2015/09/16 - 23:19~01:37 のログ
ご案内:「歓楽街の奥」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた黒ローブ、ベルト付の黒ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (外界は、休日の午後。もはやバラックと呼んで差し支えのない、安アパートの一室。
 褪せた赤い布のソファに深く身を預ける下着姿の少女、その白い脚を背凭れにしたヨキが、板張りの床に腰を下ろしている。
 もちろん、生身の人間に身体を預ける訳には行かない鉄塊の、空疎なポーズではあったけれど)

「――そろそろ頃合か。帰るよ」

(膝を突いて立ち上がると、今にも踏み抜いてしまうのではないかと思われるような苦しさで、床がぎい、と鳴った。
 裸足のヨキが歩くこともままならないのを知っているらしい娘は、ごく自然な仕草でその薄い肩を貸した。
 下着も着けず、前を寛げた衣服を羽織ったきりのヨキが、まるで勝手知ったる緩慢さで帰り支度を始める。

 自らを固く縛らんとする着衣のひとつひとつを、締め付け、縛り上げ、閉じてゆく。
 今度はいつ来るの、という、そばかす顔の少女の鼻声。
 粗く切り揃えられたショートカットに、痩せぎすの身体。真っ当な暮らしと稼ぎでないことが一目で知れる様相)

「今度?さあ……いつかな」

(笑って目を伏せる。先生はいつもそう、という笑い声を背に、散らかった床を跨いで玄関へ向かう。
 靴を履くその前に、少女へひとたび向き直る。

 先日の異邦人街で、本土からやってきた留学生――茨森譲莉へそうしたように、ごく滑らかな自然さで、少女の手を優しく握る)

「それではね。――さようなら」

(相手の答えを待たずして、絡め合った指先で少女を引き寄せ、唇を重ねる――)

ヨキ > (――ぶつん、と張り詰めたものの裂ける音)

(少女が、え、と身を見開き、よろめいてヨキから唇を離す。
 その瞬間、ヨキに繋がれた少女の両腕の『内側』が、太い植物の根が張ったようにぼこりと膨らむ。

 音もなく、一条、また一条。
 指先から肩口へ向けて逆流するように、波打ってうねる瘤が少女の腕を駆け上がる――)

(少女が声もなく、せんせえ、どうして、と唇を動かしたのが判った。
 小柄な少女の身体が、後方へぐんと仰け反る)

(いよいよ乾いた破裂音が、ぱん、と響く)

(少女の左の眼窩から――金色の茨が、天井目掛けて突き抜けた)

ヨキ > (少女の身体という身体を内側から掻き乱した茨が、右の眼窩から、喉奥から、頬から、眉間から首筋から、胸から腹から背中から、次々と柔らかな肉を突き破る)

(その顔を返り血と肉片に濡らしたヨキが、伏せていた顔をひどく優雅に持ち上げる。
 握っていた四本指の両手をぱ、と開くと、茨は見る間に元の肉の裏側を通ってヨキの手へ戻る。
 立ち返る茨に再び内部を蹂躙された肉体が、がくがくと痙攣した。

 即座に絶命し、異能の茨によってのみ支えられていた少女の死体が、力なく崩れ落ちんとする。
 ヨキが長衣の裾を波紋のようにふわりと広げて――咄嗟に膝を折り、少女の身体をその腕に掬い取る。

 おかげで肉の重みが板張りの床を打ち鳴らすこともなく、アパートは至って静寂に包まれたままだ)

ヨキ > 「…………。
 君が大人しく島の秩序に従って生きていてくれたなら、ヨキは永劫君の恩師で在れたのに」

(片膝を突き、少女の亡骸を抱いたヨキの、温かくも冷たくもない淡々とした声。
 島の裏通りを渡るときほどしか着ることのない、漆黒の装束の表面を、血の雫が玉となってころりと滑り落ちる)

「悪いな。こうでもしなければ、ヨキは溢れてしまうんだ。
 『正しい』生徒たちがヨキから生き延びるために――君は最期の最期に役に立つ、という訳だ」

(眼球を貫かれて空洞と化した両目を、手のひらでそっと塞ぐ)

「公安や風紀に捕まるよりは、君も幸せだろう」

(今一度、唇を重ねる。
 薄く開かれたまま血と体液に汚れた口腔を塞ぐキスは、それまで少女と交わしたいずれよりも甘く優しく、深かった)

(ヨキの手が、もはや動くことのない少女の腹の上を滑り降りてゆく)

(――死人めいて冷ややかな指先が、下着の布地の隙間へ割って入る)

