2015/11/03 - 20:55~04:51 のログ
ご案内:「保健室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (少しお休みになってはいかがですか、と勧められたのが切っ掛けだった。
常世祭、その展示、特別講義、閉会後の授業の予定、国立常世新美術館での催し、来場者の対応。
やるべきことはいくらでもあったし、それらが済むまで休む訳にはいかん、とヨキも説明した。
だがそれでいて結局、周囲からの説得に根負けして渋々保健室に辿り着く。
真っ白なシーツを見遣ると、衣服の襟元を寛げてブーツを脱ぐ。
そうしてふかふかのベッドに仕方なく身を横たえた瞬間――
寝た。
まるで、ぷつりと糸が切れたように眠りに落ちた。
常日頃死人のように眠るという評判が立つヨキの、更なる熟睡である。
ごく薄らと開いた唇から、呼気が漏れているかも怪しい静けさだった)
ヨキ > (横向きにゆるく身体を曲げた寝相。
掛け布団から腕を半端に覗かせて、左手にはスマートフォンを掴んでいた。
その本体に力なく指が絡んだ様子から、不意に寝付いたことが察せられる。
画面にはアラームの設定画面が表示されていて、バックライトがやがてふっと消える。
いつもはきちんと時計をセットして眠るヨキが、珍しく設定をし損ねていた。
無人の保健室で申し訳程度に残されていた照明が、ヨキの頭上を照らしている。
時刻は午後、まだ日は高い。その明るさにも目を覚ます様子はなく、
身じろぎひとつせず横になっていた)
ご案内:「保健室」に不凋花 ひぐれさんが現れました。<補足:白髪紅眼。学生服。頭に鈴付きの簪。風紀委員の腕章。赤い鼻緒の下駄。>
不凋花 ひぐれ > 【ヨキは人の良い先生だ。
嫌味な言い方になるものの、その内にあるのは生徒からの一定以上の評価足りえるものである。
常に尽力を尽くし、常に忙しそうにしている。特に常世祭の実行に携わっているのならその労力は一塩だろう。
だからこそヨキの周囲の者達は休むことを提唱した。そのことを小耳に挟んだものだから、気になったからきた――ということは、口にはせんのだけど。】
「……失礼します」
【カラカラ――と横開きの扉を恐る恐る開く。4分の1にも満たない開き方で顔を出す。遠くは見えないが、音の気配からして誰もいない。
正確にはこの場でアクティブに活動をしている人間がいないのであって、意識をベッドへと向ければ、ほんの僅かだが寝息が聞こえた。
起こさないよう最低限の音のみとし、中へと入り、扉を閉める。】
「……寝てらっしゃる」
【それこそ、泥のように眠るヨキへと忍び足で傍によると、落としていた瞼を薄目に開き、眠る彼を一瞥した。】
ヨキ > (人の気配。扉を閉めるごく小さな音――光を遮る人影。
そのいずれにもヨキは反応しなかった。
肩がわずかに上下している以外は、寝息もひどく静かだ。
いびきの一つも掻かず、ひぐれと向き合う形でじっと眠っていた。
外した眼鏡は枕元に無造作に置かれ、左手にはスマートフォンが緩く握られている。
不意に、柔らかな布地を擦る音。
スマートフォンがヨキの大きな手を離れ、滑り落ちる。
かしゃん、と音がして、スマートフォンが床を鳴らす。
ひぐれの足元に転げた本体は、幸いにもカバーで覆われていた。
その音にヨキがようやく気が付いて、喉奥から呻き声を漏らす)
「…………、んう。……んんんんむう……」
(目が開いていない。
寝ぼけているのか、空っぽの左手が闇雲にうろうろと動いた)
不凋花 ひぐれ > 【極僅かな音しか発さないヨキの音を、それでも感知できたのは己の得意とする目以外の五感の特化具合が所以だ。
身じろぐ音も吐息も、ベッドの軋みも上げないからいないものだと勘違いされそうである。
――己が日光を遮ったからだろうか。わずかばかりの変化があった。】
「……っ」
【ヨキの顔へと向けられていた紅眼が揺れる。突如聞こえた異音に肩を揺らす。
片手に持った杖代わりの刀の鞘を立てて、己の足元に目配せをする。
特徴的な長方形とすべらかな手触りから、スマホであることが窺える。
