2015/10/15 - 22:23~02:11 のログ
ご案内:「教室」に茨森 譲莉さんが現れました。<補足:ぼさぼさとした髪の毛に、目が悪いので悪い目付き、服装はブラウスとカーディガンの組み合わせ。>
茨森 譲莉 > 「よろしく。」

そんな言葉にとっさに反応して「はい」と受け取ったアタシは、
受け取ったものを見て思わず「うげ」と情けない声を漏らした。

常世学園、非日常が蔓延るこの学園に来てから数週間が過ぎた。
『学園祭が終わるまでの間』という予定の交換留学は既に半分、いや、2/3は経過し、
アタシの非日常はゆるやかに日常へとシフトしていっていた。

以前のように、異邦人の外見に一々驚く事は……。

「うぉぅ!!……あ、ノートね、ごめんなさい。変な声だして。」

相変わらず、異邦人の風貌には慣れない。

「別にいいのよ」とにこやかに笑って去って行く角の生えた獣人を見送りながら、
アタシはその異邦人が寄ってくる原因になった、アタシの胸に抱えられたものを見下ろした。
ずしりとアタシの腕を地面に押し付けようとするそれは、次の授業で使うノートだ。
アタシにこのノートを預けた先生は、とっくの昔に教室を後にしている。
今頃、職員室でコーヒーでも啜っているだろう。どうにも眠そうだったし。

学園祭の準備は生徒は勿論、先生にもなかなかの重労働なのだろう。お疲れ様です。

茨森 譲莉 > そんな件の眠そうな先生はおそらく次の授業の先生から託され、さらにそれをアタシに託した。
今回の授業で使うから授業前に配っておけというのが、先の「よろしく。」という言葉の意味である。

休み時間という事もあり、教室内に居る生徒は思い思いに談笑に励んでいる。
ここでいきなりアタシが「カモノハシさーん」とノートに書かれた名前を読み上げ、
それにハイハイと返事して来てくれると非常に助かるのだが、アタシにはそんな度胸は無い。
……ともすれば、教室内を見渡して名前の人物を探して、それはもう伝書鳩のようにパタパタと走り回って、
「カモノハシさん、ノートです。」と手渡して回るのが無難なのだが―――。

先に言った通り、アタシはこの学園に来てから数週間。非常に微妙な時期だ。
つまり、クラスメイトの名前を憶えてないわけではないけど、ぶっちゃけ物凄く怪しい。
アタシの名誉の為に言っておくと、別に覚えていないわけではない。断じてない。

ないが、もし間違えてしまえば、
『アイツ来てからもう何週間だっけ?まだクラスメイトの名前も憶えてねぇのかよ。
 うわーないわー、私アンタの名前言えるよ?茨森さんでしょ?
 でもそっちは覚えてない、へーーーーッ!!』

―――的な視線を向けられる事になる。

いや、実際にはそんな事言われないし、やんわり笑って
『違うよ茨森さん。カモノハシさんはあっちの子。』なんて言ってくれちゃったりするが、
アタシはそんな事を言われたら、曲がり捻り狂った卑屈な根性でもって先の解釈をしてしまうわけだ。
つまり、私は名前覚えてるのにアンタは覚えてないのアピール。

あえてアタシの名前を呼ぶあたりにアタシは悪意を感じる。

茨森 譲莉 > 「………。」

上から順に、ノートに書かれた名前を確認する。
この人は確実にあの人だ、この人は多分あの人、この人は……あの人かな。
やっぱり不安だ。さっきみたいに自分から取りに来てくれないだろうか。

それか、アタシの抱えたノートを見て手伝ってあげるよ
なーんて言ってくれる心優しい人が現れてくれると助かる。

……むしろ、私が配っておいてあげるよ、言ってくれる人を希望したい。

茨森 譲莉 > そんな現実逃避をしていても仕方無い。とりあえず、さっさと配ろう。
ようは、間違えなければいいのだ、ここ数か月で覚えた名前と顔。
プライバシー保護の為、顔は画像加工がされてます。
とでも書かれてそうなぼんやりとした記憶を頼りに、ノートの持ち主の元に歩いて行く。

