2015/09/13 - 21:06~03:55 のログ
ご案内:「研究区・異能力研究特室」にダリウスさんが現れました。<補足:ひょろりとした一見頼りない顔つきに眼鏡。穏やかで少し頼りない印象を与える中年の研究者>
ダリウス > 「あれ、コーヒー豆切らしてましたかね…買ってこないとなぁ…」

呑気な言葉を呟きつつ、ガタガタと戸棚を漁る男
異能力研究特室室長のダリウスさんである

ダリウス > 「うーん、しかたない。後ででかけますか」

やれやれ、と漁った戸棚を元に戻して、冷蔵庫を開けてボトルのアイスコーヒーを取り出してコップに注ぐ
アイスコーヒーも良いものだが、やはり眠気を飛ばすには挽きたてに限る

「まぁ買い物くらいちょっとした運動と思えばいいでしょう。
 最近フットワーク重いからなぁ…僕みずから落第街に行く必要もなくなったし……」

あんな怖いところそうそう行きたくありませんよね、と独り言ちて肩を竦める

ダリウス > 一口アイスコーヒーを飲んだコップをテーブルに置き、
机の上に乱雑に散らばった書類をぱたぱたと整理していく

安っぽいパイプ椅子に腰掛け、書類に目を通していく
先日嫌というほど目を通した書類ではあるが、読み返すことで新たな発見があることもある
1度読んで内容を把握し
2度読んで見落としをなくし
3度読んで人に説明できるようにする

「誤字脱字がなくなる異脳とか、一度で読み物の内容を完全に理解できる異能が欲しいところですね」

ダリウス > 書類の枚数は30枚以上にのぼる
先だって、落第街において金で買った二級学生達の検査解析結果だ

そこに羅列される異能はどれもこれも有り触れたもの
場合によってはなんの役にも立たない力が大半を占めている

例え異能の保持者だとしても、彼らは一般学生とは大きな隔たりがあるのだ

中には本人に自覚がないにもかかわらず異能の力が潜んでいる者もいた
先天的に取得して生まれる者もいれば後天的に何らかの原因で力を付与される者もいる
そして力の発信源が脳波に由来する者、肉体に由来する者、魂に由来する者、とまさに様々だ

「面白い」

口の端に笑みが浮かぶ

本当に面白い
似通った力はあれどひとりとして、全く同じ力を発現していない
たかが幾らか桁の塩基配列の組み合わせすら凌駕する
なぜなら一卵性双生児ですら全く同じ異能力を持っているケースに遭遇しない

「学園都市としては邪魔な存在でも、僕達の研究には金の卵だ」

ダリウス > 「保健課と生活委員への根回しは終わり、全校生徒教員対象の健康診断と脳波検診。
 これでまた格段にサンプルの数は増える…いやぁ、楽しみだなぁ…」

ギッ、とパイプ椅子の背もたれを期しませ、背を預ける

「色々と都合の風が吹いてきた感じがしますねぇ」

書類をぱさりと机に置いて、裏返す
一番最後の書類の裏には、何かが乱雑に書きなぐられていた

【筋繊維異常と脳内麻薬の分泌による身体強化の異能───移植可能】
【特殊脳波P112Tを発生させる脳細胞による念動力の異能───指定脳波を発する脳細胞の培養に成功、移植可能】