その音が原因なのか、スマホがなくなったことで深層の奥で違和感を覚えたのかは定かではないか、目を閉じたままうめき声を上げ、闇雲にうろついている。
彼女が認識することはやや遅れたものの、睡眠時によくある行動原理であろうと片付けて顔を上げた。
ちょうど空っぽだった左手が未だ動くのなら、スマホを持ち上げて顔を上げた彼女の頭か頬に触れられるだろうか。スマホとは異なる硬さのそれが。】
ヨキ > (左手は自分の枕元で、何かを探すように動いていた。
寝ぼけた者特有の胡乱さで、ふらりと腕が伸びる。
指先がひぐれの頬を掠めて、ひたりと手のひらが触れる。
死人のような寝姿のみならず、死人の肌のように冷たい手。
布団の中で衣擦れの音を立てて、ひぐれへ身を寄せてゆく。
ベッドの端までずりずりと動いて、あまつさえ抱き寄せんとさえする。
緩んだ唇から、言葉にならない声が漏れる)
「……なんでそんなに離れて寝……」
(ひどく油断した、甘えるような低い声だった。
明らかに普段見せる様子とは異なる調子で囁いて――
ぱっと目を開いた)
「!」
(ひぐれから手を放し、がば、と飛び起きる。
裸眼を手のひらで擦って、迂闊に口走った唇を手で抑え込んだ)
「…………。しッ、……失敬した」
不凋花 ひぐれ > 「ちょ、っとっ」
【目を見開いて狼狽を露にする。片膝立ちで不安定だった態勢を持ち直しながら、こちらの体がヨキへと引き寄せられた。
頬に触れた冷たい指先は、暖房の付いていない部屋の空気の所為だろうか――。】
「………」
【抱き寄せられ、彼の唇から漏れる睦言のような囁き。耳に掠められた音が聞こえた。
血流が早くなる。脈拍が進行する。心臓の駆動音が聞こえる。親との挨拶のときに見せた声とも、普段のそれとも、子供のように輝かせたものとも異なる。
寝言はもはや蚊帳の外。彼が目を見開けば、交わる紅眼と金眼が一瞬。】
「……、……い、ぁ ……いえ
すみません、……ぐっすり眠られていたので」
【スマホを手にしたまま瞼を落としてそっぽを向いた。要領を得ない謝罪を重ねる。
熱におかされる頬に自分の指先を這わす。触れる己の指もまた冷たかった。】
ヨキ > 「……はあ、不凋花君であったか……済まなかった。
いかんな、つい寝すぎてしまって」
(深く深く息を吐く。
口に宛がっていた手のひらで顔を擦り、額を抑えて首を振る。
眼鏡を拾って掛け直し、払った掛け布団を均して居住まいを正した)
「迂闊にも無様な真似を……犬ではあるまいし」
(『犬』。実際は犬どころか、はるかに大層な無礼を働いたはずなのだが、
ヨキにとっては『何事か寝言を口走り、ひぐれに近づいた』――それほどの認識で止まっているらしい。
動揺するひぐれに反して、ふう、と息を吐き出せば元通りのヨキである)
「お疲れ様、見回りの途中だったかね。
……あ、ヨキの……。済まん、寝ぼけて落としたらしい」
(ひぐれの手に収まったスマートフォンを見遣る。
眉を下げ、頭を掻いて笑った)
「ちょうど君を、常世祭を見て回るのに誘おうと思っていたんだ。
このあと空いているかね?」
不凋花 ひぐれ > 「お、お疲れのようでしたから、気になさらないでください。ヨキ先生だって人なんですから」
【寧ろ寝ることを推奨したいくらいである。相手をビックリさせてしまったから、次にまた寝るという提案をするのは少々精神には酷なこと。
杖を持つ手に力が加わる。深呼吸をひとつ。】
「犬、というか………狼」
【もっと凶悪な肉食動物を思い浮かべた。二句を紡げず口ごもる。
たいそうな無礼であろうと、彼女は言葉を処理することで精一杯であった。とはいえ悪気が合ったわけでも冗談でもないらしい。】
「あ、はい。
……こちらのみっともない姿まで見せてしまって、ガッカリです」
【申し訳なさそうに眉を垂らして、ヨキへとスマホを手渡す。
ひとつひとつの工程に時間をかけていると、多少常通りの調子に戻ってきた。
また、随分と興味深いものが見れた気がする。】
「え、っと……そういえばそんな話もしていましたね。
