2017/08/05 のログ
ご案内:「保健室」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 「はぁー……補習とかね、概念から消えてしまえば良いんだ。」

鬼のような日光が情け容赦無く降り注ぐ夏の午後。
毎度おなじみ出張簡易研究室もとい保健室の隅っこで俺はアイスコーヒーを啜りながら呟いた。
ここ一週間くらいは補講や補習に追われ、だらだらする時間もほとんど取る事が出来なかった。
本当、補習とか消えて無くなってしまえばいい。学生の時から思ってたけど。

「ようやく落ち着ける時間が出来たと思えば、また別のタスクが山積みだしさあ。」

膝に乗せたノートパソコンの画面を睨んでいると、自然とため息がこぼれる。
頭の上にはウサギの耳。こいつもこいつで中々消えない。

ご案内:「保健室」に藤巳 陽菜さんが現れました。
藤巳 陽菜 > 「失礼します。暁先生、生きてますか?」

そんな風に言いながら保健室のドアを開く。
手には紙袋、足は蛇体。
部屋に入ってその教師の頭の上を見ると揺れる二つの耳…。

「先生。夏の暑さで頭が…。」

可哀想な物を見る目で頭のそれを見つめる。
まさか本物であるとは思ってもいない。

暁 名無 > 「おう、藤巳か。」

どうやったら今後補習の監督役に就かなくて済むかを真剣に考えていたところだった。
久々に聞いた声に顔を上げると、何だか凄い憐みの視線でこちらを見ている少女が一人。

「……お前が暑さで幻覚を見てるかもしれねえだろ。
 残念だけどな、本物なんだこれ。ほら、こっち無いだろ。」

もみあげの辺りの髪を手で払えば、本来耳があるべき場所には何も無い。
目尻から首にかけて、生え際が綺麗に連なっているだけだ。

藤巳 陽菜 > 「どんな、過酷な状況にいたら暁先生の頭にウサミミ生えてる幻覚を見るんですか…。」

幻覚にしてもあまりに脈絡が無さすぎる。
そんな幻覚をみるようならすぐに病院に行くべきだろう。

「あっ本当だ…。ごめんなさい、てっきり造り物かと思って…。
 って大丈夫なんですか?いったいどうしてそんな事に…まさか異能に目覚めたとか?」

もしかしたら。自分の足のようにこの教師も何らかの異能の影響を受けてこのような事になってしまったのではないだろうか?
そういう事も十分にあり得るのがこの学園である。

「…あっごめんなさい。なるべく気にしないようにしますね。」

油断すると視線が頭に吸われる。
見慣れた人の変化だから余計に違和感を感じてしまう。

暁 名無 > 「ウサギになる異能かぁ……まあ、藤巳みたいな例もあるから一概に無いとも言い切れねえけどなぁ。
 ま、俺の場合はちょっとした自業自得の事故よ。」

召喚を使おうとして誤って変身してしまったのはもう何日前だったか。

「ちょっと前までは全身ウサギだったんだけどな。
 耳だけ残して元に戻ったってわけだ。
 別に気にしなくて良いぞ、あんまりでかい音出されなきゃ、日常生活にも支障はない。」

何しろこのウサ耳、見た目だけじゃなく聴覚も異様に鋭敏化している。
壁ごしの独り言くらいなら余裕で聞き取れるレベルだ。

藤巳 陽菜 > 「事故って…何か、変身する実験でもしてたんですか?」

もしくはテレポート装置を発明したけどうっかりその中にウサギが入ってて
ウサギ男になってしまったみたいな…。
いや、ハエとかならともかくウサギは紛れ込まないだろう。

「あっそれでも元に戻って来てるんですね。良かった。
 じゃあ、もうしばらくしたら何もしなくても普通の耳に戻れるんですか?
 それとも何か戻るためにやった事とかありますか?あっ、あと戻る時って急に戻ったんですか!?
 …参考までに色々聞いときたいんですけど。」

そんな風に質問攻めにする。
どうやら、この教師の身体は元に戻りつつあるらしい。
身体元に戻る感覚それを何とかして手がかりだけでも得られたらいいのだが。

暁 名無 > 「変身になったこと自体が事故だったんだよなあ。
 あんまり詳しい事話すと何か教師免停されそうだから聞かないでおけ。な。」

いや、あの場に生徒は居なかったから俺以外に危険に晒されはしなかったし、そんな事で謹慎とか洒落にならんけども。

「いきなり大声を出すな、落ち着け落ち着け。
 うーん、何て説明したら良いか……。
 魔力が身体をコーティングしてる状態?って言えば良いんだろうかなあ。
 たぶんお前さんのラミア化とはだーいぶ勝手が違うと思……ふむ。」

