2015/10/31 - 21:59~05:33 のログ
ご案内:「商店街」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > 「ええい、打ち止め……!打ち止めと言っておろうが!」
(長い商店街の中ほどに設けられた、小さな公園。
そのベンチのひとつに腰掛けたヨキと、彼の足元に群がる子どもたち。
朝っぱらから威勢のよい『トリックオアトリート』だの『ハッピーハロウィン』といった声に叩き起こされ、
その都度菓子を手渡して至った夕刻である。
大人のハロウィンはこれからだが、子どものハロウィンはそろそろ仕舞いといった頃合。
用意した菓子が底を突いたために、これにてお開きと声を上げたのだ。
――だったが、一日遊んで未だパワーのあり余る子どもたちは、せんせー遊んで遊んでと一向に離れようとしない。
年の頃は、幼稚園児から小学生ほど。みなヨキが工作や絵を教えている顔触れだった)
「判った、トリートしていい。悪戯していいからそろそろ許せ。ヨキのごはんが買えなくなってしまう」
(そういう訳で、ひときわ背の高いヨキに子どもたちが鈴なりに群がっているのである。
腕に首に肩に背中に、抱きついてはけたけたと笑い声を上げている)
「これッ……!誰だ!この、顔のところ!異能を使うでない!
一人しがみつくのが強い奴がおるぞ!」
(抱きついた男児の腹に顔を埋められて、モゴモゴと悲鳴を上げる)
ヨキ > 「ぶはッ……!いくらヨキでも苦しいのはなし……ってほれ!悪童ども!眼鏡を盗ったのはどいつだッ」
(揉みくちゃのどさくさ紛れに今度は眼鏡を盗られた。
残念ながら手元の視力矯正のために掛けているものであるからして、誰に奪われたかは一目瞭然なのであった。
ヨキの後ろを爆笑しながら走り回る、小学校低学年ほどの男児をたちまちとっ捕まえて小脇に抱える)
「ほれ!先生は仕舞いであると言ったぞ!」
(言いながら、抱き竦めた男児をこれでもかと揉みくちゃにし返す。
次はどいつだお前かほら捕まえたと、幼稚園よろしくきゃいきゃいと元気よく騒ぐ声は止まない)
ヨキ > 「全く……、ヨキは明日から忙しいのだぞ。少しは優しくしておくれ」
(取り返した眼鏡を掛け直す。肩に男児を担ぐように抱いたまま、再びベンチへ腰を下ろした。
せんせー疲れてるのもう遊べないのと集まってくる子どもたち。
だが案の定その声は次第に熱を帯びて、ヨキの両脇でおしくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅうと詰めて腰掛ける。
ひときわ幼い女児を大きな膝に載せて支え、ゆったりゆらゆらと揺らしてあやす)
「明日から美術館で、ヨキの作ったものを飾るのだよ。
君らのお兄ちゃんお姉ちゃんの作品だけでなく、ヨキのも見てってくれよ……」
(はあーい、と返事をする子どもたちを両脇に並べて、ぺちゃくちゃとお喋り。
ゲームだの特撮だの漫画だのといった話は、先生が休日だけ付き合ってくれるとっておきの話題だった)
ヨキ > (産まれて10年ほどしか経たない子どもたちと、人間になって10年を超えたほどのヨキの会話は、
ある意味では話題がよく合致した。
互いにとって、見るものすべてがいまだ何もかもが新鮮さを保っていた。
大人のような顔で子どもの趣味を楽しむヨキは、小学校の先生と見られても差し支えがないほどだった。
『先生のよう』。人の子の親のようだとは、決して見られることがない。
それもまた、ヨキという教師の性質だった。
朝の特撮ヒーロー番組について喋っていたところで、頭上のスピーカーから夕刻のチャイムが鳴り響いた。
これにて今度こそ、本当のお開き。
手に手を取り合って帰ってゆく子どもたちを見送って、ひらひらと手を振る)
