2015/10/06 - 22:29~04:56 のログ
ご案内:「地下闘技場」に『ラズル・ダズル』さんが現れました。<補足:200cm190kg超/甲殻あるいは拷問具めいた黒紫の全身鎧、ねじくれた山羊の二本角、細長く尖った尻尾、身の丈を越える黒刃の野太刀/目元のスリットから漏れる金色の焔>
『ラズル・ダズル』 > (乱痴気騒ぎである。
男が三人寄れば下卑るのだから、それが無数に集えば大変に喧しいのである。
人の輪の中心で偉そうにギャラリを煽っているのは、全身を板金鎧ですっぽりと覆った長身痩躯の怪人だ。
頭から足の先、うねる尻尾に至るまで、そのすべてが深い黒紫に輝く金属に覆われて、その素顔を窺い知ることは出来ない。
人びとの熱気に合わせ、目元のスリットからごうと漏れる金色の焔だけが、いやに生々しい活力に満ちていた。
今宵、この空間に突如として現れたその怪人は、ムチャなフットワークで連勝に連勝を重ねた。
身のこなしからして異能者、あるいは異邦人の類と察するのは容易く、今のところ新たな挑戦者も途切れている。
そういう訳で、今現在の闘技場はかの怪人オンステージ、デモンストレーションの場と化しているのである。
次アレやってアレ、という野次に合わせて、怪人は三下相手に次々と技を披露してみせる。
場が沸く。何しろ昔なつかしの漫画で見たあの技、である。
怪人は漫画からアニメからゲームまで、何でもよく知っていたし、知らぬ作品の飲み込みも早かった。
その重量に反して軽やかに身を翻した怪人が、左手で高らかなメロイックサインを掲げる。
ゲラゲラ。一同爆笑。その手に四本しか指がないことなど、今となっては誰も意に介さなかった。
この空間においてしんとしているのは、ただ怪人の鎧の内側のみである。
どれほど激しく動き回ったところで――怪人は、息遣いのひとつも漏らさなかった)
『ラズル・ダズル』 > (手にした禍々しい異形の野太刀を、ぶるんと振るって肩に担ぐ。
風を切る音はひどく重たかったが、見た目は丸めた新聞紙でも振り回しているかのように軽い。
怪人は『誰かいないの?』とでも言いたげに、可愛らしく小首を傾いでみせる。
爆笑苦笑冷笑失笑、ありとある類の笑い声。
お前行けよ、やいのやいの、という声に押されて、ひとりのチンピラが駆り出される。
まるで鎧の中で目を伏せて笑ったかのように、焔がひとたび途切れてまた燃え上がった。
ぐわっしゃん、と重く甲高い音を立てて、野太刀を地に突き立てる。
次の瞬間、風のようにチンピラの間合いに入った怪人の、長い腕が伸びる。
頭突きでも食らわすのではあるまいかというほど、両者の顔が近付く……
一瞬の間、)
(――怪人と向き合っていたチンピラが、突如として総毛立つ。
はいィ!という、彼の気の抜けて裏返った声。
次の瞬間――決して小さくはないチンピラの身体が、怪人に掬われるまますぽんと宙を一回転した)
『ラズル・ダズル』 > (結果的に、チンピラは遊ばれるままに目を回し、怪人が呆気なく一勝を重ねた。
みっともないだの情けないだの、場が再び沸き上がる。
投げられる間際に彼が上げた悲鳴は――哀れなるかな、彼が怪人に怖気づいて上げた声だったのだろう、ということになった。
誰も――
誰ひとりとして、かの気絶したチンピラが唯一『怪人と会話を交わした』ことに気付きはしない。
怪人が、左手で野太刀を拾い上げる。
空いた右手が、場の空気を掻き乱すように観衆を煽る)
『ラズル・ダズル』 > (金色の焔が、見栄を切るように周囲を見渡す。
そこではじめて怪人は、微かに漏れ聞こえるほどの息遣い――否、何かを啜る音、を漏らした)
「(…………。いかんな。
いくら楽しいとは言え、ヨダレはいかん)」
(新顔の怪人ラズル・ダズルの、誰も知らない『中の人』――ヨキは、破顔するあまり緩みきった唇を小さく舐めた。