勿論。ちょうど見回りも終えてこちらに様子を見に来たので、これからはフリーです」
ヨキ > 「気遣わせてしまったな、ありがとう。
いやはや、生徒らに『休め』と言われて来てみたものの……知らずに疲れが溜まっていたようだ」
(先ほどの腑抜けた甘え声が嘘のように笑う。
狼と評されたことには、その意を汲みきれずに暫しぽかんとした)
「ははは、狼?寝ぼけていたというのに、随分と格好いい喩えをしてもらえたな」
(盛大な勘違いをしていた。
受け取ったスマートフォンに故障がないことを確かめて、礼を告げる)
「おお、一仕事終わったところか。それはお疲れ様であったな。
それでは……校舎の中、ヨキと回ってみるか。
小腹も空く頃合いであろう?風紀委員への労いだ、買い食いと洒落込もうではないか」
(馳走というよりは、むしろ自分が腹を空かせているようにも見える。
衣服を直してブーツを履き、いそいそとベッドから立ち上がる)
「仕事以外に、もう会場は回ったかね?
もし行っていないところがあれば、ヨキが案内するぞ」
(行こうか、とひぐれの一歩前を歩き出す。
彼女の杖を妨げぬよう、付き添って歩く形)
不凋花 ひぐれ > 「お疲れさまです」
【はにかんで笑って返した。まだ頬が赤い気がするがこの際気にしないことにした。無視。無視。
彼も勘違いしているのだから、これは穏便に受け流しておくべきだろう『そうですね』と相槌を打って返す。】
「よろこんで。ヨキ先生が好きなものであれば、私は何でも良いので。」
【生憎、どこに何があってと情報を把握するのは得意だが、行く先々を適当に練り歩くなら彼の希望に沿う形が良い。
奢ってくれるのならば、それはそれで甘んじることにする。それ故の彼の優先権だ。】
「テーマパークみたいにあまりにも多すぎるので、回ってないところも沢山ありますが――最低限、一通り見て回りました。
ですが満足に見れていないところもあるので」
【どこへいこうか逡巡する。どうしたものかと考えあぐねる。
結果『先生がイチオシしたい場所など』と、委ねる形に落ち着くことになった。
彼が前へと歩き出すのなら、こちらもその足音と気配を頼りに歩き出す。杖を左右に動かしながら、後を追いかけた。】
ヨキ > (優しい労いの言葉に、嬉しげに微笑む。
長い腕で伸びをしながら、まずは保健室を後にする)
「それでは……、ヨキもまだまだ満喫しきれていないのでなあ。
棟内を虱潰しに回るとしよう」
(保健室を出ると、相も変わらず生徒や来場者が絶えず行き交っている。
往来からひぐれの足取りを守るような位置に立ち、相手の歩調に併せて進む。
振り返って立ち止まり、ふむ、と思案する。
賑わいの中で、ひぐれへそっと声を掛ける)
「……君を歩かせるには、人通りが少々多いな。
杖を突いて歩くには……ヨキの腕を支えにするのがよいかな。
それとも手を繋いだ方が?今日はヨキが君の杖となろう。
好きに指示をしてくれるかね?」
不凋花 ひぐれ > 「はい、当て所なく歩くのも良いものです」
【ヨキのほうへと顔を向ける。瞼は以前落とした儘だが、口元には笑みを浮かべて肯定的な意を示す。
相変わらぬ人通りは、先ほどよりも多くある気がした。とはいえ歩きづらいかと問われればそうでもない。
ゆっくりゆっくり。大柄なヨキの歩調とは不便に感じそうな歩幅である。】
「……はて」
【しかして、彼がこちらへと声をかけてきた。潜めるような、人海の中でも聞こえるようにと諭すよう。】
「…………では、手を繋いでいただけますか?」
【子供みたいで恥ずかしい気もした。だがそのほうが楽なのだ。相手を気遣う必要もないし、他の生徒らもスムーズに歩むことができる。
ひとつ難を挙げるなら、人気の高い先生と手を繋ぐことでガヤが湧くのが気にかかる程度である。
――その提案に問いかけながら、叶うならヨキの手を取ろうと、矮躯の手が伸ばされた。】
ヨキ > 「不凋花君にとっては、当て所なく歩いた先の音がそれぞれ異なる風景なのであろうな。
ヨキの耳も随分と聞こえはいいが、君の耳ではまた感じ方も異なるのだと。
ふふ、もしも気になる音が聴こえたら、ヨキに教えてくれるか。
