2015/09/25 - 22:02~01:39 のログ
ご案内:「演習施設」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの長衣、ベルト付の白ロンググローブ、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (休憩用に設えられたベンチのひとつに長身を横たえて、長い足を地面に放り出している姿がある。
その身体能力と頑丈さとを見込まれて、ヨキが演習に駆り出されることはままある。
早い話が、動くサンドバッグ、または打たれ強いデコイだ。
馴染みの教師からそうした話が持ち込まれるたび、自分は一介の美術教師に過ぎないと説明するのだが――
結果的に、こうして依頼が尽きることはない)
「………………、」
(額に手の甲を乗せて、空を見ている。
素足の一本はベンチの上に、もう片足は地面に。
大きな手の陰が差した目元に、金色の焔がちらついている。
ぎらぎらと粘り気を帯びた眼光が、ただ空を見ている。
擦り傷と青痣にまみれたその姿からして、知らぬ者が彼を見て美術教師と判じられることは、およそ皆無だろう)
ヨキ > (夕刻前、空は未だ明るい。演習に参加していた面々は引き上げ、ヨキひとりが残っている。
校舎へ戻るには未だほとぼりが醒めず、こうして風に身体を冷やすに任せていた。
頭の中にぐるぐると、獣のように言葉にならない、人の思考が渦巻く。
夕飯の買い物をしていないな、とか、借りたDVDを返さなくては、とか。
明日の授業の進め方。カフェテラスの期間限定メニュー。
さる違反部活に所属していた学生が、自分の最後通牒を蹴ったこと。
美術館の企画展が、よい方向に転がっていくであろうこと。
美しい娘を、美しい顔のままに息の根を止めてやる方法。
学園祭。食事の約束。『獲物』のスマートな誘い文句。漫画の新刊。
それらのいずれもが、ヨキにとっては紛れもない生活のすべてだ。
貴賎も、清濁も、正邪も善悪もそこになく、ただひたすらに、地続きの生だった)
ヨキ > (そうした空想に耽るうち、やがて。
脳裏で幾度となく嬲り、喉笛を裂いたその顔が、猟犬たる自分が追うべき『獲物』ではなく――
見知った顔にすり替わっていることに気がついた)
「…………。ああ」
(『だめだ、そういうのは』。それはヨキの大いなる節度だ。
追っていいもの、悪いもの。それらに厳然たる区別をつけることが、ヨキを人間たらしめる一線だった。
『あの肉』はきっと美味い。
何故ならあれは、ヨキのいとし子であるからだ。
手塩に掛けて手ずから手に掛けたその肉は、一入美味いと決まっている)
ご案内:「演習施設」に白鷺奈倉さんが現れました。<補足:黒色のカーディガンに喪服じみた黒いネクタイ/左腕に公安委員会の腕章/腰まで伸ばした青い髪>
ヨキ > (目を閉じる。長い息を吐く。
上体を引き起こすと、ベンチが重たげに軋んだ。
顔を伏せたまま、ぷるぷると頭を振る。
死人のように冷え切った身体のくせ、瞳の奥の熱は一向に醒める気配がなかった)
「……みな果てを知らず、強くなるものだ」
(競技の記録が、年々塗り替えられては伸びてゆくように。
武の術もまた、磨かれてゆく。
その都度ヨキには、背骨を捕まれ引き摺り出されるような寒気があった。
そういう意味で――彼は討たれるときを待つ、一匹の魔物であった)
白鷺奈倉 > (その日は魔術演習の授業の帰りだった。
教師による魔術の行使の是否の授業の発展として普段の教室ではなく演習施設が指定された、その帰り道。
ついでに頼まれた委員会の雑務も兼ねて散々パシられたその帰り道で、
だらりと脱力するような、それでいて何度か遠目に見た顔があった)
「……、センセ、大丈夫ッスかね」
(そろりそろりと足を彼の居るほうへと運ぶ。
起こさないように、それでいて体調が悪くないかと伺うように。
もし悪いのであれば保健室に行くのを勧められるようにと。
腰まで伸びた青い髪を揺らして、そろおりと彼の傍へ)
「体調不良とかなら保健課の人でも、保健室でも行った方がいいんじゃ」
(こそこそと、申し訳なさげに眉を下げて問う。
彼が起きているか、起きていないかは彼にとって然程大きな問題ではないらしい)
ヨキ > (ずるりと頭を揺らすように起こした顔の、口の端を手の甲で拭う。
晒した上腕や脛に青痣が浮かぶ代わり、顔は至って綺麗だ。
何気ない様子の半眼がにやりと笑って相手を見遣る――が、
