2015/09/19 - 19:46~00:06 のログ
ご案内:「常世公園」に倉光はたたさんが現れました。<補足:白い髪 金の瞳 変なTシャツ 翼のようなもの [乱入○]>
倉光はたた > 白い髪の少女――倉光はたたは公園へと訪れていた。
特にあてなどない、いつものような徘徊、もとい散策である。

プラプラ~と効率の悪い歩き方で公園内をうろついていると、
備え付けてあるベンチ――のある上にある物体に目が止まった。

あれは……たしか……、

「ねこ!」

茶トラの猫が丸まって眠っていた。
はたたの声に目を覚ましたか――パチリ、とまぶたを開いた。

「………………ん!」

目が合う。
お互い固まって動かない。はたたも猫も。
二匹の間にしか通じない緊張感のようなものが唐突に発生した。
どこかでスズメがひちひちと鳴いていた。

ご案内:「常世公園」に白鷺 奈倉さんが現れました。<補足:青い長髪をひとつに括る>
倉光はたた > 猫は伏せた姿勢でこちらを強く睨みつけている。
どうやら警戒心の強いけものだということがはたたにもわかった。

「ゥルルル……」
「……、ぅるるる……」

上が猫、下がはたたの声である。
はたたは単に音を真似ただけなので猫のような凄みはない。
別に威嚇したいわけでもない。
どうにか警戒を解いていただけないだろうか?

「…………!」

考えたすえに、猫のようにべたーと四肢を曲げて地べたへと伏せてみることにした。
明らかな奇行を特に見咎めるものは周囲にはいなかった。

白鷺 奈倉 > 「猫さん、じゃあないッスよね」

けらけらと笑いながら軽薄な笑みを浮かべて一歩一歩とはたたに歩み寄る。
さながら猫に向かい合うように、警戒されているのを前提で少しずつ。
地べたに伏すはたたと猫をぼうっと楽しげに眺めながら小さく問いかける。
自分のせいで猫に逃げられたら申し訳ないッスねー、と胸中で一人言ちつつ。

倉光はたた > 新たな人物の登場に、警戒心をむき出しにしていた茶トラの猫は
ベンチから降りてその下へと潜り込んでしまった。

「んっ!」

猫の反応からその接近に気づき、四つん這いの姿勢のまま跳躍して
奈倉へと向き直る。
背中の翼状突起が揺れた。

「はたた、にんげん、です」

スック……! と立ち上がる。
両手が猫手のまま掲げられている。
顕になったTシャツ胸部には『策士』と力強く書道されていた。
奈倉に向かいながらも、目がチラッチラッとベンチに隠れた猫を追っていた。

白鷺 奈倉 > 「こりゃ失礼したッスね、はたたさん」

猫手の策士が立ち上がるのと同時に自分の危惧が当たってしまったらしい。
茶トラを少し背伸びをしながら見遣った。
新たな登場人物は薄笑いを浮かべながらスイマセン、と小さく頭を下げた。
ゆらり揺れる翼状突起を目を細めてじいと見た。

「猫さんに逃げられた、とかそういうあれッスかね」

猫のような機敏さを見れば目を丸くした。
遠くの茶トラにおうい、と呼びかけてみるも反応はない。
残念そうに肩を竦めてはたたににへらと笑顔を向けた。

倉光はたた > 「…………ゥルルル……」

やや前傾姿勢になって唸り声を挙げる。
さっきの猫の真似である。先ほどとは違い威嚇の色が強い。
猫との対峙をじゃまされたのでご機嫌ななめなのだ。
しかし頭を下げて謝意を示したのを見れば唸るのをやめた。

「ねこ、さわる……できない、むずかしい。
 ねこ、はたた、きらい」

真剣な表情でたどたどしく言葉を繰る。
はたたは外出した時動物の類を見かければ追いかけていたのだが、
満足に接触できた機会はほとんどなかった。
自分が動物に好かれない存在らしい、というのを薄々感じ取ってはいた。

白鷺 奈倉 > さながら──猫そのもののようなはたたにスイマセンとまた繰り返す。
猫の機嫌を取るのは年頃の女子をデートに誘うよりも難しいらしい。

「スイマ──、ん?」

ご機嫌斜め一転真剣な策士の様子に面食らったように驚いた。
猫を触れない。猫が嫌い。
はて、何ゆえかと思案をひとつばかり。
暫し逡巡を挟んでひとつ、口を開いた。

「猫さんは気紛れッスからねー。
 嫌いにならないでやってくださいよ。
 野生の動物、ってのは大抵はそんなもんッス。
 ほら、はたたさんも知らないヤツに突然はなし、かけ、………」

例え話をしようとした瞬間に自分がその知らない奴であることに気づいた。
あちゃあと頭を抱えながら、また困ったように笑った。

「知らないヤツに突然話掛けられたら嫌ッスよね?
 俺はちょっと苦手、なんスけど。話し掛けるのは、好きで。
 そういうのと同じじゃないんスかねー。猫さんは気紛れッスから。

 はじめまして、奈倉、ッス。白鷲奈倉。怪しいヤツではないんスけど」

信じてもらえるッスかね、と目を細めた。

倉光はたた > 猫の構えをやめ、風を受ける柳のようにゆらゆらと揺れ始める。

「しらないやつ……」
わかっているのかいないのか、奈倉の言葉を繰り返して
うんうんと首を縦に振る。

「なくら……しらさぎ、なくら!」
びしっ、と指を指して名前を復唱した。
どうやら人の名前を覚えるのに必要な儀式であるらしい。
こうしてあやしいヤツはしってる人となった。

そうか……『しってる人』なら!