異能で作られた鎧の中でてらてらと光る金色の目は、『遊び相手』を探すことに余念がない)
「(――は。仕留めるより手軽で、飲むより割安、か。
いい遊び場だな、ここは)」
ご案内:「地下闘技場」に王百足さんが現れました。<補足:だらしなく着崩した制服>
王百足 > 「へェい」
得物である大太刀を乱雑に引き摺りながら、一匹の百足が闘技場に現れた。
周囲に一切気を使っていないので大太刀をそこらじゅうにぶつけており、派手な騒音を響かせている。
「ちーッすちーッす、今日も今日とてハデに暴れてんなァお前ら」
適当にそこらの観客たちに声をかけながら、ズルズルと大太刀を引きずって歩いていく。
濃緑の瞳が黒紫の怪人をじいっと見つめ……ぐわん、と腕を揺らし、大太刀の切っ先を怪人へと向ける。
「……なンか面白そうな奴だなァ、お前」
毒々しい美しさを感じさせる、樋の無い厚く重い刀身、その刀身には異様なまでに傷が無い。
奇怪でありながら人を魅了する、毒蟲めいた大太刀を怪人へと向けた。
『ラズル・ダズル』 > (怪人が、長い腕を腰に当てて新たな乱入者を見遣る。
少年の声と向けられた切っ先に、ヒーローショーよろしくジェスチャのみでこくこくと頷く。
間もなく、左手に掴んだ野太刀の細く重い峰を、軽やかに返して肩に載せる。
右の半身を相手へ向け、腰を低く落とした。
――ひとたび水を打ったような観衆へ向けて、右の手のひらを宙へ向け、長い腕を水平にひらりと一回し。
その指先が人びとの声をいっぺんに引っ張り上げたように跳ね上げ、闘技場が再び賑やかになる――
“来い”。
無言の挑発。
右腕の、獣のように鋭利な指先が、少年を手招く)
王百足 > 「__へェ!」
怪人の鎧に覆われた鋭い指を見て、声を張り上げる。
片手で持っていた大太刀を両手に構え__スリットの奥、燃え上がる金色を見据えた。
「リョーカイリョーカイ__お前強そォだしな、久しぶりに旨そうな奴と斬り合えるッてわけだな」
観客達の下品な歓声など耳には入っていない。
意識を全て目の前の怪人に集中させ__心底愉しそうに笑う。
軽く息を吐き__鋭い突きを怪人目掛けて放つ。
「ふうッ!」
軽やかではないものの、得物が手足よりも馴染んでいるかのように鮮やかな突き。
まずは小手調べの一発、相手の出方を探るつもりだ。
『ラズル・ダズル』 > (地を踏み締める足に、跳ね飛ぶための力がぐ、と掛かる。
その太腿は、細身の体躯に在ってそこだけがいやに太い。まるで猟犬さながらに。
少年の息遣い。
今宵拳あるいは得物を交えたいかなる相手よりも鋭い、風を切る音。
黒紫の鎧の曲面が、安っぽい灯の光を照り返す。その残像を、長く引き伸ばすように――
いよいよ低い位置から、右足が地を蹴った)
「――――――、」
(疾駆。
その華奢な見た目に反して、怪人は搦め手を狙う真似はしなかった。
飛んでくる切っ先目掛けて、真っ直ぐに踏み込む)
(ぎいん、)
(弾けるような音がして、怪人の向かって右側――左頬のほんの表面が、大太刀の切っ先を弾く。
小手調べの一発とはいえ、怪人の顔が衝撃に揺れる)
(が、怪人は尚も踏み込む勢いを弱めはしなかった。
少年の突きが、小手調べの一発ならば――
怪人のこの『重量』もまた、手始めに切られたカードに他ならなかった)
(甲冑の奥の奥、目元の光がまあるく見開かれる)
(左腕の野太刀を、少年の右の横腹目掛けて、水平に一閃)
王百足 > 切っ先からの確かな感触、刃こそ逸らされたものの、衝撃はしっかり叩きつけた。
並みの人間なら脳を揺らされ気絶する一撃だが、怪人は倒れない。
突きの動作で生まれた隙に、怪人が真っ直ぐ踏み込む。
細くも貧弱さを感じさせない横腹に__黒い野太刀が叩きつけられる!