きっと楽しいものが見つかるだろうから」
(遊び相手を誘う子どものように、くすくすと密やかに笑う。
手を繋ぐように頼まれると、それでは、と何気ない仕草でひぐれの手を取った。
エスコートらしい支え方で、再び歩き出す)
「案ずることはない、君が楽なようにしてくれればよいのだから」
(二人して、ゆったりと廊下を歩いてゆく。
晴れた窓の外には冷ややかな秋の風が吹き、それでも多くの人が行き交う。
換気のために開けられた窓の隙間から、やがて賑やかな音楽の音色が漏れ聴こえてくる。
どうやら階下の中庭で、ブラスバンドが演奏を行っているらしい)
「あはッ、さすがの腕前が聴こえてくるな。
……不凋花君は、音楽など聴いたりはするのかね?」
不凋花 ひぐれ > 「私にとって、視覚から得る情報は他の情報の補完に過ぎません。
こうして歩いているだけでも、実は楽しいのです。遠くにはオバケ屋敷ではしゃぐ女生徒の声が、どこか遠くで鉄板焼きの音がします。
あぁそれと、模擬店のリンゴ飴を出張で出している声も聞こえます。今は突き当たりの階段を降りる足音が聞こえるので、こちらに巡回する心算でしょうか」
【滔々と語りながら、ヨキの手を取り笑みを零す。優しい対応を受け入れながら、ゆっくりと廊下を進む。
秋風に簪の鈴が揺れる。人通りは多いほうなので、そこまで寒さは気にならなかった。】
「まあ。本当ですね。彼らはいつも遅くまで練習していましたから、本番ではしっかり成功しているようで……。
はい、時々。ビジュアルバンドが好みでして。落ち着きある曲もすきなのですが……ブラスバンドのように壮大で、大きな、心に響く音を好んでいるので」
【――合間に、廊下の向こうから聞こえてくる『リンゴ飴いかがっすかー!』という声と共に、生徒が練り歩いていた。
ぐ、と掴んでいるヨキの手をゆすった。あれが欲しいです、と言いたそうにねだる。】
ヨキ > (ひぐれが語るサウンドスケープの広がりに、ほう、と感心して表情を明るませる。
髪の下に垂れた獣の耳が、言葉のとおりの音を拾い上げてゆく)
「さすがに鋭敏なのだな。ヒトの聴覚も、必要に応じて磨かれるのがよく分かる。
ヨキと君とが揃えば、さぞや地獄も真っ青の地獄耳となろう。それに加えて、ヨキは鼻もよいからな。
悪党にとっては、厭らしい存在であろうな」
(正義の味方だ、と笑う。
軽妙に編曲されたジャズナンバーの旋律に合わせて、繋いだ手をゆらゆらと揺らす)
「なるほど、派手な音も好きか。ふふ、君の物腰からして、穏やかな曲の方をよく好むと思っていた。
ヨキもあれこれとよく聴くんだ。ここの生徒らに訊いたり、あとはインターネットで調べてな。
みんないろいろ、よく知っておるものだ」
(例えば、と近ごろ生徒の間で人気のあるバンドやアイドルの名を挙げる。
笑いながら揺らす手のリズムが変わって、強請られた方を見る。リンゴ飴売りの姿)
「あれか?よし、いいぞ。馳走してやろう」
(にっこりと手を引いて、リンゴ飴売りを呼び止める。
さっそく二つ買い求め、そのひとつをひぐれへ差し出す)
「すぐ近く、ちょうどベンチが空いたぞ。座って食べてゆくか?」
不凋花 ひぐれ > 【具体的な位置を割り出せないのは、此度はあまりに情報が多すぎる故、認識する音を整理する前に口に出しているから。
ただやや遠くにある音は他の雑音に混じらない部分であるために、細かく分析できていた。
音の情報を割り出すのは彼女の得意分野であり、誇れる点であった。】
「悪者を追いかける鼻と耳ですか。調伏する力も相応にあれば、正義の味方も夢でもありませんね。」
【互いに、それ相応の実力はあるだろうけれど。並大抵の悪党ならば撃退も容易いかもしれない。
ジョークめいた言葉が可笑しくて、楽しくて。
繋がれた手が揺らげば、瀬の低い彼女の体も自然と揺れた。悪い心地ではない。】
「音から得る情報が私の世界ですから、思いの丈を全身で伝える様がすきなんです。
ここに来てから私はそのバンドを知りましたが――ステキな歌詞と旋律に心打たれたのは記憶に新しいです。」
