川添孝一が見つけた、物語のラスト・ピース。 ステーシー・バントラインとの出会いをここに記す。    『四葉』 川添孝一はこの世界と異世界が繋がる門、ゲート出現予報を聞いて転移荒野に来ていた。 バギーを運転して転移荒野を走る。 続いてバギーが数台走る。怪異対策室三課の仲間たちだ。 仲間がいるといっても、今回戦闘になりそうならメインは川添孝一。 かつて街中に出現した貴種龍、グリーンドラゴンと戦った川添孝一を人はドラゴンバスターと呼んだ。 怪異対策室三課の室長にして、桜井雄二や三枝あかりを上回る回数の戦闘をこなした彼は熟練の戦士だった。 とはいっても、常に戦闘が起きるとは限らない。 異世界から来るものは様々だ。 敵、味方、第三者、病気、文化、その他。 その中でモンスターや亜人が人類を襲うことを怪異災害、と怪異対策室三課では位置づけている。 ゲート出現予報のあった位置につく。 今回の敵が怪異災害でなければいい。そう思いながら川添たちは荒野を進む。 バギーから降りた川添孝一たちの前に現れたのは、動く骸骨。 スケルトン・ウォリアーと呼ばれるリビングデッドの一種だ。 死に満ちた世界から時折来ることがあるB級怪異災害。 「ケッ、どうせ出るならB級映画の世界だけにしとけってんだ」 川添孝一はそう吐き捨てる。 彼らは生ある者に襲い掛かる。 戦闘向けの異能を持ってすれば倒すのは容易いが、一般人が数で押されると死人が出ることもある。 しかも予報にあった異世界と繋がるゲートはまだ出現していないようだ。 続いてA級怪異災害、蟻人やオーガ辺りが異世界から来訪した場合かなり厄介だ。 このたまたま転移荒野をうろついていたであろうスケルトン・ウォリアーの集団を片付けるのが先決。 「しゃーねぇ!! 一丁、骨折り損といくかぁ!!」 冗談を口にしながら川添孝一がバギーから一歩前に出る。 腕や足を鞭のようにしなやかに振るいながら、骨の軍団を解体していく。 彼の異能、追放されし異形の果実(エグザイル・レッドフレア)は身体操作系の異能。 体を柔軟にすれば人類の可動限界を超えた動きも容易い。 川添を敵と見なした不死者の軍団が体から適当に引き抜いた骨を剣代わりに襲い掛かってくる。 「チッ、数が多いな……こんなことなら桜井の奴を連れてくれば………」 後悔してももう遅い。 怪異対策室三課のメンバーも戦ってはいるものの、膠着した戦場は疲労のないアンデッドが有利。 骨の軍勢が一斉攻撃とばかりに川添孝一に襲い掛かる。 「!!」 次の瞬間、異世界と繋がるゲートが開いた。 そのゲートの向こうから駆けてくる一陣の颯。 それは………刀を持った猫耳の少女だった。 「助太刀するわ! バントライン一刀流、猫撫で斬り!!」 そう叫びながら少女は袈裟斬りと逆袈裟の連続斬りにより川添孝一に襲い掛かってきたスケルトン・ウォリアーを切り刻んだ。 その異様さに圧倒されていた川添は、少女の瞳を見る。 それは正義を信じ、握り締めたままの存在が持つ真っ直ぐな眼差し。 それだけを確認して、川添孝一は彼女に背を向ける。 「オイ、てめェ戦えるんだろうな!? 『敵』を片付けるぞ、手伝え!!」 「語るに及ばず……ディバインブレード、旋空でつかまつるッ!」 お互い背中合わせに戦う少女と元・不良。 勢いのままに敵を撃破していき、あっという間に不死者の群れは壊滅した。 肩で息をしていた川添孝一が改めて猫耳の剣客と向き合う。 「よう、助かったぜ。骨相手は苦労するが、おかげでなんとかなった」 「……そう」 凛とした立ち姿で旋空と呼んだ刀を鞘に納める黒髪の少女。 「お前、どこから来たか知らないが礼くらいさせろよ」 「私は……流れているだけの野良猫。助けたのは気まぐれ、礼をされるほどのことはしていないわ」 「お、おう……」 日本語は喋れるようだが、川添孝一は少女にどこか古風な印象を受けた。 どの世界から来たのだろう? 「こっちの言葉、わかるんだな?」 「……? 共通交易語のこと?」 キョトンとした様子で彼女は喋る。 共通交易語。彼女の世界でそれが日本語なのだろう。 刀の柄頭を軽く撫でると猫耳の少女は川添孝一に背を向けた。 「野良猫は自由なもの。また会いましょう」 「オイ、どこに行くんだよ」 川添孝一がゲートがあった方向を指差した。 「お前の世界と繋がってるゲート、とっくに閉じてるんだが」 「にゃっ!?」 耳をピン、と立てて現状を把握し始める猫耳少女。 「か、帰れなくなっ…………」 「……なんか悪ィな、俺を助けるために飛び出してきたってのに」 背中を向けたままだが少女の尻尾がぷるぷると震えている。 はぁ、と溜息をついた川添が怪異対策室三課のメンバーに指示を出す。 「オイ、異邦人を一人保護だ。連れ帰って事情を説明するぞお前ら」 「そ、その……保護って………あの…」 先ほどまでの気取った様子もどこへいったやら。 猫耳の少女はわたわたと慌てているばかり。 「……お前には可能性を感じたんだ。だから俺が全力でサポートしてやる」 「可能性…………?」 川添孝一は厳つい顔を歪ませてニカッと笑った。 「お前の眼差しだ。お前ならあるいは………貴種龍(ノーブルドラゴン)を倒せる、そう―――」 「…………?」 「龍殺しの英雄かも知れねェ」 猫耳を伏せて小首を傾げる少女。 「いいっていいって、まずはラーメンでも食って落ち着こうや」 「あ、私…猫舌なのだけれど」 「……あァ、そう」 頼れる剣客なのか、頼りない異邦人なのか。 彼女には可能性がある。 その可能性が行き着く先を見たいと、川添孝一は思った。