2015/07/03 のログ
■ジブリール > 「わたくしにはもったいない名前を頂きました」
【自身の胸に手を置いて、竦めるように細肩を揺らす。
女は彼の背中を凝視する。平々凡々な生徒はこうまで傷を負うかなど突っ込みは無用だろう。】
「まぁまぁ、随分とやんちゃをされているようですわ」
【それよりも、鉄が差し込まれた場所と肉が膿んでいた。
中々に凄まじい肉体である。見慣れていなければ目を覆いたがりそうなものを、女は特に気にする素振りも見せなかった。】
「爆破のスタントマンでもしていらしたのでしょうか。
……では少々沁みると思いますが」
【機械の部分は完全に専門外だが、肉体に作用することなら心得はあった。戯言を交えつつ消毒を手早く行い、軟膏を均一に塗っていく。】
■ウィリー > 「いずれの解釈でもメッセンジャーとしての役割を果たす天使だったか……ふむ」
「いや、面目ない。兼業で自警団をやってるうちに、どうしてもこうなった」
苦笑しながら。一つ一つの傷を覚えているわけではないので、どれだけ
ひどいことになっているか自分ではわからないのだった。
「スタントマンか……スタントマンは、腕一本もいででも誰かを張り倒したいなんて思うのかね」
ぼんやりと。傷口に浴びせられる消毒液はさほどに染みず、むしろ指でなぞるように塗りこまれる軟膏が痛い。
「……」苦虫を噛み潰したような顔で我慢。
「ところでジブリール、君は体調が悪くてここに来たんじゃないのか?」
■ジブリール > 「神様の声は聞こえませんが、皆に広く何かを伝えられる存在でありたいものですわ」
【均一に塗り、ムラがないように。油紙を取り出して対処する。包帯を引っ張った。】
「あらあら。自警団とは大変な兼業ですわ。テスト期間中ですのに、お疲れさまです」
【簡単なねぎらいを含みつつ、包帯を患部にまき始める。
見ている限りは悲惨なものであるが、それが見えなくとも戦闘を繰り返している彼が理解していることであろう。】
「さて、どうでしょう。スタントマンさんはお金の為に危険なことをしますから。張り倒したい気持ちがおありなら、一考するでしょうか。
……あぁ、問題はありません。個人的な所用があったのでここに来たのですが、徒労だったようなので」
■ウィリー > 「案外新聞部が向いているかもしれない……冗談だ」
手当てを終えて、肩周りをぐるりと回した。痛みはあるが、放置しておくよりいくらも良い。包帯の巻き方の上手さもあって、可動域も制限されていないようだ。
「どうも。まあ、さすがに今はテストを優先させてるが……
頭ばっかり使うのは性に合わないもんだ」
だから、戦闘実践などというニッチな試験を受けに行ったのだ。
「ほう、徒労か。その上手当てまでさせてしまっては悪かったか……
ああそうだ、なにか連絡手段は持ってるか? スマートフォンとか通信用のIDとか」
「お礼がしたいが、さすがにここじゃ何もできないしな」
■ジブリール > 【よく包帯を自分で巻いているためその手の処置は得意だった。やわく笑みを浮かべる。】
「ですが学生の本分は勉強をすることですわ。頭も使ってこそ荒事に生かせることも多くございます」
【実戦経験のないか弱い女が、そんな論を述べたところでどうにかなるものでもないと、理解はしていた。】
「わたくしが好きでしていることですので。構いませんわ。……あぁ、でしたらこちらに」
【示されたスマホを取り出した。お礼なんて、気にしなくてもいいのだけど。好意は素直に受け取ることにした。】
■ウィリー > 「……そう言われるとぐうの音も出ないな。腕っ節だけで何もかもが解決するわけでもない」
そう強く認識させられた結果が、この生身でない左腕なのだ。
「本当に、そうさ」
だからこそ、ジブリールの言うことはもっともだと。目を見て大きく頷く。金色の瞳が、柔らかく輝いた。
「さて、データ送受信完了……っと」上着を着ながら、連絡先を交換する。
「また折を見て連絡させてくれ」
「それじゃあ、また」
――また、夜闇の中で。
ご案内:「保健室」からウィリーさんが去りました。
■ジブリール > 「……正論ばかりでは嫌われてしまいますわ」
【自嘲を込めて口元を歪ませた。その唇はなおも笑っていた。彼が宵闇の中へと消えていくのを見届けながらごちた。】
「あぁ、もう遅くなってしまいましたわ」
【別の――自分が寝ていたベッドへと歩み寄り、杖とかばんを取り出す。
弄んでいた自分の包帯を手に取ると、手際よく撒き始め、この場を後にする準備を開始するのだった。】
ご案内:「保健室」からジブリールさんが去りました。
ご案内:「廊下」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (昼休みの長い廊下を、質素な紙袋を小脇に抱えて歩いている。
生徒たちの和やかな声が遠く聞こえてくるのを横目に、一歩ごと、かつんかつんと規則正しいヒールの音が響く)
■ヨキ > (紙袋は商店街にある小さなパン屋のものだ。辿り着いた美術室から、使い込まれた木のスツールを引っ張り出してきて、開けられた窓から風の吹き込む曲がり角にごとんと置いた。
古い油のにおいが染み付いた美術室の前で、構わずくるみ入りの丸パンをひとつ取り出し、もそもそと食べ始める)
「…………。……うまい」
(この廊下にあって響きもしないほどの、ごく小さな声)