2018/07/28 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 午後。よく晴れていれば西日が強く肌を刺す時間帯だが、まばらに千切れた雲が太陽を隠して光は淡く和らいでいた。
屋上へ上がる途中に自販機で買い求めたコーヒーのボトル缶を傍らに、ベンチに腰掛けて独り寛いでいる。
「ふう。今日は涼しくていい」
座学の講義を一通り終えた後らしく、何とも気持ちよさそうに大きく伸びをした。
■ヨキ > ヨキが教鞭を執る夏のカリキュラムは何とも自由だ。
テーマと間口とを広げ、普段は履修していない者も受け入れる。
とは言っても、この常世島で美術を学ぶ者はそう多くないのだが。
話すことと仕事が好きなヨキにとっては、実益よりもほとんど趣味に寄っていると言っていい。
コーヒーを飲んで、ベンチの背凭れに身を預ける。
ひと息ついて気が抜けた顔は、学内の厳格な顔を思えば珍しい。
ご案内:「屋上」に黒笹 紗矢さんが現れました。
■黒笹 紗矢 > 暑さの僅かに和らぐ時間帯。屋上の戸がゆっくりと開いて。
長い長い黒髪をまっすぐに伸ばした、古風な女子生徒がさらりとその日差しのもとへとやってくる。
空を見上げて、僅かに手を空に翳してため息。
ミルクティーの缶を右手。小さな文庫本を左手に屋上を歩き。
「……あら、先生。こんにちは。
休憩中ですか?」
穏やかに微笑む委員長顔。
良い評判と悪い噂が入り混じる、まあ成績と表面的な素行だけを見れば十二分に優等生が、丁寧にあいさつを一つ。
■ヨキ > 掛けられた声に振り返る。
「やあ。黒笹君、だったか。こんにちは」
ヨキは学生の顔と名前を覚えるのが早い――優等生の体面を取っているのならば特に。
真ん中を陣取っていたベンチを少しずれて、一人分のスペースを空ける。
「君も休憩しに来たのかね?
今日は風もあって過ごしやすいからな」
■黒笹 紗矢 > 「ありがとうございます。ふふ、そうです、ちょっと休憩に。
普段は図書室に籠っているんですけれど、暑いとどうしてもエアコンの聞いた図書室はみんなが集まってしまうので。」
棘の少なく、遠回しな言い方で、図書室うるさいんですよ、と少しだけ苦笑を浮かべて。
お礼を言いながら、その隣にするりと座る。
それでも日をあまり浴びないせいか、少し頬に朱を刺し、汗の匂いをほんのりと。
「……少し落ち着くまで、ですけどね。
先生は休憩ですか? それとも、今日は終わりでしょうか?」
■ヨキ > 「図書室は夏も冬も快適だからな。
ヨキもよく使わせてもらっているが、学生らの隅で教師が休んでいては、休まるものも休まらんだろうと思って」
それでここに来たんだ、と軽く笑う。
「ヨキの方は、夏期講習が終わったところだ。少し休んだら、あとは職員室で事務の仕事がいくつか」
男の肌と、少しの汗の匂いに、ささやかな香水が交じる。清涼感のあるすっきりとした香は、夏のために選ばれたものだろう。
よく言えばさりげなく、悪く言えば計算高い。
「うるさいと言えば、ヨキもなかなかよく喋る。せっかくの読書が止まってしまうのではないかね?」
にやりと笑って、相手の顔と文庫本とに視線を向ける。
■黒笹 紗矢 > 「図書室は休憩室ではないんですから。
………いびきが聞こえてくるんですよね、起こすのもいいんですけれど、私も休憩したいと思って。」
ふぅ、と頬を抑えて苦笑をする。
制服に身を包んでいなければ生徒なのかよく分からない女は、香水の匂いで軽く鼻を鳴らし……少しだけ微笑む。
いやらしさも無ければ脂っこさも無い。彼女の好奇心と悪戯心をほどほどに抑える香り。
「なるほど、夏期講習。
今日はいいですけれど、これだけ日が照ると疲れてしまいますよね。
美術であれば、ただ座っているだけ……というわけにもいかないですから。
大丈夫ですよ、本ならいつでも読めますから。
それよりも、生徒と傍にいるといつでもずっと先生でいなければいけないわけで、疲れたりしませんか?」
手を口元にあてて、ふふふ、と笑う。
■ヨキ > 「気晴らしのための読書ならいいが、居眠りで席を占有されては困ってしまうな。
図書委員は普段からあの場を守ってくれているのだから、たまには外で寛ぐのも良かろう」
コーヒーで喉を潤して、言葉を続ける。
「こうも外が暑くて中が涼しくては、身体が追い付かんよ。
ゼミの者らは秋には作品展が待ち受けているから、そうそうバテられては困る。
ヨキはヨキで、今のうちに片付けられる仕事は片付けてしまおうという算段さ」
紗矢の問いに、何事もない風に答える。
「いいや?疲れるだなんて、思ったこともない。
学外では彼らとカフェテラスへ連れ立ったり、ゲームセンターで遊んだりもする。
