2015/09/18 - 23:16~02:12 のログ
ご案内:「図書館」に蓋盛 椎月さんが現れました。<補足:亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン [乱入歓迎]>
蓋盛 椎月 > 閲覧席のひとつに座り、目元を揉みながら
新聞を広げている白衣に蜥蜴のヘアピンの女性――蓋盛の姿があった。
広げているのは、この図書館に所蔵されている古い新聞。
興味深く閲覧しているのは――軍事組織《レコンキスタ》の起こした事件に纏わる記事。
彼らの起こした、破壊や殺傷の記録。
「コーヒー飲みたい……」
蓋盛にとって図書館の飲食制限というのは少々煩わしいものだった。
「あと肩が凝る」
活字も苦手だった。
ご案内:「図書館」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。制服姿>
奥野晴明 銀貨 > ことん、と缶コーヒーが閲覧席の机に置かれる固い音がする。
蓋盛の後ろから腕を伸ばしてそれを置いた銀貨が薄い笑みで彼女を見た。
「こんにちは、先生。先生も図書館へいらっしゃるんですね」
そういって声を潜めて(いつも彼の声は静かだが)話しかけた。
これを飲むなら、休憩スペースへ行ってくださいねとは言わないがまぁ蓋盛ならわかってくれるだろう。
「新聞記事……≪レコンキスタ≫という軍事組織のことばかりですね。
何か調べものですか?それから肩、揉んだほうがいいです?」
ちらりと彼女が持つ新聞に目を通しながらそう尋ねる。
蓋盛 椎月 > 「オワ」
近づく気配には気づいていなかったらしく、
少々驚いた様子で振り返る。
「図書委員の子に休憩場所としてめっちゃプッシュされたんで
たまには足を運んでみてもいいかなって」
缶コーヒーと、銀貨を交互に見比べて目を丸くする。
「すごい……なんであたしが缶コーヒー飲みたくて
しかも肩凝ってるってわかったの?
ひょっとして読心系能力も持ってた……?」
揉んで揉んで~、とうれしそうに銀貨に再び背を向け。
「うん、調べ物。社会科の復習ってとこ?
たちばな学級じゃ授業もやるし、少しは勉強しとかないとね。
銀貨くんも調べ物のご用事?」
蓋盛の前の机を見れば、過去の雑誌や新聞に加えて
本年度版の国際テロリズム要覧があるのがわかる。
奥野晴明 銀貨 > 「今さっき口に出していましたよ。コーヒー飲みたい、肩が凝ったって。
でも先生のことならなんとなく、わかります」
そろりと蓋盛の肩に両手を当て、ゆるくその肩の凝りをほぐしていく。
特に女性の、それも教師のすぐそばで相手に触れているということを鵜意識することなく、蓋盛の頭上からその調べものたちを見据える。
「社会科の復習にしては随分と過激な内容ですね。
≪レコンキスタ≫、世界に異能者は不要、無能力者による秩序を世界に取り戻すと標榜する極右思想の軍事集団、でしたっけ。
テロ関連の事件には彼らの存在が見え隠れするとか、魔術学に傾倒しているとか……。何か気になることでも?
僕も調べものですね。刻印魔術に新たな調整を加えようと思って他の魔術系統から何かアイディアでも貰おうかと思ってぶらついているだけですけど」
急ぎの用じゃないから、もし先生が必要そうなら手伝いますよ。
そういって、ぐりぐりと蓋盛の両肩を揉んでいく。
蓋盛 椎月 > 「ありゃそうだっけ。
ん? なんだそれ照れるなあ。もしかして口説かれてる?」
うひひ、とおかしそうに笑う。
「お、よく覚えてるねー。さすが優等生。
……んー、実は知り合いが関わってる可能性があってねー。
一応、知識はちゃんと頭に入れておこうと思って」
気持ちよさそうに揉まれながら、
少し迷った素振りを見せた末にそう口にする。
「ホント? 美少年に肩揉んでもらって手伝ってまでもらえるなんて
図書館って場所は天国だなあ~、ありがとね」
開いていた新聞を閉じて、机の上に。
「それに……
《レコンキスタ》の思想って、そう他人事でもないんだよね」
わかるでしょ? とでも言いたげに、背中越しに視線を向ける。
奥野晴明 銀貨 > 「先生は口説いても本気にはしてくださいませんからね。
それに先生は口説く側のほうがお好きでしょう」
心なしか手に力を込めながら肩を揉み続ける。
「いえ、大したことじゃないのでお気になさらず。
お知り合いですか。それはたとえば……この学園の教師、とか?」