「__ぎィィッ!」
ギン、と金属音が鳴る。
野太刀を横腹の色は肌色ではない、灯りを鋭く跳ね返す鋼へと変質している。
変質したのは皮だけではない、筋肉から内臓まで鋼へと変質していた。
衝撃で体が少し痺れるが、皮膚にも内臓にもダメージは無い。
内臓まで変えたせいで吐き気が酷いが、歯を食い縛り、怪人を見据えた。
「____だらァッ!」
手足を鮮やかに動かし、一瞬で得物を持ち替える。
刀身の面を怪人へ向け__思いっきり叩きつけんとする。
入れば人間の骨程度粉砕する一撃、致命傷こそ与えないが、重傷への遠慮は無い。
『ラズル・ダズル』 > (ひときわ苛烈な音。
少年の横腹をしたたかに打ち付けた一撃は、しかしまともにこちらの腕へ跳ね返る。
踏み込む足の勢いが殺されて、後方へ一歩、辛うじて踏み留まった。
その手ごたえと、視界に入った色からして、自分の叩いたそこが並みの肉ではないことを察する。
鎧を仕込んでいたか、あるいは『そういう身体』をしているか。
怪人がそれを判じる暇はなく、少年の咆哮と共に、頭上から一撃が振る。
打ち下ろす動きに反して、こちらは下から掬うように切り上げる――
だがそれは、少年の刀を打ち返すためのものではない。
野太刀の重みを起点に、素早く後方へ身体を捻って少年の攻撃を躱す。
互いに重い攻撃を素早くやり合う闘いのこと、足先は刃先から紙一重のところで弧を描く。
着地した足裏が地を踏み締め、すかさず前進の動きに転じる。
少年が振り下ろした、大太刀の重み。
相手の身のこなしからして、隙と呼べるほどの間は生まれぬに違いない。
大股に踏み込み、少年の身体が刃に引かれるごく一瞬を狙った――袈裟斬りを放つ)
王百足 > 野太刀が地面に打ち付けられ、怪人の体が飛ぶ。
放った打撃は空を切り、濃緑の瞳が黒刃の野太刀を見る。
(乱暴に使ったッてのに折れてねェな、一体どんな鋼を使えばそうなるのやら)
刹那の間、こちらへと伸ばされる野太刀を冷静に見据える。
軽やかながら確かな重みを乗せた袈裟斬りが__胸へと伸びる。
「ふうゥッ!」
再度、金属音。
胸に巻いた包帯が切れ、鋼に変質した皮が刃を止める。
衝撃のままに後ろに跳び、軽く転がって受け身を取る。
身を屈め、鋭く怪人を睨む。
「ッふー……」
その手に得物は握られておらず__辺りにも大太刀は転がっていない。
忽然と消えた得物、得物を失っても尚、濃緑の瞳は闘志を失わない。
『ラズル・ダズル』 > (野太刀の一撃は少年の皮一枚さえ切れず、弾かれて跳ね返る。
衝撃で欠けたかに見えた刃は――しかし次の瞬間には、再びなめらかな刀身を取り戻す。
今度こそ、切り裂いた包帯の下の『鋼』を見た。
少年と真逆、後方へ跳躍。距離を取って着地し、片膝を突く。
相手はいつの間にか、得物を手放していた。手放した得物は――さて)
「――……。ほう」
(くぐもった、低い男の声。
それは確かに、怪人の甲冑の下から一言だけ発せられたものだ。
その短い吐息の中には、笑みの気配が交じっていた。
跳ね、身を翻して捻り、地の上に立つ。舞うような身のこなし。
こちらもまた、その左手から野太刀の姿が消えていた。