まずは、クラスでも特別目立っていて、名前と顔がしっかり思い出せる人から。

「あの、ノート。」

相手に名前が見えるように、ノートを差し出す。
名前を確認すると「わり、ありがと。」と短くお礼を言って受け取った。

ふぅ、どうやら最初の一人から失敗、なんて事はなかったらしい。
段々難易度が上がって行くタイプのクイズ番組を思い出しながら、順番にノートを手渡して行く。

手渡すたびに、今まであった事を思い返して、
改めて「残り少しなんだな。」と寂しい気分になったのは内緒だ。

茨森 譲莉 > ノートの山は難易度順に減って行き、ついに残り2冊。
―――つまり、最後まで顔と名前が一致しなかった2冊だ。

ぶっちゃけ分からないノートもあったが、喋る為に固まってるグループの内一人に渡して、
「後の人も勝手に取ってー。」と声をかけて回避した。セウトだ。
仲良しグループの人だと「あれ、どっちがどっちだっけ?」なんてなる事はよくあると思う。

まだ配っていない生徒は当然2人、
男子と女子ならまだ良かったのによりにもよって、どちらも同じ性別だ。

うち一人は、クラス内では比較的目立つポジションに居て、
当然、アタシもこの人を呼ぶ事が無いわけじゃない。

ただ、呼ぶときはあだ名だ。

クラスに一人二人は居るだろう、常にあだ名で呼ばれている二人なのだ。
………だから、アタシには本名は分からない。
あだ名が名前に関わりがあるようなモノなら予想もつけれたのに、
どうやら一切合財関係ないモノらしく、名前と睨めっこしてもピコーンと電球が灯る事は無い。

もう一人は、そもそも名前すら知らない。
確率は半々。もう勘で渡して、間違ったら素直に謝ろうかと二冊のノートを見る。

折角ここまでノーミスだったのに、ここで間違えるのは何だか癪だ。

ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (数枚のプリントを手に、休み時間の廊下を行く。
 時おりすれ違う生徒と挨拶を交わし、やり取りをし、暢気にのんびりと。
 辿り着いた教室のひとつをひょいと覗き込む。
 顔を知って手を振る生徒もあれば、取り立てて反応を示さない者もある。
 ぐるりと教室を見渡したのち、どうやら目的らしい相手を見つけて、軽く手を挙げる)

「――“   ”君。先日言っていた、学園祭の出店の――」

(果たして譲莉が、その名を聞き取れたかどうかは判らない。
 はあい、と返事をして立ち上がったのは――譲莉が『そもそも名前すら知らない』方だった。
 顔見知りのフランクさで、会話を交わす。
 ヨキはと言えば、立ち尽くして苦悩する譲莉の姿にはまだ気付いていなかった)

茨森 譲莉 > 廊下のほうから、自分の苦境を打開するような会話が聞こえた。
その落ち着いた低い声は、自分の見知った素敵な先生のモノだ。
本当、アタシのピンチにはいつも助けてくれる。いや、たまたまだろうけど。
……たまたまでも、なんだか運命を感じてしまうのが乙女心というものだと思う。

「はい、ノート。」

小さくお礼を言って、その名も知らぬ生徒はノートを手に取る。
これで後は、もう一人にノートを手渡して終わりだ。……無駄に疲れた。
アタシはこれ見よがしにあだ名で声をかけて、はい、ノート、と手渡す。
皆からあだ名で呼ばれてるならもうノートとかに書く名前もそれにしとけばいいのに。
そしたら、アタシがここまで苦労する事も無かった。

「あ、ありがとー。ところで、なんで私が最後だったわけ?
 もしかして、名前が分からなかったーとか。私、いっつもあだ名で呼ばれてるしー。
 先生もあだ名で呼ぶとか、もう少し公私わけろって感じだよねぇ。」

