2017/04/29 のログ
美澄 蘭 > 「いいのよ。全然縁がないわけじゃないから」

慌てた様子で謝ってくる相手に、こちらもちょっと申し訳なさそうに笑いながら気にしていない旨を伝えようとする。
…全く気にしていないといえば、本当は嘘になってしまうのだけれど、相手の恐縮の仕方を見ると、脇に追いやりたくなってしまう程度のことではあった。

「最初は驚くわよね…私なんか、早い段階で喋る蛇に話しかけられたりして、凄くびっくりしちゃって。…学園の先生で、後でも色々お世話になったんだけどね。
…その後は、そういう方向で驚くことは大分減ったんだけど」

「心臓が2個あっても足りないぐらい」という女子生徒のたとえに、くすくすと笑う。10代らしい茶目っ気が零れた。

「…ありがとう。」

許可をもらえば、そう礼を言って、自分が指差した席に…陽菜と斜めに向かうような位置に座って、机の上にブリーフケースを乗せて、開き始める。

「ええ、3年生よ。
…でも、この学園って色んな人がいるから、生徒の間の学年の上下とか、あんまり気にしないようにしてるの。プライベートなら大体普通の口調で喋っちゃうしね」

「間違えてないし、そんなに恐縮しないで」と、柔らかく笑う。
…その一方で、自分もこういうところがあるなぁ、と考えたりもしていた。

藤巳 陽菜 > …縁がないわけじゃない。
親とか祖父母とかが異邦人の人なのだろうか?

「喋る蛇…。へ、へえー。
 そんな先生もいるんですね。」

もし会うことがあったら色々聞いてみたい。
半分蛇のこの身体でさえ凄まじく不便であるのに普通に蛇の身体なんて人としては生活できてないだろうな。
普通の蛇の様に暮らすその先生の姿をイメージして、そしてそれに自分の姿を重ねてしまいなんともいえない気持ちになる。

「ええ、確かに色んな人がいますよね。」

年下にしか見えない先輩とか美男子にしか見えない女性の先輩とか。
話した数少ない先輩たちは皆個性的だった。

「でも、そういう風に異邦人だって間違われるのって嫌じゃないですか。恐縮もしますよ。
 私も良く異邦人って思わるんですよ。この蛇の身体になるこの異能のせいで…。
 いや、私の場合は間違えられるのも仕方無いんですけどね。こんなですし。」

蛇の身体を触りながら言う。
異邦人と間違われるのも奇異の眼で見られるのもこの身体ならば仕方がない。
陽菜自身でもそうなのだ他人からどうみられても仕方がない。

美澄 蘭 > 「すごく親切な、魔術の先生なのよ。
前提知識が足りなくて、私はその先生の専門の魔術の講義は受けれてないんだけど…」

そう語るオッドアイの女子生徒は楽しげだったり、自分の力の至らなさを思って少し寂しげだったり。
物腰は落ち着いているように見えるが、見える「だけ」かもしれない。

「………う〜ん、そうねぇ………」

「色んな人がいる」のは、前提なので頷くに留めたけれど。
「間違われるのって嫌じゃないか」という言葉を投げかけられて、ブリーフケースから勉強道具を出して準備する手を、思案がちに止めた。

「…私の場合、完全な嘘ってわけでもないし…
あと、私にとって嫌なのは、多分「異邦人だと思われること」じゃなくて、「異質だと思われて距離を置かれること」だから。

だから、この島ではあんまり気にしたことないのよね…そうでなくても、そこまで目立つわけじゃないし。
たまに指摘されるとうっ、てなることもあるけど」

そこまで言って、陽菜に身体の正面を向けるように、座り方と向きを変えて。

「…でも、あなたは最初からそうだったわけじゃないのよね?
私みたいに、こっちなら気楽、ってわけにもいかないかしら…

…ごめんなさいね、あんまり力になってあげられなくて」

そう言って、申し訳なさそうに視線を落とした。

藤巳 陽菜 > 「魔術の先生ですか。ああ、魔法が使えたら蛇の身体でも生活できそう!」

陽菜にとって魔術はフィクションのイメージそのもので杖を振って呪文を唱えれば何でも叶うそんなものだった。
なるほど、それなら生活には困らないだろうし。
…もしかしたら人の体にもなれるのかもしれない。

