2015/10/15 のログ
ヨキ > (『B.H』。Bが姓でなければ、日本人にそうそうある名前ではない。この懊悩たっぷりの画風)

「…………。
 日恵野君かな?大したものだ」

(湯飲みを片手に、口裂け女の(正確さに欠ける)説明を神妙な面持ちで聞き入る。
 耳まで裂けた笑顔と聞くや、うわあ、と耳まで裂けているかのような大口を開いて苦い顔)

「それは全く怪異だな……異能の副作用だろうか……
 そんな噂も精査せねばならんだろうから、風紀委員会も大変だな」

(異能や怪異に溢れた当世とあっては、都市伝説もあながちフィクションではない。
 手近な長椅子へ横向きに腰掛けて、蓋盛と向かい合う)

「何だ、それではヨキがどれだけ言葉を尽くそうとも、君には到底届きそうもないではないか」

(つまらん、と唇をへの字に曲げる。
 しかし小さなくしゃみの声には、その顔をじっと見遣って)

「……この季節のくしゃみは、風邪か花粉かなかなか見分けが付かんでな。
 心配すれば過ぎた杞憂と一蹴されるし、放っておけば無神経と拗ねられる」

蓋盛 椎月 > よく観察すれば、レタリングもヨキがかつて貸与した資料を参考にしているのが伺えるかもしれない。
ああご存知でしたか、たまに頼んでるんですよ、と蓋盛。

「今時、耳まで裂けた口も、ポマードをぶつけるぐらいの悪事も、
 それ自体は別に珍しくはないし恐ろしくもない……
 それでも恐ろしいのは、それが理解しがたいことだから、ですね。
 この現代は、さしづめ科学の灯りを失った暗黒期……なんて」

つまらなさそうな表情を浮かべるヨキには、軽く嘲るような視線を向ける。

「言葉の価値というのは、誰が言ったか……ですからね。
 あなたはなかなか油断ならない人ですし。
 ……一応、感謝はしていますよ。
 礼賛にも、心配にも」

目を細めて湯のみに口をつける。

「お互い、正直者ですし。
 ほんとうのことだけを言えば解決するような世の中ならラクなんですけどね。
 ……口裂け女みたいなねじれが相手じゃ、そうもいかない」

ヨキ > (君と日恵野君が知り合いだったとは、と呟いて、ポスターを眺める。
 生徒の描いた絵を眺める眼差しは、ひどく優しい。
 振り向いて、蓋盛へ顔を戻す)

「まるで中世へ逆戻り、か。
 科学の乏しい時代には、人の太刀打ち出来ぬ事象を魔性になぞらえ、忌避したものだと本で読んだが……
 現代にあっては、魔性の実在が確かなものとなってしまったであろうからな。
 再び灯が点るまでは、また永い時間が掛かりそうだな」

(茶を口にする。湯飲みの陰で笑む)

「油断がならない?まさか。
 ヨキほど『機械的』で分かりやすい相手は居らんと思うがな。

 ……口にした言葉に答えが返らぬのと同じように、
 褒めた言葉に反応が戻ってこんのも、なかなか寂しいものなのだぞ。
 このヨキとて、それくらいの機微はある」

(傍らのテーブルに湯飲みを置く)

「ふは。……誰かと相対しているときに、世の中のことなど考えているものか。
 捩れにわざわざ立ち向かうより、ヨキには正しく言葉を発せられる相手と居た方が心地のよいでな」

蓋盛 椎月 > 「そういった単純で、ブレない構造こそが、
 時に御し難く厄介に映る場合もあるんですよ。
 ……おっと、しゃべりすぎたかな。
 どうもあなたと話すと、面倒くさい話題に縺れる」

空いた手を額に添え、その指の合間からくすんだ茶色の瞳がのぞく。
小さくため息。
口では厄介と言うその表情は、本当に嫌厭しているのか、
会話を楽しんでいるのか、曖昧で判別がつきづらい。

「そうですね……仰るとおり。
 あたしも修業が足りません。
 喜んでみせるのが、きっと礼儀だったのでしょう。大人としての」

ようやくわかりやすく微笑みを作る。

ヨキ > (は、と短く笑う。
 蓋盛の様子に反して、楽しんでいる様子が見て取れる)

「君が普段面倒がっている話題に触れさせていると。幸か不幸か、だな。
 ヨキにも君と気楽に話したい気持ちくらいはあるのだが。……
 はて、ヨキには好きな娘を困らせる性癖でもあったかな」

(くすくすと肩を揺らす。
 蓋盛の表情の真意のうちへ、立ち入ることはしない。
 曖昧なそのままを眺めるように)

「君の言うとおり、ヨキは単純ぞ。
 上辺で喜ばれるをそのまま受け取る男だ。
 大人に足りぬならば、その方がヨキも好むところでな。
 女というものは、娘と女のあわいに立つくらいがいちばん美しいものよ」

(目を伏せる。語りめいた言葉の選びを、それでいて平然と並べる)

蓋盛 椎月 > 「ほう? 他にも好きな娘を困らせたことがあるんですか。
 そちらのほうがよほど興味深い話題ですね」

空になった湯のみを、手持ち無沙汰そうにくるくると卓の上で回す。

「……………………」

その平然とした語りに、いよいよ返す言葉を取り繕えなくなった様子で、
少しの間沈黙し、マスクで口を覆う。

「……………………」

棚に置いてあったポマード――ではなく、ティッシュ箱をひっつかみ、
無言のままヨキめがけて投げつけた。

ヨキ > (さあ、どうだったろう、と肩を竦める。
 残りの冷めかけた緑茶を飲み干して、ことん、とテーブルに置く)