ご案内:「商店街」に日下部 理沙さんが現れました。<補足:指定の制服を着た茶髪の男子。背中に真っ白な翼が生えている。>
日下部 理沙 > 夕刻。西の空が茜色に染まり始めた黄昏時ではあるが、世間はハロウィン。
文化祭の開催期間とも重なり、商店街は正に祭り一色。
夜はこれから、祭りはこれからだという雰囲気であるというのに、新入生、日下部理沙は早々に家路についていた。
今はハロウィンであるため、その大きな羽も仮装呼ばわりされて丁度よくはあるのだが、それでも理沙はこの商店街の公園を抜けて家路についていた。
先日、ビアトリクスと回ったりなんだりでなんだかんだはしゃいだので、単純に気疲れしたのである。
夜ともなれば回る相手もいないし、丁度いいといえば丁度いい。
そんなこんなでチャイムのなるスピーカーを一瞥しながら、公園に足を踏み入れた所。
「あれ……? ヨキ、先生?」
そこにいたのは、理沙よろしく家路を急ぐ子供を見送る見知った顔の異邦人。
美術教師、ヨキであった。
ヨキ > (やっと解放された、という顔をして、一息つく顔がそこにあった。
子どもたちに向けて振った手を、ぱたりと膝の上に落とす。
ちょうど入れ違いに公園へやってくる姿――それが見知ったものであることに気付いて、ぱっと笑む)
「――やあ、日下部くん。帰り道かね?」
(日が落ちる頃合いに、公園の街灯が点く。
外の街路は人通りに賑わっているが、公園の中は人波も途切れて落ち着いていた)
日下部 理沙 > 「あ、はい……これから私も帰るところでして……先生はハロウィンでもお仕事やっぱりあったんですね。
子供たちへのハロウィン興行、お疲れ様です」
そう声をかけて、笑みを向けてくるヨキの傍らまで近づいていく。
人通りも疎らになった公園に、長く伸びた翼の影が落ちる。
「先生も、これからお帰りですか?」
ヨキ > 「ああ。ほら、今は常世祭の期間中だろう?
ヨキも、生徒らと併せて作品を並べているでな。
その指示や解説をしたり……それから、芸術学の特別講義も二コマほど。
あとは、明日から新美術館で新しい企画展が始まるものだから、その調整に顔を出してきた。
……とは言え、今日の大きな仕事は何しろハロウィンであったからな。
子どもに工作を教えてきたのだが、まあ体力のあり余っていること。
ヨキですらへとへとになるわい」
(言いながらも、顔は疲れひとつなく朗らかに笑っている。いかにも子どもを好いている顔)
「そうだな、一息吐いたら帰ろうかと思っていたところだったよ。
近頃は随分と冷え込むようになったから……。
日下部君は、元気にしていたかね。
はじめての常世祭、楽しんでいるか?」
(傍らへ歩み寄る理沙の顔を見上げて、にこりと微笑みかける。
大きな翼が、彼の何の変哲もない持ち物のひとつであるかのよう、視線は平然と顔だけを穏やかに見ている)
日下部 理沙 > 「はい、それなりには元気です。
お祭りのほうも、先日友人と一緒に回りました。とても楽しかったです。
しかし、なるほど……ヨキ先生のほうはそういうご都合でしたか。
なんにせよ、仕事も子供たちのお相手もお疲れ様です」
ヨキは見た目には全く疲れていなさそうではあったが、それでも理沙はきちんとそう労いつつ、ひょこひょこと翼を動かす。
その度に、影も一緒になって揺れた。
「美術館は先日いった企画が面白かったので、また顔を出したいと私も思っています。
ヨキ先生の企画なら、より一層楽しめそうですしね……あの、先生も、えと、帰り道はあっちですかね?」
そういって、公園の奥を指差す。
反対側に抜けていく道であり、元々理沙が抜けようと思っていた通りだ。
「もし、帰り道が同じだったらですけど……御一緒させてもらってもいいですか?