待てよ。
人間から動物への変身が可能であれば、完全に元に戻る訳ではなくとも、
動物体から人間体への変身は可能ではないだろうか。考えてもみなかったな。

藤巳 陽菜 > 「…ああ、なるほど黙っておきます。」

多分、ヤバい事をしてたんだろう。
でもそれで人に迷惑がかかってるならこの人は自分の立場を捨てても
何とかするだろう。だからきっとただこの人がウサギになっただけで終わったのだ。

「す、すみません。
 じゃあ、変身魔術みたいな感じなんですね。
 それも、その部位の機能をそのまま使えるような強力な…。」

陽菜は完全に身体が変質している。
それは既に異能を消してもどうにもならない。
しかし、今のこの先生のように元の耳を消して獣の耳を出す。
そんな事が出来るなら足の再現は可能ではないだろうか?

「先生、どんな実験をしたとか教えてくれませんか?
 …命に係わるくらい危ないとかなら流石にいいですけど。」

そう、尋ねる。
もし、実験が危険なものであるならば今は、少なくとも今はやらないつもりであるが…。

暁 名無 > 「そうそう、事故って事だけにしといてくれ。
 プライベートで魔術の実験事故を起こしてウサギになった。それだけだ。」

うんうん、と頷く俺。
それにあんまり失敗とかって生徒に知られたくないしネ!

「……意図的に変身魔術を使った訳じゃないんだけどな?
 召喚魔術を使おうとして、陣を描き間違えたんだよ。
 一応その時の魔法陣は複写してあるけど、失敗の産物だから安全性の保障は出来ねえぞ。」

ほとんど俺のオリジナルみたいなもんだからな。
気持は分からなくもないが、流石に他人に絶対の安全が約束できない物は提供できない。
それが生徒、それなりに付き合いのあるってんなら尚更だ。

藤巳 陽菜 > 「それだけって…まあ先生がそれだけって言うならいいんですけど。」

それだけとも言い難い気がする。
本土の方でやったら全国区クラスの大事件じゃないだろうか?
確かにこの島ではよくあるのかもしれないけど…。

「なるほど、じゃあもし試そうと思ったら私は人間を召喚すればいいんですかね?
 いや、ウサミミのラミアとか下半身蛇のウサギとか変な事になっても困るんでやりませんけど…。」

安全でないというなら試す事もないだろう。
この島ならばきっと安全に戻る方法も見つかるだろうし。

「…あっ、先生そういえば私実家に帰ってたのでお土産どうぞ。」

そういえば、そういえばと手に下げていた紙袋を手渡す。
中身はパックに入った漬物がいくつか…。

「お酒にも合うらしいですよ。」

暁 名無 > 「ウサミミのラミアはそれなりに需要はあるんじゃねえか?
 異邦人街とか歓楽街のカジノでバイト出来るぞ。」

野郎のウサミミと較べるまでもない。
流石に下半身蛇のウサギは捕食されてる様に見え……いや、でも尾が蛇の鶏とか居るしなあ……。
それよりも今は藤巳のバニーガール姿を考えておこう。多分似合う。

「ほぉ、何だかんだ言って結局帰省してたんだな?
 なるほどねえ、漬物か。ありがたいねえ、こういう手作りの味ってのは。
 今夜あたりさっそく一杯やるとしよう。」

俺の気分に連動するかのように耳がピコピコ動く。
最初の内こそ頭の上で耳が動くという違和感があったものの、今ではもうすっかり慣れっこだ。

藤巳 陽菜 > 「そんないかがわしい恰好でバイトとかしませんよ!
 というか、カジノで働くことを教師が勧めるってどうなんですか!」

絶対、ウサミミからバニーの格好で連想して言っただけだこの人。
というか、別に生のウサミミでなくてもバニー自体は着れるし…。

「正直帰るか大分迷いましたけど。
 帰ってみると何ていうかその…やっぱり家族はいいなって思いました。」

ありがちな言葉だけど、大事に思ってくれる家族がいるのは素敵な事だ。
異能があっても、どんな姿でも陽菜の家族は変わらず家族でいてくれた。

そういえばこの先生の家族とかはどうなのだろう?

