2016/06/07 のログ
■ヨキ > 朝。出勤して、直ちにてきぱきと仕事を始める。
メールのチェック、書類の整理、授業の準備、引継ぎその他。
自分のデスクに腰掛けて、昼の講義までに事務仕事を片付けてしまうつもりだった。
朝っぱらからあり余る体力のままに仕事をこなすのがヨキの美点だが、
今朝はどう見ても朝帰りからの直行コースだった。
ヨキにとっては珍しくもないことで、勝手知ったる他の職員らも、もはや指摘することもない。
髪や肌はすっかり乾いているとはいえ、お高そうな石鹸の香りが仄かに漂っているし、
何しろ顔がイキイキしている。
こういう日は、目尻に差した玉虫色の紅が心なしかいつもより鮮やかだった。
まるきり夢魔だ。
■ヨキ > ヨキと接して二月と経っていない一年生の女子が二人、用事を済ませにやって来る。
いくつかのやり取りののち提出物を受け取り、昨晩のテレビの話をして、
女子二人がヨキの元を立ち去る。
大人の不文律めいた、何事か言いようのない、いわゆる“あやしい”雰囲気を察知したうら若き少女二人は、
何事かこそこそ、くすくすと笑い合いながら職員室を後にした。
「…………?」
今さら、まさか自分が笑われているとは思いもしない。
顔だけで歩いてゆく二人の背中を振り返って、再び仕事に戻る。
■ヨキ > 手元の資料と端末のディスプレイとを見比べながら、八本の指で器用にキーボードを叩く。
人間の両手と大差のないスピードで、追加用のレジュメが見る見る出来上がってゆく。
実際、今しがた言葉を交わした二人の学生はヨキのことをあまりよく思っていない。
露骨で、開けっ広げで、馴れ馴れしく、四角四面で融通の利かない獣人。
好き嫌いの分かれる自身の人柄を、しかしヨキは変えるつもりもなかった。
好かれようと嫌われようと、ヨキは『正しい』ことをしているのだから。
■ヨキ > 昨晩ヨキと寝た娘は、跡形もなく食べられて今頃は腹の中で消し炭と化している頃だろう。
学園を裏切ったからそうなった。
きゅう、と腹が鳴って、空っぽの腹を擦る。
いやだヨキ先生、食べずにいらしたんですか、という同僚からの質問に、しっかり食べてきたんだがな、と笑う。
“元”学生のあとに、きちんと白米焼き鮭味噌汁に漬物、卵焼きを作ってトーストも焼いたし、ウインナーもキウイフルーツもヨーグルトも食べた。
だが腹が減るときは減る。
非常食のドライフルーツの袋を机から抜き出して、口にひとつ放り入れた。
石鹸の匂いをさせて出勤することも、その口が人間や多くの食物を噛み砕いたとも思えないほど清潔なのも、いつものことだ。
ご案内:「職員室」に朝宮 小春さんが現れました。
■朝宮 小春 > おおよそ平和主義者の多い職員室の中で、最も平和なのが彼女のいる窓際の席。
ぽかぽかとした陽気の差し込む中で、せかせかと働いたりぐったりと突っ伏していたり、そんな彼女らしく当然に。
ヨキ先生の朝帰りに気がつくわけもなかった。
そして当然のように、ヨキ先生の後でそのままきゅう、とお腹を鳴らす。
「………あはは、どうも釣られてしまったようで。」
小さく恥ずかしそうに笑いながら、こちらもごそごそと戸棚を漁る。
何かあったかなー、なんて。
彼女が最も、何があったかなど想像することもできないタイプの人種だろうか。
ご案内:「職員室」に朝宮 小春さんが現れました。
■ヨキ > 「君も?ふふ、茶でも飲むかね」
小春の様子に、笑いながら振り返る。
こざっぱりとした肌にシャンプーの匂いが漂うが、そう強いほどでもない。
手袋を外し、流しで手をざっと洗う。
給湯器から湯を汲んで二人分の茶を淹れ、湯呑を小春の机へ運ぶ。
大時計塔の鐘が鳴って、教師や学生らはそれぞれの授業へ出払う頃だ。
「どうだね、新年度もそろそろ落ち着いてきたろう?
