2015/11/11 - 22:28~01:04 のログ
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > 「これはまた……死屍累々であるな……」
(美術室。常世祭終了後、平日の授業である。
二週間に渡るお祭り騒ぎの後とあって、初心に返るべく三日間、計九時間の着彩デッサンを行ったのだ。
未だ浮ついているものの絵は、ヨキの――色の弁別に鈍い――目にもありありと見て取れた。
異能で作り出した指示棒が、にょきりと乗馬鞭の形に変わって生徒たちを威嚇する)
「祭りは終わったのであるぞ。本土の美大に編入したくば、これから気合を入れ直すのだな」
(かく言うヨキこそが昨晩自宅でもっとも乱痴気騒ぎに耽った一人なのだが、
済んだことは済んだこととしてすっきりさっぱりと処理されるらしい。
心なしか肌の色つやが増したような顔をして、今日も今日とてばりばりと教鞭を執っていた)
ヨキ > (そうして惨憺たる講評会が幕を閉じ、授業が終わる。
説教を食らわされたとて、ヨキの担当する授業は人数がそれほど多くないこともあって和やかだ。
やがて片付けを終え、生徒たちが退室してがらんとした教室。
ヨキは壁際にひとり佇み、それまで裏返されていた大きなパネルに描かれた絵を眺めていた。
常世祭でヨキが手ずから描いた、森羅万象に囲まれて黄金色に輝く獣の姿だ)
「………………、」
(生徒たちが教師らの指導を仰ぐのと同じように、ここではヨキもまた研鑽を重ねるひとりに他ならなかった。
ローブの前を寛げ、黒い長袖のインナーを晒した諸肌脱ぎの格好になり、準備室から画材の詰まった箱をがちゃがちゃと取り出してくる。
二枚組の巨大なパネルの前に椅子を置いて腰掛け、いざ腕捲り)
ヨキ > (太い刷毛を取り、絵具を混色する。
ヨキの混色作業は、おそらく人よりはるかに時間を要した。
チューブのラベルを見遣り、色の番号を眺め、人間より青褪めた色覚の中で彩りを想像しながら混ぜてゆく。
ヨキの作る色は、時として自由とも、ちぐはぐとも呼ばれた。
生徒たちの中には、ヨキの視覚のことを知っている者も、知らない者も居る。
気付いていながらにして、日本人らしい慎ましやかな遠慮から口に出すことを憚っている者も居るだろう。
問題が起こらぬ限り、ヨキは特に何も明かしはしなかった)
(――そのようにして慎重に混ぜ合わされた絵具の塊を、刷毛の先に掬い上げる。
椅子から徐に立ち上がり、獣の顔としばし向き合い――)
(毛並みまで緻密に描き込まれた獣の顔の上に、ばしゃりと絵具を叩きつけた)
ヨキ > (右手にパレットと筆を取り、左手に握ったナイフがぐり、と絵具を伸ばした。
脳裏に『落ちてきてしまった』ものはもう仕方がないのだ。
止め処ない創意に突き動かされる手が、獣の姿を見る間に塗り潰し、画面を蝕むように変えてしまう。
座ることも、水の一滴を口にすることもなく、黙々と絵と向かい合う。
獣は少しずつ輪郭を失い、他の生き物や無機物とさえ交じり合い、色彩の魔物と化してゆく。
画面に向き合い集中し、薄く開いた唇は、果たして呼吸を忘れずに居るかどうかも怪しかった)
ヨキ > (畸形の獣が少しずつその顔を現す。
眼差しに鋭さを湛え、質量を増し、限られた時間の中で描き上げられたディテールが精細さを高めてゆく。
ただ芸術によってのみ生きることを決めた半人半獣の、迷いなく画面を打ち据える描線。
塗り重ねられて盛り上がった絵具のマチエールは、ヨキの持つ衝動そのものの表れでもあった。
既に発表を終えて、残すとも棄てられるとも知れない作品に、黙々と向かう。
そうすることが、たったひとつヨキに与えられた呼吸の方法であるかのように)
ヨキ > (時間が過ぎるのも忘れて没頭し、自分が設定していたスマートフォンのアラームで我に返った。
夢から醒めたような顔をして、息を吐く。そっと筆を置いて、すっかり温くなったペットボトルの茶を飲む。
ぶつかり合う色彩が、不可思議な均衡を産み出す画面。
身体の内側でどろりと粘つくような熱が、宿ったきり冷めることを知らない。
このままいつまでも、腕が擦り切れて落ちるまで描いていたかった。
だが自分は、『真っ当な人間』であるからして――
次の授業の準備へ移るのだ。
誰に捧げるでもなく塗り重ねられた絵のパネルが、しんとした無人の教室に佇んだきり残される)
ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪、拘束衣めいた白ローブ、ベルト付の白ロンググローブ、白ストッキング、黒ハイヒールブーツ>