2015/09/24 のログ
ご案内:「教室」に日下部 理沙さんが現れました。
■日下部 理沙 > 背中の翼の関係で補習授業をいつものように列の最後尾で受けながら、理沙はその実、上の空だった。
一応板書はとっている。問題も解いている。
だが、もし今教師に指名されたら「すいません、きいてませんでした」か「わかりません」のどちらかしか答えられないだろう。
その程度には、上の空だった。
理沙の頭は先ほどまで空き教室で話していた、東雲七生とトトの事で一杯だった。
■日下部 理沙 > 自分をして、友人と言ってくれた彼ら。
ただ空き教室で出会って、たまたま話し込んで、それだけで友達と言ってくれたあの二人。
だが、折角そういってくれたその二人に対して理沙が感じた感情は……一言でいえば、やはり「引け目」であった。
七生の笑顔も、トトの笑顔も、魅力的だった。
なるほど、そんな笑みを誰にでも差し向けられるのなら確かに彼らは友人が多いのかもしれない。
だが、果たして自分がそこに入れるのかと思えば……理沙には只管疑問であった。
そこは、自分が『居てもいい場所』なのだろうか。
あの場に、自分はいてよかったのだろうか。
理沙はそればかり考える。
少なくとも『前』はダメだった。
『前の場所』では、理沙はそこにいてはダメだった。
ダメだったから、こんな絶海の孤島に島流しをくらった。
■日下部 理沙 > ヨキと初めて喋った時もそうだった。
ベアトリクスと喋った時もそうだった。
だが、彼らはどこかしら「外れた側」の人物だった。
だから違和感もなかった。だからこそ一緒にこの島にいるのだろうとも思えた。
だが、七生やトト……ちはやは、どうなのだろうか。
ヨキやベアトリクスが外れた側に身を置いて己を持てる強者だとすれば。
彼らはそこに躊躇なく手を差し伸べられる強者である。
少なくとも自分はどちらでもない。
この翼が真っ白な鳥のそれではなく、真っ黒な蝙蝠のそれだったらどんなに気楽だったろうか。
■日下部 理沙 > 彼らはきっと、友人である自分と仲良くしてくれるだろう。
理沙も彼らと精一杯仲良くしようと努力はするだろう。
だが、それ以上に何かを返せる気がしない。
一方的に「お零れ」に預かり続けるビジョンしかみえない。
それが、理沙が感じた引け目の正体であり、自分がそこに至れる気がしないという敗北感と疎外感でもあった。
まぁ多分ようは、羨ましいのだろう。
隣の芝は永久に青いし、無い物は欲しくなる。
きっと、それだけのことなんだろう。
■日下部 理沙 > ぼさっと、さっきの空き教室と同じ場所にあった時計を見る。
同じ間取りの教室だ。
そして間取りが同じなら、自分が今座っている場所はさっき七生が座っていた場所とだいたい同じ場所である。
もし、この補習が終わった後、自分が寝こけてしまって。
もし、そのあとに誰かしらの既知と共に見知らぬ誰かが後ろの戸をあけて入ってきて。
もし、そのあと寝ている自分を起こして、机の中の忘れ物をとりたいといってきたとき。
自分は、あんなふうに、会話を盛り上げて、「友達になろう」だなんて……いえるだろうか。
自分は、あんなふうに……七生とトトみたいに、笑えるだろうか。
答えはすぐに帰ってくる。
きっと、無理だ。
自分はきっと……笑えない。
間違いなく、笑えない。
■日下部 理沙 > そこで自分はまだ足踏みをする。
ヨキは踏みだしてごらんといっていた。
だが、踏みだしていいのだろうか。
自分がそこに『踏みこんで』いいのだろうか。
ふと、窓際から外を見れば。
丁度、七生とトトが並んで下校している姿が見えた。
二人とも仲睦まじそうに笑いながら、会話を楽しんで下校している。
多分それが彼らの日常で、彼らの築き上げた友情なのだろう。
だからこそだろうか。
そこに、安易に自分の姿を重ねることが……理沙にはできない。
単純に、畏れ多い。
自分などがその「お零れ」に預かる事が。
■日下部 理沙 > 理沙は異能者である。だが異能の力は飛べない翼だけ。
理沙は健常者である。だが人間にはない白い翼がある。
自分は『持てる者』なのだろうか。
それとも『持たざる者』なのだろうか。
どこに居ればいいのだろうか。
丁度、そこで教師から指名されて、理沙は立ち上がる。
答えなんて、生憎今は一つしかなかった。
■日下部 理沙 >
「わかりません」
ご案内:「教室」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「教室」に梢弧月さんが現れました。
■梢弧月 > あー、つまり、だ
わしの使う仙術というのはあれよ、西洋の魔術のような神秘を扱う術形態とはちと違う
いわゆる学問、物理法則と似た様なものでな
10の出力を得るには10の答えを得る式を編まねばならぬ
10kgの物を持ち上げるのには10kgの力が要ろう?