後輩の教師もできて、この学園にも慣れてきたかな」
日々奇妙奇天烈な異能者が増える常世島のこと、
“慣れる”と言っても驚くような出来事にはヨキさえ事欠かないのだが。
■朝宮 小春 > 「あ、ありがとうございます、頂きます!」
微笑みながら素直に頂き、湯呑みを受け取る。ふうー、と吐息をつく姿も慣れた様子を見せる。
疲れた様子に慣れているというのもアレだが。
「そうですね、………まだまだ慣れてはいないとは思いますけれど。
それでも、多少は驚かなくなってきたかな、と思います。」
こほん、と咳払いを一つして、ちょっとだけ胸を張る。えへん。
シャンプーの匂いにも気が付かない朴念仁であれど、彼女からはちょっとだけストロベリーの香り。
そ、それなりには女子力も、きっと。
画面には、出席日数の足りない生徒や連絡の付かない生徒のリストが並ぶ。
そこに一応電話をかけていくのが、彼女の今の仕事だ。
■ヨキ > 「そうか、良かった。その調子だよ。
教師の数は学生よりもずっと少ないから……
常世島の環境に慣れられずに辞めてゆく者も少なくなくてな。
そのようなところで朝宮、よくやっているよ、君は。
きっと、君を頼りにしている学生も多いだろうさ」
にっこりと笑う。
茶を置いたあとの盆を片手に、小春の端末に表示されたリストを覗く。
「ああ……相変わらず人数の多いことだ。
ヨキが連絡をすると説教臭くなってしまうし、君のように優しい声が適任であろうな。……」
傍らの小春を見下ろす。
「それにしたって君は、いつも女性らしくていい匂いがする」
端末を見る姿勢のまま、すん、と小さく鼻を鳴らす。
顔は至って真顔のままで、台詞の繋がりがあまりにもシームレスだった。
■朝宮 小春 > 「あはは、私は私で他の場所はちょっと合わない理由があるので……
ですから、多少慣れないことがあっても何とか……なります、うん。
そう、なんでしょうか。
だといいんですけれど、まだまだ………。
何より最近は慣れが悪い方向に出て、書類を書き忘れたりしてしまうので……」
とほほ、と身体を小さくして少し舌を出す。
ちょいと抜けているのは変わらぬらしい。
「………あはは、まあ、ほとんど出てもらえないんですけどね。
どうしてしまったんでしょう。」
ヨキが『処理』した生徒の並ぶリストを眺め、せっせとメモを取る教師。
この島の暗部を、未だに知らぬ普通の人。
「……? ふふ、そうですか?
ちょっと匂いをいきなり言われると恥ずかしいと言えば恥ずかしいんですけどね。」
頬を少し染めつつも、怒ったりはしない。
■ヨキ > 彼女の、研究者になるという夢が道半ばで断たれた話を、頭の片隅に思い出す。
けれど、「他の場所が合わない」。瞬きする。
「少し慣れた頃、というのがいちばん怖いよな。
だからヨキも、人に教えるときこそ自分で復習をするつもりでやっているよ。
取り返せる失敗ならば、誰も責めはせんよ」
そう離れていない自分のデスクから椅子を引っ張ってきて、小春の横に腰を下ろす。
茶を啜りながら、ほっと一息ついた。年寄りめいている。
「学校、楽しいと思うんだがなあ。
授業が合わなかったか、それとも人間関係か……」
残念そうに、ぽつりと呟く。
このヨキという教師の中では、“元生徒”たちは既にリストから排除されたも同然らしい。
言及していないから、嘘は吐いていない、と、そういうことなのだろう。
空いた隣のデスクに湯呑と肘を置いて、仕事に励む小春を眺める。
「化粧の中には顔を顰めてしまうような類もあるが、君のはヨキの鼻にも心地よい。
ヨキも、君のような先生の下で学生をやってみたかったよ」
■朝宮 小春 > 「……あ。いえいえ、有名な人が身近にいると比べられてしまうので。」
ぼやかしながら言葉を濁す。
母親がイケイケ犯罪者進行形で失踪中とはなかなか口にはできない。
とほほい。例え無関係でも、事情聴取される先生というのも居場所が無いのだ。
「そうですね、教えているといろいろと教わります。
時々、自分より上手くノートを取る生徒もいたり、鋭い質問を投げられたりとか。
日々勉強ですよね。」
