2016/01/16 のログ
ご案内:「食堂」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 昼。ランチを取る学生らで賑わう食堂の一角。
複数人用のテーブル席に、ヨキが一人で座っている。
目の前には、水の入ったコップとカツ丼(特盛)の食券。
注文待ちのヨキが何をしているかというと、難しい顔をして本を読んでいた。
本。それも漫画である。先週発売されたばかりの、少女漫画の新刊だ。
淡い色合いの少女がリリカルに微笑む表紙には、丁重にビニルカバーが掛けられ、
油性ペンで『金工研究室』と書かれていた。どうやら、学級文庫のような扱いらしい。
異能も魔術もない世界で、高校を舞台に繰り広げられる青春と恋愛の群像劇。
国内で毎年行われている人気ランキングで常に上位にランクインするその漫画を、
ヨキは難解な人文書とでも向き合うような面持ちで読み耽っているのだった。
■ヨキ > 「何故だ……」
地獄の底から這い出るかのような声で呻く。
「何故そこで……言わんのだ……!」
もどかしく、なかなか進展することのない恋愛模様に、ひどく焦れて顔を顰める。
この獣人が惚れた腫れたの機微を理解するには、もう十年ほど必要であるらしい。
唇を結んで一旦ページを閉じ、渋い顔で深い溜め息をつく。
周囲の雑然とした話し声も意に介さない様子で、再び読み出す。
何だかんだ言いながら、満喫しているようだ。
■ヨキ > 食券番号32番の方あ、と声が飛んでくると、漫画から顔を上げて徐に立ち上がる。
この世の終わりも斯くやと思われる表情でよろよろとカウンタに向かい、
これでもかという量が盛られたカツ丼のトレイを受け取って戻ってくる。
漫画をテーブルの傍らへ避けて、割り箸を手に取る。
「いただきます」
若い学生や、大食らいの異邦人向けらしいどんぶり。
大きな口で一口頬張って、しみじみとする。
「うまい……」
慣れない恋に逸る少年少女らは得てして口が重いものだが、カツ丼は正直だ。
■ヨキ > 空腹に煽られるまま、カツ丼をむしゃむしゃと口へ運ぶ。
子どもみたいに頬張って、カウントでも取っているかのような正確さで同じ回数だけ咀嚼して呑み込む。
それこそ漫画のように山と盛られていたはずの中身が、見る見るうちに減ってゆく。
貪るでもなく、途中に水を飲み、よく噛んでいるにも関わらずとにかく早い。
「ごちそうさまでした」
その薄い腹のどこにそれだけの米と脂とを収める容量が隠されているというのか、
とにかく早々と完食して、空のどんぶりを前に行儀よく合掌した。
――ぐう、と、腹が鳴る。