あ、いや、もしお急ぎだったりとかなら……無理にとはいいませんが……」
ヨキ > 「そうか、それはよかった!
やはり常世島の祭ともなると、出し物も些か奇妙奇天烈であろうから。
外から来てはじめて楽しんでくれたのなら、ヨキも安心するよ。
はは、労ってくれてありがとう。
こうして纏わりついてもらえるだけ、教師冥利に尽きるというものだ。
大人になると、みな見向きもしなくなるでな」
(理沙が訪れた美術館の話には、手を合わせて朗らかに喜ぶ)
「ああ、それはぜひ!
ヨキは……企画者というほどではないが、協力として参加しているよ。
島の内外から、たくさんの作品が集まるのでな。楽しんでもらえると思う」
(帰り道への誘いには、快く立ち上がって)
「ヨキの住まいは研究区なのでな、学生街を抜ければどこからでも帰れる。
一緒に行こうではないか。せっかく会えたからには、話をしてゆきたい」
(言って、理沙の隣を歩き出す)
「……いかがかね、学園生活は。
ここでやってゆくのに、少しは自信がついたかな?」
日下部 理沙 > ヨキの快諾の言葉をきくと、理沙も目を細めて、嬉しそうに微かな笑みを返す。
翼を微かに動かしながら、こちらもヨキと一緒に歩き出す。
「なら、よかった。是非ともご一緒させてもらいます。
ここの所、先生とは会う機会もあまりありませんでしたので……嬉しいです。
私も、実は……先生とお話がしたかったんです。
この島で最初にあった人は、先生ですから、話してるとやっぱり落ち着くというか。
いや、なんといいますか……すいません、ちょっと甘え過ぎかもしれませんね」
そう、気恥ずかしげに頭をかきながら、隣り合って歩いていく。
スピーカーから流れだすチャイムの音と真っ赤な夕日を背に受けながら、ゆっくりと。
「学園生活は……正直、まだ慣れません。自信も、あんまりないんです。
でも、この異能があったからこそ……このお祭りを楽しめるし、ヨキ先生も含めてここで出会えた人達がいると思うと、以前よりは、ちょっと気が楽になります。
この翼は贋物ですけど……それでも、きっと他にも使い道があるのだから……生かしてみようと思えば、いいだけかもしれませんしね。
いや、まぁ、これはどっちも……友達からの受け売りですけどね……ははは」
先日、ビアトリクスや真に言われたことをそのまま言いながら、歩く。
以前よりも、多分やわらかい表情を出来ていると思う。
だが、美術館での……とある少女との出会いを思い出すと、少しばかり表情が曇る。
「反面……やっぱり、外の人から見れば……自分は……異能者は、見るだけで苛立つ存在なのかもしれないとも、思います。
そう思うと、やっぱり……まだ怖いです。
ここが外じゃない事はわかっていますし、いっても仕方がない事なのも……わかってはいるんですけどね……」
ヨキ > 「ヨキと話が?ふふ、嬉しいな。
このヨキが君にとって落ち着くのなら、いくらだって構わないのだぞ。
頼る相手が少ないうちは……いや、一度そうと感じてくれたのならば、いくら甘えたって罰は当たるまい。
ヨキの方こそ、頼られたいと思っているさ」
(理沙の歩調に併せて、公園を出た路地をゆったりと歩く。
商店街の雑踏から一本隔てた通りは、それだけで随分と静かに感じられる。
それでも店の軒先には常世祭らしい屋台やワゴンなどが見え、すれ違う人々の顔は明るい。
自信がないという理沙の言葉にも、ひとつひとつ優しい相槌を打つ。
いたずらに諌めるでも、奮い立たせるでもなく)
「そうだな……贋物か。確かに、生えているだけで飛ぶことも出来ない……と考えると、贋物とも思えてしまうのだろうな。
……だが『異能を突然に得てしまった』というスタートラインは、誰しも同じものではないかと思う。
その力が役立つにせよ、そうでないにせよ……多くの異能者はその瞬間、それまでの日常から、道を大きく違えてしまったのではないかな」