ダリウス > 「少しずつとはいえ、近づいているのかな」

くすりと笑って立ち上がる
アイスコーヒーの入ったコップを手にとり、自身のデスクへと移動する

「残る課題は1つなんですよね」

コップを口につけ、ふぅ、と一息つく

そう、1つだ
おおまかに言えば、だが

肉体、及び脳波に由来しない異能
それはすなわち、精神、心、魂といった、『形のないもの』に由来する力

「いやですねぇ。
 科学者が魂を肯定しないと先に進めないだなんて」

一昔前なら学会の笑いものです、と目を細める

ダリウス > もっとも、その手の異能力に出会えること自体が稀だ

この男自身も、自らの妻が『不幸な事故』で命を落とし、
その異能の力が変質するまでは、魂の存在に否定的であった

もっとも異能の変質自体は珍しいことではない
強いストレスや、逆境、異常といえるほどの精神の昂ぶり
主に脳波に由来する力はそういったもので変質しやすい

逆に肉体に依存する異能は出力の増減はともかく、大きな概念的変質というものはあまり見られない

妻、雪城涼子の異脳は魂…霊体を根源とするものだった
もしくは、そうなるよう変質したのだ

そんな希少な存在が世界にどれだけいるかはわからないが、

「……0.03%を下回れば数学的に0と言ってもいい数値らしいですが、
 異能の数=人間の総数と考えれば、諦めるには大きすぎる数字ですね」

ダリウス > 「とはいえ時間は有限…この学園都市でサンプルがたくさん見つかると嬉しいんですけどねえ」

苦笑してアイスコーヒーを飲み干すと立ち上がって、流し台でコップをすすぐ

「…さて、それじゃちょっとお買い物に行きましょうかね。
 キリマンブレンド、売り切れてないといいなぁ…」

買い物に出かける時もこの男は白衣である
部屋の主がいなくなり、研究室の灯りが消えた

ご案内:「研究区・異能力研究特室」からダリウスさんが去りました。<補足:ひょろりとした一見頼りない顔つきに眼鏡。穏やかで少し頼りない印象を与える中年の研究者>
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。<補足:無精髭を生やした白衣の男。ポケットに入った煙草の銘柄はペルメルの赤。>
獅南蒼二 > 開け放たれた扉と、開け放たれた窓。空調を利かせずとも吹き抜ける風は心地良い。
以前は窓を開ければ書類やメモが風に舞い、散乱してしまっていた。
こうして自然の風を取り入れることができるようになったのも、整理整頓のおかげである。

「………………。」

尤も、白衣の男の机上は相変わらずの混沌であった。
禁書に分類される数冊の魔導書、術式を描き込んだメモ用紙、様々な触媒、宝石、魔導具、拳銃、灰皿、ライター、ペルメルの赤。

生徒にも努力と研鑽を求め続ける男だが、彼自身のそれもまた、尋常ではない。
走り書きの術式は多くが魔力の貯蔵を目指したものだったが、魔力をループさせるものや、別の形に変換するもの、固定化・結晶化を目指したものまで多岐にわたる。
そのいずれも、並の魔術師や魔術学者には読み解くことすらできない、難解なものだった。

獅南蒼二 > 魔力を生産するための術式はほぼ完成した。
しかし問題は、生産した魔力をどのように貯蔵するか、という点だった。
以前は魔力をループさせる方式を採用していたが、常に魔力は活性化しており不安定な上、決して効率が良いとは言えない。
解放に時間がかからず、即時性があるという点では見るべき部分もあるのだが……

「…………………。」

……しかし、斬新な発想は浮かばない。男は疲労困憊していた。
【レコンキスタ】からの資金援助を断ったことで組織からの不審をかったこともあり、
それ以外の面で、組織にいくらか貢献しなくてはならない事態に陥っていたからだ。

獅南蒼二 > 落第街の酒場を通して、異世界の術式と魔獣の術式、その他、獅南にとってはもはや過去の産物となった様々な研究成果を横流しした。
この学園で、この獅南蒼二が研究をつづけることがどれほどの価値をもつか。
どれほどの技術を【レコンキスタ】に齎すのか。それを理解させる必要があった。

「…………………。」

慎重な獅南は特許が学園に属するものを避け、未発表の独自研究のみを流した。
もし、万が一、それが発覚したとしても、それは個人の知識財産でしかない。
さらに言えば、研究者や関係者を洗い出そうにもデータベース上にその研究は存在しない。

これほど慎重な男が、今この瞬間は扉を開け放ち、椅子に体重を完全に預けて居眠りをしていた。
結界も防御魔法も、哨戒魔法も使われていない。

獅南蒼二 > 来る者は拒まず。そんな理想を掲げているわけではない。
この白衣の男は、基本的には自信家だった。
才能に溺れたわけではなく、その自信を裏打ちするだけの努力と研鑽を積み重ねていた。

周到に組み立て,様々な可能性を考慮し,不安要素を1つ1つ排除していく。
そんな術式構成と同様にして、周到に身の回りを固め、不安要素を残さず、
そういった背景があって初めて、こうして、無防備に眠っていられる。

ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」にクローデットさんが現れました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、クラシカルな服装で人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子>
クローデット > 錬金術の教科書を経由して、クローデットは「面白いもの」を、禁術の領域に踏み込む事なく生み出す事に成功した。
貴重な古書を心置きなく貸してくれた獅南に感謝するため…そして、借りた教科書を返すため、クローデットはまた獅南の研究室を訪れたの、だが。

