2015/09/18 のログ
ご案内:「ロビー」に倉光はたたさんが現れました。
■倉光はたた > 「…………」
白い髪の少女――倉光はたたが、ひと気の少ないロビーのソファに小さく座っていた。
普段から常世島各所を気ままに探索している倉光はたたの姿は、
ここ学生が授業を受ける教室棟でも時折見受けられることがあった。
しかしいつもと違うのは、今日のはたたは学生服を着用しているということだろうか。
その姿はどこかぎこちない。
■倉光はたた > 落雷事故以来はたたはずっと休学扱いであったが、
この度、ようやく学生として復帰することになった。
先程までは、鞄を背負い、参考書とノートを引っさげ、
『以後』のはたたとしては初めての授業――ちなみに近代史――に参加していた。
どうなるものか、と、思われていたが――席に座ってみれば
案外なんとかなった。
久々に授業へ訪れたはたたを慮ったものかどうかは知らないが、
授業が基礎的な内容の復習が主だったからかもしれない。
現在は、『以前』のはたたの旧友からの質問攻めを受け、
それから逃れるようにしてロビーへと来たのだった。
■倉光はたた > 鞄から参考書を取り出して授業でやったところのページをめくる。
近代――《門》の出現、異邦人の到来、異能と魔術の“発見”。
それからの世界の動き。
放電の異能も、翼の生えた人型の存在も、
かつてほどには珍しいものとは言えなくなった。
けれど、この間までそうではなかった人間が
そういったものを得て、雰囲気までもがまるっきり変わってしまうのは――
やはり珍しいことであるらしい。
落雷事故のことを事細かに訊かれ、
白い髪や翼状突起を無遠慮ともいえる手つきで触られ、
今まで何の音沙汰もなかったことを怒られ――
「…………」
有翼人用に穴の開けられた制服の上着から露出した翼は、
力なく垂れていた。
■倉光はたた > あったものがなくなり、その隙間にあらたなものが入り込む。
きっとそれは大変なことなのだろう。それを肌で実感しつつあった。
授業の内容を理解するよりも難しい課題だ。
それでも、『しらない』を『しってる』にしなくてはならない。
この学校という場所に通うことは恐らくその助けとなるはずだ。
参考書を一度膝の上に置き、じっと自分の両手を見る。
「わたしは……
倉光はたた」
これからずっと縛られていくことになる名前。
『以前』から引き継いだ遺産であり、己を縛る鎖。
それから改めて、参考書を手に取って、暫くの間ひとりで読みふけった。
ひとの操る言葉を、『思い出せる』ようになってから――
本というものは、けっこう楽しい。
ご案内:「ロビー」から倉光はたたさんが去りました。