2015/07/23 のログ
ご案内:「屋上」にウェインライトさんが現れました。
ウェインライト > 生きるべきか/死ぬべきか

ウェインライトはそれに近しい命題を抱えていた。

血は吸っていない。
久しぶりの食物摂取。ソーダ飴。
美貌の吸血鬼が営む生活はかなり困窮。

学園の授業を受け、卒業するという約束。
美しき生活を送るという信条。

二つに一つ。
己の美学をどこか曲げなければ、ウェインライトは死ぬ。

「嗚呼……」

白磁のような喉が震え/金糸雀がさえずるが如き声/遠くを見つめる赤の瞳

「美しき二律背反……」

絶体絶命DIEピンチ。
いっそこのまま植物のように美だけを体現する何かに変わりたい気持ちもあった。

ウェインライト > およそ労働には向かない身体。

教員職。
メイド。
ヒヨコのオスメス鑑定士。

いずれも全て失敗した。
どれもこれも身体が耐え切れなかったのだ。
儚い命のウェインライト。

大体その生命はハンバーガー四個分以下の軽さを誇る。

踊りながら、歌いながら苦悩する。
ウィーン国立歌劇場すら狙いうるその美しきたるは、
残念ながら演劇の時間までは持続しない。

つまりパフォーマーもアウトである。

転落防止用の手すりに背中を預け、その背を温かい日差しが照らす。
汗ばんだ肌を冷やすように、風が一陣吹きつけた。

ご案内:「屋上」にサリナさんが現れました。
ご案内:「屋上」からサリナさんが去りました。
ウェインライト > ――今誰かが屋上に入ってきた気がした。
しかしそれは気のせいだった。

「フフ……きっとこの僕の美しさに恐れを成してしまったのだろうね」

恐れることはないというのに。
美とは、手を伸ばしてこそ愛でることができる。

ウェインライトは常に、美を愛でてきた側の吸血鬼。
ほんのちょっぴり切なくて、ウェインライトは一条の涙を流した。

「この僕の美しさは、深い深い罪なのだね……」

その態度を改めるつもりはない。

ウェインライト > 背中から照りつける暖かな日差し。
汗ばむ身体。

美しき雫が流れ落ちる。
涙とは、命の一滴。
これが零れることによって、ウェインライトの命がかけていく。

ウェインライトのなめらかでしなやかな肢体が震える。

まるで神に跪くようにウェインライトが膝をつく。

「嗚呼ッ……!」

全身から活力が抜け、そのままに倒れ伏す。
脱水症状だ。

屋上でうつ伏せに、ひとつの死体が出来上がる。
それは夏の日の、美の抜け殻。

#死因・一滴残らず絞り尽くされた水分

ウェインライト > おそらく涙は鮮度の一滴。
魔導師からすれば垂涎の一品足り得ただろうか。

悲しいかなウェインライトを救う神はいない。

家畜の神が居てもウェインライトの神は居ないのだ。
神より美しい存在とは神話において死亡フラグに他ならない。

どこかで蝉が鳴いている。

人はウェインライトを見て、

蝉よりマシというだろうか。
蝉より儚いというだろうか。

美とはかくも険しき試練。
生きるべきも死ぬべきも、ただ美のために捧ぐ。

ウェインライト > フィンガースナップ。

唐突に死体は消え去り、屋上に美貌が現れた。

いつの間にかそこに居て/最初からそこに居たかのように

干からびた身体もいつの間にか元に戻っている。
蘇ることがあればウェインライトは枯渇しない。
ただただゆるりと死に至るだけ。

ウェインライトにとって、美を曲げることは死に等しい選択だ。
だが――。

「美学のために美を曲げることも必要か」

誓いを破ることほど美しくないものはない。
美学とは、いかに自分が気持ちよく生きることができるか。
ウェインライトは、己の中で何を曲げることができるか思案する。

「考えがまとまらないな」

細く繊細なまつげが震えた。
半分にふせられたそれは、赤い光を覆い隠す。

まるで朧月のようにたゆたう赤い瞳。
ウェインライトは思案した。

ウェインライト > 「耐え忍ぶか、立ち向かうか。
このエレガントな僕にふさわしい選択を!」

幻想の剣を抜き払う/馬鹿には見えない剣/エア劇場

歌いながら歩むその周囲は、まるで砲火に晒される戦場のように映るだろうか。

生において必要なのは決断だ。
苦悩は人を臆病者へと変えてしまう。

そこはウェインライトの道ではない。

炎の華で彩られた石畳を行く。
それは全て幻想だが、勇壮な歩みは真に迫る。

「いざ征かん! 僕の美しきロードを……!」

鉄火に満ちた戦場に挑むような歩み。

真に迫るがごとき戦場が瞳に映しだされていたために、

「あ」

呆気無く真実の階段を踏み外した。

#死因・妄想もほどほどに

ご案内:「屋上」からウェインライトさんが去りました。