っている。
ありがとう。君の生活が素敵になるように、素敵な先生で居られるように努力しよう」
(時計を見やって席を立つ茨森に、いいや、と笑って首を振る)
「本を読むよりも、ずっと楽しくて有意義な時間を過ごさせてもらったよ」
(気にした風もなく、ひらりと左手を振る。
手のひらに載せていた真鍮の小花が、するりと溶けて見えなくなった)
「またお話しよう。ヨキにとっては、君の暮らしてきた日常だって『未知の世界』であるから」
(ではね、と茨森を見送る。
独り残ったあとには、穏やかな微笑みを湛えて本の世界にゆくのだろう)
ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
茨森 譲莉 > ヨキ先生にお礼を言って、三度目になるお辞儀をした後、
先ほどまで読んでいた本を貸出しカウンターに預けながら、
アタシはヨキ先生と話した事を振り返る。
「いつでも尋ねてくるといい。か。」
教師で、大人で、異邦人のヨキの、ヨキ先生の仕事。
きっとそれは、アタシのような何も知らずに学園に来た人間から、偏見を取り除く事なんだろう。
怖がっている人間を諭すのは、難しい。
だからこそ、ヨキ先生はあんなにも丁寧で、何よりも優しい。
叱らず、急かさず、しっかりと知って、考えるまで見守ってくれる。
「ほぁ……。」
思わず、そんな溜息が漏れてしまう。
ヨキ先生は、間違いなく素敵な先生だった。
顔を寄せられた時の香りが思い出しながらも、頬を数度叩く。
……まだ、全員がそうだと決まったわけじゃない。
異能の使い方は人によって違うと、ヨキ先生は言っていた。
つまり、人を傷つける、いや、殺めるような使い方をする異能者もやはり、この学園にはいるのだろう。
良い側面だけ見れば良い物でも、悪い面のリスクが上回っていれば総合的に見ればマイナスだ。
手続きを終えて手元に返ってきた本を受け取って、
ご飯を食べるときにはまた色々とお話を聞かせて貰おうと考えながら、
本に没頭しているヨキ先生を遠目から一度だけ見て、アタシは図書館から出て行った。
ご案内:「図書館」から茨森 譲莉さんが去りました。<補足:ぼさぼさとした髪の毛に、目が悪いので悪い目付き、服装はブラウスとカーディガンの組み合わせ。>