「………」

また、居眠りをしている。あまりの状態に、少々呆気にとられてしまった。

「………不養生は研究にも差し支えましてよ?」

このまま寝かせておいても用事が進まない。クローデットは声をかける事にした。

獅南蒼二 > 「……あ、あぁ?」
どこか間抜けな声とともに、男は目を覚ました。
全くクローデットの言う通りなのだが、動き出したら止まらないのはこの男の性分なのだから仕方がない。
ブレーキの壊れた車ほど厄介なものは無いということだ。

「……眠ってしまっていたか?」

首をぐるりと回してから、視線をクローデットへ向ける。

クローデット > 「ええ、それはもう、ぐっすりと」

その微笑には、やや呆れの色が見えるだろうか。

「以前お借りした、錬金術の教科書をお返ししに参りましたの。
…大変に参考になりましたわ。特に、写本の方が」

そう言って、丁寧な手つきで魔術書を獅南に差し出す。

獅南蒼二 > 「道理で頭がすっきりしているわけだ。」
最初からちゃんと寝ろ。と言いたくなる。
苦笑を浮かべつつ、机の上を軽く整理し始めた。

クローデットが魔術書を差し出せば、小さく頷いて…
「…それは何よりだ。」
言いつつ、それを受け取り…本棚へと戻す。
これだけ危険な魔術書を山のように保管しておきながら、あれほど無防備に寝ているのは問題だろう。
そんな些細な問題など気にも留めずに、男はクローデットの表情を見て…小さく、笑んだ。
「それで、成果はあったのか?」

クローデット > 「研究効率のためにも、頭が働くなってきたら休むものです。
…もしよろしければ、あたくしが研究の際に助けにしているハーブティでもお分けいたしましょうか?」

呆れたように、息を1つつく。
研究の成果を尋ねられれば、

「ええ…禁術の範囲に踏み込まずして、「面白い」ものが出来ましたわ」

にっこりと優美な笑みを浮かべた。

獅南蒼二 > 言われてしまったが、特にそれを気にする様子も無い。
白衣の男にとっては、いつもの事なのだ。それこそ、倒れる寸前まで研究に没頭する。
「ハーブティか…私よりもサリナが喜びそうだな。」
後で貰っても構わないか?と、言いつつ…クローデットの笑みに、小さく頷く。
禁術の範囲に踏み込まないというのは、伝統を重んじる魔術師にとっては大切な事だ。
逆に言えば、獅南にしてみれば、どうしてそこに拘るのか、理解に苦しむ部分でもあったが。

「後学の為にも、詳しく聞かせてもらいたいものだな?」

クローデット > サリナ、という名前を聞けば片方だけ眉が動く。

「ハーブティは構いませんが…彼女、この研究室にも頻繁に出入りなさいますの?」

異世界人(ヨソモノ)で、獅南の授業を積極的に履修する、少なくとも魔術面では優秀な学生。
…そして、【レコンキスタ】について調べようとしていた人物。
彼女が獅南と頻繁に交流しているとなると、少々気が気でない。

「ええ、構いませんが…悪用されると、少々危険のある内容ですので…「内密に」していただけますか?」

研究成果について尋ねられると、「防音」を要求する。
クローデットの身内には禁術の領域に到達した者が多くいるが、クローデットは「必要がなければ」実践には踏み込もうとしない。
…「因果を超えるようなものでなければ」、到達せずとも用が足りるからだ。
そうなると、踏み込む事のリスクがベネフィットに釣り合わないのである。

獅南蒼二 > クローデットの言葉を聞けば、小さく頷いた。
以前と同様に手を翳し…窓と、扉を閉め、鍵をかける。
術式が展開され、すべての音や情報の流出が妨害された。

「…以前話しただろう、魔力生産と貯蔵に関する研究について。
 あの研究を可能にするのは、彼女が持ち込んだ異界の術式だ…彼女無しでは、術式は完成しない。
 お前は不服に思うかも知れんが、異界の技術を取り入れることによって、魔術学は飛躍的に進歩する…そういうことだ。」

クローテッドの問いに対して、獅南はありのままを答え…立ち上がって、クローデットにはソファに座るよう促す。

クローデット > 扉が閉まったのを確認して、口を開く。
獅南とサリナの交流について聞けば、理解は容易だったし…納得も、出来ない事はなかった。
「父と近い種類の人間である」この男ならば、尚更である。

「彼女の書いた魔術書は、以前拝読した事があります…本人に自覚は希薄なようですけれど、優れた魔術師には違いありませんわね。
それで魔術が「技術」としての汎用性を獲得するのであれば………まあ、悪い事でもないでしょう」

