2015/10/12 のログ
ご案内:「廊下」に新田冬幾さんが現れました。
■新田冬幾 > 長い廊下だと思った。
突き当りまでじっと目をやる。廊下にぶら下がるように教室の扉が等間隔で置かれている。
来てみればなんてことはない、既視感のある普通の学校だ。
あちらこちらにいる異形の者を除けばだが――
新田冬幾(にったふゆき)は正規の手順でこの島にやってきたわけではなかった。
夜の帳と海に紛れ、三日前に小さなモーターボートで浜辺に到着した。
着いでしまえば、そこからは驚くほどに簡単だった。金さえあればどうとでもなり、今ではこうして学園の廊下を歩けているのだから。
■新田冬幾 > ぱた、
■新田冬幾 > ……
雫が廊下に落ち、着地点に簡素なしみを作った。
彼の黒い髪、前髪から滴ったようだった。
よくよく見れば彼の髪の毛はしっとりと濡れている。
頭だけ雨に濡れたような、濃霧を抜けてきたような――しかし、窓の外は雨雲もない。
■新田冬幾 > タオル生地の大きめのハンカチを取り出し、慣れたように前髪を拭く。
前髪の奥の瞳は覇気がなく、かといって意志がないというわけではない、不思議な輝きを持っていた。
ハンカチをしまってすぐに、吹いた前髪がじわ、と露を帯びた。
■新田冬幾 > 「…………」
自分はこの学園で、どうにか生きながらえなければならない。
のろわれた体を開放し、できることなら異能を手放して、普通の人間に戻りたい。
こんな場所とはさっさと縁を切りたい。
しかし、そのために自分はここに居なくてはならない――。
ゆったりとした歩みで、自分の配属されたクラスの扉の前に立つ。
しばらくすれば中の教師が自分を呼ぶだろう。そうして、嫌でもこう言わねばならない。
「新田冬幾です、どうぞよろしく」
ご案内:「廊下」から新田冬幾さんが去りました。