2015/12/22 のログ
ご案内:「教室」にステーシーさんが現れました。
ステーシー > 空き教室で勉強中。
生活委員会の仕事もある。
生活委員会の下部組織である程度スケジュールに融通が利くとはいえ、怪異対策室三課の仕事もある。

それでも勉強は待ってはくれない。
学生の本分は、勉強だからだ。

ステーシー > とはいえ、少しでも理解しやすい(単位を取りやすい)科目を選ぼうと選んだ怪異学総論は、相当に厄介だった。
『怪異退治は専門家!』と意気込んで受けた最初の授業で鼻白むステーシー。

覚える怪異は無数、怪異の行動原理や彼らの世界についてわかっていることなど。
次の試験までに勉強しなければならないことは、山積みだった。

ステーシー > それ以上に、ステーシーは最近怪異関係で神経を削っている。

以前、転移荒野で後にA級怪異災害認定を受けた亜人の群れと戦った彼女。
その戦いで戦闘能力のみを評価され、敵対的怪異との戦いを怪異対策室一課に押し付けられがちなのだ。
怪異対策室三課の室長は『フザけたこと抜かしてンじゃねェぞ公権の犬ども』と息巻いてステーシーを守ろうとしてくれるが…
自分はそれがこの街の平和に繋がるならと基本的に怪異退治を引き受けている。

「血の匂い……」

何度シャワーを浴びても取れない亜人の血の匂い。
それが彼女の心を蝕む。
椅子に座ったまま自分の服のあちこちを何度も嗅いだ。

ステーシー > あれから何度も怪異を斬った。
彼女の刀、旋空は何も答えてはくれないが、応えてはくれる。
想いなき刃で何度も葬った。

怪異を。妖魔を。不死者を。敵を。亜人を。

説得の及ばない、敵対的怪異と認めれば何だって斬った。
それが本当に正しいことなのか、斬った後に問答するのだからタチが悪い…とステーシーは一人で考える。

ステーシー > 怪異。
怪異。
怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異怪異―――――

「………あっ…」

気付けば自動筆記のようにノートに怪異、という文字を書きなぐっていた。
人のいない夕暮れの教室で机に突っ伏す。

これじゃノイローゼだ。

ステーシー > ステーシーは匂いに敏感だ。
敵を斬った時に鮮血の匂いを嗅ぐのが、心に暗い影を落とす。

――――自分は戦いに向いていないのかな、リルカ師匠。

自分の師匠、リルカ・バントラインのことを想う。
自分の元いた世界で今も待っているのだろう、親代わりだった剣の師。
彼女も剣聖と呼ばれた存在であるならば、斬った敵は100や200ではきかないはずだ。

師匠も、斬るたびに傷ついていたのだろうか。

ご案内:「教室」に蓋盛 椎月さんが現れました。
蓋盛 椎月 > 「ク~リスマスがこっとっしっもっフッフッフフ~ン」

調子外れな陽気な歌声とともに
ひょこ、と空き教室に顔を覗かせる白衣の養護教諭がいた。

「おっと、人がいたのか。
 自習中かい? えらいね~」

気易い調子で猫耳の女子生徒の席へと近づく。
ここに来るまでにデコレーションの作業でも手伝っていたのだろうか、
リースや折り紙といったクリスマス用の飾り付け一式を抱えていた。

ステーシー > 歌が聞こえてくる。
「………く、くりすます……」
そういえばくりすますの日が近づいていた。

顔を見せたのは白衣の女性。
確か……養護教諭の…

「蓋盛先生…でしたっけ……ええ、怪異学総論の勉強を」
猫耳をへにゃりと曲げて彼女の持っている浮かれた飾り付けを見る。
「もうすぐくりすますなのにそんな浮かれた歌と飾りを……」
「『苦理済ます』は己の心を一人っきりで見つめる修行の日ですよ」
「それができない人間のトコロにはサタンが来る、って師匠が言ってましたよ」