【彼の伝える最近のバンドや、アイドル。またそのグループ名やら。聞き慣れないアーティストやら。
花を咲かせながら会話を一時中断して、もとより必要のなくなった鞘を腰に差す。その手で差し出されたリンゴ飴を手に取った。】
「ありがとうございます。
では……その、そちらまで誘導してください」
【今回はとことん、彼におんぶにだっこする心算である。】
ヨキ > 「正義の味方、とはヨキの信条であるが、君とてその素質は十分に備わっているさ。
そう……夢ではない。風紀委員となった君の、目指すべきところさ」
(繋いだ手に、勇気づけるようにひとたび力を籠める。
身体を揺らすひぐれの様子に、にこやかな保護者然とした微笑みを浮かべる)
「そうやって、支えのある人間は強くやってゆけるよ。
触れるだけで心がうきうきするような――好きなものを持つ人間は、見ている側にも元気をくれる。
不凋花君を見ている、ヨキのようにな」
(音楽の話ともなれば、ヨキはまるで生徒とも遜色ない年若さを見せた。
年寄りのような言葉遣いで、溌溂とした趣味を披露する。
買い求めたリンゴ飴が日の光につやりと光って、その大きな口がにんまりと緩んだ)
「では、今日は君はヨキの姫であるからな。
どうぞこちらへ、くれぐれも転ばぬように」
(繋いだ手をそっと引いて、傍らのベンチまで誘導する。
隣り合って腰掛け、いただきます、と早速リンゴ飴に齧りつく。
リンゴを咀嚼する音。んまい、と率直な喜びの声を零す)
不凋花 ひぐれ > 「私が、正義の味方……」
【アニメやドラマに出てくるようなそれとは無縁だが、目指す道はそれと似たものである。
後押しするように繋がれた手に力が加わると、意思決定は確固たるものになる。
彼は親のように励ましてくれるし、道しるべとなってくれる。】
「……私は、そのようにたいそうな人間では」
【茫洋とした言葉に、俯き気味に吐息を混ぜる。】
「ですが、その言葉は胸に留めて置きます」
【姫として、エスコートされる花。花の如き手折らぬよう丁寧な対応で誘導される。
黙して音頭を復唱し、彼女は行儀よくリンゴ飴を口にする。
率直な喜びの声が隣から聞こえる。続けて彼女は『美味しい』と言葉にする。
シャク―――】
「……こういった、催し物に参加するのは、あまり経験がありませんでした。だからこうした機会は非常に有意義なものです。
この学園祭は、とても楽しいですね」
【甘い香りが鼻腔を擽り、吐き出す息もまた甘く。吐露された言葉は、聊か落ち着いたものだから、つい感想として述べた、独り言のようなものだった。】
ヨキ > 「正義の味方というものは……何も、悪に勝利し続けよ、ということではない。
教師として、男として、斯様に過酷な教えは出来ん。
正義の味方とはつまり、自らのうちにある信念を曲げるな、ということさ。
勝利せねばならぬのは、内から湧き上がる『迷い』や『弱さ』に対してだ。
そのような敵に勝利し続けるために――君自身の鍛錬や、ヨキの存在や、君の好きなバンドの歌がある。
好きなものを増やす、ということには、きちんと意味があるんだ」
(胸に留めておく、という言葉に、そうしてくれ、と頷く。
リンゴ飴を齧りながら、日向の陽気のようにのんびりとした言葉を続ける)
「楽しいか?それはよかった。
ここでは毎年、違う楽しみが繰り広げられるからな。
一度楽しいと思えたら、もう飽きることはない。この学園に居てよかったと思える」
不凋花 ひぐれ > 「………」
【リンゴ飴を咀嚼しながら、彼の教えを刷り込ませる。
勝利とは斯くもひとつに過ぎず、打ち勝つべき敵は外因的なものばかりではないと。
迷いとは生きていく上で立ちはだかる強敵だ。まだ齢16の彼女にとって、迷う分かれ道は幾度となく訪れる。
故に、必要なのは何であるか。彼は教えてくれる。】
「なるほど。私は、私にはまだ、よくわからないことが沢山あります。
何に弱いのか、何に迷うのかすら、よく分かっていません。
ただ、好きなものを増やすことで、確固たる何かを打ち立てると……」
【そんな風なこと、かと。
――あむ、あむ。甘い。】