最後に渡したらそんな疑いが立つのを失念していたアタシは、
気まずげに髪の毛をくるくると指先で弄んだ。………くそが。

「………た、たまたま、ノートが一番下だったってだけよ。」

「ふーん、そっか。じゃ、今度は最初に渡してね、茨森さん。」

アタシは、渡す前に名前を確認しなかった事を後悔しながら、
その見知った先生、ヨキ先生のほうに歩いて行く。

次に配る事になる前に、アイツの本名を探っておかないと。
……なんで電話帳まであだ名にするんだ。
もしかして、本名を知られると困るような事があるんだろうか。

「ヨキ先生、助かりました。ありがとうございます。」

……いや、いきなりこんな事言われても意味不明だろ。

ヨキ > (プリントを渡し、用事を済ませる。
 会話を終えた生徒が引き返し、ノートを受け取ったところで、ようやく譲莉の姿に気がついた。
 遠目には、クラスメイトと談笑を交わしているようにしか見えない。
 譲莉の心中で一波乱あったことを知る由もなく、やあ、と笑って挨拶する)

「こんにちは、茨森君。……助かった?」

(何のことだろう、と笑って首を傾ぐ。
 通り道を塞がぬよう、教室のすぐ外、出入口の傍らの壁に身を寄せる。
 教室の賑わいを覗き込んで一瞥しながら、相手へ笑い掛けた)

「この学園にも慣れたかね?クラスメイトと話をしていたようだったから」

茨森 譲莉 > 「こんにちは。……ああいえ、こっちの話です。」

教室を出入りする生徒の邪魔になっていることに気がついて、
ヨキ先生に倣って、出入り口の傍らに身を寄せる。

「そうですね、慣れ……。」

そこまで言ってから、先の出来事を思い出して苦笑いする。
あんな事があった後では、自信を持って「慣れました」なんて口が裂けても言えない。

「多少は、慣れました。」

「……学園祭の準備は順調ですか?」

ヨキ > (こっちの話、と答えが返ってくると、納得してそれ以上は訊かなかった。
 譲莉と隣り合って話を交わす前を、幾人もの生徒が通り過ぎてゆく)

「そうだな……外の学校からここへやって来て、数週間で十全に慣れる、という訳にも行くまい。
 君にはきっと、何もかもが別世界であるだろうから」

(窓から差し込む秋の日に中てられたように、ゆったりと目を細める。
 学園祭の準備について尋ねられると、ああ、と頷いて)

「お陰様で。教えている生徒たちも、よくやってくれているよ。
 毎年毎年、どんどん良くなってゆく。楽しいものだ」

(生徒たちの可愛くて仕方ないことが滲むような、朗らかな顔)

「常世祭は、島中が賑わう大イベントだからな。君にもぜひ楽しんでいってほしいんだ。
 …………。それにしても、祭は来月の頭まで続くとして……
 茨森君の交換留学は、いつまでだったろうかな?
 うっかりしていたよ。ずっとここに居てくれるような気ばかりしてしまう」

茨森 譲莉 > 「正直、アタシもずっとここに居たいくらいなんですけどね。」

交換留学は学園祭が終わるまでの間、だ。
……予定通りなら、あと3週間程。だろうか。
急に冷え込んだ最近にしては珍しくぽかぽかと差し込む日差しの中、
先の緊張で冷えた手をぎゅっと握りしめる。

「……学園祭が終わるまでの間なので、あと3週間くらいでしょうか。」

上手に笑えてるかは分からないが、にっこりと笑って軽くそう返す。
毎日変わった事が起こる、全てが別世界のような学校。
素敵な先生と、その先生が心の底から可愛がっている生徒達。

残り僅か、と考えれば当然のように寂しい。
来るときには早く帰りたいと思っていたのに、現金なものだ。

「最後の思い出と思って、学園祭は全力で楽しませて貰いますよ。」

ヨキ > 「学園祭が終わるまで……ああ、想像していたよりもずっと早いな。
 そうか、あと三週間……」

(笑いながらに、眉を下げるのを隠しもしなかった。
 どことなくしょんぼりとして、じっと譲莉を見る)

「寂しいなあ。
 通りすがりにこうして声を交わすことも出来なくなってしまうのか」

(けれど続く譲莉の言葉に、ふっと気を取り直す。
 まるでこちらが慰められたかのように、うむ、と小さく頷く)

「……そうしてくれ。
 『常世学園の生徒』としての思い出は最後やも知れんが――
 終わった後も、この島のことは忘れずにいて欲しいんだ。
 観光地……のように、自由にやって来られるような土地ではないが。
 ……ああ、ヨキが本土の君へ、会いに行けば済む話か」

(そこまで言って、頭を掻いて笑う)