目の奥はあまり笑っていなかった。気の立った犬の目だ)
「――やあ、君。公安の子か。いいや、心配はご無用。
少しばかり演習でヒートアップして……
今はその、ほとぼりを醒ましていたところだ。至って元気だ」
(だから大丈夫、と左手をひらひらと振る。
けれど然して追い払うでもなく、緩い調子で言葉を続ける)
「ヨキとの課外授業ならば、喜んで付き合うけれど」
(にこりと笑って、小首を傾げる)
白鷺奈倉 > (一瞬ちらり覗いた獰猛そうな、ぎらりと輝くシトリンに気圧された。
元来人の視線や人の顔色を伺ってきたせいか、それを確かに見遣ると冷や汗を流した。
「隣、失礼するッスね」、と小さな会釈とともに彼の座るベンチの横へと腰を下ろす)
「え、っと。白鷺奈倉、って言います。
2年生で、公安委員会で。基本雑務とかばっかりやってるっス」
(へらりと下から覗き込むような笑み。
相手に不快感を与えないようにと彼が続けていたそれは一部では不評らしい。
困ったように眉を下げて、髪を掻き上げる)
「ン、なら良かったッス。
………、センセでも演習でヒートアップとかするんスね。
なんか冷たそうだな、っていうか、スイマセン。そんな感じの印象で。
誰に話を聞いたって訳でもないんスけどね。
……課外授業スか。
最近ちょっと自分に自信がないんスけど、お悩み相談みたいなのでもいいんスかね」
(また緩く、笑う。
名も覚えていない教師だったが、教師という存在に絶大な信頼を置く彼はひとつ。
伺うように視線を向けた)
ヨキ > (すとんと腰を下ろした彼を、別段取って食うようなことはしない。
軽い調子で、そうそう、白鷺君、と聞いた名を復唱する)
「綺麗な名だと思っていたものでな。
――ヨキだ。美術を教えている」
(演習場で擦り傷青痣のその出で立ちは、美術教師の印象からは些か遠い。
奈倉が見せるその笑い方にも、取り立てて不快さは見せなかった)
「冷たそうって?はは、まさか。
このヨキほど好奇心旺盛な大人もあるまいよ。
いや……身体の頑丈さで演習相手に駆り出されて、つい。
わざと負けるは性に合わんし、生徒を傷つける訳にもいかんでな。
スポーツの秋ってやつさ」
(腰の後ろに両手を突いて、寛いだ姿勢で座る。
続く奈倉の言葉に、顔を隣へ向ける)
「……お悩み相談?勿論だとも。
美術も体育も、道徳の授業もやるヨキだ。
何か困りごとでも?」
白鷺奈倉 > (彼の言葉を聞けば嬉しそうに顔を緩めた。
小さくヨキ、ヨキ先生、とまた同じようにして復唱する)
「はは、ちょっと嬉しいです。余り言われることがないスから。
それじゃあヨキ先生、と。改めてどうも、白鷺ス。
……、てっきり異能制御やらの先生かと。
美術……第一印象、ってやっぱりあるんスね」
(言外に意外だ、とまたへらり笑った)
「でもそんな先生がいるのはいいな、って思うッス。
生徒に対して真摯に向き合ってんだな、って。
……先生に青痣つけるっていうのも中々凄い話だとは思うッスけどね。
俺には出来そうもない話です」
(困りごとか、と。
その問いは現状ひどくありがたいものだった。
相談事が出来るような友人もおらず、また彼の印象に縛られない初対面の教師。
初対面の他人は最も相談に適している、という話もどこかで聞いたような気がする。
相手の印象に囚われることなく、立場的にも忌避のない意見を聞ける。
ありがとうございます、と頭を下げた)
「あの、こんな事聞くのもどうかと思うんスけど。
───公安委員会のやり方が間違っている、と。先生は思うッスか。
ちょっとばかり悩んでしまって。
一般職員の俺が如何こうできることもないんスけど、気になって。
その先生の眼にはどう映りますかね、公安委員会っていう存在は」
(真剣な様子で、じっとその瞳を、まっすぐと瞳の奥を見据えた)
ヨキ > 「ははは。よく言われるよ。
武術の先生とか、国語の先生とか……。
ヨキと本気でやり合ってくれるのは、それこそ生徒たちの方がよほど真摯なのだろうよ。
真摯というほどのことはしていない。
この学園に勤めて長いものだから、体よく使われているだけだ」
(言いつつも、まるでそれが教師の本分なのだというように。
ふっと笑うと、あの剣呑な眼光は次第に穏やかな光に変わりつつあった。
焔が収まったとて、自ずと灯を宿す瞳であるらしい。
――そうして、奈倉が口にした『公安委員会』の語に瞬く。
唇を結んで、その問いにじっと聞き入る)
「…………。やり方が、『間違っている』?