(勉強してみてもいいかもしれないわね。)

「…。」

指摘されるとうっってなる…。

(…さっき思いっ切り珍しいって言ってしまった。
 内心うってなってたんだろうな…。)

申し訳なくなってまた目線を逸らす。

「…いえ、大丈夫です。こっちこそごめんなさい。」

最初から、最初から周りと違うのはどんな感じなんだろう。
どこにも、混ざることが出来ず、距離を置かれてしまう。
異質な事も普通であるこの島に来るまでどんな思いをしてきたのだろう。

陽菜はこの姿に変わってすぐにこの島に来ている。
だから、混ざれない事を実際に体験していない。
イメージと恐怖だけが先行している。

「で、でも私そんなに長くこの身体でいるつもりはないんです。
 だから、今さえ乗り越えてしまったらもうそういうことは悩まなくて済みますから!」

そう、元の身体に戻る。そのためにこの島に来たのだ。
だから、異邦人と間違われることも異質だと思われることも関係ない。
この異能さえ捨ててしまえば!

美澄 蘭 > 「ええ…何もないところから端末出してみたりとかもしてたし…
移動とかが便利になる魔術なんかも、あるかもしれないわね。私はあんまり詳しくないけど…」

魔術の範囲はあまりに多岐に渡り、この島に来てから学び始めた蘭では、浅くすら網羅は出来そうにない。そして、そういう「生活に便利な魔術」は、今は特に講義を履修していないのだった。

…そして、説明を正直にし過ぎたらしい。「うっ、てなることもある」を思った以上に深刻に受け止められてしまい、こちらはこちらであわあわしだす。

「ううん、本当に…気にしないで。
ついこの間も新入生の人に聞かれたばっかりで、そんなにびっくりするタイミングじゃなかったのよ」

無論、ついこの間聞かれたときはしっかり「うっ」てなったし、「この島を出た後」についてちょっと考えてしまったりもしたけれど。
「この島を出た後」のことは、どうせ考えなくてはいけないことなのだ。

「………そう………」

やたら元気に言いきる女子生徒に、今度は思案顔。

「………そうね。早く、元の身体に戻れるといいわね。
出来れば…戻った後も、「色んな人」のことは、忘れないでいて欲しいけど」

それでも、最後にはそう言って、柔らかく笑った。

藤巳 陽菜 > 「凄い便利ですね。
 本当に魔法みたい…っていうか魔法でしたね。
 私もこの島にいる間に一つくらい覚えてみようかな?」

一つでも使えるようになれば面白そう。
そんな浅い考えだった。

「ああ、じゃあまだ良かったです。
 …そろそろ、慣れた方が良いと自分でも思うんですけどね。」

逆に気を使わせてしまった。
…でも、この島に慣れてしまったら今よりも普通と離れてしまう気がする。
本当に慣れてしまってもいいのだろうか?そんな考えが頭をよぎった。

「はい、私はその為にこの島に来たんですから。
 この異能を消してしまう為に、普通の人間に戻るために。」

そう、言い切る。自分に言い聞かせるように…
この身体が戻らない事なんて想像もしたくないように
強く言い切る。

「はい、それはもう忘れませんよ。
 こんな体験できる子なんてなかなかいませんしね。」

その柔らかい笑顔に笑顔を返す。
だが陽菜はこの少女はまだきっと表面だけしかみていない。
仮に今すぐに元の身体にもどったとして刺激的な体験、苦労、知識そんな事は残っても。
きっと、まだそれだけだろう。