師匠に騙されねこ。

蓋盛 椎月 > 「覚えててくれたの~? 蓋盛うれしい!」

ニコ! と笑いかける。
クリスマスが近いからか普段の1.2倍ほど浮かれた様子。
隣の机に飾りやハサミ、セロテープの入ったダンボール箱を置いて
椅子を引いて座る。

「なんだそれ! あたしの知らないクリスマスだ。面白そう。
 サタンとやらが来てもこのスーパー養護教諭に掛かればボコボコにして祖国に送り返してやるけどね~」

上機嫌な様子で椅子ごと身体を揺らす。
いいかげんなシャドーボクシングの構えを取り、拳が宙を切る。
シュッシュッ(と、口で言った)。

ステーシー > 「ええ。生徒は教師を覚えるの、楽ですから。何せ生徒より数が少ないので…」

彼女の笑顔に、どこか癒されたのか軽く手を上げて尻尾をゆらりと揺らし、微笑を返す。
隣に座る彼女は、明るくて、元気そうで……
少し、眩しかった。

「……こちらの世界のくりすますは違うんですか?」
「そういえばそんな飾りが街中に溢れていたような……」
「むむ、異世界はやっぱり文化が違いますね……」

白い息を吐くと、夕日を見た。
もう年末だ。

「……蓋盛先生はその、強いんですか?」
相手のシャドーボクシングを見ると、そんな風には見えないけれど。
実は隠れた実力者だったりするのだろうか。
魔術が凄いとか、異能が凄いとか。

「ごめんなさい、不躾に……」
それから、突飛な質問を浴びせたことをまず詫びて。

蓋盛 椎月 > 「あたしの知ってるクリスマスは、
 いい子にしているとサンタっていうおじいさんが
 枕元の靴下にプレゼントを詰めてってくれるっていう日なんだよ。
 きみの知るクリスマスほどパンチは利いてないが、楽しそうだろ?」

きみは笑うとよりかわいいな、などと軽口をまじえて。
ステーシーに釣られるように窓の外へ視線を遣る。

「うんにゃ全然。力は人並みだし異能は回復系だしねー。
 少なくとも怪異対策室にいるきみのほうが全然強いと思うよ~。
 ほんとにサタンとやらがおいでなすっても
 あたしじゃ酒を飲ませるか口説くぐらいのことしかできないさ、ワハハ」

詫びる様子には別に構わないよ、とジェスチャーを送る。

ステーシー > 「さんた? さたんではなく?」
「いい子にしてるとプレゼント………?」
その時、騙されねこは察した。
師匠が自分を言いくるめていたことに。

「だ、騙された……師匠に…!!」

複雑な表情を浮かべて唇を噛む。
師匠という存在は時に理不尽だ。

かわいいなと言われると無表情に軽く頭を下げた。
完全に言われ慣れてない言葉ゆえにリアクションがとれなかったのだ。

「……そう、なんですか………」
「でも……怪異と戦っても、良いことなんてないですよ…」
「血の匂いを覚えちゃって、敵の断末魔も聞いちゃったりして」
「本当に……嫌なことばっかり…」

窓の外を見たまま、そう言った。
人を守っていることは誇らしい。でも、それだけだ。

蓋盛 椎月 > 「そうやって人はオトナになっていくんだよ」

蓋盛もまた察し、フッ……と薄く笑って遠くを見た。
確かにこの猫少女はからかいやすそうな感じがするのはわかる。

「ほう」

どこか沈んだ様子で語る猫少女に瞬きを何度か。

「ならどうして続けているんだい。
 まさか川添くんあたりに無理強いされているわけじゃあないだろう。
 ……何かきみなりの大事な理由があるんじゃないのかな?」

静かな表情でステーシーをまっすぐに見つめる。

ステーシー > 「オトナになるって苦しいことなの……」
自分の苦理を今、済ませた。(苦理は造語です)