隣にやってくる相手を特に気に留めずに、お茶を口に運んでメモの手を止める。
じゃーん、と机からおまんじゅうが出てくると、一つを渡して、一つを自分の手の中に。
「……まあ、いろいろありますからね。 いろいろ。
私も学校は楽しいと思うんですけど。
そう、ですね。 濃い匂いだと自分の気分が悪くなってしまうので。
私の下でですか? ………そうですね、私はいつでも歓迎ですけど。
でも、上手く教えられるかどうか………」
自信はいつも、あんまりない。
■ヨキ > 「はは、そんなに自信がないかね。
もしかするとこの学園なら……逆に、のちのち有名になる生徒が出てくるやも知らん。
そうしたら、恩師としては鼻高々だな」
事情を知らぬまま、可笑しげに笑む。
自分のやっていることがバレれば「驚かれる」だけでは済まないとは、思ってもいない顔だ。
机の中から出てきた饅頭に、ぱっと目を丸くする。
頬をつややかに輝かせて、両手で受け取った。
金色の瞳から、きらきらとした眼差しが小春に向かって飛んでゆく。
「ありがとう……ありがとう朝宮」
いただきます、と早速食べ始める。おいしい。
大きな口で、一口ずつゆっくり、ちびちびと齧る。
「ふふ……君はやっぱり、まだまだ自分に自信がないのだな?
勿体ないくらいだ。
ならば例えば、朝宮には『これだけは負けない!』……というような特技とか、何かないのか?
ヨキの場合は……、」
少し考えて、
「ゲームかな。撃ったり斬ったり、いろいろ倒すやつ」
■朝宮 小春 > 「ここの生徒はすごい子が多いですからね。
恩師………という存在になれればいいんですけれど。
いえいえ、私もお腹がよく空くのでわかります。」
うんうん、わかっておりますよ、とちょっとえらそうな顔で頷く。
朝を食べる暇が無かったので、という枕詞が彼女の場合にはつくのだけれど。
こちらもゆっくりと食べながら、お茶を片手にほう、と吐息をつく。
「………うー、ん……………。」
悩む。
運動。論外。
勉強。5段階で4のタイプ。
ゲーム。猫を飼うゲームもできない。
射撃。得意だったが衰えた。
生物知識。科学者落第点。
「………ゲームですか。私は下手なんですよね。」
顔に縦の線がはいってどよん、とする女教師。考えても発掘できなかったらしい。
身体つきも生徒にすごい子いるし。
■ヨキ > 「きっと恩師とは、なろうとしてなるものではなくて、
みなと接しているうちに、いつの間にかそうと思われるものなのではないかな。
君はよほどマメであるから、君を慕う子らとの縁は長く続くだろうよ」
完全に餌付けされたものの顔で、頬の血色も心なしか良くなったように見える。
女性が上位に立とうと思えば、すぐに大人しくなるのがこのヨキという男だった。
そうして、沈黙。
悩む小春を前に、しーん、というテロップが入る。
「……………………、」
長い。
けっきょく特技が見つからなかったらしい様子に愕然とする。
「あー……いや。質問が良くなかった。止そう。
えーと……、」
ものすごく一生懸命考えている。
「……そう、『やりたいこと』。
今できることではなくて、これからやりたいことにしよう。
仕事の目標は聞いたから……それ以外で、何か。
プライベートで何かやってみたこととか、身に着けてみたいこととか。
それこそ新しい特技が芽を出すかも」
■朝宮 小春 > 「………それなら良いのですけれどね。
マメ、マメ……なんでしょうか。
いろんなものに追われていろいろ抜けてしまいますよ?」
苦笑を浮かべながら、マメであるようにいよう、と真面目に反省をして。
「………いえ、いいんです。
昔からこういうのは慣れっこなんで………。」
にっこりと微笑みながらも、その笑顔の上に曇りがかかって瞳のハイライトが消えている。
魂が口から出てしまいそうになりながら。
「……これからですか。
……お、泳げるようになる……?」
誇り高く、それでいてとっても低いハードルの目標を披露する。
彼女が目指せる特技は、泳いでいる最中に水着の上が外れる程度かもしれない。
■ヨキ > 「いろいろ抜けたとしたって、まさか教え子の存在や、
自分のやるべきことが丸ごと抜け落ちてしまう訳ではなかろう?
