2015/10/04 - 22:20~02:23 のログ
ご案内:「破壊された祠」に石蒜さんが現れました。<補足:黒い巫女装束の少女。肌は褐色。【乱入歓迎】>
石蒜 > 「はぁ。」もう何度目かわからないため息。
かつて鳴羅門火手怖という神が祀られていた祠で、石蒜は座り込んでいた。
家にはあまり帰る気がしないし、かといって遊ぶ場所は知らない、気付けば足がここに向いていた。

鳴羅門火手怖、それはかつての主人のことでもある。
邪仙鳴鳴、その混沌は石蒜にそう名乗った。それは混沌の顕現たる存在の無数の貌の1つに過ぎないのだが。

石蒜は鳴鳴に甘え、悪行を重ねた。鳴鳴は全てを受け入れてくれたが、それは間違った道だった。
今はもう、鳴鳴は居ない。石蒜も罪を償うつもりだ、償いきれないかもしれないが。

石蒜 > 「……鳴鳴様。」ポツリと、名前を呼ぶ。
助けて欲しい、それが今の石蒜の本心だった。親友であり、仲間であり、恋人である畝傍は、今は会えない。
千代田と人格を交代して戻れなくなってしまったらしい。

どうすればいいのだろうか。どうすれば、畝傍にまた会えるのだろう。わからない。
「……はぁ。」また、ため息が出た。

石蒜 > 家に居ると、千代田を見るたびにため息が出そうになる。同じ体だが、彼女は畝傍ではないのだ。
それはあまりにも失礼なので、家にはあまり寄り付かなくなった。家に帰るときはサヤと交代した時だ。

ここには何も無い。鳴羅門火手怖と刻まれた石も、祠の中に収められていた神像も無い。
あるのは思い出だけ。畝傍も鳴鳴も、今は会えず、思い出の中だけだ。

このまま、二度と畝傍に会えなくなったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎる。

石蒜 > 「…畝傍、会いたいよ…。」もう畝傍が帰ってこなかったら、私はどうすればいいんだろう。
鳴鳴は消え、畝傍も会えない。前に畝傍が言っていた、自分は仲良くした相手を不幸にするのではないかと。
もしかしたら、それは私のほうなのかもしれない。私が愛した人は消える定めにあるのだろうか。

ご案内:「破壊された祠」に流布堂 乱子さんが現れました。<補足:バックレスの風紀制服、腰からポーチをブドウのようにぶら下げた少女。>
流布堂 乱子 > どこから入るのが正しいのか。
どこを歩けば正しいのか。

そんな道筋さえ定かで無い祠の裏手から、草を踏みしめて近づく音がした。
やがて祠の横にたどり着いた乱子は、目線の高さに合わせた懐中電灯で辺りを照らした。

「……どなたか、居らっしゃいますか。」
右に、左に、と明かりが振れる。
祠の辺りを確認し終えて、最後の最後、くるりと振り向いた乱子の目線が、
何もない祠のなかに代わりに収まっている少女を見つけ出す、だろうか。

石蒜 > 「……。」足音と光。誰かが近づいて来る。

通り過ぎて行ってくれればいい、今は誰とも会いたくない。
そう考えて、返事はしない。

だが、俯いたまま上目遣いにちらりと相手を見て、目が合ってしまっては無視を続けるわけにも行かなかった。
おまけに知り合いだ。

「何か、用ですか……。」孤独を邪魔され、恨めしげな声と目で、ここに来た理由を問う。

流布堂 乱子 > 恨みがましい目。非難がましい眼差し。
予想はついていたその仕草に、一度空を仰いで息を継いだ。
「この辺りで一人になろうとするのは、なかなか難しいと思います。
この辺りの住民も、お一人の方が多いですから。」
この異邦人街で、誰かが独りで居ようとするのを見つけられないものは少ない。
なぜならば、自分自身もかつては、あるいはいずれはそうすることを皆が知っているからだ。
「……女の子が、ふらふらと。誰も使ってないし今は何も残っていないはずの祠に向かって歩いていた、と。先ほどそう言われました。
たまたま通りがかっただけの風紀委員に押し付けて、その方は帰られましたけれど」