(柔らかな語調から発される、『友だちからの受け売り』という言葉。
彼にそうした関係が在ることに、目を細めて聞き入る)
「……例えば異能者の中でも、このヨキのように平然としている者があれば、君のように自信を持てない者も居る。
本当に異能を持ち続けることが正しいのか悩む者も、迷わず異能と共に在ろうと行使する者も。
それと同じで、常世島以外の人たちだって、千差万別であるはずさ。
異能を認められる人、認められない人。異能の存在を受け入れようと頑張っている人や、自分も異能を持ちたいと憧れる人……。
……少なくとも、『異能者』か『外の人』ではないと思っている。
『君』と、『君が話した誰か』。千差万別の中の、ひとりひとりが出会ったに過ぎない。
君を見た相手が苛立つかどうかは、『その人』本人に懸かっているし……
相手が苛立たずに済むかどうかは、他ならぬ『君』に懸かっていると思うのさ」
日下部 理沙 > 黄昏時。
そこに届けられた先達の言葉に、理沙は瞠目した。
その、理沙の内面を看破するかのような言葉に。
「私に……懸かっている?」
ヨキのその言葉は、理沙にとっては激励でもあり、叱責でもあった。
千差万別。異能者に限らず、全ての人間はそうであって当然。
異能者も外も……いや、異能者であるかそうでないかなど、何も関係ない。
ヨキの言葉は、理沙にそれを気付かせるには十二分なほど深く……重かった。
「……!」
そこで気付いた理沙は……苦悶の表情を浮かべた。
自嘲気味な笑みでも諦観の込められた苦笑でもない。
単純な苦い表情だった。若者相応の苦い気付きを得た者の顔だった。
そう、理沙に対して波風が立つのは、理沙が異能者だからではない。
別に理沙の異能は……そこまで関係ない。
単純な話である。
理沙がそうして苛立たれるのはそれこそ……理沙が、「異能者だから」と言い訳する人間であったからに他ならない。
ただ、言い訳を繰り返してきただけ。
他者には得難い『不幸』を振りかざして、自慢していただけ。
ただ、それだけのことなのだ。
「私は……私も気付かないうちに、周囲にとんでもない失礼を働いていたということなんですね」
ヨキの言葉は金言であったが、同時に苦言でもあった。
故に、それは臓腑にまで響いた。
ヨキ > (理沙の返答に、うむ、と小さく声を漏らす)
「島の外の人たちのことを、ヨキは多くを知らない。
だが……少なくとも『君を異能者かどうか』で判断するのは、
外でよほど異能から遠ざかって生きてきた者か……
この島の中で、異能を専門に研究している学者ぐらいではないかな?
今の時代、それほどに異能とは近しくなっているはずだ。
もし君を、『異能者のひとり』ではなく……ひとりの『日下部理沙』として見たときに。
君の異能は、その大きな翼は、果たして相手を害するだろうか?
ヨキは、十二分に綺麗だと思っているよ。
君が持っている翼も……そうやって、ヨキの言葉に気付いてくれる君も」
(歩きながら、視線で隣の理沙を見遣る。
道すがら出会った世間話のような軽やかさで、言葉を続ける)
「……何か、あったのかね?『誰かを苛立たせてしまうようなこと』が?」
日下部 理沙 > 理沙は、歯を食いしばる。
ひたすらに、己が恥ずかしかった。
理沙は、自らも気付かないうちに、己で己を特別視していたのだ。
周囲に蔑まれるまま、その蔑みに甘え、『望まぬ異能を得た悲劇の少年』と自らを定義し……その認識に阿っていたのだ。
それこそ、『常識で考えれば不運』という枠に囚われるままに。
思う様、不幸自慢をしていただけなのだ。
確かに、故郷ではあれこれあったかもしれない。
だが、それは本当に……『異能』があるから言われたことだったのだろうか。
『異能』があろうがなかろうが……理沙がそういう態度をとっていれば、同じ結果になったのではないだろうか。
それに対して、勝手に『自分は異能者だから』というフィルターをかけていたのは……理沙自身のほうではなかろうか?