でも子供の頃のステーシーがクリスマスの真実を知っていたら。
絶対にプレゼントを欲しがって駄々を捏ねていただろう。
師匠の判断は正しかったのだ……きっと。

「……川添先輩、知り合いなんですか?」
「あの……川添先輩は、そんなのやめろって言ってくれて」
「それでも……力があるなら、人を守って生きるのが………人間らしいって……」

人間らしい。
自らが斬った亜人の王のせせら笑う声が聞こえてくるような、益体のない言葉のように感じた。
視線を蓋盛に移すが、2秒と視線を合わせられない。
猫の習性もあるが、真っ直ぐに人の目を見られる精神状態ではなかった。

蓋盛 椎月 > 視線を逸らすステーシーに、自身も横を――椅子に対して正面を向く。

「なるほど、力を持つ人間の責任、ってお題目か。優等生だな」

浮かれていた様子から一変した、低く抑えられた、どこか皮肉げな声。

「一つ訊くけど。
 きみが熱心に勉強をするのは、テストで百点を取るためかい?
 単位を落とさないためかい?」

小さくため息。

「人々を守って、人間らしくなって、傷ついて……それで、その先に、何がある?
 そこにきみはいるのか? ステーシー・バントライン」

ステーシー > 「あ………」

ふと、自分が名乗っていなかった名前を蓋盛が言ったことに気付いた。
そもそも怪異対策室三課に所属していることを知っていたのも。

この先生は私のことを知っていたんだ。

「勉強をするのは……学生の本分だから………?」
「わからない……学生の本分ってなんだろう…」
「私がいる場所がわからないよ、先生……」

苦しみぬいて吐き出した言葉は、弱音。
鉛筆を置いて、深く息を吸い込む。

一人だった教室だ。暖房なんかついてはいない。
冷たい空気の中、何度も自分を呼ぶ。自分の名前を、自分の中で呼ぶ。

誰かに言った瞬間、自分の足で立てなくなりそうだったから。
友達にも――――言えなかった。

蓋盛 椎月 > 静かに立ち上がり、ステーシーの後ろへ。
座る彼女の身体にそっと腕を回し、いたわるようにゆるく抱こうとする。
染み付いた煙草のにおい。

「ステーシー。きみはいまは戦ってはいけない。
 戦うのは……戦う理由ができたときだけにするべきだ。
 戦いから離れることで……見えてくるものもある」

この弱い少女が傷つきながら戦わなければ誰かが死んでしまうというのなら、
そんなものにはじめから護る価値など、きっとない。

「まずは生きてくれ。すべてはそれからだ」

ステーシー > 抱きしめられると、煙草の匂いと温もりに包まれた。
少しだけ、血の匂いと熱さを忘れられた。

机の横に立てかけてあった刀が音を立てて床を転がった。
目を瞑り、蓋盛の足に猫の尻尾を絡めた。
少しでも彼女に接するようにと。

「………はい、蓋盛先生…」
「私は……きっと生きてなかったんだ…」
「どこからか湧き出してきた闘争に身を投じて、心無い刃を振るって」
「きっと、師匠が見たら叱るだろうな……」

涙は出なかった。
でも、それ以上に熱くて激しいものが体の中を流れていることに気付いた。

自分にだってあるじゃないか、血。

蓋盛 椎月 > 「勉強も、戦いも……
 いつかきみだけの理由を見つけることができる」

目を細めて微笑む。
……しばらくステーシーを抱いた後、そっと身体を離す。
そして段ボール箱に手を突っ込んでなにやらゴソゴソと少し探した後、
取り出したものをステーシーへ握らせる。
小さなサンタクロースの人形だった。

「じゃましたね。
 これはちょっと早いけど、ささやかなクリスマスプレゼントだ」

再び荷物を抱え、小さく手を振ると、教室を後にする。
例の調子外れな歌声を残して。

ご案内:「教室」から蓋盛 椎月さんが去りました。