相手と同じ芸当が出来ることを見せ付けるよう、長い両腕をぱっと広げる。
間を置かずして、その両腕が拳を握る。
再び足を開いて立ち、拳闘の構え。
武器という道具を手放した四肢は、より獣性を強めてしなやかに和らぐ。
一度だけぐわん、と頭を振る動きは、どことなく眩暈を振り払うようにも見えた)
(先ほどは、少年からの一撃を待った。
今度はこちらから――跳躍。
宙で横に倒した身を捻り、右足を振り上げる。
踵が妙にゆっくりと弧を描いて、頂点へ向かい――
振り下ろす動きに転じた瞬間、加速する。
その身体が、少年と似て非なる鉄塊から成ることの証左だ。
鉄槌めいた回し蹴りが、少年の肩口目掛けて振り下ろされる)
王百足 > (____異能の刃か)
欠けた刃が修復され、野太刀が忽然と消える様を見てそう判断する。
あの刀からは魔性を欠片も感じなかった、ならば異能の技だろう。
なんにせよ、相手の異能の正体は分からない。
「はッ、フェアになったつもりかよ」
挑発するような物言いながらも、目は笑っていない。
こちらは斬撃を軽減する上に身軽になったのだ、隙が大きい野太刀では懐に潜られると間が悪くなる。
ならばあちらも武器を捨てて対応する、分かりやすい理論だ。
相手は体格も身体能力もこちらより高い、少し分が悪いか。
跳躍し捻られる体、力強く回され叩き込まんとする脚を見据え__息を吐く。
「__ふうッ!」
軽やかに上半身を反らし、鋭い蹴りを紙一重でかわす。
風圧に白髪を揺らし、両腕に体重を掛けながら脚を伸ばす。
後転のような動作から放たれる蹴りは、空振った相手の脚へと向けられている。
『ラズル・ダズル』 > (斬れぬならば、打撃を叩き込むのみと。
物言わぬ怪人ではあるが、そう判断したと察するのは容易いだろう。
野太刀よりも速く、野生のままに放った蹴りが虚空を裂く。
身体が宙にあっては、着地するまでに僅かなブランクが生まれる。
鋭い蹴りが互いにぶつかり合い、剣戟さながらの音を立てた。
翻した身体の勢いが、少年の脚に弾かれて逸れる。
バランスを崩した身体が、その細身の外見よりもずっと重たげに、ずしん、と土埃を上げて着地する。
両足と、右手を突いた格好。
一歩だけたたらを踏んで凌ぎ、ほとんど地を這うような姿勢から飛び掛かる。
長い左腕が、鞭のように撓って少年を狙う。
ほとんど捨て身の様相で間合いを詰めて、相手の顔面を殴らんと――
――するように見えて、真に狙うはその首元。
ただ獣の脚力に任せて飛び込む、ネックブリーカーの動き。
己の身体能力が先んじるか、少年の闘争心が跳ね除けるか)
王百足 > 脚に金属のような手応え、骨が丸々金属に置き換わってるのかとばかりに硬い。
魔術強化無しでも高い身体能力といい、怪人はヒトならざる者だろうか。
相手はこちらの目論み通りにバランスを崩し、地面へと落ちた。
伏せた姿勢から獣のように跳躍し、無理矢理距離を詰められる。
体勢を整えるでもなく、捨て身とばかりに突き出される拳。
相手の一撃は非常に重い、マトモに受ければ一発でアウトだ。
その上耐久力も高いのだろう、あの硬さだと殴っても反動が重そうだ。
物理的に崩せないのならば__こちらの魔性を叩きつける!