それはまた、どうしてかね。
ヨキに公安の顔見知りは、多くはないが何人か居る。
そのいずれもが、それこそ『真摯』な者たちであったよ。
だがヨキが知るのは、あくまで『個人』の話だ。
委員会全体となると……詳しく聞かねば、何とも言い難いな。
例えば、具体的に……。
どういう点が、君にとって『誤り』だと感じたね?」
白鷺奈倉 > 「………ちょっとばかり、ある人と話をして。
学生街の揉め事で怪我をした人と話をする機会があったんスけど。
監視が行き過ぎると居心地が悪くて堪ったものじゃない、と。
学生街での怪我は俺がしっかり、公安が監視しきれていれば存在しないと思っていて。
だからスイマセン、って言いに行った筈だったんスけど」
(言葉下手なりにつらつらと思考をそのまま口に出す。
公安委員会の事、そのうえ自分の思想の否定だったそれは上手く言葉にできなかった。
必死に頭を掻きながら、伺うような目を向ける)
「俺は『誤り』でもなんでもないと思ってたんスけど、『誤り』に感じる人がいる、らしくて。
……というか居て。それが果たして間違ってるのかが解らなくて、スね」
(困ったようにまた笑った。
それは何かを自分の中で誤魔化すような、それでいて慣れたもので)
「『個人』じゃなくて、公安委員会っていう『集団』のやっていることは。
間違ってない、スよね。特定生徒の監視。犯罪を未然に防ぐ。
俺にはちょっとわからなかった、ものッスから」
(下手くそな敬語が問い掛けた)
ヨキ > 「監視して……犯罪を防ぐ。
確かに、その行為自体は何も間違ったものではない。
もしそれ自体が誤りならば、コンビニの一軒一軒にまで監視カメラの付くようなことはなかったろうから」
(居住まいを正して座り直し、指先で顎を撫でる。
ふうむ、と低く零して)
「その者は……監視されることによって、『自由』が阻害される、と感じたのやも知れん」
(奈倉へ向く。今や冷たく光る金色の眼差しが、真っ直ぐに相手を見る)
「……そもそも『自由』とは何か。
それは法や監視、束縛、それ自体によって阻害されるものではない。
そうでなければ、この法治国家は全くの不自由、ということになってしまうからな。
そういう点で、『自由』とは……。
『個人が各々の持つ思想や信条に、全面的に従って行動すること』が可能な状態、のことだ。
つまりそれが不可能な時点で、犯罪者にとっては『不自由な社会』という訳だな。
……ヨキは君らがどれほど監視を強めようとも、自分の思想が阻まれうるとは思わん。
束縛の中においてこそ十全に働くのが、このヨキであるからな。
だが君のいうその者にとっては、違った。
その人物が犯罪者だとか、悪事を働くと言っているのではない。
一個人の、思想よりもさらに繊細で、曖昧な心の動き……。
――『性格』とか『性質』と呼ばれる部分によって、その者は『監視』を忌避したのではあるまいか」
(淀みない言葉。ひとたび目を伏せ、そうであるからして、と向き直る)
「――ヨキは公安のやり方が間違っている、とは思わん。
しかしてその『やり方』が、この島全体へ画一的に敷かれるならば――
ヨキはそれに反対する」
白鷺奈倉 > (その言葉を一字一句聞き漏らさんと、黙して聞いた。
彼の紡ぐ言葉を、選ぶ言葉を聞き漏らすことがないよう、真剣に、その目を見据えて)
「………、『自由』」
(時折相槌を打つようにして小さく言葉を拾った。
自分の中でその言葉について思案を巡らせるように、至極真剣に)
「……スイマセン、ええと。
『自由』、ってのが『個人が各々の持つ思想や信条に、全面的に従って行動すること』である、というのは。
それに関しては俺は正しいと思うし、それが正解だと思うッス。
けど、一つだけまだ疑問があって。
法に、校則に触れないことをするだけならば全ての生徒は、教師も『自由』であると思うんス。
───東側歓楽街地区の住人を除いて。
監視されていて困るようなことを『普通』の生徒はしない、スから。
『性格』に『性質』。…………、それなら俺が考えても如何にもならない、スね」
(困ったように笑った。眉を下げ、小さく肩を竦めて)
「公安が、お偉いさんがどうかは下っ端の俺にはわかんないッスけど。
俺自身は、白鷺奈倉自身は島全体へ画一的に敷くのは間違ってると思ってるス。
東側歓楽街地区。アレは触れなければ害はない、ッスからね。
アレには触れずに、学生が生活している場所の監視はもっと強くすべきだと思ってます。
最近、学生街での揉め事が異様に多い。
それも恐らく、監視がもっと進めば問題なくなる筈なんスよ。きっと。
それでいて、───学生街に異物が紛れ込んだら即座に取り除ける環境になればいいと。
俺は思うんスよね。スイマセン、なんか変なこと言っちゃって」
(ぱん、と自分の意識を切り替えるようにして小さく手を叩く。
また彼の方を見遣れば、ふにゃりとした緩い笑顔を向けた)
「センセに話してよかったッス。自分の中でも整理つきましたし。
ありがとうございます、ヨキセンセ」
ヨキ > 「学生街には学生街の、歓楽街には歓楽街の自由が、ある。
ヨキ自身、それぞれの区画へ特別に手を入れる必要は――ない。そう思っている。
学生街の揉め事においては、風紀委員がよく出動してくれていると聞いている。
だが、監視を強めたとて……果たして『異物』の進入を完全に防ぐことができるか?