目線を落とす。再び視線が合う。
「……何も用がないなら、貴方も帰られたほうがよろしいと思います。
用があったところで、帰らせるようにも思いますけれど。」
言いながら、ただ祠の前に乱子は立っている。
車の下に潜り込んだ猫が出てくるのを待つような、相手の気に任せて、
その上で自分はここから退かないというような、そんな態度で。

石蒜 > 「……お節介なことですね。はぁ。」もう何度目か知れないため息。今日はとことん良くない日だ。

「家には…帰りたくないんです、少なくとも今は。」懐中電灯の光と、相手の目から逃れるように、下を向く。
「家に戻っても、居ないんです。私の……」言葉を探す。恋人であり、親友であり、仲間であり…そんな存在を現す言葉。
「私の、家族は。」

流布堂 乱子 > 「仕事のうち、ですから」
概ね割りと、自分は仕事中のような気もするけれど。
確か、この少女と初めて会った時もそうだった。
そうでない時に出会ったのは、もう一人の――
「それに、サヤさんのことも知らないわけではないですので。」
言いながら、懐中電灯をベルトに引っ掛けて。
祠の中ではなく、入り口を照らす位置に向きをセットした。
出てくればいいな、と思いながら。

「……家族、ですか」
舌の上で転がすように。その短い言葉を繰り返す。
「昔の話、ですけれど。
喧嘩して家を飛び出した覚えがあります。……常世島に来る前の話ですね」
つまり、龍になる前の話。魔法の無い世界の話。
「私の場合は、常世公園みたいな小さな公園の遊具に居ましたから。
すぐに警察の……風紀委員会のような仕事の人が来まして、
それはもう切々とお話されるものですから手を引かれて家に帰りました」
ほんの少しだけ目を閉じる。瞼の裏側で、早送りするように情景が流れていく。
「……家に着くなり、待っていた、と言われましたよ。
貴方の家は此処で、私は貴方の帰りを此処で待っていた、と」

再び開いた焦げ茶の眼差しは、特に抑揚もなく、照らされた祠の入り口を眺めている。
「……探しに来ないのか、とは思いましたけれどね。」

石蒜 > 「…コーヒー、美味しかったですね。サヤは駄目だったみたいですけど。」言われて、サヤと相手が会った時の記憶を思い出す。石蒜とサヤの味の好みは全く違う。石蒜としてはコーヒーを教えてくれて感謝したかったが、今は素直にお礼を言える気分ではなかった。

「私は…サヤもですけれど、血の繋がった人間なんか居ないんですよ。私は最近生まれた存在ですのでね……記憶は、サヤと共有してますが。」ポツリポツリと、身の上話を始める。その視線は照らされた祠の入り口の地面を見つめている。

「畝傍が、畝傍・クリスタ・ステンデル、彼女だけが私の家族なんです。でも、今は会えない。探しに来るはずもないんです、今畝傍の意識は眠ってるんです。別の人格が出てきていて、戻れなくなったみたいで。
家に帰っても、居るのは畝傍の体を入ってる別人なんです。それが余計に辛くて、でも……悪い人じゃないから、それを顔に出したら傷つけてしまうから……。今、サヤは眠ってるんです、起きたら交代して帰りますよ。それを待ってるんです。」家に帰っても畝傍はおらず、そしてその落胆を押し隠さなければならないのが、石蒜には辛かった。だから、今は帰れないのである。

流布堂 乱子 > 「石蒜さんは、お飲みになれるんですね。」
シーシュアン。初めて本人に向けた、その呼び慣れない名前のついでに。
ポーチの一つから缶コーヒーが抜き出された。
「昼に買った分ですから、保温ポーチでもそろそろ温かくはないかもしれませんけれど」