「いやだな。
 毎年何人も送り出しているというのに、生徒と離れるのはいつまでも慣れなくて」

茨森 譲莉 > 笑顔でも、その下がった眉から寂しがっているのが分かる。
そういう顔をするのは、せめて船着き場から船が出て行く時にして欲しい。
寂しいとかそんな事、言わないで貰いたい。………出て行くのが、もっと嫌になるじゃないか。

アタシが常世学園に行くと決まった時も特に何も言わなかったクラスメイトや、
行ってらっしゃいとだけ言った先生を思い出しながら、アタシは握っていた手をより一層強く握る。

「ヨキ先生が会いに―――。」

それは嬉しい、嬉しいけど。

「そんな事したら、ヨキ先生、皆に化け物ーって言われて逃げられちゃいますよ?
 最初に会った時言いましたけど、アタシの住んでる所だと、
 異邦人は人を食べるとか、そんな事を言われてるんですから。」

出会った時の事は、つい数日前の事のように思い出せる。思えば、随分と失礼な事を言ったものだ。

「勿論、忘れませんよ。
 ここであった事は、ずっと大事に覚えています。

 って、もういなくなるみたいですね。
 まだ三週間もありますから、その間にまだまだ思い出が作れるのに。」

なんかもうすぐにわかれるみたいな空気を作るから流されてしまったが、
あと3週間もあって、学園祭なんていうおっきいイベントもあるのだ。

「ヨキ先生、良かったらなんですけど。………学園祭、案内してくれませんか?
 結構長い期間なんですよね。ヨキ先生の授業の展示だけでも、一日だけでもいいので。

 ―――出来たら、お願いします。」

「一緒に回りませんか?」なんて恥ずかしくて言えないアタシはせこい言葉を選んで、頭を下げる。

ヨキ > (声として表された『三週間』がもうカウントダウンでも始めているかのような顔。
 譲莉の言葉に、ならば、と考えて笑顔を作る)

「化物と呼ばれることには、もう慣れてる。
 ここでも初めには、随分とそう言われて……いや、君にする話ではないな。
 ほら、こうしてみてはどうだね?この耳を隠せば、ヨキとて『普通の』人間と変わらんであろう?」

(垂れた耳を、髪の毛の陰へ手のひらで持ち上げ、覆い隠してみせる。
 それでもその牙だらけの大きな口、四本指の大きな手、瞬きのしかた、笑うときの筋肉の動き――
 何もかもが人間とは大きく、あるいは『どことなく』違った。
 慣れない人間に不自然さを催させるには、十分なほどの)

「………………。無理かな」

(手を離す。ぱたりと音がして、再び薄い耳介が垂れ下がる。
 参ったな、とだけ一言。困ったように笑う)

「いや……具体的な日付を聞くと、どうもそればかりに気を取られてしまうな。
 本当にいちばん寂しいのは、君であるだろうに。失敬した」

(案内を、という譲莉の言葉に、ぱっと表情を明るませる)

「ああ……ヨキで良ければ、それは勿論、喜んで。
 友人らとも、沢山見て回るといい。ヨキがその中のひとりになれるなら、嬉しいことだ。

 ――ヨキと一緒に、見て回ってくれ」

(微笑む。譲莉が言いあぐねた言い回しを、ごく軽い語調で口にした)

茨森 譲莉 > 「たとえ大丈夫でも、そうやってずっと押さえてたらアタシと手が繋げないじゃないですか。」

そんな冗談を言いながら、ヨキ先生の子供のような理屈と子供のような仕草に思わず笑ってしまう。
四本指の大きな手も、牙だらけの口も、全然隠せてない。騙せるとしたら赤ずきんちゃんくらいだ。

そもそもヨキ先生は普通の男の人としても十分目立つ。背とか高いし、変わった服装だし。
変わった服装でもお洒落に見えるのが、この獣人の先生の不思議な所だ。
ファッションブランドでも立ち上げてみたら案外流行るんじゃないだろうか。

