2015/09/20 のログ
■日下部 理沙 > 「えっ……」
時間が、止まった。
それは正に、理沙にとって。
ヨキの語るその言葉。その視点。その答えは……青天の霹靂だった。
ヨキの言う通りだ。
彼ら異邦人からすれば、ここは正しく『異邦の地』で……帰ることも出来ない人も山ほどいるのだ。
そんな人達が肩を寄せ合って、なんとか自分達の寄合を保っている聖域こそが、異邦人街なのではないか。
その聖域はそれでも借り物だ。
そうであることを、彼らも理解している。
理解しているからこそ……『家主の種族』には、触れられないのではないだろうか。
まさに理沙が『余所者が声をかけるのは躊躇われる』というのと全く同じ理由で。
遠慮しているのではないか。
いや、違う。
『畏れて』いるのでは、ないか。
お互いに。お互いにあるものと、ないものを。
正しくそれが、互いの『当たり前』でないが故に。
その溝を埋めるため歩み寄ることを、互いに恐れているが故に。
それも相手の力ではない。
己のそれが、相手を傷つけるのではないかと……忌まれることを、恐れるが故に。
「あっ……」
そこで、理沙は気付いた。
正しくこの場でこんな質問を『人間の自分』が『異邦人の教諭』にすることこそが……或いは、彼を傷つけたのではないかと。
身勝手な己の自意識の矛先が、ヨキという一人の異邦人教諭への無礼になったのではないかと。
だからこそ、理沙は、深く深く、頭を下げた、
「……すいません、ヨキ先生。
私は……身勝手で、考えなしでした。
気付かせてくれて、本当に……ありがとうございます」
謝罪も、感謝も、どちらも込めて。
ただただ、深く。頭を下げる。
■ヨキ > (理沙の顔を、真っ直ぐに見る。
先ほど垣間見せた異邦の獣とは程遠い、ヒトの教師の顔付き。
理沙が頭を下げて謝罪する様子に、いいや、と目を伏せて微笑む。
相手へ向けていた紙を再び引っ繰り返し、いとおしげに絵を見下ろす)
「ヨキの幸福は……異邦人と、地球人と。教師として、その間に立てることだよ。
我々異邦人という『闖入者』を前にした、君たち地球人の混乱を理解する。
地球という『異世界』に肩を寄せ合う、異邦人のさみしさに寄り添う。
それが――『自分にはできる』と思ったし、学園もそれを認めてくれた。
だからヨキは、こうしてずっと教師を務めていられる。
日下部君が謝ることはないさ。
君の中で何かが閃いてくれたなら、そちらの方がヨキにはよほどの一大事さ」
(顔を綻ばせ、紙から顔を上げる)
「……それで、アドバイス。
描こうとするものの中で、いちばん自分が『これだ』と思うものを、ひとつ見つけてみたまえ。
ビルの形が変だとか、綺麗な女の人が居ただとか……何だって構わない。
これだ、と思って描き込んでいったものは、自然とその絵の『主役』になる。
もしも眺めていて、ぱっとしないなあと思ったら……この真ん中の道。
ここを奥に入っていくとな、面白い形のオブジェが立ってる公園があるんだ」
(そこまで言って、ふふ、と小さく笑う)
「人も、風景も。
切り取ろうと思ったら、まずは一歩だけ踏み込んでみるがいい。
こんにちは、と一言挨拶するだけでも――知らない通りの向こうへ、たった一本、入ってみるだけでもな」
■日下部 理沙 > 穏やかな笑みで、そう、赦してくれるヨキ先生。
嫋やかな物言で、そう、諭してくれるヨキ先生。
彼方と此方の狭間で橋渡しをすると、語る異形の教師。
果たして、彼はそれをしていた。
自分にも、最初此処に来た時にそれをしてくれた。
実技的な技法のアドバイスをしながらも、それこそ『一歩踏み入った助言』をしてくれるヨキに、つい理沙も深く頷き返す。
翼を微かに動かして、頷く。
「観察することが……絵の第一歩で、観察するためには……踏み込まなきゃ、ですものね。
やってみます。今日は、本当に……ありがとうございました、ヨキ先生」
こちらに向けられ、差し出されたラフを恭しく受け取って、理沙は踵を返す。
そして、一度だけ向き直って。
「また、『分からない時』は、よろしくお願いします」
信頼と、感謝と……畏敬を込めて、そう呟いた。
それきり、理沙は歩き出す。
今まさに得た、教示を胸に。
ご案内:「職員室」から日下部 理沙さんが去りました。
■ヨキ > 「そうそう。
異邦人だって、街に暮らしている限りはみな人間さ。
いいことがあれば感謝するし、悪いことがあれば謝る。
うまく行かないことだって、勿論あるだろう。
だけどヨキは……それを上回るほどには良いことがある、と信じているのさ」
(理沙の表情が、随分と明るくなったように見える。
向き合ったヨキもまた、満足げに頷き返した)
「また何かあったら……いや。何もなくたって、気が向いたら訪ねてくるといい。
ヨキはいつだって、君の味方だよ。日下部君」
(笑って、職員室を後にする理沙を見送る。
余韻に浸るように机に向き直って――置き放しの新聞を畳み直し、仕事に戻る)
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「食堂」にサルヴァトーレさんが現れました。
■サルヴァトーレ > 「ん~~!この学園はいいね~。どんな国の料理でも出てきて」
一年、サルヴァトーレ・パガニーニは学食で昼食を取っていた。
食べているのは、どうやらタジン鍋の様だ。たくさんの野菜と羊肉が色鮮やかに蒸し煮されている。
学食は他にも無数の生徒がいて騒がしい。
その騒がしさも活気として受け取り、サルヴァトーレは気分よく食事を続ける。
「甘味に関しても学食とは思えない品揃えだよねー」
入学して以来、学食の甘味を全て網羅しようと食べているが終わりが全然見えない。
甘味が無類に好きな彼は笑顔でいくつもの甘味をいつも食べている。
(ん、今日は何を頼もうかな。財布と相談しないと……)
手持ちのお金には限りがある。無限に甘味を買うわけにはいかないのだ。
・・・・・・・
満足するまで食べるだけならどうとでもなるのだが。今の彼は未知の甘味に心を奪われるお年頃なのだ。後、女性にも。
■サルヴァトーレ > (三つが限界か!むむむ)
食事が終わればすぐにデザートだ。
財布との相談の結果、本日の三つを決めねばならない。すごく悩んでいる彼だが、最終的にはいつもの頼み方に落ち着く。
つまり、メニューの順番に3つである。
今まで食べたことのある物の下三つを頼んで受け取り、席に戻る。
「あ~、幸せだなー……」
至福とはこうだ。と示すかのようなゆるんだ顔でパクパクと三つの品を食べていく。
食べる、食べる。カフェオレを飲む。また食べる。何故か、終わらぬ。食べる食べる。
■サルヴァトーレ > 席も立たずに、ケーキとカフェオレは補充され続けていた。
ああ、無限に甘味に浴される。だが、胃の限界というものはあるのである。
「うん、まぁ、今はこのくらいで」
何故かいつまでも減らないようなケーキを食べていたが、どうにか満足したのか、食べ尽くした。
そしてカフェオレを飲み干すと、何処からか取り出したロリポップを咥えながら、学食から立ち去る。
ご案内:「食堂」からサルヴァトーレさんが去りました。