「……ヨキ先生は、本当になんでも御見通しなんですね」
つい、そう感嘆の言葉を漏らす。
理沙の欲する言葉と耳を背けたい言葉を同時にくれるヨキの『教示』には、それだけの力があった。
故にか、既に理沙は耳まで赤くして目を伏せていた。
当然ながら、稚拙な己への羞恥によって。
「美術館で……一人の女生徒にあいました。
その女生徒は、外からきた交換留学生だそうです。
その人に……嫌な思いをさせてしまいました。
おそらく、私が……『外にいた時』と同じ態度をとってしまったから」
彼女は、外から来た人だといっていた。
だから、自分もそうしたのかもしれない。
『どうせ理解されない』と、身勝手な認識を押し付けたのかもしれない。
理沙はそうしたつもりは勿論ない。
だが、彼女が……茨森 譲莉がどう感じたかは、理沙にはわからない。
ヨキ > 「何。ヨキの仕事は、見通すことさ。常世島のこれから先も、生徒の悩みも。
思うにヨキも……昔は、随分と煙たがられたものだよ。
今だってきっと、この在り方が鼻につくと感じる者だって少なからず居るだろう。
その分だけ、生徒の気持ちに寄り添ってやりたいと思っているだけさ。
何も、全部が全部を理解できる訳ではない……
それでも生徒にとって、ヨキにも何かしら力になれることはある……と、信じているんだ」
(赤面して目を伏せる理沙から、控えめな憚りによって正面へ目を戻す。
そうして聞いた『交換留学生の女生徒』の存在に、視線だけで上を見る。
誰かの顔を思い浮かべるように。
けれどその人物については特に言わずにただ、うん、と頷いて)
「外に居たときと同じ……か。
想像するに、あまり友好的な態度ではなさそうだな。
その娘はきっと、判らないなりに君のことを理解しようとしていたのではないかな。
扉が一方的に閉ざされてしまったら、相手はきっとさみしい思いをする。
……思うにヨキは、こうも考えてしまうんだ。
『君が島に来る前も、理解者になってくれる相手は本当に誰も居なかったのか?』
君から拒まれて、理解を諦めてしまった人が……君の知らぬうちに、居たのではなかろうか、とな」
日下部 理沙 > 「そう、かも、しれません……」
外の事は、ここに来る前の事は……正直に言えば、思い出したくない。
嫌な思い出ばかりだ。
翼があるから飛べといわれた。
飛べない事を何度も説明した。
それでも飛べる異能者だっているのにどうして飛べないと言われた。
どうして一緒にするんだと理沙は嘆いた。
だが、それと全く同じことを、理沙はしていた。
「私は……異能者じゃないから理解してくれないと思いました。
異能者や異邦人の人達も……出来る人達だから、わかってくれないと思いました。
どうせこの翼を見れば誰にだって……飛べと言われると思ったから、喋りませんでした。
努力が足りないだけとか、出来損ないとか……役立たずとか……『外』みたいにいわれると思って諦めました。
……相手の事を知りもせずに……そんな『私の過去』と……彼女を『一緒』にしました」
懺悔するように、呟き、ヨキに答えながら……理沙は自問自答する。
だが、その過去すら……本当に『それだけ』だったのだろうか。
知らぬ間に理沙が閉ざした過去の中には……拾い上げられた『出会い』も、あったのではないだろうか。
この常世島であったような、そんな出会いが。
昔の理沙にはわからなかった。
今の理沙にも見当がつかない。
だが……『先』の理沙には……分かる日がくるのかもしれない。
「先生。ヨキ先生。
私は……此処に居てもいいんでしょうか。
居場所を……此処に求めても、いいんでしょうか。