「あの、御免なさい手作りじゃないです…。
 えっと、手作りのもまた何か作りますね。」

凄い喜んでくれているので言いにくい言いにくいけど…。
パック詰めの漬物を少し申し訳なさそうに見せる道の駅とかで売ってそうな感じのデザイン。
甘いものとかよりはこの先生ならこっちの方がいいかなと選んだものだ。

暁 名無 > 「いかがわしいって、ウサミミとしか言ってないじゃーん?
 それともウサミミとカジノで自然とバニーガールを想像したのかな?かなー?」

ふへへへ。我ながらクソみたいな表情をしてる自覚がある。
まあ頭にウサミミ生やしてる所為で何とも不恰好だろうけども。

「そうかそうか。
 ……良かったじゃないか、お前一人が悩んで戦ってるわけじゃねえって解って。」

家族、家族か。
随分と縁遠い言葉になっちまったな、と自嘲気味に思い返す。
まあ改めて家族の大切さを知った藤巳の前で考える様な事でもない、俺は小さく肩を竦めた。

「あー、そうなの?
 てっきり藤巳の実家で漬けてたりしたのかと。
 まあ、酒のアテが手に入ったのは嬉しいから良いんだけどさ。」

とりあえず後で冷蔵庫に入れておこう。
俺は紙袋を窓の近くを避けてそっと置いておく。

「ま、土産よりもお前さんがこうして元気な顔見せてくれたのが一番さ。
 おかえり、藤巳。」

藤巳 陽菜 > 「ちがっ!暁先生ならそういうの想像するかなって思っただけです!
 違いますからねっ!」

…実際イメージしたので違う事もないけど
認めるのは癪だから否定する。

「…はい。ここで助けてくれる先生や友達は近くにいる分支えて貰ってるって実感はあったんです。
 だから一人じゃないってのは分かってたんです。
 でも、離れてる父さんや母さんも思ってくれてる。
 支えて貰ってるんだって分かりました。」

そう言って、この島で陽菜を支えてくれている一人、その教師に向かって笑顔をむける。
島の外、島の中どちらかが欠けても今の陽菜は成り立たない。
そうこの身体はバランスが悪いから支えが無ければ前に進めない
…いや、この身体になる前から支えられて前に進んできたのだ。それに今になって気がついただけだ。

「いや、私の実家そこまで田舎でもないですし…
 ご飯も洋食が中心なんですよ。」

確かに車が無ければ困るくらいの田舎ではあるけども
流石に漬物を実家で漬けてお土産にするほどの昔ながらな家ではない。

「…何か凄い恥ずかしい事言ってる感じがするんですけど
 …ただいま、暁先生。」

この教師は偶になんか自然に恥ずかしい事を言ってくる。
普段、テキトーでセクハラバンバンかましてくるのに偶にそういう風なのは良くないと思う…。

暁 名無 > 「はいはい、そういう事にしといてやろう。」

あんまり弄ると容赦ない大声が耳に飛んできそうだ。
この手のからかいは普通の耳に戻ってからするとしよう。

「藤巳くらいの年でその事に気付くのは案外簡単じゃないからな。
 正月にもちゃんと顔見せに帰るんだぞ?」

梅雨頃と較べると随分と成長した笑顔に感心する。
男子三日会わずばとはよく言うが、男女の差異は無いらしい。
こうして大人になっていくんだなあ、と変な感慨に浸りつつ。

「ほー、まあ別に田舎じゃなくても漬物は漬けてて良いと思うんだけどな。
 それにしても里帰りかあ、良いねえ。俺の場合タイムマシンが必須だからな。」

何せ未来から来てるもんで。
いや、多分未来に帰ったところで俺が帰る実家は本土には無いのだが。

「ははっ、なーに照れてんだか。
 じゃあ話を戻して藤巳の希望通りバニーガール姿を考えてやろう。
 胸元パッツパツのやつな。」

やれやれ、まともな話で照れられてはどんな話を振れば良いのか分からない。
いや、流石に俺もちょっとだけ照れはあった。それは否定しないけども。

藤巳 陽菜 > 「私もこんな身体になってなかったら多分気がついてなかったですよ。
 …感謝はしませんけど。」

尻尾を軽く地面に叩きつける。無くてもいつかは気がついていたと思う。…多分。
次はおそらく正月よりも少し早めか少し遅めに帰る事になるだろう。
その時期は混む。この身体でその混雑はあまりよろしくない。

「そう言えば先生は自称未来から来たんでしたっけ?
 正直そこまで信じてないですけど…。」

始めの頃未来では異能を消す方法があるのかどうかとか散々質問したけどはぐらかされた。
それ以降は微妙に信じていない。

「…戻さないでください。
 そんな事より先生。写真とっといて良いですか?
 いや、今しか撮れないなら撮っといた方が良いかなと思って…。
 別に深い意味はないんですけど…。」