「それが判らないから困っておるのだ。
 好きでない娘を困らせたこともあれば……、好きな娘が困ってさえくれないこともある。
 君を相手にすると、後者の方が多いらしいが」

(そんな風にしてつらつらと軽薄なほどの言葉を真顔で並べ立て、
 やがて飛んでくるティッシュの箱を――鼻っ面でしたたかに受け止める)

「ぷおッ!!」

(不意を突かれた悲鳴。
 引っ繰り返った紙箱が、タイルに打ち付けられる甲高い音が響く。
 相手の名を吐き捨てながら、座ったまま腕を伸ばして箱を拾い上げる)

「蓋盛、君という奴は……!いきなり何をするッ」

(面食らった表情で、拾った箱をテーブルに半ば叩きつけた)

蓋盛 椎月 > 「おや? どうかしましたか、いきなり仰け反って。
 口裂け女に会ったみたいな顔をして」

対する蓋盛はというと打って変わってゆったりとした構えで、
テーブルの上に指を組んで佇んでいた。
別にティッシュなんて投げてませんよ? と言った様子。

「伊達男のように流麗に言葉を連ねるよりも、
 そうやって驚いて憤るお顔のほうが、あたしなんかにはよほど魅力的ですよ」

口元に手をあてがって、くすくすと不条理に笑った。

ヨキ > (半眼で蓋盛を睨みつける顔は、子どもが拗ねているかのようだった。
 突っ掛けていたブーツを脱いで、長椅子の上で膝を抱える)

「知るか。ヨキにはどうしようもないのだ。
 頭に浮かんだことを口にして、何が悪い。
 ヒトの演技ならば、どうとも装うを止め、解きほぐすことも出来ようが……
 ヨキは犬だ。こうしてただ懐くことの他に、やりようなど在るものか」

(そのままへそを曲げたように、蓋盛の笑い顔をじとりと見ていた。
 やがて徐に、テーブルに置かれたティッシュ箱の角を掴み、長椅子から立ち上がる。
 踵のない裸足で、のたりのたりと蓋盛に歩み寄り――

 自分が箱を投げ付けられたのと同じほどの強さで、
 ティッシュ箱の平たい側面を蓋盛の脳天に食らわせる)

蓋盛 椎月 > 「いってえ!」

楽しそうな悲鳴。
パカン、と小気味いい音とともに紙箱が命中し、
蓋盛はくるくると座った椅子ごと一回転して元に戻る。
キィ、と金具の擦れて鳴る音。

「ええ、ええ、存じていますとも。
 そして、あたしはそれを正しく受け取ることが出来ない。
 月が地球へ、一ミリ足りとも近づけないようなものだ……」

ヨキに横を向き、背もたれに仰け反って、ひどく愉快そうに、身を揺らして笑う。
振り上げた足をデスクの上へ下ろしてラクにする。
たいへん行儀が悪い。

「あたしたちは思うに語らうには向いていないのですよ。
 どうしたって茶番にしかならない。
 なつく相手も選べないとは、あわれな話よ」

ヨキ > 「ヨキに牙を剥いた罰じゃ。
 一咬みで済ませてやったこと、有難く思うがいい」

(手にした紙箱を、肩の上でとんかとんかと軽く叩く。
 人が背伸びをしているような形の足で、傍らの棚を支えにして立つ)

「それを言うなら、ヨキも同じであろう。
 君の言葉を曲解し、捻じ曲げ、君の望まぬ形でばかり受け取るのがこのヨキだ」

(蓋盛の言葉を聞きながら、相手の頭上にぬっと腕を伸ばし、もとの机上にティッシュ箱を戻す。
 ふは、と低く笑って)

「フラれたな。茶番――全くその通りだ。
 だがヨキの方はと言えば、茶番で済ませる気は微塵もないのだがな。

 精々哀れむがいい。
 拒まれたからといって退くほどに、ヨキも賢しい人間であれば良かったが……
 誰であろうと受け入れる君に、ヨキは選ばれて拒まれた。光栄な話ではないか」

蓋盛 椎月 > 「誰でも受け入れる、か。
 このあいだもそう評価されましたよ。
 あたし自身じゃあ、まったくそうとは思ってませんがね」

やがて椅子を鳴らして身を起こす。
足もデスクから床へと戻された。

「言って止まるとは思ってませんが、
 次はティッシュ箱では済まないかもしれない、とは言っておきましょうか」

平然とした様子でそう言って立ち上がると、
二人の湯のみと急須を持ってシンクへと向かい、洗い始めた……

ヨキ > 「君の評価基準は――判りづらい。
 男には理解の及ばぬ考え方でもあるのだろうかな」

(嘲るでもなく、ひとたび眉を下げて笑う。
 まるで少女に手を焼くように。

 蓋盛が身を起こすのに併せて、踵を返す。
 長椅子の背凭れへ、手摺り代わりに手を突く。
 よろりとした足取りでブーツを履き、爪先を軽く床で叩く。
 真っ直ぐに立ち直して振り返る頃には、元の笑み)

「それならば……ヨキもまた。
 次は箱では済まぬと、それだけだ」

(次は野球でもして遊ぼう、とでも言うほどの軽さで口にする。
 荷物を抱え直して後ろ手に手を振り、『ご馳走様』と保健室を後にする)

ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「保健室」から蓋盛 椎月さんが去りました。