それらに背くことさえなければ、行き着く先は何とでもなるものだ」
言いながら、不意にくすくす笑い出す。
「妙なものだな。
自信のない君と、根拠もない自信に溢れたこのヨキと。
物事を前向きに考えることだけは得意なんだ。能天気とも言うがね」
暗い小春の目を見ながら、眼前でぱたぱたと手を振ってみせる。もしもーし。
泳げるようになる、という目標には、ほうと声を上げた。
「そうかそうか。何だ、リッパな目標があるではないか。
ヨキはどうしたって沈んでしまうから、とうに諦めてしまったよ。
……そうだなあ、ヨキの方はこれから、『魔術が使えるようになりたい』だ」
饅頭を完食して、にっこりと笑う。
「朝宮は……その泳げるようになるという目標、達成できる見込みはあるかね。
ヨキはない」
珍しく、自分の「目標」をきっぱりと否定する。
「でも、やってゆくつもりだ。
習ったことも、失敗したことも、無駄にはならんと思うから」
■朝宮 小春 > 「そうですね。私はそういうところは忘れない、と思います。
どうなんでしょう、私も脳天気な方だとは言われるんですけどね。
ただまあ、得意なことが特に無いことを普段気にかけないって意味で脳天気なんでしょうけれど。」
目のハイライトがよく消える教師だった。
「そ、そうなんですか?
私はその、どうにも下手で水を飲んでしまうので……。
い、一応運動はして、準備しているんですけどね。」
とほほ、と肩を落としつつも、努力をしていることをアピールする。
「………私は生徒と泳ぎに行く約束までしていますから、絶対達成します。
魔術、というのも興味はあるんですけどね。
その手の試験、全部受けていないので。」
もしかしたら使えたり、なんてくすくすと笑う。
「………そ、うですね。
きっと無駄にはならない……って思えるようになるまで、がんばります。」
とりあえず泳げるように、と拳をふん、と握りしめる。
やる気だけはあるんです。
■ヨキ > 「君にはこう……ヨキの目の光を分けてやりたくなるな。
朝宮とヨキを足して二で割ったら、程よい自信を持った人間が産まれるやも知れんぞ」
茶を飲みながら、肩を落としてみせる。
「図体がでかいのみならず、重たいからな。身体が水に浮かんのだ。
そうでなくとも、ヨキは金属を操る身体ゆえ、水と相性が悪いようでなあ」
小春に倣って、その意気だ、と拳を握る。
「生徒と泳ぎに?
仲が良いのだな、いいことだ。
……それで?
生徒以外に水着を披露する彼氏とか、居らんのか」
完全に茶飲み話である。
「君に自信を付けさせてくれるような相手というか、そういう男がさ」
■朝宮 小春 > 「………わ、私とて、自信が一つもないわけじゃ……」
………………
「特になんでもないです。」
肩を落とした。
それでも、相手の言葉を聞けば少しだけ安心する。
ロキ先生にも苦手なことはあるのだ、私だってあるものだ。
ちょっと違うことはわかっているけれど、強引に自分を納得させて。
「ええ、学校のプールとかですかね。
海にも行きたいのですけれど、溺れてしまったら格好も悪いので………。
………へひゃっ!?」
相手の言葉に、思わず腰が浮くくらいに驚いて、顔を少し紅くして。
「……い、いませんねぇ。」
あはは、と頬を掻く。 怒ることは無さそうだ。
■ヨキ > 小春が置いた間にきょとんとする。
自分の“裏打ちのない自信に裏打ちされた無神経さ”を厭う教え子が居ることを、ヨキは知らずに居た。
「学校のプールならまだしも、海は広いし大きいからな……」
童謡の歌詞みたいな評になった。
「元のなりが大きい所為か、自分より大きいものを見ると萎縮してしまうのさ。
………………、」
彼氏の話に飛び上がる小春に、素知らぬ顔で茶を啜る。
「……動揺するくらいには、男に興味がない訳ではないと」
うむ、と、よく判らない納得。
「君の学生になるのは元より、恋人になるのも楽しそうだな。
これ以上は君に嫌われたくないから止しておくが」
セクシャルのハラスメント的な意味である。
「だが君を見ていて、気持ちがよいのは本当だよ。
違う科目の、遠い同僚で済ませてしまうのは惜しい」
ひととき穏やかに微笑んで、茶をぐっと飲み干す。
「もしも飛び上がらん度胸が要るようになったときには、ヨキのところへ来るがよいぞ。
もちろん勤務時間外にな」
結局そういう話になった。
平然と笑いながら椅子を立ち、急須や湯呑を片付け始める。
■朝宮 小春 > 「私は大きいものは好きですから、気にならないですけれど、ね。
ふふふ、また海にでも全員で行けたらいいですね?
