2015/09/28 のログ
ご案内:「教室」に倉光はたたさんが現れました。
倉光はたた > 授業の行われていない、空き教室。
明かりは落とされたままで薄暗い。

その教室の隅に数人の生徒がいる。
表情のない、制服姿の白い髪の少女――倉光はたたと、
それを取り囲むように立つ数人の男女の生徒。
友好的な雰囲気は彼女たちのあいだに流れていない。

『あのさあ……アンタ本当に、“倉光はたた”な、わけ?』

取り囲む生徒のうち、背の高い女生徒が
険のある表情ではたたへと詰め寄る。

倉光はたたは、もともと黒髪黒目の異能を持たない“普通”の人間であったが――
落雷事故を境に、一度死に、今は容姿、能力、精神すべてが大きく変貌してしまっていた。
そのまま復学し、『倉光はたた』を名乗り続けるなら――
いずれはこうなることは必定であった。

倉光はたた > 今はたたを取り囲んでいるのは、
いずれも『前の』はたたを知っていた生徒――つまりかつての知人友人である。
彼らははたたの復学当初、腫れ物を扱うようにはたたと距離をとっていた。
しかしいつまでも見て見ぬふりはできぬものである。

教室でははたたは奇矯な振る舞いを見せていた。
席についてきちんと板書をしているかと思えば、
窓の外に鳥の影を見つけては窓へ駆け寄って鳥を目で追いかけたり、
ちょっとしたきっかけで背の翼状突起を広げて周囲に迷惑をかけたり。

珍妙な言動や外見を示す生徒は、実際のところそれ自体だけでは
この常世学園において別に珍しいものでも何でもない。
だが、それがついこの間まで何の変哲もない女生徒であったなら。

「はたたは…………」
『はあ、なにが“はたたは”だよ。キャラ作りのつもりか?』

はたたは凍りついたような無表情で抗弁しようとするが、
それに重なる女生徒の声がますます高圧的なものとなる。
本当に『キャラ作り』であったなら彼女らとて無視できるのだが、
もちろんそうではないことは全員承知しているからこそ、
険しい表情を作っているのだ。

『あんた――はたたの身体を乗っ取るかなんかしたニセモノだろ?
 そんなんで騙せると思ったのかよ』

倉光はたた > 「…………」

はたたは何も言えなくなった。
強烈な敵意にさらされることに慣れていなかったこと。
そして――女生徒のその言葉を否定出来る要素が無いことが理由だった。
ただ……黙って彼女を見つめ返す。

『黙ってんじゃねーぞ……』

その態度が女生徒の神経を逆撫でしたか、
ますます声に憤りを乗せる。
そしてさらに歩み寄り――腕を伸ばし、
はたたの背から伸びる翼状突起を乱暴に鷲掴みにした。

『これか、こいつのせいか?
 こいつが“はたた”を……操ってるのか』

ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (一まとめにしたノートパソコンやレジュメの束を小脇に抱えた格好で、廊下を歩いている。規則正しい靴音。

 ――通り掛かった空室のひとつ、目もくれずに通り過ぎようとしていたその部屋の中から、話し声。
 その内容まで聞き取れはしなかったが、何気なく室内を覗き込む)

「……何だ、電気も点けずに暗いところで。
 誰か居るのかね?」

(光源なくして茫洋と光る金色の瞳が、奥に女生徒らの姿を認めてぱちくりと瞬いた。
 そのひとりひとりの顔を見比べて――いったい何の集まりかと、怪訝そうな表情)

倉光はたた > 『!』

はたたを取り囲んでいた生徒たちが、一斉に声に振り返る。
リーダー格の女生徒は、すぐさま翼から手を離した。
はたたを除く全員が、恐怖に引きつった――後ろ暗いことをするものに特有の表情を浮かべた。
ヨキの体躯や独特の雰囲気がもたらす威圧感もあったろう。

『な、なんでもありませんよ、ヨキ先生』
『そうそう、ちょっと内緒話をしていただけで』

生徒たちはへらへらと笑って、たどたどしい釈明を口々に行う。
その中心にいるはたただけが――何も言わず、透明な表情でヨキを見ていた。

ヨキ > (獣の目は、薄闇の中で動くものこそよく捉える。
 一本の手がはたたの背中から手を離した瞬間を、視た。
 生徒らの釈明に、半眼になって耳の後ろを掻く)

「………………、」

(小さく笑う)

「そうか、内緒話か。倉光君が、やっと――
 君らと、そのような話を交えられるようになったか。

 しかし……『気持ちは判るがな』、程々にしておきたまえ。
 特に――力ずくの話は」

(含みのある語調。
 生徒たちの表情を見定めるように、ひとりひとり視線を移す)

倉光はたた > ヨキの言葉と視線に、下手なごまかしを試みていた面々はそれぞれの反応を示した。
恐怖、悔悟、反発、不信。
幾ばくかの沈黙が流れたのち、それじゃこれで――などと適当な言葉を投げつつ、
はたたを囲んでいた生徒たちは潮の引くように、
ヨキが入ってきたほうとは反対側の出入り口から消えていった。

先頭ではたたを責めていた長身の女生徒は、
最後にヨキとはたたに交互に不信の視線を投げて、
無言で去っていった。

教室に残されるのは、はたたとヨキのみとなる。
薄暗闇の中怯えすら浮かべていなかったはたたは、ヨキへと数秒無言で向かい合い、
「……スイマセン」
やがてそう口にして頭を下げた。

ヨキ > (冷たい感情を込めて投げられる視線を、表情ひとつ変えずに受け止める。
 牽制で投げた言葉が確信を得たかのように、そっと目を伏せた)

「…………。侭ならんな」

(誰に告げるでもなく、独り呟く。
 教室に二人きりが残されると、顔を上げてゆっくりとはたたへ歩み寄る)

「こんにちは、倉光君。
 ……ヨキへは謝らずともよい」

(頭を下げるはたたの姿を、じっと見下ろす)

「君が――『君』になる前の名簿を、見た。
 やり方は感心せんが……彼女らもきっと、困っているんだろう」

ご案内:「教室」に倉光はたたさんが現れました。