「それは期待しておきます。来年も楽しみですね。
私も、そんな風に感慨を得られるようになってると嬉しいです」
【気が早いなんて笑われるかもしれないけど、今から心を躍らせるのも悪くはないだろう。】
ヨキ > 「……いつしか、図らずも心が折れそうになるときはきっと来る。
来ないことが最善ではあるが……ただ平穏が続くばかりの人生など、何も起こらぬのと同じだからな。
未だ壁を知らぬということであれば――今はただ、無心でリンゴ飴に舌鼓を打つがよかろう」
(立派な犬歯で小気味よい音を立ててリンゴを頬張る。
ペースを合わせたとて、丸いリンゴは見る間に小さくなった。
最後の一口まで食べ終えてしまうと、ああ、終わってしまった、と冗談っぽく落胆してみせた)
「美味いデザートは、跡形もなくなるから美味い、ときた。
ああ、喜びは自ずと広がってゆくものだ。
去年のリンゴ飴が美味しかったからまた食べよう、と思えるし、
去年はリンゴ飴を食べたから今年は別のメニューにチャレンジしてみよう、という考え方も出来る。
詰まるところ――根っからの能天気なのだな、ヨキという男は」
(にんまりと笑う。
ひぐれが食べ終わるのをのんびりと待って、では、とベンチから立ち上がる)
「話に聞いて、何か気になっている部活や展示はあるかね?
今日はヨキが君の杖で、目でもあるからな」
不凋花 ひぐれ > 【矮躯のそれと、巨躯たるヨキとでは少々ペースも合わせずらかろう。
ヨキから一手遅れてリンゴ飴を租借し終える。】
「……ひけらかさず能天気と仰るところも、ヨキ先生らしいです」
【虚ろに開かれた眼は彼を見ていた。笑う姿を、食べる姿を。その音を。
無心にリンゴ飴にかぶりつくのも悪くはない。地獄耳には少々、難儀な題目である。
見えすぎるのも困り者。巡り巡る情景の音に意識を傾けながら、彼の問いかけと共に、傍らのベンチから離れる音。】
「……でしたら、理科実験室のほうで科学部が異能実験をされるそうなので、見に行きたいです。
…連れて行ってください、先生」
【催促をしながら、立ち上がる彼に甘えたがるよう、エスコートを求めて手を伸ばした。
眼にする情報を伝える『目』であってほしい。足を支える杖であってほしい。
今日ばかりは『私』の杖なのだ。】
ヨキ > 「よくも悪くも……とは、よく言ったものさ。
ヨキは一生変わらずにこの性質であるのだろうし、この性格に救われることも、足元を掬われることもあろう。
身の回りや作品をこれでもかと飾り立てるヨキのこと、言葉くらいは飾らぬ方が、誠実にも見えるというものさ」
(自分で言ってしまっては台無しか、と明るく笑う。
ひぐれの行き先の提案に、へえ、と声を上げる)
「科学部の実験か。そこはヨキもまだ、覗いてはいなかったな。
楽しそうではないか、さっそく向かうとしよう」
(理科実験室だな、とひぐれの手を取る。
新しい楽しみの予感に、足取りもうきうきと軽くなった。
整った造りの校舎とはいえ、階段や狭い通路も少なくない。
その都度ひぐれへ声を掛け、丁重に案内する)
「――さあ、着いたぞ。ヨキの前へ来るといい」
(辿り着いた理科実験室には、案の定見物人も多い。
場所を選んでひぐれを招き、長身のヨキの前に立たせる。
ヨキがひぐれの手を引いてやって来る光景も、ひぐれが目を伏せている様子からして、
然して注目を浴びることはないらしかった)
「本当に、興味深い企画が多いものだ。ふふ、どんな実験が始まるやら?」
(ひぐれの背後から、その小さな両肩にそっと手を置く)
不凋花 ひぐれ > 「台無しです」
【クスクス。笑う。
『それでも、良いと思います』彼女はそう告げた。
大人になってからでは、人間の気質を変えることは難しいなんていうけれど。ヨキとて様々な経験があるから、今があるわけで。
……小難しいことを考え、並べるよりは、まだまだ簡単に思えたほうが、気が楽だろうが。
こちらの提案に対し、ヨキは快く引き受けてくれた。先ほどのしっかりした足取りより、幾分か浮き足立ったものは、嬉々とした感情の表れか。