「らあァァッ!」
身を捻り、突き出される拳に腕を伸ばす。
そのまま掴みかかれたのなら、相手の腕を思いっきり引っ張り密着しようとする。
当然ただ捕まえるだけではない、抑えていた王百足の魔性__濃縮に濃縮を重ねた呪詛を解放し、至近距離で叩きつける!
『ラズル・ダズル』 > (人の形をしていながら、人語が通じないかのように錯覚させる獣性。
その俊敏さが、反射が、柔らかな手足のしなりが、怪人が元からヒトではなかったと伝えるだろう。
目元から長く尾を引く焔の軌跡が、いよいよあかあかと燃え立つ)
「……――シッッ!!」
(肺腑から、鋭い吐息。
飛び掛りざま腰を捻り、がむしゃらな速さで以て放った左腕が――
その手首を、掬い取られる。
視界がぐるりと回転し、距離を詰める勢いのまま、長身が丸ごと少年へ突っ込んでゆく。
慣性に引かれるまま飛び込んでゆく鉄塊の重量が、少年を押し潰さんとする。
その代わり――正面から叩き付けられる呪詛もまた、その衝撃を増した)
「!!」
(ごわしゃん、とひどい音がして、顔面に魔力を叩き込まれた怪人の首が、まともに後方へ曲がる。
人間ならば即死も即死、スナッフフィルムの有様である。
その甲冑は外れることさえなく、しかし怪人の身体を見る間に吹き飛ばした。
細長い身体が激しく回転し、二度三度と地を叩く。
交通事故も斯くやとばかりの音が、地下空間いっぱいに響き渡る――)
(――やがて、土埃と大音響の余韻が静まる頃。
怪人はぼろ雑巾の如く、地に臥していた。
闘技場が、たちまち観衆の野次と歓声でわっと埋まる。
人びとは少年へ群がり、次々と粗野な賛辞を投げ付けるだろう。
少年へ駆け寄ってくる男たちの向こうに、怪人の姿は埋もれて見えなくなった)
王百足 > 「ぐふッゥ……!」
ずん、と体に押し付けられる重み。
反射的に鋼へと変えた肋骨が軋み、へこんだ肺から空気が吐き出される。
__捕まえた。
呪詛を解放し、至近距離の相手へと叩きつける。
衝撃に怪人の首が曲がり__巨体が宙を舞う。
怪人の体は駅の構内を転がり、派手な粉塵が舞う。
騒音が止み、砂煙が晴れて、怪人は地に伏せていた。
「……あーッ! 邪魔だお前ら! 離れろ離れろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら近寄ってくるギャラリーを払いのけ、立ち上がる。
すたすたと倒れた怪人に近寄り、声を掛ける。
「……おーィ、生きてるゥ?」
車で思いっきり撥ね飛ばされたようなものだ、人間なら致命傷どころか死亡だろう。
ここでは殺しはご法度なので、死にそうなら治療しないと色々とヤバい。
さすがに観客も死人は出したくないのか、魔術師らしき男が後ろで治癒魔術の準備をしている。
『ラズル・ダズル』 > (――人波がさっと引いて、少年の前に再び怪人の姿。
四肢を大の字に投げ出して、うつ伏せに転がっている。
倒れたままの背中は、呼吸に肩を上下させている様子もなく――ぴくりとも動かない。
少年が、生きてるか、と声を投げた瞬間。
がらん、と妙に軽い音がして、怪人の肩を覆っていた金属が外れる。
腿が、頭が、腰が、脛が。その痩躯の外殻が次々と外れ、地を転がる。
がらん、がら。
がらがらがらん。――がらららん。
がらん……)
(花びらのような曲面を持つ鎧の板金が、すべて転がり終える。
その地面の上に、およそ人間らしい生きものが倒れている姿は、ない。
空っぽの、ばらばらに解けた甲冑だけが、方々に転がっている。
あの怪人は、すわ本物の怪異であったかと思わせたその瞬間――)
「――隙あり」
(若い男の、低い声。
言うが早いか、少年の後頭部に、ぽこん、と人差し指を弾いたでこぴんの軽い衝撃。
彼の背後には――今しがた崩れて姿を消したと思われた、怪人が甲冑そのままの姿で立っている。
誰しもが目の当たりにしたはずの、崩れ落ちた甲冑のパーツは――先ほどの野太刀と同じく、忽然と姿を消していた)
(……やがて誰かの、小さく噴き出す声。
それを皮切りに、誰しもがげらげらと笑い出した。
揶揄や、嘲りではなく。繰り広げられた娯楽に対する、称賛の歓声だ)
王百足 > 「うわッ……」
独りでに崩れ、からからと乾いた音を立てて外れる鎧。
剥き出しになった中身には__何もない。
リビングアーマーか? けれど叩いた感触は空っぽではなかった。
ならば何処に?