クローデットは【レコンキスタ】の中でも過激派に属するような思想の持ち主だがーフランス支部は、フランスで発生したという歴史の関係上、ルナン家の影響を覗いたとしても強硬な思想に流れやすいー「異界の魔術」を理解すること、取り入れることについては、必要であれば拒絶しなかった。
それは、信頼関係を構築しきれなかった父親の、ささやかな影響の跡。

そして、獅南にソファに座るよう促されれば、静かに腰掛け、

「…それでは、まずは現物を見て頂きましょうか」

ポシェットから、ガラス瓶をいくつか取り出す。
その中では、それぞれ色を持った不定形の物体が、意思を持つかのように蠢いていた。

獅南蒼二 > 意外にもあっさりと納得した様子を見て、小さく、苦笑した。
そこに彼女の父親を見たか、それとも、葛藤する少女の姿を見たか。
いずれにせよ、研究に彼女の協力が不可欠なのは事実である。

「知識量もそうだが、この世界の人間には無い感性を持っている。
 そればかりは、どうにも真似できるものではない。」

こちらも対面するソファに腰を下ろして…取り出されたガラス瓶を見る。
ホムンクルスに関する書籍を持って行き、魔導生物に関する話をしていたのだから…想像はつくのだが。

「…栄養ドリンクではなさそうだな。」

なんて、冗談じみた発言。

クローデット > 「ええ、「呪術」についての彼女の捉え方も非常に興味深いものでしたわ」

理解すれば、その感性をある程度辿る事は出来るでしょうけれど、と。

クローデットは魔術だけでなく、魔術と繋がりうる通常の学問にも、年齢の割にかなりの心得がある。
まるで価値観の違う異世界人の思考回路ですら、「理解」すれば辿り得る程度の知的訓練を重ねていた。
………もしかしたら、実際に、サリナの旧体系魔術すら、「理解」し辿ってしまうこともあるのかもしれない。クローデットが、思考の「枷」を外してしまえば、だが。

そして、瓶を見ての獅南の感想を聞いて、口元に笑みを浮かべる。

「…錬金術で、魔法生物で、不定形。
ありきたりですが、スライムですわ。………融解させられるものの範囲を、細かく調整してありますが」

獅南蒼二 > 「範囲を調整してある…なるほど、用途に応じて、か?」
複数体のスライムを用意しているところを見ても、そうとしか思えない。
尤もそれをどのような意図で使うのかまでは、想像がつかなかったが。

「“ある程度”では駄目だ。我々とは自然事象への捉え方も全く違う。
 見てみろ…例の研究の、これが試作品だ。」
メモのうち1枚をテーブル上、瓶の横へと置いた。
それは魔力生産の厖大な術式の一部。炎から魔力を得る術式。
そこに描かれているのは非常に複雑なエネルギー操作の術式、変換の術式、多重の安全弁。
そして、その中央に描かれた……対象を指定する、獅南の術式とはかけ離れた異界の術式。
イメージを出発点として、炎を熱と光と、破壊と恐怖、様々な面から規定している。
が、それは非常に感覚的で、火をほぼ支配した現代人の感覚ともかけ離れている。
…完全に模倣するのは難しいかも知れない。

クローデット > 「ええ…例えば、この黄色いものは「生きていないもの」。
こちらの青いものは「魔力の篭っていないもの」。
こちらの紫色のものは…「生きているものだけ」。」

と、範囲を説明していく。

「青いもの以外は、納める容器や、容器を保護する術式の開発にも少々苦労いたしましたのよ。
それ自体が、研究の成果にもなり得るかもしれませんわ」

そう言って、くすりと笑う。…やはり、意図は説明しなかった。

「これが…試作品ですか?」

テーブル上に置かれたメモを見る。
術式自体が非常に複雑に練られているが…エネルギーを取り扱う部分のそれは、なるべくして複雑になっているのが分かった。

そして…中央に描かれた、あまりにも…あまりにも抽象的な術式。
自然現象について、科学に基づいた理解からあまりにも遠かった幼い頃。
…それでも、親や親族に言われるがままに魔術を行使してみせ、喜ばせていた、あの頃。

「………ふふふ」

そんな頃の記憶を何となく思い出し、笑みがこぼれた。

獅南蒼二 > 「なるほど、その対象設定なら、瓶は飲まれてしまうな。
 黄色の瓶には擬似的な生命でも与えているのか?」
白衣の男も、その意図をあえて聞き出そうとはしない。
ただ、技術的には非常に洗練されており、学ぶべきところもあるだろうと感じる。
……尤も、魔導生物の生成には、今のところあまり興味はないのだが。