美澄 蘭 > 「向き不向きはあるかも知れないけど、勉強すればそれなりに使えることが多いから…いいんじゃないかしら、せっかくこんな学園に通ってるんだし」

こちらはこちらで、割と無邪気に魔術の勉強を進めてみたり。
「普通」の枠を疑わない目の前の新入生には良い機会、くらいに思っていたりするのかもしれない。

「こういう風に話す機会が増えれば、嫌でも慣れるんじゃないかしら。
…私なんかは、中身とか考え方はこの島の外側に大分近いから、その辺微妙かも知れないけど」

そう言って、無邪気な笑みを零す。「自分はまだまだ序の口だ」と言わんばかりの口ぶりで。

「二本足から急にその身体じゃ、不便なことも多そうね。
島の外側じゃ、想定された街の造りにもなってないでしょうし…」

想定されない身体で街を行くと、どんなことが起こるのか。何が見えるのか。
気になることは数あれど…名も知らぬ新入生相手に、いきなり掘り下げていいことではないだろうと、気分を切り替えて勉強の準備を再開する。
笑顔で返されたこと、まず不快に思われなかったことには安堵したが…一方で、そこまでの理解はしてもらえなかったのだな、ということも感じ取れて。

「体験もそうだけど………まあ、もうちょっと深いところで、ね」

そう、勉強の準備を整えながら少しだけ悪戯っぽく笑うに留めた。

藤巳 陽菜 > 「そうですね。折角ですし…分かりやすいのとかあります?」

どんな授業が簡単なんだろう?手軽に成果が見れるものが良い。
異能をの対応方法について全然進まない現状だ、分かりやすく前に進んでいる事が分かるものが良い。

魔術に関する授業は凄く多くあった気がする。
【魔術なんとかⅠ】とかそういう感じの授業をとっていけばいいのだろうか?

「確かに…人と話すごとに常識が一つずつ変わっていく感じしますね。
 あ、ああいい意味で!いい意味でなんですけどね。」

今のところはあった人から新しい常識をこの島での常識を学んでいけている。
当然この目の前の先輩からも…この先輩はこういうが陽菜からみれば結構、島に染まってる感じがする。

「それは本当にもう…。
 話せば長くなるので控えますけど、本当に不便ですよ。」

不便な事、不満な事それをあげれていけばキリがない。
陽菜にとって幸いだったのは両親がすぐにこの島に移る手続きを取ってくれたことだろう。
なんせ、外のほうではすべてが全て酷く窮屈だった。

「深いところですか…考えてみます。」

(自分がそうなって感じる以上に深いところってなんだろう?)

その身体の不便さを知り、その身体での不満を知る。
それ以上に何を忘れなければいいのだろう。

…勉強の準備を始めた。
あまり話していたら邪魔になるかもしれない。

「邪魔になりそうですし私はそろそろ…。」

ノートの中をちらりと見てみたが陽菜にはどうにも分からなかった。

美澄 蘭 > 「うぅん…分かりやすくて生活に便利な…
私が前に勉強してた科目はちょっと微妙かな…先生、厳しいって評判だし」

うぅん、と考えるような声を漏らして。
ちなみにこの少女が前にとっていた科目のとある先生は「厳しい」なんてものではなかったりする。その名は、獅南蒼二というのだが。

「怪我とかを治す治癒魔術の初級なら、生物の基礎知識があればついていきやすいとは思うけど…ちょっと違うかもね。
…学園のサイトで、そういう情報集まってるとこないかしら…」

スマートフォン上の端末を取り出し、ごそごそと操作して。

「…ああ、これなんか良さそうよ。クロード先生の「魔術入門」。生活に魔術を活かすことを想定してカリキュラムが組んであって、理論の導入もそこまで厳しくないんですって」

そう、講義の名前を読み上げた。

「島の外にだって色んな世界があるんだし…常識が変わる経験は元の場所に戻っても無駄にはならないわ、きっとね」

そう言って、少し悪戯っぽく笑った。
蘭の場合、島に「染まった」のではなく島で「素を解放することに慣れた」なので、元々性格に強烈なところがあるのかもしれない。

「…そう…。
………私、美澄 蘭っていうの。今度、機会と時間があったらでいいんだけど…その辺りの話、聞いてみても大丈夫?」

不便、不満に満ちていると言わんばかりの相手の表情を見て、そんな風に尋ねる。
名も知らない相手に話す気にはならないだろうと、自分からの名乗りも添えて。

「ええ………是非、そうしてみて」

「普通」にこだわる目の前の新入生から感じる「危うさ」。「普通」に戻った時に、今の自分の視点を、そこで得たものすらも封印して、「色んな人」に奇異の眼差しを向けてしまいそうに思えて…。
考えることを進める蘭の表情は険しいというほどではないが、その瞳には真剣な光が宿っていた。