どこまで知っているのかはまるで読めない抑揚のない声でそう尋ねる。相変わらず表情は薄い笑みをたたえたままだ。
「思想。他人事ではないと。
……”異能者を徹底的に排斥し世界秩序を回復すること”の部分でしょうか?」
片方の手で開いた本の一説、≪レコンキスタ≫を解説したその一文を細く白い指でなぞって見せる。
蓋盛 椎月 > 「はは、先生を遊び人みたいに言うものじゃない。
……ま、確かに本気になった試しはないけど。
それはそれとして、口説かれるのも結構楽しいものだよ」
問いには、「さて、そういう可能性もあるかもね」と玉虫色の返事。
「んー……ちょっとどうとでも取れる言葉すぎたかな。
えーとね。
世界秩序を保つのに、異能者を排除すべき――だなんてのはバカげてるけど。
異能者ってのは、実際“やっかい”なものなんだよ。
誰だって一度はそう考えたことがあるはずなんだ。
この学園で過去の歴史を紐解いたり、異能について学ぶたびに
異能というものがいかに理不尽か、ってのは嫌でもわかっちゃう。
それが即テロリズムに傾倒するとまでは言わないけど……
うかつな教え方をすれば、そういう危険思想に近づけさせてしまう可能性は大いにあるんだ。
だから、この機会にちゃんと勉強しなおしとくのは悪くないとも思った」
穏やかで丁寧な口調で、そう説明して――
「うわー教師っぽいこと言ってしまった」と頭を抱えた。
ふう、と一呼吸して。
「銀貨くんはさ……、どう思う?
異能って、この世界に必要なのかな?」
銀貨と似たような静かな笑みを浮かべたまま、そう囁くように尋ねた。
奥野晴明 銀貨 > 「そうですか、楽しいのなら結構。口説かれたいときは言ってください。
なんでも甘い声で囁きましょう」
ふ、と苦みを帯びた笑みで口元をゆがめる。
はっきりした返事が返ってこないのならば、自分には知られたくないことなのだろう。
その話題には特に追求せず、蓋盛の教師っぽい説明を黙々と聞いた。
先生っぽい先生も嫌いではないですよ、よくお似合いですと本気とも冗談ともつかない前置きから口を開く。
「なるほど、そこでしたか。
少なくとも僕らみたいな『たちばな学級』の面々はその異能の厄介性に振り回されていますからわかります。
たぶん中にはその厄介なものをきれいさっぱり消し去ってしまいたいという子もいるでしょう。
意図せず異能を向けられて被害にあった学生や教師だって少なくはない。
厄介なものとの付き合い方、適切な距離の取り方は確かに学ぶべきことです。
そこで間違ったアプローチを教えられたら排斥しなければどうにもならないという極端な思想に至るのも自明かと。
それで勉強しなおして、成果はでましたか?うかつではない、冴えた教え方がみつかりました?」
小首を傾げて相手に尋ねる。逆に質問された内容には少しだけ考えた後視線を蓋盛の後頭部にじっと当てた。
「僕個人の能力だけでいえば……不要ですね。
はっきり言って僕の異能はこの世界に対して何の価値ももたらすことがないといえます。
もし、仮に異能を消し去る異能があったのなら迷わず使うつもりではありますが……
ただ、たぶんすでに僕の内にある異能というものが僕個人から切り離せるだけの小ささで収まってはいない。
悪性の腫瘍や病理を切り離すようにたとえ異能を切り離せたとしても、
もう体の一部のようになってしまったそれを失ってしまったら
今ある”奥野晴明 銀貨”という存在とは別の存在になってしまうような気がするのです。
たぶん、僕が”奥野晴明 銀貨”になるに至る過程で自身の発現した異能が重要な要素になってしまっているから。
異能がなくとも世界は確かにあり続けるでしょう。
けれど、一度それに依って立っている存在がいたら彼らにとっては必要なものじゃないでしょうか。
そしてたぶん、世界変容が引き起こされたあの時から、世界自身の選択として異能という要素が含むことを許された、ということも言えるのではないかと考えています。
それに、異能がなかったらたぶん、たちばな学級の皆とも先生とも出会えなかったでしょうし。
自分の考えを話すって苦しいし恥ずかしいですね。いやだな、妙な考えだって笑われそうです」
ちっとも恥ずかしそうなそぶりも見せずそう静かに答えた。
蓋盛 椎月 > 「そうだね。便利な“良い異能”も、御しきれない“悪い異能”も、
強すぎる力はときに異能者を傀儡にしてしまう。