ここの学生はみな、ヨキの家族や、かわいい子供のようなものだ……もちろん、君も含めてな。
『常世学園の先生でないヨキ』など、考えられんよ」
目尻に薄らと笑い皺を浮かべて、朗らかに笑う。
■黒笹 紗矢 > 「ええ、夕方になったら出向いて、寝ている人を起こしてお説教です。
何とかかんとかくつろげる温度でよかったです。」
紅茶と文庫本を横に置いて、ん、っと両手を上に持ち上げる。
肩が凝る原因を揺らしながら、いたたたた、なんて小さく声を漏らして。
「なるほど、ここから作品展……
芸術の秋に向けてということなんですね。
私も図書室に長時間籠って、いきなり外に出るとふらっとします。
健康にはよくないんですが、最近は暑すぎて運動も………。」
伸びを終わらせれば、紅茶の缶に口をつけて。
ちろり、と唇を舐めとって、笑う。
「………ふふ、ありがとうございます。
であれば、先生として以上に、『悪いコト』をしたらお説教をされてしまいそうですね。
島に来るまでの先生とはまたちょっと違う先生が多くて、不思議な気持ちです。」
香りだけではなく、立ち振る舞いにもしつこさが無い。
爪をひょっこりしまい込んだまま、少しだけ目を細めて。
■ヨキ > 「ふふ、説教もほどほどにしておきたまえよ。寄り付かなくなっては元も子もないからな。
君のような女性なら、優しい声で遠回しにこう言うんだ。『居眠りすると、空調で身体が冷えますよ』とな」
冗談めかして迂遠な言い回し。
紗矢に併せて、空いた手を添えた肩をぐるぐる回して解す。
「そう。君ら図書委員が何週間か先の返却期限を意識するように、教師もまた次の季節や来年を見据えているものだ。
訓練施設なら空調も利いているが、無理が祟って身体を壊しても良くないからな。
『スポーツの秋』とはよく言ったもので、夏が過ぎ去るのをしばしの辛抱で待つのが吉さ」
“悪いコト”。不意のその言葉に、紗矢へと流した目に睫毛の淡い陰が落ちる。
一瞬の間を空けて、さあ、と零した笑みに吐息が交じった。
「悪いこと、ね。何と言っても、ヨキは学園の規律を守り、守らせなくてはならないから。
愛する子らを叱って躾けるのも、教師の大事な仕事だ。
島外の教師らだって、それは意識していることのはずさ……。
例えば、君の考える『悪いこと』とは何かね。図書室の本に落書きをするとか、拾った小銭をちょろまかすとか?」
■黒笹 紗矢 > 「なるほど、じゃあ、それをやってみますね。」
僅かに口元を綻ばせる。
穏やかに微笑む理由がいい悪戯を思いついたから、とはなかなか言えないが。
後ろから身体を押し付け、耳元で囁いた時の反応が楽しみで、楽しみで。
「………。案外委員でも気にしない人は気にしないんですけどね。
そうですね、ムリはしないことにしましょう。
汗をかくだけなら、スポーツに拘る必要もありませんし。」
ちっちゃく肩をすくめる。
図書委員は「真面目そう」に見えるが、「涼しそう」という理由でやってくる人もまあいるにはいるわけで。
「………そうですね。いえ、正しい躾は教育の一環ですから。厳しく躾をすることが必要な場合も、ええ、……ありますね。
悪いこと、悪いこと………そう、ですね?
悪いことをしていないように、教師の前でイイ子でいる、とかでしょうか?」
ウィンクをしながら、ぺろと己の唇を舐める。
躾、を繰り返して僅かに頬に朱を混ぜるのは、きっと日光が偶然直接刺しこんだから。
■ヨキ > 紗矢の内心を知る由もなく、楽しげに続ける。
「図書委員の仕事だって、動き回るわ重いものを持ち運ぶわで、なかなかの重労働だろう。
適度に身体を動かして、三食きちんと摂ること。それだけだって、健康を保つには十分だ」
堅物で、四角四面で、石頭。朗らかな言葉のようでいて、学生はそうあるべきと揺るぎもしない。
評価が毀誉褒貶相半ばするのは、このヨキという教師だって大概だ。
「学生らには、自由があって然るべきだ。規律のために、縛られるべきでない点まで束縛することは良しとしない。
だが個人の『自由な振る舞い』によって誰かの心身や生活が脅かされるなら、それは諌めてやらなくてはならんだろうよ。
…………、ふむ?」
紗矢の答えに、目を細めて微笑む。
少しずつ傾く陽光の中で、値踏みとも詮索ともつかない眼差し。
「……ふ。どうやら君は、悪い子の資質があるようだ。
ならばその悪い点をヨキに見透かされぬよう、重々注意を払いなさい。
ヨキほど容易く欺ける教師は居ないが、一度見破ったものを看過するほど甘くはないのでね」
内緒の共謀でも勧めるように、密やかなトーンの声。
自分の見も知らぬことは存在さえしていないとでも言うように、微笑んで視線を外した。