答えは『否』だ。
それには公安より、風紀よりもさらに大きな――財団ほどの権力が動かねば、よほどの策にはならんだろう。
例えばこの演習場のように……結界を張る、とかな。
そうでなくば、『監視』がどうして上空や異界から現れる怪異を防げようか」
(絵空事だ、と言わんばかりに、軽く笑って)
「監視が強まれば……いたずらに反発を招くだけだ。
街にはこのヨキや君のように、監視されることの平気な者ばかりではないでな。
……次々に降って沸く騒動を、鎮め、元の状態に戻すこと。
それは風紀委員や、生活委員の仕事でもある。
一概に公安委員、だけで語れる領分ではあるまいよ」
(手を張る音。小さく笑う)
「……いや。ヨキでよければ、いくらでも。
さぞ答えの出ぬ問いであろうが……君の心が幾許か軽くなるのなら、それで」
白鷺奈倉 > 「それでも!」
(噛みつくように思わず声を上げた。
それに数秒置いて気付けばスイマセン、とまた頭を下げた。
紫水晶と青い髪がゆうらりと揺れる)
「…………、やらないよりはマシだ、って。思いたいん、スけど……はは。
学生一人がああだこうだ言っても出来ることではないッスもんね。
───、存外、無力なんスね。
常世島を守る砦だって、風紀も公安もその通り怪異に、超常には敵わない。
妨げ──……らんない、スよねえ」
(宙を仰いだ。
ンー、と低く唸ったのちに小さく目を擦った)
「監視を、当たり前に気付かれないように街に張り巡らせば。
反発はされない、スかね。見られているのに気付かなければ、──ハハ。
やり方は幾らでもある、ッスね。
──ッし。小さいことから頑張るッス、ね。ありがとうございました」
(たんっ、と勢いよく立ち上がればそのまま深く頭を下げた。
幾らかスッキリとした表情で、演習場の出口へと駆けだす少年の姿がひとつ)
ご案内:「演習施設」から白鷺奈倉さんが去りました。<補足:黒色のカーディガンに喪服じみた黒いネクタイ/左腕に公安委員会の腕章/腰まで伸ばした青い髪>
ヨキ > (声を張る少年の姿を、動じるでもなく見据える。
謝罪の言葉にも、いいや、と答えるに留めて)
「つまり君にとっては、撃退を――完遂するだけでは足りぬ、ということだな。
完全に街から怪異が姿を消さねば、真の平和はないと。
しかし、反論こそすれ、封じはせんのがこのヨキだ。
君の意見、確かに受け取った。
……そうさ、やりようはある。いくらでもな。
気付かれぬように張り巡らせば?だがそれを検知する異能を持つ人間が、監視を嫌うとしたら?
怪異と風紀がいたちごっこを繰り返すように……
環境を整えゆくというのもまた、切りのない話だ。
万人にとって平等に居心地のよい社会、というものは、未だ存在せん。
そうして君が考えを巡らす限り――付き合うよ。このヨキは、いくらでもな」
(立ち上がった奈倉の会釈に、微笑んで礼を返す。
走り出した背を見送って――しばし無言で、目を伏せる)
ご案内:「演習施設」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm、鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの長衣、ベルト付の白ロンググローブ、黒ハイヒールブーツ>