泳がなくても、釣りをしたりもできるみたいですよ。」
笑う。それまでには泳げるようにしておきます、と小さく誓い。
「………あ、あはは。
怒られてしまいますよ?」
頬を紅くしながら、ぽりぽりとその頬をかく。
こんな会話を交わしていては、と周囲を見るも、ほとんど残っていない上に、特に気にされないのであった。
「………ほ、褒められている、んですよね。
ありがとうございます。 ……ふふ、そんなことを言われると勘違いをしそうです。」
先生である必要が無ければ、ふふー、とふんわり笑って見せて。
「……私に自信がついたらでしょうかね。」
なんて、そこはぼやかしておいた。
あ、私が片付けますよ、と立ち上がりつつ。
■ヨキ > 「泳がずとも、きっと楽しみは多い。
ふふ、我々教師らで慰安旅行にでも行くか」
怒られてしまう、との諌めに、「誰に?」とでも言いたげな顔をする。
「ヨキはきちんと仕事をこなした上で、同僚との親睦を深めようとしているのだ。
何が悪いことなどあるものか」
見つかったら見つかったで、ヨキせんせえがまた口説いてる、と一笑に付されるのが関の山であるのだが。
「勘違い?何を言う。そこいらの軟派と違って、ヨキはいつでも真剣であるぞ。
いつぞやにおこんも言っていたろう」
何故だか誇らしげに、ふふんと鼻を鳴らす。
暈された言葉には、子どものようににっこりと笑う。
「楽しみにしておるぞ」
勘違いどころか、完全に誤魔化された顔だった。
続いて立ち上がった小春に、まあまあ、と笑う。
「君には饅頭を頂いてしまったしな。
片付けてもらうのは、『自信がついたら』の後に取っておくよ」
言って、さっさと二人分の湯呑を片付けに。
まだ日も昇りきらぬうちからこうして散々口説くような言葉を吐いた末、
今日も一日よろしく、と、何てことのない顔で仕事に戻ってゆく。
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。
■朝宮 小春 > すみません、と言いつつも。
そう言われれば素直に譲ってしまおう。
まだちょっと赤い頬を抑えながらも、約束した人がまた増えてしまった、なんて思い返して頭を抱える女教師。
泳げるようになるまでの道は、長く険しい。
ご案内:「職員室」から朝宮 小春さんが去りました。
ご案内:「保健室」にクロノさんが現れました。
■クロノ > (昼間は来室者たちで多少賑わうこの部屋も、とっぷりと日がくれれば訪れる者も少なく閑散として。)
「…ん。よし。」
(今日1日もお疲れさま、と、日誌を書き上げた保健医は書類をトントンと整えて、誰にともなくひとりごちた。白衣を羽織っている保健医は実のところ…というか見たまんま少年の姿。)
■クロノ > (紙の日誌にシャープペン、赤と青のボールペン、そして黄色とピンクの蛍光ペンそして定規と電卓。その他諸々、机の上に並ぶ事務用品も筆記具も至って普通のものだけど、それを駆使して書類を書くのは…いかにもロボットな感じ全開の、機械仕掛けの男の子。)
「…ふぅ~ぁ、あ~ぁ、ん。」
(緑と白を基調とした金属製の体、黒髪に濃い褐色の肌、そして銀色の手。机上をぱぱっと整頓して、椅子の背凭れに背中を倒してぐーっと伸びひとつ。仕上げに目尻を指先で拭う仕草は、どこからどう見ても残業中のサラリーマン…な感じが否めない。)
■クロノ > 「…………──────。」
(机の上の傍ら、すっかり常温まで冷めたコーヒーをちびちび啜りながら、カーテンも閉じていない窓の外をぼんやりと眺める。薄いガラス越しに、窓の外からは夏の虫の元気な鳴き声が高らかに聞こえてくる。そんな初夏の夜をしばし謳歌したら、ロボットは視線を手元に戻し、机上の本棚から一冊の本を手にとってぱらりと開く。先日買ったばかりの最新刊の医学書。)