それすらも、ただの甘えなんでしょうか」
ヨキ > 「…………。異能とは、その名の通り特異なものだ。
その脅威と恐怖によって、持たざる者の目を曇らせてしまう。
しかし、それと同じほどに……力持つ者もまた、その目を曇らせているのだよ。
視界を曇らせた者同士を隔てる靄は、『無知』や『無理解』と呼ばれたりする……」
(かつん、とヒールを鳴らして立ち止まる。
太陽は建物の向こうへ既に沈み、夕闇が路地を覆っている)
「その靄を照らし、払い除けるのがヨキに与えられた役割だと思っているよ。
逆に眩ませてしまうようなことは、決してあってはならない。
……それでも、君を暗がりの中に置き去りにはできない」
(立ち止まった陰の中で、ヨキの目は蝋燭のように淡く光って見える。
瞳孔の内側から自ずと輝く、常人にはない光。
鋭い獣の眼光のように見えて――実際のところ、理沙に向けた眼差しはひどく柔い。
見る者によって、獣ともヒトともつかない顔立ち。
理沙から向けられた問いに、眉を下げてふっと笑う)
「日下部君、今更それを尋ねるのかね……それも、誰あろうこのヨキに?
決まっているではないか、そんなの当たり前だ。
居場所を求めることに、誰の許可をも必要とはせんよ……それは、誰もが等しく持つ欲求だ。
……この常世島は、『そのために』開かれているといっても過言ではない。……」
(再び歩き出す。左腕を持ち上げて、理沙の肩口へ回す。
ぽん、と優しく肩を叩く音。大きな翼を避け、親しい友人のようにその肩を抱く)
「ここに居たまえ。日下部君」
日下部 理沙 > その瞳は……輝いていた。
妖しく。密かに。それでいて……艶めかしく。
ヨキの瞳は、常人のそれではなかった。
獣のそれだった。
だが……その獣の眼差しは。
「あ……」
ただ、温かかった。
狼を思わせる、静かな輝き。
静謐な自然の威容。それを秘めた、ヨキの瞳。
背中に手が触れる。
指の足りない手。
いいや、足りないのではない。
それが、自然なのだ。
ヨキにとって。彼らにとって。自然なその手。
それこそ、自然に五指ある自分達と同じように、自然に四指ある彼の手。
日の落ちた、夕闇の路地。
祭りの片隅。その暗がり。
誰が見る事もない。
きっと、誰も見ていない。
だから、それはきっと誰もみない。
目前に居る師以外には、誰も。
「ありがと、う……ございます……ヨキ先生」
微かに上擦る声色をすすりながら、理沙は答えた。
その背と翼を、微かに震えさせながら。
「私は……ここに居ます。自分の意思で。自分で望んで。
自分にも、誰にも……前を向いて、自分は此処にいると……胸を張って言えるようになるために」
ヨキ > (子ども相手に撫でるでもなく、叱咤めいて叩くこともなく、ただ隣に在ることを示す手。
結んだ唇は緩やかな笑みの形に曲がって、穏やかな息を零した)
「ふ。どう致しまして。
それでいいのさ。誰しも多少なりとも、それくらいの我侭は許されて然るべきだ。
……いや。あるいは、我侭ですらないのやも知れん。
生きとし生けるものにはすべて、居場所が必要だということに――思い至らぬことが、誤りなのだ」
(いっそ無遠慮なほど、親しげな気安さで頬を摺り寄せる。
懐いた大型犬のような仕草でいて、在るのはヒトの気配ばかり。
獣人の造形が持つ大きな不自然さは、人間の自然さの陰に鳴りを潜めていた。
それを認めるのも拒むのも、あくまで受け取る側次第なのだというように)
「異能を持つ者、持たない者。どちらかの立場にしか立てないからには、
互いの苦しみや辛さを真に理解し合うことなど不可能だ。