言いながら、ゆっくりと祠に向けて歩いて行く。
コーヒーを手渡すのに十分なほどに石蒜に近づくと、地面に片方の膝をついてしゃがんだ。
ぞんざいに伸ばした手が、ブラックコーヒーを手渡そうとしている。
「……サヤさんと、それから畝傍さんの別の人格の方。
お二人を安易に家族と呼ばなかったのには、石蒜さんなりの意味があるのだろうと私は思います。
畝傍さんを存じ上げませんから、あるいはとんでもない風評被害なのかもしれませんけれども」
言いながら、僅かに牙を剥くようにして口角を上げた。
毒龍が毒を吐いて何か不都合があるだろうか。

「ですけれど……同じ家に住んでいる相手を"家族"と認められないなら、居るのも辛いでしょうね。
石蒜さんも。サヤさんも。その別の人格の方も。……もしかすると、畝傍さんも。」
地面にこすりかけた懐中電灯を手に持つと、スイッチを切る。

祠の中に、ひっそりと夜が満ちていく。

石蒜 > 衣擦れの音と、金属の匂いに顔をあげる。「……サヤとは味の好みが違うんで、私は苦味が好きですが…サヤは、酸味、特に寿司が好きだったかな。」何秒か迷ってから、手を伸ばして缶を受け取った。「どうも。」まだ慣れない様子で蓋を開けて一口飲む。「ふぅ。」少しぬるいが、夜の冷気に冷えた体にはありがたかった。

「サヤは……何か、違くて…言葉が浮かばないんですけれど…魂が繋がっているというんでしょうか、いつも一緒の感覚があるんです。だから、『帰らなくても居る』んです、けど……。」サヤを嫌っているわけではない、そこは訂正する。でも、畝傍の別人格、千代田に対しては、言及しなかった。

「それは……。」言い返そうとして、言葉が出てこない。千代田は畝傍と記憶を共有しているようだ、だからきっと畝傍が帰ってきたらその間の千代田の記憶も分かるかもしれない。
「……私が、千代田さんに…畝傍の別人格に、どんな態度を取っていたか知ったら、畝傍は喜ばないでしょうね…。だからやっぱり、会いたくないんです。顔を見たら悲しんでしまう……我慢出来ないんです、取り繕っても多分わかるでしょう。私…嘘が下手だから…。」手持ち無沙汰のように、コーヒー缶を撫で回す。

懐中電灯が消えれば、小さな祠の中は暗闇に包まれる。そこから伸びた手と、草履を履いた足先だけが、月明かりに照らされる。

流布堂 乱子 > 「魚が好きでなく、酸味が好みとなると……何処と無く通ですね」
薄暗い祠の中、少しだけ冗談めいた口調で。
表情が見えづらくなった分、声音に現れる変化はより顕著だった。
「ただ、その場に居ないもう一人のことをすぐに説明するあたりも含めて、
その感覚は……まるで双子の姉妹のようかな、と思います。
あくまでも喩え話ですから、妹さんがお気になさることもありませんけれど」
言い終えた時に、微かに笑ったような吐息が残った。

その雰囲気のまま。
石蒜の必死に紡ぎだした言葉を、聞き届けてから、ほんの少しだけ沈黙に体をなじませてから。
「……別に。」
「別に、良いんじゃないですか。辛いなら、辛いと言ってしまっても。
その千代田さんに、貴方を好きになれないです、とはっきり言ってしまっても。」
まるで深刻ではない調子で、確かに乱子はそう言った。

石蒜 > 「……。」
暗闇に缶コーヒーを持った手が消える、続いて微かな飲む音がして、また手が月明かりに現れた。

確かに、千代田にそう伝えてしまえばいい、好きなだけ顔を見るたびに落胆出来れば、どれほど楽なことだろう。
さらさら、と暗闇の奥で長い髪が服をこする微かな音。
「それは、出来ません。」きっぱりとした否定の言葉。
「畝傍が、悲しみます。私が辛いと弱音を吐くことも、私が千代田さんを受け入れないことも、どれも自分のせいだと考えて、自責の念にかられることでしょう。そういう人なんです。」その声は、確信めいた調子がこもっていた。
千代田のことではなく、その奥で眠る畝傍だけを心配する、傲慢ともとれる考え方。