「ヨキ先生の顔を見てたらつられてちょっと寂しくなっただけです。
 アタシは別に寂しいなんて、思ってないんですからね。」

寂しがってる所を見せたらヨキ先生が益々寂しがると思って必死に言い訳してみたけど、
なんか妙な言い回しになってしまった。こういうのってなんて言うんだっけ、そうだ、ツンデレだ。
そうして恐らく「はにかんだ笑み」とか称されるような表情を浮かべていたアタシに、
ヨキ先生の「喜んで」という返答と、「ヨキと一緒に、見て回ってくれ」という言葉が向けられる。

「………ありがとう、ございます。」

きっと、耳まで真っ赤だ、間違いない。
態々人がせこい言い方をしたのに、そんな風に軽く口にされると、
アタシだけが変に意識してるみたいじゃないか。……まったく、ずるい。
物理的にも社会的にも届く位置にあったら耳の一つでも引っ張ってやったのに。

「それなら、ヨキ先生の都合のいい日があればその日に、
 特に無ければ、アタシのほうから連絡入れますね。」

髪の毛を弄るアタシの口からは苦し紛れにボソボソとした声が漏れた。

ヨキ > 「あ。
 …………、君と手を繋げないのは重大だな……」

(手を繋げない、と聞いて、本気で思い至らなかった顔をする。
 大の男の顔をしているくせ、出てくるのは『帽子でも被るか』などと、子どものような発想ばかりだった。
 いわゆるツンデレめいた言葉回しに、大げさにえぇ、と声を上げる。
 どうやら言葉尻を、全くそのままの通りに受け取ってしまう性質らしい)

「何だ、寂しくなっているのはヨキだけか?
 女性は強いな……」

(半ば感心したように頬を掻く仕草までして、柔らかく笑う。
 譲莉の言い訳と、学園祭を共に見て回ることの誘いに、すっかり機嫌を直した様子だった。
 顔を真っ赤にするのは、単に喜びから来るものと思っているらしい)

「そうだな、ヨキの方でも予定を確認して……君にメールでも送ろうか。
 それならば、メールアドレスでも交換するかね?話が早かろう」

(言うが早いか、懐からシャンパンゴールドのスマートフォンを取り出してみせる。
 手馴れた手つきは、非日常的な装いのくせ随分と俗っぽい)

茨森 譲莉 > 「あの、冗談ですから。」

そこでさらっと「君と手を繋げないのは重大だな」なんて言ってしまえるのがなんとも憎い。
常に落ち着いた雰囲気で、大人らしい魅力の塊のような先生なのに、
そういう所では妙になんていうか、チャラい。………天然ジゴロというやつだろうか。
狙ってそんな事を言っているなら大したものだと思う。

「いえ、アタシも。寂しいです。
 ……帰りたくないって、どうしても思ってしまうので。」

そこまで素直に感心されるとむしろ罪悪感で嘘がつけない。
正直者の前では正直ならざるを得ないという事か。
益々熱くなってお好み焼きの鉄板のようになった頬を冷えた両手で押さえて冷ます。
好きな人への気持ちで焼けるからお好み焼き、なんちゃって。

照れを追い出す為に、脳内で変な事を考えてしまった。

「ありがとうございます。それじゃあ、お願いします。」

手慣れた手つきで携帯を取り出すヨキ先生とは対照的に、
緊張でわたわたとスマートフォンを取り出す。
ヨキ先生はなんとなく新しいモノを使っているイメージがあるが、
実際にどんな機能が備え付けられているか分からない。

とりあえずアナログな方法なら確実に大丈夫だろうと、
自分のアドレスの書かれた画面を出すと、ヨキ先生に差し出した。

ヨキ > (『冗談』と聞いて、また落ち込みそうになるのを寸でのところで堪えたのが判る。
 チャラい。軽々しい。ジゴロ。……あるいは犬。人間の言葉に、ひどく容易く一喜一憂する。

 譲莉の口から正直なところが吐露されると、ふっと笑って)

「では……こうして連絡先を交換しておけば、安心だな。
 学園祭を一緒に回る約束も取り付けられるし……

 君が本土へ帰ったあとでも、いつでもやり取りが出来る。
 思い出したときどきに、連絡をくれたら嬉しい。そうでなくとも……
 ヨキの名を見て、ああこんな獣人も居たな、などと思い出してくれるならば、それで」