だがそれ以上に――
『異能が存在することそのものによって、価値観が根底から揺るがされ、覆された』。
それだけは、この地球に集うものすべてに共通していると言っていいはずだ。
遅かれ早かれ、我々はみなその驚きを経験した。
……そういう意味では、異能の有無に大きな差などない。
誰もが君のように、胸を張って生きたいと――望めるように導くため、この常世島がある」
(するりと腕を解く。隣の顔を、まっすぐに見つめる)
「……ありがとう。ヨキを頼ってくれて」
日下部 理沙 > 人とは思えぬ仕草で、人と同じ熱を伝えてくるヨキ。
その様は、まさに『自然』であり、どこにも違和感はない。
彼は人ではない。異能者の上、異邦人だ。
人とは、かけ離れた存在。
それでも……分かりあえないことなんてない。
少なくとも、理沙にはそう見える。そう思える。
いや、そう思いたい。
そうあってほしい。
なら、ただ、それを思うがまま感じ取ればいい。
それが、信用するという事なのではないだろうか。
今の理沙には……ヨキからの教示を受け入れ、認めた理沙には、ただそう思える。
その導きのままに、理沙は顔を上げた。
ただヨキの目を見た。
何を偽ることも、隠すこともなく。
ぎこちなく、笑う事のヘタクソさを偽りもせず。
一度だけ、顔を乱暴に袖で顔を拭って不恰好な笑みを向けた。
「ヨキ先生……私こそ……頼らせてくれて、本当にありがとうございます。
きっと、私はまた迷うと思います。その度に、助言を欲すると思います。
その時は……恥ずかしながら、また、頼らせてください。ヨキ先生。
私は、それを望みます」
祭りの路地裏。遠く聞こえる祭囃子と狂騒を背に、理沙は歩き出す。
丁度、分かれ道。此処からは一人で帰る。
本当はまだ先生についていっても問題はない。
だが、もう散々甘えたのだ。
なら……今くらいは、一人で歩いたほうがいい。
頼るのは……また、歩けなくなってからでいい。
「また会いましょう。ヨキ先生」
下手くそな笑顔を残したまま、揺れる瞳を一度だけ細めて、無理矢理に笑みを象る。
外での経験から、長らく自然に象れなかったそれも……徐々に練習していけばいいのだろう。
今は、ただそう思える。
心なしか軽い足取りは、翼が生えているお陰か。
それこそ、今はただ……そう思えた。
ご案内:「商店街」から日下部 理沙さんが去りました。<補足:指定の制服を着た茶髪の男子。背中に真っ白な翼が生えている。>
ヨキ > (理沙が向けてくる笑顔の不器用さを嗤いもせず、ただ喜ばしげに。
にこりと笑って、ひとつ確かに頷き返した)
「いつでも、何度だって来るといい。その言葉に、偽りはない。
教師として在り続けることが、ヨキの望みなのだから――
君を拒む理由など、どこにもあるものか。
……待っているよ、いつだって」
(ひとりで帰路へ着く理沙に向かって、手を大きく振る)
「今このときからの君が、少しでも明るく心軽やかでいられるといい。
――またな、日下部君」
(踵を返す。ヨキもまた、ひとりで歩きはじめる。
理沙が自立して歩いてゆくことを信じているかのように、振り返りはしない。
曲がり角の向こうへ姿を消す間際、一度だけ理沙を振り返る。
その顔も姿も小さく、最早はっきりと見えはしない。
それでも理沙の白く大きな翼が揺れるのが、視界の端に確かに映ったのだ。
小さな笑みを残して、規則的なヒールの歩調が遠ざかる)
ご案内:「商店街」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>