「ああ…こちらこそ、色々話し込ませちゃってごめんなさい。
勉強も…異能のことも、頑張ってね」

陽菜が移動する様子なら、引き止めはせず送り出す構え。

蘭が開いていたノートは、確率物理学のものだ。
去年落としてしまって、再履修。先ほど話していた「魔術の先生」の専門科目のために必要な、前提知識なのだ。

藤巳 陽菜 > 「厳しいのはちょっと…。」

そういえば前クラスで話していた人がいた気がする。
シラバスの時点で凄まじく濃い内容の魔術系の授業。
それなのだろうか。

「治癒魔術…それは便利そうな…。
 魔術入門。タイトルからして分かりやすそう…。」

他にも色々探してみれば見つかるかもしれない。
また、どういうものがあるか今度探してみるのもいいだろう。

「…そうですね。」

元の生活に戻る事が出来たらきっと、この島での経験はかけがえのないものとなるだろう。
でも、陽菜はまだ自分に起こった事を受け入れることが出来ていない。
頭では受け入れたと思っていても、身体は少しずつ動くようになってきても
心が壁を作ってしまっていた。

「わっ私は藤巳陽菜って言います。
 えっと、はい、また次の機会にでも…。」

自分の苦労を誰かに聞いてほしいという思いはある。
自分の不便さを誰かに分かって欲しいという気持ちはある。
それより、流石にこんな人通りの多い場所で話すのは少し気が引ける。

「今日はありがとうございました。
 はい、異能も勉強もあと、魔術も色々調べてみます。」

そう言うと机にかけてあった松葉杖を持ってロビーを進む。
おぼつかない様子で蛇の身体を波打たせながら。

(…魔術か。何か元に戻るきっかけとかになればいいんだけど…。)

…この島で勉強するべきことはまだまだつきそうにない。

ご案内:「ロビー」から藤巳 陽菜さんが去りました。
美澄 蘭 > 「一応、去年まで履修した分の単位は取れたんだけどね。
結構予習復習に時間取っちゃったし、オススメはしづらいかなって」

素直に努力する、理論にもさほど弱くない蘭のような学生にとっては「厳しいって評判」程度で済むのだろうが…まあ、少数派だろう。

「うん、自分でも調べて、合うのを探してみると良いと思うわ」

「せっかくやる気になったんだしね」と、人の良さそうな笑みで笑いかける。

「「大人になる」って、世界が広くなるってことでもあると思うしね」

陽菜と同様、高校入学のタイミングで学園にやって来た蘭は、その「先」のことを、強く念頭においていた。
「人と接する」とはどういうことなのか、とか。「仕事をする」ってどういうことなのか、とか。

「陽菜さんね、よろしく。
…ありがとう。やっぱり、他の人のものの見方って気になるのよね」

相手に名乗ってもらえれば、ふわりと人なつっこい笑みを浮かべて。
そして、話をすることを了承してくれたことには、しっかりと礼を返した。

「ううん…私の方こそ、力になれて良かったわ。
他にも学園生活のことで、乗れる相談になら乗るからね」

「頑張って」と声をかけて軽く手を振り、去っていく背中と、ぎこちなく波打つ尻尾を見送った。

美澄 蘭 > 「…さて、と」

新入生の姿が見えなくなったところで、改めて勉強道具に向き直る。

(…えらそうなこと言ったからには、自分のことはきちんとしないとね)

そうして、再履修の講義とはいえ気持ち丁寧におさらいをして。
少しだけ陽の翳りが見えるくらいまで、蘭はロビーで勉強をしていたのだった。

ご案内:「ロビー」から美澄 蘭さんが去りました。