そこに梃子の原理や滑車を使い、より少ない労力で大きな結果を得ようとする
その式を編むために、天地自然の法則を読み解き、感じ、理解するという事が慣用でな
(教壇の向こうでみかんの木箱の上に立ち、白衣の袖を余らせた少年がジジイくさい口調で淡々と授業を進めている
見たところはローティーンと言ったところで、顔立ちは美少年と呼ぶに相応しい
しかしその口調、そして瞳が枯れた雰囲気を付与し、そのような印象を薄れさせている
また喋り方も傲岸、といえば言いすぎになってしまうが、強固な自我を背景とした堂々とした態度であり
子供らしさという物を一片残さず駆逐していた
彼の名は梢弧月、東洋魔導工学基礎及び概論の教師をやっている仙道の者であった)
■梢弧月 > では物理法則のようにこの世の判り易い表層を司る力とは違う、目に見えぬ法則を操るにいかようにすればよいか
それは矛盾を制御する事にあるのよ
矛盾を打ち消すのではなく、許容と制御、それにより一見して「ありえぬ」事を「ありえる」手元へと手繰り寄せるのだ
(と、白衣のポケットから一対の徳利と盃を取り出し、教壇の上に置く
それは一見すれば何の変哲もない酒器ではあるが、見る物が見れば整然とした何らかの法則により成立している魔導具であると気付くだろう)
これはわしの作った酒器なのだが
こうすると…ほれ
(と、良く見えるように徳利を持ち上げ、傾けると中から水がとくとくと溢れ盃に注がれる
注がれる
注がれる
そこに来て、心得のある者はほう、と注目し、ない者はおう、と感嘆の声をあげる
徳利から注がれる水の量はすでにその小ぶりな器を干すのに十分な量を溢れさせており
また、受ける盃もとうの昔にあふれかえらねばおかしい量の水を受け止めているのだ)
■梢弧月 > これは中の空間、容量を弄っておってな
この矛盾を許容するには初歩的な手段では碗一杯の水を入れるのに碗二杯分の重さを手元に残す、などがある
そしてわしのように偉大な、はい復唱
いーだーいな、術者となれば、その矛盾は無数に細かく散らし、一見して神秘の道具であるかのように利点だけを引き出す事が出来るのよ
これを…
(かつ…と黒板にチョークを当てようとして、気付く
低い、低いのだ
教壇から黒板までわずかな距離がある
そこを降りてしまえば彼の書ける位置は…控えめにいっても下端に近い
彼も見た目どおりの存在ではない、飛び上がって一瞬の内にチョークを閃かせ文字を残すこと等造作もない
が、しかしそれは些かかっこ悪い
先頭の方の生徒にクイっと顎で支持を出すと生徒は立ち上がり
弧月の両脇に手をいれひょい、と抱き上げる)
これは壷中の天の法則という技術を使っておってな
おとぎ話などにも良く出てこよう?幾ら飲んでもなくならぬひょうたん
洞窟の中に広がる巨大な屋敷
何もない空間をそのまま弄るのは手間がかかるが、器という定義が道具として用意されておるがゆえに扱いやすい
このように既にある物の特性を利用していくのが第一歩となるのだ
(黒板にはチョークなのに無駄に達筆な筆致で壷中の天、と書かれ
その下には口頭で説明した事を図解にしてまとめている
弧月を抱き上げた生徒はトロフィーを掲げるかのように大きく持ち上げ、左右に見せびらかせてからそっと降ろした)
■梢弧月 > では次回は実際に盃の容量を弄る実習を行う
モノはわしが用意しておくでな、特に必要なものはないが、おぬしらが必要と思うものは何を持ち込んでも構わぬ
では本日はこれまで
(と、教壇をタンと叩けば、それに合わせるようにチャイムがなり授業の終了を告げる
生徒達が三々五々と散って行けば、てふりと教壇の上につっぷして頬をつける
もにゅりと形を変える頬は大変柔らかそうで…一部の女子生徒とごく一部の男子生徒の視線が、熱い)
ふぃー、くたびれた……
なかなか難しいのう…基礎教えるの
(今までに取った弟子はある程度の仙道の才があったり
自ら修行して仙境へと踏み入れるだけの素地があったので苦労はしなかったが
予備知識がまったく無い状態の子供達に教えるというのはなかなか神経を使う作業だった
これがある程度の下地の出来た個人であれば10割擬音でも教えきる自身があるのだが
しかしまあ、この歳になって苦労するというのもなかなか愉快な経験であった)
■梢弧月 > ん~?
おう、質問な、熱心で結構結構
ふむ…ふむ……
うむ、まあ出来るぞ、器無しの空間操作
が、それは安定性が悪い、器というのは境界であり形を定義するもの
よいか?天然自然の物に勝る完成度の物などない、それは在るべくして在るのだ
それを利用するのは合理的思考が故によ
まあその不安定さを利用した使い道もあるのだが、教えてやーらぬ
基礎をしっかり固めてからにせい
なんだ次もおるのか
なに、わしの歳?ぴっちぴちのローティーンという事にしておけ
はい次
うむ、それは宿屋を使えば乱数調整出来るでな
神社のおみくじ一発目で確認出来るゆえそこで調整してから開けよ
おう、そこの攻略な?
ペアリスもう死んだ?
あ…すまぬ…
(など、熱心に質問に来る生徒に教壇に突っ伏したまま、ぞんざいに丁寧に答えを返して行くのであった
梢弧月、浮世を捨てた仙人である彼はわりかし俗世をエンジョイしていた)
ご案内:「教室」から梢弧月さんが去りました。