ヨキ > (しばしの後)

(薄明かりに満ちた午後のアパートの階段を、独り降りてゆくヨキの姿がある。
 その姿はこざっぱりと整って――一刻も前には、人間の脳漿を頭から被っていたようにはとても見えない)

(家々はしんとして、貧民街とのいかなる狂騒とも縁遠いように見える。
 売春婦や風俗業に従事する者が多く暮らすこの界隈は、太陽のあるうちはほとんど無音だ)

(ヨキが階段を降りるその足音だけが、ぎい、ぎい、と一音ずつ軋んで響く)

「……ここで踏み抜きでもしたら間抜けだな……」

(とは言え、この階段を歩くことは恐らく二度とないのだが。
 粗雑な舗装の路地へ、無事に降り立つ)

(べろり、大きな唇を舐める。
 優雅さには程遠い、食後のおくびを小さくひとつ)

(一息吐いた瞬間――薄い腹が、ぐう、と鳴った)

「………………。
 一仕事済ませたら、腹が減ったな」

(『一仕事』。
 その言のとおり――かつて少女が住んでいた部屋は、生活感だけを残して今や忽然と、無人)

(狭い通りを歩き出す)

(姿を隠すこともなく、悠然と)

(血や性交の匂いひとつ残さず――甘やかなオリエンタル系のパルファンが、風に柔く香る)

ヨキ > (通りを見回す。
 斯様なスラムのなり損ないのような街区ともなれば、人が一人二人減ったところで然したる問題にはならない。
 が、)

「……知らない顔は、美味くもないしなあ」

(味の好みの問題がひとつ。
 他方では――異能者を下手に襲った場合、ヨキには敗北する可能性が大いにあった。
 元はと言えば、かの少女――元教え子の娘も、身体操作系の能力者だった。
 それらの異能がヨキの獣人の身体能力を上回ることは決して少なくない。
 もしも交戦に持ち込まれれば負ける、という危惧が、ヨキにはあった)

(だからヨキは、思い付くだけの手管をいくらでも鍛え、使った。
 女を誘う表情を、身のこなしを、甘やかな睦言を。
 牙と爪のみを以てして人を襲うのは――獣のやることだ、とヨキは考えている)

(常であれば教師や学生など近付きもしないその道を、培われた土地勘を隠し立てもせずに行く)

ヨキ > (そうして歩いていると、不意に、ああ、先生、と声を掛けてくる老翁の姿がある。
 知った顔。学生の保護者としてこの島へやってきて以来、暮らしてきた男だ。
 風紀委員だった息子が異能によって命を落とし、崩れ落ちるように落第街暮らしに身を窶したという。
 頻繁には顔を見なくなって久しいが、こうして会えば先生、と声を掛けてくる)

「やあ、こんにちは。体調はいかがかね?
 うむ、病気さえしていなければそれでよい。それだけで十全だ……」

(少し前にアパートの一室で少女の身体を愛撫し、貫いた手が、老いた肩を労って擦る)

「ヨキか?ああ。古い教え子から連絡があってな。
 久々に様子を見に来たのだ。……なに、良い先生と?
 言ってくれる。教職に在るものとして、ごく当然の務めに過ぎんよ」

(知った間柄の気楽さで、明るく笑い合う。
 ゆったりと目を細め、肩を揺らし――心の底から、楽しげに)

ヨキ > (ヨキは嘘を吐いてはいなかった。
 あの少女からヨキへ連絡があったのは事実だ。
 相談事があると打ち明けたことも、自身の犯罪を自ら明かしたことも。

 少女は幼い頃からヨキによく懐いた。
 絵を習い、金工を修め、ヨキのアトリエをも訪れて、やがて関係を持ったのだ。
 それは理性あるけだものが、長い時間を経て獲物を育てていく様子に他ならなかった)

(ヨキとの関係が、どんな末路を迎えるにせよ――ヨキはいずれの女に対しても、本当の意味での愛着を持たなかった。
 奥底から湧き上がる感情に身を任せ、花開くような笑みを見せるのは、ただ相手がヨキ自身によって命を奪われたときだけだ)

(『人形は綺麗だ。ヨキに何も口答えせんからな』)

(いつか同僚の教師へ嘯いたその言葉の通りに、ヨキは手ずから殺めた死体とよく交わった。
 かつて女だったもの。ヨキの秩序を乱したことで裁かれた、その虚ろ――)

(女が女としてヨキと通じる限り、その営みは変わることがない)

ご案内:「歓楽街の奥」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた黒ローブ、ベルト付の黒ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>