(受け取った画面の表示を見ながら、片手ですらすらとタッチスクリーンを操作してゆく。
 相手へスマートフォンを返すと、間もなくメールが入るはずだ。

 『よろしく』という、短い件名。
 本文には一言、ヨキのスマートフォンの電話番号だけが書かれている)

「うむ。よろしく」

(にっこりと笑って、目を細めた)

茨森 譲莉 > 「あ、そうですね。」

その考えに至っていなかったアタシは、ぶるっと震えて着信をアタシに知らせ、
『よろしく』という件名からはじまるメールを表示しているスマートフォンを見て、
帰ってからも連絡が取りあえるという事実に僅かに頬が緩むのを感じた。

ヨキ先生に倣って、そのメールに返信する形で「宜しくお願いします。」という件名と、
自分の電話番号、加えて、茨森譲莉という名前を入力してメールを送信する。

読み方が随分特殊なせいで、相手に「どう書くの?」と聞かれる事が多いアタシは、
連絡先を交換する時は前もって名前を書き込んでおくのが癖になっている。

「さすがに、ヨキ先生の事は忘れませんよ。
 特徴的な見た目ですしね。一度見たら忘れません。
 予定のメール待ってます、あと、本土に帰っても必ず連絡します。」

スマートフォンを操作して送信先のアドレスと書かれた電話番号を入力して、
名前の所に「ヨキ先生」と入れて登録する。
当然別れるのは寂しいが、ヨキ先生とそして、
この常世学園と縁が完全に切れるわけじゃない、と考えれば、多少はその寂しさも紛れる。

……つくづく、アタシは現金なヤツだと思う。

「それでは、アタシは次の授業を受けないといけないので。そろそろ失礼しますね。」

行間の休み時間はそろそろ全て消費されきって、次の授業が始まる時間だ。
アタシは背にした教室から椅子を引く音が響きはじめるのを聞きながら、
取り出した時とは対照的に大事にケータイをしまう。
乱暴にしまっても別に壊れやしないだろうけど。

ヨキ > (自分のスマートフォンが受信したメールに目を落とし、はにかんで微笑む。
 『しのもり・ゆずり』という名を、繰り返し視線だけで読む。
 アドレス帳に打ち込んで保存を済ませ、譲莉に向き直る)

「ありがとう。
 ふふ……君の毎日には、他に魅力的な出会いも多かろうから。
 記憶の隅に埋もれぬ見た目をしているだけ、ヨキは得だ。
 それでは、近いうちに連絡させてもらうよ。学園祭……楽しみが増えたな」

(スマートフォンを懐に仕舞い込む。
 やがて学内が次の授業へ至る空気に切り替わると、さて、と頷いて)

「ああ、お疲れ様。授業、頑張りたまえよ。
 それではヨキも、次の講義の準備をせねばな」

(笑い掛けて、手を上げる。踵を返して、また廊下を歩き出す。
 教室へ向かう生徒と、擦れ違いざま朗らかな挨拶を交わして――曲がり角の向こうに、姿が見えなくなる)

ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
茨森 譲莉 > ヨキ先生を見送ると、アタシはふぅと息を漏らす。
そしてついさっき仕舞い込んだスマートフォンを取り出すと、
ヨキ先生のアドレスを開いて、その名前を視線で撫でた。

「異邦人の素敵な先生が居たんだ。」なんて言っても、
アタシの学校、いや、アタシの元居た学校のクラスメイトは信じないだろうか。
いつか、ヨキ先生が、いや、ヨキ先生のような異邦人が、
気兼ねなく遊びにこれるような場所になったらいいな、と思う。

アタシは窓の外に広がる青い空を見て、窓から差し込む暖かい日差しに目を細めてから、
間もなくやってくる先生に「静かにしろー。」と言われて間もなく静かになるであろう
ギャーギャーと喧しい授業直前の教室に戻って行った。

窓に映ったアタシの顔は、小さく笑っていた。

………席についた直後に目の前の席の、あだ名しか知らないクラスメイトにからかわれて、
得意の鉄板顔を披露する事になったのは、あの素敵な先生には内緒だ。

ご案内:「教室」から茨森 譲莉さんが去りました。<補足:ぼさぼさとした髪の毛に、目が悪いので悪い目付き、服装はブラウスとカーディガンの組み合わせ。>