それでもこちらへのエスコートは丁重に行われていたので、危ないところもなくたどり着くことが出来た。
先ほど『実験室で何かやるらしい』という通りがかりの生徒の声を聞いたのが気になってきただけなので、具体的な内容は分からない。
ただこうした出し物であるなら、マジックの要領で行うのがエンターテイメントとして見栄えの良いやり方だろう。】
「……では、お言葉に甘えて」
【細い肩に乗せられた手に目配せし、僅かに頭を上げると、ヨキの顔が"見えた"。しかしてすぐに前へと集中した。】
不凋花 ひぐれ > 【『ようこそいらっしゃいました』部長と思わしきグルグルのビン底めがねをかけた白衣の男子生徒が、メガネ同様くるくる回ると、手に固形物の入ったペットポトルを見せびらかす。
『今回はこのドライアイスを使った実験を行います。用意するものはシャボン玉とペットポトルです』
言うや否や、ドライアイス入りのペットポトルにお湯を入れる。すると霧状の水滴がもくもくと立ち昇る――ここまでは普通のドライアイスの反応である。
ペットポトルの口をゴム栓で蓋をして、じぃっと待つ。「みていてくださいねー。あんまり近づきすぎると危ないですから近づき過ぎない程度に見てくださいね」
―――瞬間、ペットポトルの口部分が暴発した。
同時に天上に向けて発射されるペットポトルロケット。
天井の電灯を壊しかねない速度で昇ったそれは、天井へとぶつかる直前に勢いを殺ぎ、ゆっくりゆっくりドライアイスの煙を噴出しながら、発射直前のロケットのような速度で飛んでいる。
念動力か、物体の操作を行う何かを利用しているのか、噴出す勢いを維持しながら立ち昇る霧で、ハートや丸型など瞬間的ではあるが記号表現までしていた。】
「……少々、驚きますね。危ないですけど、スリルも楽しもうとして、観客に一体感を与える。インパクトは素晴らしいものです」
ヨキ > (ひぐれの軽やかな言葉に、にっこりと笑う。
正面へ向けた顔はわくわく、そわそわとして輝いていた。
間もなくして現れた男子生徒を、さながら大先生のように見守っていた。
旺盛な好奇心は、ヨキの視線をすっかり実験道具へと虜にしてしまう。
男子生徒の焦らすような口ぶりに、ひぐれの肩へ置いていた手もじりじりともどかしげにしている。
すると――音を立てて噴出するロケットに、目と口をまん丸く開いて見入る。
冷静なひぐれに反して、というより、ひぐれの言葉通り、すっかりインパクトに呑まれた顔だった。
秋の学園祭どころか、夏休みの科学教室を訪れている小学生並みである)
「お……おおおお……すごい……!」
(完全に心を奪われていた。
実験の合間の質疑応答にも、はい、はいはい、と控えめに手を上げてちゃっかりと質問をするほどに。
次の工程へ移ろうとしている男子生徒の説明が止むと、ひぐれにそっと耳打ちする)
「な、面白いな。こんなに楽しいものが観られるとは思わなかった……ふふ!」
不凋花 ひぐれ > 【内容自体は、ドライアイスの実験の応用である。
中身の何たるかを理解すればメカニズムは非常に単純だが、分かりやすいものにインパクトを与えれば、それだけ湧き上がる作用は強い。
無論、このような方法があるとひぐれは想像だに付かなかった。こういったものを見る機会は中々ないのだ。公園で遊んだであろうペットポトルロケットよりもさらに強力なものなのだから、尚更驚嘆して呆けていた。】
「た、確かにすごいですね。
それに、ああいった活用ができるとは思いませんでしたし……、興味深いものです。
…先生も楽しそうですね」」
【それより、己の肩をゆらさんばかりに、童心の如く食いつく姿に目を見張ったのはナイショである。
他にも、こういった普遍的なものを使ったショーが行われる。小難しいものよりも身近なものを活用した実験ショーらしく、分かりやすさを重視したものが多かった。
ヨキからの質問にもノリよく部長が答え、観客も次第に同調して湧き上がる。
数十分のショーはあっという間に過ぎていった。】
ヨキ > (楽しそうだ、という指摘にも、喜んで頷く)
「……テレビでも、子ども向けの教育番組というものがあろう?