閃きが降りたらしい。見えない電球が頭上で光った。
ベンチの下に隠れている茶トラのほうへと再び向きを改める。

「はたたです! よろしくおねがいします!」
猫に向けられた力強い自己紹介。勢い良く下げられる頭。
その声に茶トラ猫は――鳴き声も上げずにベンチの背後、植え込みの向こうへと姿を消した。

「…………」
唇を硬く結んで、無言のままそれを見送るはたたの姿があった。
心なしか背中の翼のようなものも垂れ下がり方に力がないように見えた。

白鷺 奈倉 > 「そうッス、白鷺奈倉。女みたいな名前ッスけどね」

知った人はたどたどしい言葉を並べるはたたをにこにこと楽し気に眺めていた。

そして次いだ自己紹介にあー、とまた困ったような表情を浮かべた。
所属する委員会でも学校生活でも似たような表情ばかりしているのに気付いた。
また眉を下げて笑う。

「猫さんは俺らの言葉がわかんない、ッスから。
 先に言っとくべきでしたね、スイマセン。
 猫さんは猫さんの言葉。俺らは俺らの言葉で話してるんス。
 猫さんが会話をしてても俺はわかんないッスからねえ。
 そういう異能を持ってるヤツがいる、とは聞きましたが持ってないッスし」

はたたの傍までひょこひょこと歩み寄る。

「スイマセン、猫さんなら次はご飯を持って来たら仲良くしてくれるかもしれないッス。
 俺、言葉そんなにうまくないんで伝わってるかわかんないスけど」

現代文も散々な点数ッスからねー、と軽口をひとつ叩きながら笑顔を向ける。
片手にだけ嵌めた手袋を弄びながら腰を少しだけかがめる。
猫と同じ高さで視線を合わせるコミュニケーションの模倣。

「次は猫語をマスターすればいいかもしれないッスね。
 相手に伝わるように──俺も苦手スけど、少しずつ」

先刻の機敏な動きと猫を真似たはたたを思い出しながらにへらと笑う。
冗談めかして、またスイマセンと頭を下げた。

倉光はたた > 近づいて人好きのしそうな笑顔を向ける奈倉に、
じっと視線を合わせて、彼の言葉を聴きながら小さく首を揺らす。

「スイマセン」
奈倉と同じ抑揚でそう口にして、ぺこりと頭を下げる。
どうやら覚えてしまったらしい。
彼の言葉をどこまで理解できているのかは、
相変わらずいまひとつ読み取り難い。

「ねこさんのことば、はたたたちのことば……」
何度か瞬きして。

「はたた、むずかしい、にんげんの、ことば、も。
 ふわふわ、する……」
ふう、と疲れたように息を吐いた。

白鷺 奈倉 > 「そんなもんスよ」

返されたスイマセン、に少しばかり苦笑の色を織り交ぜる。
わかっているのか、わかっていないのか。
彼にはそう大した問題ではないらしい。互いに言葉を交わす。
それだけで中々に満足そうな笑みを浮かべた。

「言葉ってのは俺もきちんと使えてる、とは言い切れないッスし。
 あんまり考えすぎなくてもいいんスよ。
 おはよう、におはよう、って言えたらそう大して困んないッスし。
 はたたさんと俺、話出来てるッスからね」

にへら、と。
言外に大丈夫だ、と伝えるように。伝わってなくとも一先ずの自己満足を。

「練習あるのみ、ッスよ。
 一回ダメでも次はもしかしたら猫さんにもはたたさんの気持ち伝わるかもッス」

倉光はたた > 「…………。
 できてる、はなし?」

まるでその確証がなかった、と言うように、
奈倉の言葉にまた瞬きをする。
――実際に、そんなものはなかった。
人としての記憶や経験は不完全な情報としてしか持たないはたたの
繰る人語は、真似たり当てずっぽうだったりするものだったために。

そして数秒の間棒立ちのまま沈黙し――

「スイマセン……ありがとうございます」
ぎこちない調子で謝意を述べ、垂らした両手の拳をぎゅと握る。

「れんしゅう!」
そして、居ても立ってもいられないという体で駆け出して――ベンチを乗り越えて、
まっすぐ植え込みへと突っ込んでその姿を消した。

ご案内:「常世公園」から倉光はたたさんが去りました。<補足:白い髪 金の瞳 変なTシャツ 翼のようなもの [乱入○]>
白鷺 奈倉 > 「出来てる、って思ったら出来てるでいいんスよ。
 俺は出来てる、と思うッス。だって楽しいスからね」

へらりと先刻と何ら変わらない笑顔を浮かべた。
曖昧な、自信なさげな笑顔。
恐らく自分の言葉を真似たであろうそれを擽ったそうに受け止めた。

「頑張れッスよー、はたたさん。
 はたたさんなら出来ると思うッスよー!」

人間と猫が相互に干渉することは極めて少ないが、その中間であれば。
駆けだしたはたたの様子を見ながらまた目を細めた。欠伸をひとつ。

「………、人間同士でも話、全然通じない人もいるッスからね」

虚空にぽつり、洩らした。

ご案内:「常世公園」から白鷺 奈倉さんが去りました。<補足:青い長髪をひとつに括った青年。制服をだらしなく着ている。>