「__おわッ!?」
ぴこん、と後頭部に軽い衝撃。
思わず振り向くと、そこには甲冑を身につけた怪人が立っている。
後ろを見る__鎧のパーツは何処にも転がっていない。
誰かが小さく笑って、それが段々と大きくなって、歓声が闘技場に響き渡る。
笑い声につられ、王百足も笑い出す。
「ははッ、あははははッ、なんだよ、お前どんだけ頑丈なんだよ
ははははッ、はは、か゛はッ」
__突如、声に濁点が混じる。
口から血が漏れ、唇を汚す、魔術師らしき男が大丈夫かと近寄った。
「う゛ェッ、ちょっとやり過ぎたなコレ……」
おそらく先程の呪詛の解放に身体が耐えきれなかったのだろう、ダメージが重なってたのもあって内臓を痛めたようだ。
「あ゛……オレの負けだな、強いなお前……
とりあえず死にはしねーから大丈夫だ観客共、敗者なんぞほっといて栄えある勝者を胴上げしとけ」
力なく笑い、そう告げると人混みをかき分けていく。
観客も大丈夫だと判断したのだろう、立ち去る姿を引き留めるものはいない。
「じャーな、次会ったときはまたやり合おうや」
振り向き、そう怪人に告げて王百足は去っていった。
ご案内:「地下闘技場」から王百足さんが去りました。<補足:だらしなく着崩した制服、剥き出しの腹や腕にに内出血跡アリ>
『ラズル・ダズル』 > (怪人の立ち姿は、試合の前とは打って変わって、どことなく弛緩していた。
首を押さえながら、少年を見下ろしている。
表情こそ察することは出来ないが、鎧の奥からか細い呼吸の音が僅かに響いてくる)
「少ッ……しばかり、痛かったぞ……さっきのはァ」
(怪人が、人間の男の声でまともに喋った。
取り囲む者たちも、こいつ喋れたのかよ、という表情に充ちていた。
吹き零れる金色の焔に交じって、鎧の内側から鉄錆の匂いが漏れる)
「試合は――君の勝ちだ。だが勝負には、こちらとて……負けはせん」
(試合の前の、観衆を煽り立てる飄々とした所作に反して、その言葉遣いはいやに硬い。
少年の吐血を黙って見つめ、力ない賛辞に、は、と短く笑う)
「この重たい身が、胴上げなど……出来るものか。
それに……今揺さぶられては、本当に首がもげてしまいかねん。
……ふ。いつでも相手になろうではないか」
(踵を返す少年を、佇んで見送る。
宴もたけなわとばかりに、怪人がひらりと右手を掲げる。
去りゆく人びとの合間に紛れて――
怪人は落第街から姿を消した)
ご案内:「地下闘技場」から『ラズル・ダズル』さんが去りました。<補足:200cm190kg超/甲殻あるいは拷問具めいた黒紫の全身鎧、ねじくれた山羊の二本角、細長く尖った尻尾、身の丈を越える黒刃の野太刀/目元のスリットから漏れる金色の焔>