流布堂 乱子 > その言葉を聞きながら、膝に乗せていた顎を、ゆっくりと少女はもたげた。
「……そういう人でしたら、
貴方がはっきりと言葉にしないで済む代わりに、結局は自分のせいだと考えてしまうのでしょうね」
先に言ったとおりに。今のままではただただ辛い気持ちを持つだけで。

継母を受け容れられない灰かぶりのようなそのさまを、
階段の下のホコリまみれの倉庫にこもるようなその様を、
瞳に頼らずにどこか確かめようとしながら、乱子はもう少しだけ言葉を紡いだ。
「喜びは二倍に、悲しみはその半分に。友情も、結婚も、そう言うのだそうですけれど」
「"貴方が"向き合わないかぎりは、ただ悲しみを等分に持ちあって。喜びを等分に独占しているだけではないか、と思います」
いつまでも姉に頼りきってばかりでいないで、と。
闇の中からじっと見つめる気配がする。

石蒜 > 「私が……逃げていると?。」缶を指でくるくると回す。それは迷いと困惑をそのまま表しているようで。

「だったらどうすればいいんですか。私は、畝傍にだけは悲しんで欲しくないんです。他の誰よりも、畝傍にだけは、辛い思いをして欲しくない、ずっと幸せで居て欲しい。」回す指を止めて、缶を握りしめる。苛立ちに、缶が僅かにへこむ。

流布堂 乱子 > パチン、とスイッチが入れられた。
地に向けられた懐中電灯の明かりが祠の中を照らす。
「それは、勿論。」
眩しげに細めた目蓋の奥で、乱子は闇の中と変わらずに焦げ茶の瞳で石蒜を見つめている。

「辛い思いをしているから逃げていないとか、そのあたりの考えを持たれるのは勝手ですけれど。
もしも今晩、畝傍さんが何らかの理由で表出していたとしたら。会えない理由が何にあるかは明白だと思います。
そして畝傍さんが悲しまれることも、明らかにすぎるほど明らかかと。」

地面につけていた膝を払うと、立ち上がって祠から出て、まずは大きく伸びをした。
「悲しませたくないなら、悲しみの理由を二人で考えて対策する。
喜びを増やしたいなら、相手の喜びを自分のものとする。先の言葉はそういう意味だそうです。」
「ですから……結局は。
はっきりと言ってしまうしか無い、と。私はそう思います」
感情を表に出すことがそれほど得意でない少女が、
こうも口数が多くなった理由は、たった一つ。

「……そして、まずは此処を出て家に帰るところからはじめなければならないと、
そうも思うのですけれどね」

石蒜 > 「…ッ!」突然の明かりに、顔をそらし、腕で影を作る。ちゃぷん、と缶の中でコーヒーが揺れた。

「……。」口を開くが、言い返すための言葉が出てこない。
「……。」そのまま口を閉じる。
確かに、今この時間に家に居ないこと自体、千代田を避けていることを明確に示している、そしてそれを伝えようとしていないことも。

「…………。」ここで素直に礼を述べられるほど、石蒜は素直な性格ではなかった。
代わりに、缶コーヒーを飲み干してから、立ち上がりながら祠から出てくる。
そのまま、相手の横を通って、大通りのほうへ数歩歩く。
「サヤも……起きないみたいですし、帰ります。」振り返らずに、そう言った。

「コーヒー、ありがとうございました。」聞こえるか聞こえないかの、小さな声。

流布堂 乱子 > 「……今度は。女子寮で御馳走いたしましょう」
そう言ってから。
ついでとばかりに祠の中へもう一度懐中電灯を向けて、
適当な現状報告書でも上げようと調べ始めた。

きっと一人で帰り着いただろうと思える程度に時間をかけてから、
少女もまた、帰路につく。

ご案内:「破壊された祠」から石蒜さんが去りました。<補足:黒い巫女装束の少女。肌は褐色。【乱入歓迎】>