2015/12/15 - 22:34~00:31 のログ
ご案内:「球速Free」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪と公安委員会のロゴ入りタオル、黒地に白で「3LDK」と書かれたTシャツ、ライトグレーのつなぎ、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > (何かひとつの分野を究めんとする者は得てして無頼に傾きがちである。
この常世学園という異界において、『芸術』というピーキーな分野に魂を売った美術系履修生たちは半ば愚連隊と化し、
作品の完成が済むや否や他のゼミへ乗り込んではパズルゲームやボウリングやカラオケ大会に勤しむのであった。
そういう訳で、今日は野球である)
「……………………、」
(ベンチに座ったヨキが、そわそわと試合の流れを見守っている。
もちろん、野球はおろか球技に疎いヨキがチームを率いている訳ではない。
ヨキの隣に悠然と座った、陶芸履修生の四年女子が便宜上カントクと呼ばれていた。
彼女が愛する本土の『推し球団』の話に、ヨキはついて行けたことがなかった)
ヨキ > 「……!カントク、今のは反則ではないか」
『今のは盗塁っす、先生』
(しょぼん。肩を落とす。
金属バットの高らかな音がグラウンドに響いては、老若男女の歓声が沸き立つ。
今回は美術学科VS生活委員会という、よくわからないカードである)
「!カントク!あれはずるいぞ!」
『今のはダブルプレーっす、先生』
(尻を浮かせ掛けたヨキに、カントクの冷静な声が飛ぶ。
そのたびヨキはしょんぼりとした顔をして、ベンチを温め直すのだった)
「カントク。いつになったら乱闘がは始まるのだ……」
『野球はそういうスポーツじゃねえっす、先生』
(まるでこの世の残酷な真実を突き付けられたような顔をして、ヨキが肩を落とした。
どうやら、テレビの珍プレー特集に影響されたらしい)
ヨキ > (普段から石膏や粘土や石や角材や巨大電動工具と向き合う美術系ゼミの学生らは、案外と逞しい。
各々異なる素材で汚れた色とりどりのつなぎが、彼らのユニフォームであった。
だがやり手の異能や魔術師も交じっているとはいえ、相手は常世島のインフラ整備を一手に担うかの生活委員会である。
じわじわと開いてゆく点数差に、ヨキは『こうなったら乱闘しかない』と言い出してはチームメイトに止められていた。
『先生の打順っす』というカントクの声に、はっと我に返る。
当たれば、否、当たりさえすればでかいという理由で四番打者にねじ込まれたヨキが、染織を専攻する女子からバットを受け取り、
バッターボックスへのそのそと出てゆく。
二メートル近い身長で打席に立ってピッチャーを睨み付けると、それだけで迫力は十分に備わっていた)
『先生!バットの持ち手!逆っす!』
(カントクの声が飛ぶ。
あ、と気付いたヨキが慌てて両手を入れ替えると、グラウンドがどっと笑いに包まれた。
最早、スラッガーという名がついただけのマスコットである)
ヨキ > (今度こそ正しくバットを構える。
迎え討つピッチャーは、生活委員会が誇る強肩の男子である。
日々の土木作業で培われたと思しき体格が眩しい。
しかしてこちらは我らがヨキである。獣の動体視力に捉えられぬボールなどないのである)
『ストラァーーイッッ!』
(ずばん、と音がして、ボールがキャッチャーミットに突き刺さった。
審判の朗々とした声。ベンチでカントクが顔を覆っているのが見える)
「……ふははは!次は打つ!斯様な球速、ヌルい!手緩いわ!」
(『先生は金属弄れてもバットに釘とか生やしちゃだめっすからね』とは、試合前のカントクの言である。
言われたこと素直に守るのがこのヨキだ。
空高くバットを突き付け、猛々しい予告を披露する。振るったバットで風を切り、構え直した)
ヨキ > (きん、と澄んだ打球の音)
(ボールが高く高く常世島の空を飛び――)
(後方のフェンスを軽々と超える、大ファールであった。)
(地面を叩く音がして、グラウンド傍の通りに硬球が突き刺さる)
ヨキ > (実際、ヨキにはボールの軌跡が本当に見えていた。
手やグローブを出せば、即座にキャッチしてみせたろう。
だが元が獣であるところのヨキは、道具を使って球を打つ、という動作が、破滅的にヘタだった)
「あと一球だと……!」
(ボールとファールで持ち堪えてきたのが、今やツーストライクまで追い込まれていた。
次で決めてみせる、とばかり気を取り直し、正面のピッチャーを見据える。
ヨキの選球眼は、決して鈍くはない。
ただ単純に、道具の扱いがヘタなだけなのである。
ピッチャーの手から、見事な速球が放たれる――)
【1:ホームラン/2~5:ストライク/6:デッドボール】 [1d6→4=4]
ヨキ > (剣道も斯くやという怒声を響かせて、渾身の力でバットを振り抜く。
その一閃は重い音を立てて空を切り、ボールは無慈悲にもヨキの広いストライクゾーンの外角ぎりぎりを貫いた。
役立たずーッ、と、美術チーム側のベンチから罵声が飛ぶ。
まだ一球あと一球、と泣きの一回を要求するヨキが、カントクに引きずられてベンチへ戻されていった)
(――試合は、言うまでもなく生活委員会の圧勝で幕を閉じた。
美術系ゼミの面々はその後、ヨキの目の前でカフェテラス『橘』のパフェを食べる、打ち上げという名の罰ゲームを敢行したという。
そうして愉快な一日を終えた愚連隊の面々は、次の作品が完成するまでは再び修羅の日々である)
ご案内:「球速Free」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目、スクエアフレームの黒縁眼鏡。197cm。鋼の首輪と公安委員会のロゴ入りタオル、黒地に白で「3LDK」と書かれたTシャツ、ライトグレーのつなぎ、黒ハイヒールブーツ>