あれがなかなか、侮れんでな。ついつい見入ってしまうのだ。
それと同じで……いや、それ以上だ。生でこんなに間近に見られるなどとは。
ふふ。ヨキはとても楽しいぞ。君のお陰だ」
(ヨキたちの隣で見ていた子どもと、表情が重なってさえ見える。
疑問に感じたことを積極的に質問する姿は、よくも悪くも日本人離れしていたことだろう。
真面目くさった面持ちで男子生徒の説明に聞き入り、彼の手元で行われる工程についてはひぐれへ耳打ちして説明する。
さながら自分の興奮と喜びとを、相手と分かち合うように。
――そうしていくつもの実験を楽しみ、やがてショーが終わる。
実験室を出るヨキの顔は、ひどく晴れ晴れとしていた)
「いやあ……何だか、少し賢くなったような気がするな。
あとで造形教室の子供らに見せるネタが増えたわい。ふふ、きっと喜ぶぞ」
(興奮冷めやらぬ様子で自身の両手を擦り合わせ、気を取り直す。
さあ、と手を伸ばし、再びひぐれの手を取る)
「ありがとう、不凋花君。とてもよいものが観られたぞ。
君の聴覚はもとより……、楽しいことを嗅ぎつける『嗅覚』もなかなか鋭いのではないかね?」
(先の会話の言い回しを借りて、くすくすと微笑む)
「さあ、次はどこへ行くかね。
…………。おお、不凋花君。今のを聞いたか?あすこの建物で、――」
(楽しいことを嗅ぎつけては、次々とひぐれを連れ回し、また彼女の求めに応じてどこへでも足を延ばすのだろう。
話す言葉は次々と溢れて、朗らかな会話が絶えない。時間の許す限りは、連れ立って常世祭の一日を満喫したに違いなかった)
ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
不凋花 ひぐれ > 【意図せずとも褒められたことは、嬉しがっていいのやら。何やら少々くすぐったい気がして、気持ちが上手く表現できなかった。
加速装置を使った何か、など、具体的に視認できない内容は、ヨキからの言葉によって補完できた。
観察することに長けた眼のお陰か、随分と分かりやすく、後から聞いた内容であろうと遜色ないものである。その感情の共有は上手く事を進めていた。
「なるほど」「あれはそういうことで」言葉が涼やかなのはもともとの気質が原因だが、内に踊る感情ははっきりと輝いていた。
没入すべく、見えない眼で"見ようと"意識を傾けていたのが何よりの証。傍目には分かりづらいが、彼女はヨキと同様に熱心になっていた。】
【やがて演目が終える頃には、彼と共に楽しげな顔を見せていた。】
「……同級生や同委員の人たちにも宣伝してきます。面白い内容でしたから」
【あぁ、たまにはこういう風に楽しむのも悪くはない。
大人なようで子供みたいな、狼めいて犬のような。次は次はと互いにリードを引っ張り合うようにあちらこちらと進む教師と生徒。
日がな一日疲れ果てて眠るまでは、跳ね返りそうなほど躍動した心臓と共に、眼を輝かせて楽しんでいたことだろう。】
ご案内:「保健室」から不凋花 ひぐれさんが去りました。<補足:白髪紅眼。学生服。頭に鈴付きの簪。風紀委員の腕章。赤い鼻緒の下駄。刀の鞘を杖にしている。>