■クロノ > (窓の外を見やれば、まだ明かりの灯る教室がちらほら、そして職員室も。あんまり遅くまで残ってると明日が大変そうだな、とか小さく呟いて、新刊の医学書片手に反対の手ではノートにペンを走らせる。チチチ、ジジジ、と機械仕掛けの手指が器用に、滑らかに動く音と、紙の上を芯先が滑る乾いた音だけが静かな保健室に拡がる。)
■クロノ > (シャープペンと蛍光ペンをくるくると器用に持ち変えながら、本の文字列から要点を纏めて書き出す。至って人間くさいそんな作業を黙々と続ける男の子の綴る文字は、やや幼さを感じさせる、少し丸みを帯びたもの。)
「……ふぅん、なるほどね。」
(この街に来てまだ日の浅い新入り、けれども男の子の見た目とは裏腹、製造からは120年以上の時を経てきた旧式のロボットは、電子頭脳や駆動系を含むほぼ全身を随時更新しているし、こうして最新の知識や技術を取り入れる事にも暇がない。)
■クロノ > (どんなに文明が進化しても、クルマはやっぱり地面を車輪で走るし、飛行機だって鳥のようには羽ばたかない。同じように、自分みたいに人間そっくりなロボットがごく普通に人間と暮らす世界になったって、結局のところ機械は新人類として世界を統べるには至らず、仲良く肩を並べて、こうしてシフト制の交代勤務で働いている。…であるからして、学会で公に知らされた最新の医療技術も、インターネットから自分の電脳にダウンロードするだけじゃ情報の共有には成り得ない。共に働く仲間と情報を共有するには、やはりこうして紙媒体やタブレット、パソコンなんかを人間と同じように使い、アナログな手段で情報を伝達するのが一番シンプルで確実、という実情。)
「…ん。 …おなかすいた…。」
(半分くらい本を読み進めたところで、男の子は思い出したようにぽんと、本とペンを机に置いて呟いた。)
「…今日のお夕飯、何にしようかな…。」
■クロノ > (ノートのはしっこにパラパラマンガを書いてみたり、余白に顔文字とか美味しそうなハンバーガーやステーキの絵を落書きしてみたりする辺りは、いくら医師とはいえ男の子はやっぱり男の子、年頃の子供とやっていることも考えていることもあまり変わらない…の、かもしれない。ただ人間の男の子とちょっと違うのは、自習している内容が最新医学の学会本だったり、そんな本を小一時間で読み上げ、纏め終えてしまう速読と速記の性能だったりするのかもしれない。)
■クロノ > (本の読み上げと要点の纏めを終えて、医師たいむ終了の男の子はそのまま手元のメモ用紙に落書き続行。有名どころな美味しいご飯の絵をいくつかと、何故かそれをぐるりと囲うように子犬や子猫なんかのデフォルメされたキャラクターらしきものを描いていく。)
「……んふふー。ごはん、そのままでもおいしいけど、みんなで一緒に食べるとごちそう。」
(そんな事をポツンと呟きつつ、書き進めていく絵はだんだん賑やかになっていく。SFちっくな見た目の医師は、こう見えて可愛いものが好きならしい。)
■クロノ > (男の子の手の中でせわしなく動くペンも、他の同年代の学生たちがよく使っている割と新作のもの。香りつきの消しゴムや、コンパクトに変形してしまえる針なしホチキス、そして学生たちと同じ鞄に、最近映画が人気のキャラクターのキーホルダー。)
「……─────。」
(住み処は職員寮ではなくあえて学生寮の一室、シフト勤務でもできるだけ食事は学食や寮の食堂、たまに購買、そしてお手製のお弁当。そんな、職業上は保健医だけど、生活ぶりはまんま他のみんなと同じような男の子だ。放課後の休憩時間や非番の休暇は街に出歩いて、映画館やカラオケ、ゲーセンなんかに行くのも日常茶飯事。)