「あぁ…そうだ。
 我々の感性で、科学的なアプローチを行えばこの数百倍の規模の術式になるだろう。
 抽象的なものを制御する能力は、得難いものだ。」
言いつつも、クローデットのこぼした笑みに視線を向けて…ほぉ、と小さく息を吐いた。
これまでに見せた“笑み”とは何かが違う。
少なくとも、作為的なものではなく…少女らしい、笑みに見えた。
「………………。」
何か言いかけて、小さく頷き、言葉を飲み込んだ。
それから静かにそのメモ用紙を片付けて……

「…これは全くの別件だが…1つ、お前を見込んで頼みたいことがある。」

クローデット > 「ええ、内部を微細な魔法生物でコーティング致しましたの。
見た目には、ただのガラス瓶にしか見えないでしょう?」

この調整が大変でしたの…と、楽しそうに笑む。
この魔法生物を何に使おうとしているのか。当然クローデットは語らない。

「「抽象」は、形にすればするだけ零れ落ちてしまいますものね…
可能な限り包括的に組んで………50倍程度には抑えられませんか?それでも膨大ですけれど」

言葉を覚える前の乳幼児は、言語以前の段階で物事を思考しているという。
歳若い分か、才能か、クローデットは獅南より「抽象」を扱う能力に長けているようだった。
獅南の「気付き」に、気付いた風はない。ただ、頼み事を持ちかけられれば

「………頼み事、ですか?あたくしの「目的」と相反しないものであれば」

と、さほど感情を込めない表情で、首を傾げてみせるだろう。

獅南蒼二 > 「なるほど…瓶そのものに擬似的な命を付与するより効率が良いな。実に面白い発想だ。」

くくく、と楽しげに笑い、机の引き出しから、1枚の写真を取り出した。
代わり、というわけではないが、机上の拳銃を引き出しにしまい込む。

「包括的に対象を指定するのなら、やはりイメージに勝るものは無い。
 非常に感覚的なそれを制御するために術式を重ねたほうが効率が良い。
 ……実際、全てを描き込もうとしたこともあったが、私でさえ心が折れたよ。」

ソファに再び座れば、写真を机の上に置く。
金色の瞳に、黒の癖毛……目立つ風貌だ、どこかで見たことがあるかもしれない。

「この島の教員…非常勤講師の“ヨキ”という男だ。
 公安の立場を利用して、この男の身元と素性を洗ってほしい。」
獅南の表情は、いつになく真剣だった。
「尋常でない気配をもつ獣人で…
 この男の理想は…異能者や異邦人と純血の人間の“融和と共生”だそうだ。」

クローデット > 「あたくしは付与術より錬金術の方が得意ですから…素材に擬似的な命を付与するくらいでしたら、生命の属性をもつ素材を一から作る方が早いのです」

そう言ってくすりと笑む。
錬金術の熟練は、クローデットの方がやや上、ということだろうか。

「イメージ…それも魔術の才能のうち、という事でしょうか?」

幼い頃から魔術を仕込まれてきたクローデットには、それが「魔術の才能」であるという認識は薄い。せいぜい、通常の学問などと同程度、という認識だった。

「………あなたほどの方でも、心が折れる事があるのですね」

くすくすと、おかしそうに笑った。

そして………置かれる写真。
クローデットは美術の実技は履修していない。芸術論の講義は履修しているが、その程度だ。だから、写真の人物は「見た事があるような気がする」程度だった。

「…非常勤講師…異世界人(ヨソモノ)で、獣人…ですか」

細く美しい指で写真を取り、凝視する。

「身元と素性を洗いやすい場所を、絞り込む必要があります。
………その『理想』について、"この男"はどのような"普遍的倫理"を掲げようとしたのか、分かる範囲で教えて頂く事は可能ですか?」

過激な、偏った思想を持ちながら、その知性には、豊かな蓄積と怜悧な冴えがある。
非常に作為的に振る舞いながら、若い女性らしい表情をかいま見せる。

非常にアンバランスながら、言い知れぬ「軸」がある。
それが、クローデットという人間だった。

獅南蒼二 > 「普遍的倫理か、そうだな、この男の言葉をそのまま引用しよう…

 “我々は決して『異』邦人でも、『異』能者でもない。
  それを常世島だけでなく世界中へ広め、知らしめるのが、私の役割だ。”

 と、まぁ、そのような事を言っていたな。この島の理想をコピーしたような男だ。
 【我々】の天命のためにも、この男を消したいのだが、それには……大義名分が無くては、そうだろう?」