冴えた教え方は――あいにくとそう簡単には見つからないな」
ゆるゆると首を横に振る。
続く銀貨の問いへの答えを、缶コーヒーに手を添えて静かに聴く。
「丁寧に教えてくれてありがとう。
そうだね。異能というのはどれだけ唐突で不条理な覚醒(めざ)めかたをしていたとしても……
定着してしまえばそれはその人自身となる。
切り離せないものなのさ。人にとっての過去や記憶と同じで。
もし、異能がなかったら――なんてことを考えてもしかたないんだ。
あたしたちの観測できる人生に、世界に、イフはない。
異能なんてこの世界にいらない、なんて声高に叫ぶのは……
子供が駄々をこねるのとまったく変わりやしない。
だって、“ある”んだもの。この世界には」
机に肘をつく。
「けど……それがわからない人たちがいる。
仕方ないのにね」
かすかな憂いを帯びた声でそう言って……
振り返って銀貨を向く。目を細めた、優しげで穏やかな表情。
「ふふ……あたしも銀貨くんと会えてよかったって思ってるよ。
あたし、もっと銀貨くんの話、聞きたいな」
銀貨を見つめたまま、そっと彼の手を取った。
奥野晴明 銀貨 > 「冴えた教え方を見つけるには、まだ我々は異能について深く学んでいない。
教示するというのはなかなかに難しいですね。それが答えの出ていないものなら尚更」
揉んでいた蓋盛の肩から手を下ろす。その指先はどこか名残惜しげに見えた。
「別の世界線へ移動できるならばともかく、この世界はとっくに異能を含むことを了承してしまった。
ならばその世界で無かったことにできないのならば、次に考えるべき建設的な行いは異能を”失くすこと”ではなく”どう内包したまま共存すべきか”でしょう。
それがどんなに許しがたいことでも、覆水盆に返らず。変容してしまったものを元に戻すことは難しい」
蓋盛の憂いの色に紫の目を細める。彼女の気苦労の原因をわずかを知ることができたような気がして。
振り向いた蓋盛の表情と触れられた手をじっと見つめる。銀貨の体温は低く、その手は冷たかった。
白さが目立つその手で、蓋盛の掌を指でなぞる。皺を追うように人差し指が彼女の手を這う。
「……話をするなら、今度、付き合ってもらえません?
それとも、生徒とはそんなことできませんか」
いいや、この人はできるはずだ。だってほかの人にだって容易く許すのだから。
確信しているはずなのになぜか念を押すようにそう聞いてみる。
蓋盛 椎月 > 「正しいと言い切れることなんて存在しないからね。
教導の末に《レコンキスタ》のような極端な思想に走ってしまうなら
それはしかたのないことかもしれない。
――でも、せめて、多くの選択肢を与えてあげたいものだね」
石膏を思わせる銀貨の冷たい手を、温めるようとするかのように両方の手で包み込む。
そうして、座ったまま愛おしげにその手に頬を寄せた。
「構わないよ。きみがそう望むのなら……。
あたしは、スキな子のことはもっと知りたいから」
蕩かすような甘い声でそう囁いて、ほほえみかけた。
奥野晴明 銀貨 > じぃと無機質な紫の双眸が蓋盛を見つめる。つるりとしたガラスのような瞳。
彼女の甘ったるい囁きに少しも表情は変わらなかった。強張ることもはにかむこともなく。
蓋盛の両の手から、その包み込まれるような温かさから逃げるように手を引いた。
「……では今度、改めて連絡します。
そろそろ僕は失礼します。先生も休憩は適度にとってくださいね」
薄い微笑を保ったまま、蓋盛の背から離れ静かに去ってゆこうとする。
『きみがそう望むのなら……。』
望まれたら、きっと誰でも許すのでしょう?
もしあのままあの場にとどまっていたらきっとそう口走っていたかもしれない。
無意識に自分の唇を指で押さえながら廊下の角を曲がり、それきり彼の姿は見えなかった。
ご案内:「図書館」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。<補足:《軍勢》を操る物憂げな少年。制服姿>
蓋盛 椎月 > 「ああ、それじゃ」
小さく手を振って、去る様を静かに見送る。
再び机へと向かう。
「…………」
薄い笑みを貼り付けたまま、
資料を開くでも片付けるでもなく、
しばらくの間、ただ無言のまま
缶コーヒーの縁を指でなぞっていた……。
ご案内:「図書館」から蓋盛 椎月さんが去りました。<補足:亜麻色の髪 茶の瞳 白衣 蜥蜴のヘアピン [乱入歓迎]>