僅かに細めた目、その輝きは、冗談を言っているようには見えない。
もう一枚、メモを取り出して、写真の隣に並べる。
門を通って来た異邦人であること、研究区にアトリエがあること、
学園の職員となった経緯が不明であること、
など、幾つかの情報が書かれている。

「私から渡せるものは以上だ。
 立場上私はあまり目立った動きが取れないのでな…引き受けてくれると、有難いのだが?」

クローデット > 「………うふふ、うふふふふ」

獅南が引用した、『ヨキ』という講師の言葉を聞いて、美しい唇から、笑い声がこぼれる。
…それは、先ほど不意に零した無邪気なそれとは、まるで違う…何か、暗い情念が篭った声。

(知らないくせに…何も、知らないくせに)

彼が「何」を分かっていないと言い切れるのか。
それでも、クローデットに積み重ねられた『想い』が、クローデットをせき立てた。

「島の理想をコピーした「だけ」の存在であるならば…大義名分はいくらでも出来ましょうね。
…それが「この島」のものに出来るかどうかは、あたくし次第なのでしょうが…努力させて頂きますわ。【レコンキスタ(あたくし達)】の、天命のためにも」

了承の返事を返し、追加されたメモを見る。

「………なるほど、表向きはこういうことですか。参考にさせて頂きますわ」

その情報を、しっかり脳に焼き付けた。

獅南蒼二 > 小さく肩を竦めて、同様に笑う。
獅南は【レコンキスタ】の天命に身を捧げるほどに組織を信望してはいない。
だが、自らの目指す魔術学の行く末を考えた時に、ヨキという存在は確かに障害であった。
また、どちらかが倒れるまで戦うのであれば、アドバンテージを握っておいて損はない。
そして、現時点で最も成功可能性が高いのはこの少女であり、動機づけが容易なのも同様にしてこの少女であった。

「大事にするのは後でも良い…死人に口なしだ。
 今は少なくとも、この男を消す理由があればそれでいい…
 …もし必要なら、落第街の酒場へ行け、極東支部との連絡口になっている。」

メモと写真をライターで焼き捨てれば…スライムの瓶をクローデットへ返す。
全てが元に戻れば、獅南は手を翳して…防諜魔法を解除し、扉を開けた。
あまり長い時間これを使っていれば、外部から魔力を察知される可能性がある。

「…くれぐれも、無理はしないことだ。」

クローデット > 厳密には、クローデットの思想の過激さは、【レコンキスタ】への心酔とは、微妙にずれがあった。
もっとも、それを把握している人間は、現時点ではごくわずかに過ぎないだろう。

「…消す理由「だけ」、あればよろしいのですね?
確かに、承りました」

羽根扇子を広げ、口元を隠す。その下には、やや歪な下向きの弧を描く唇。

「…近いとはいえ、随分密に連携を取っておりますのね。
必要と判断した際には、頼らせて頂きましょう」

やや呆れた口ぶりで言いながら、スライムの入った瓶を受け取る。
実のところ、外部から察知される危険性と…「それ以外の理由」から、クローデットは、「フランス支部としては」、ジュリエットを連れただけの、ほぼ単独行動だった。

「…お気遣い、感謝致しますわ。」

羽根扇子を閉じ、優雅にお辞儀をした。

獅南蒼二 > 「いや、構成員ではないよ…私の教え子たちだ。
 情報の共有と、主に研究成果の報告にしか使用していないが、ね。」

それは極東支部の計らいではなく、獅南が独自に構築した連絡ルート。
従事するのは二級学生に分類される、いないはずの生徒たち。だからこそ、足がつくことは無い。
落第街に無数に存在している、外部との非公式な連絡手段の1つとしか認識されないだろう。
……違法なやり取りさえ行わなければ。

「頼りにしているよ…。」

お辞儀に、小さく頷くように返して…少女を見送るだろう。

クローデット > 「………なるほど、そういうことでしたか」

【凡人教室】。その評判は、当然クローデットも知るところとなっている。
…まさか、そのような「使い方」をしていたとは。
クローデットの声には、感心したかのような響きが混ざるだろう。
…無論、それと「どの程度頼るか」は、別の話なのだが。

「ええ…それでは、また、何かあれば」

そして、クローデットは獅南の研究室を後にしたのだった。

ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」からクローデットさんが去りました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、クラシカルな服装で人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子>
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。<補足:無精髭を生やした白衣の男。ポケットに入った煙草の銘柄はペルメルの赤。>