2015/08/05 のログ
ご案内:「教室」に蓋盛 椎月さんが現れました。
蓋盛 椎月 > 一般に授業を行う教室が並ぶ教室棟のフロア……からは離れたフロア。
区別されていることは明らかだが、隠されている、というほどでもない場所。
その一室で、『たちばな学級』の授業が行われていた。

教壇に立つのは普段は養護教諭として保健室にいる蓋盛椎月。
首にはタオルを巻いている。
右手にはチョーク。左手には――なぜかアイスバー。
全身からはダラダラと汗を流している。
黒板を見ると、図形や算式などが書かれている。
どうやら数学の授業中であるようだ。

教室の机に座る生徒はたった一人。
平均よりは大柄な体格の、短髪の少年。タンクトップ姿である。
こちらも大汗をかいている。

天気は曇り空とはいえ、やはりこの教室内も蒸し暑い。
しかし二人の流す汗の量は尋常ではなかった。

蓋盛 椎月 > 「はいじゃー、この立体の面積求めてー」
かつかつとチョークを鳴らし、図形を書き終えたところで
唯一の生徒に声を向ける。
うす、と立ち上がる男子生徒。
蓋盛と並んで教壇に立つ生徒。アイスバーをしゃくしゃくと食べながらそれを見守る蓋盛。
『えっと、これはえーっと、アレを二つ組み合わせた形なんで』
生徒が覚束ないながらも解を出していく。
その過程で、じわ、と教室内の温度が一度ほど上がる。

「大丈夫、あってるよー、がんばれ天田くん」

普段の蓋盛であったなら叫んで下着姿になってしまうところであったが、
この生徒、の持つ異能――《ホットスポット》の前にそれは逆効果である。
この授業は、異能を制御できない生徒が……日常でそれに慣れ親しみ、制御できるよう訓練することの一環でもあるのだ。

蓋盛 椎月 > 男子生徒、天田勝臣(あまた かつおみ)の持つ異能、《ホットスポット》。
緊張・興奮状態になるとそれは発動し、周囲の気温を大幅に引き上げてしまう。
――その効果範囲は、教室をひとつ覆うほど。
これが彼に、通常の授業を受けさせることができない理由だった。

『たちばな学級』は、一般的な学校で言うところの特別支援教室に相当する。
所持する異能などの問題で、他の生徒とともに授業を受けられない生徒が集う。
しかし、特別支援教室と違うのは、その学級に所属する生徒同士であっても
同じ教室で授業を受けさせることができるとは限らない、というところだ。

もちろん同時に授業を受けさせることができる例もそれなりにあるが、ここでは割愛。
ともかく、天田勝臣の異能はまだ他の生徒と一緒に教室に入れて授業をさせるわけには
いかないという判断のもとにある。

そして、たちばな学級に所属する教員は非常に少ない。
この学級で授業を行うということは、肉体・精神に直接害が及ぼされる可能性があるということだ。
生半可な覚悟ではつとまらない。

授業効率の悪さと、教員の乏しさ。
加えて常世学園は義務教育でも何でもない。
比喩でもなんでもなく、たちばな学級で授業を受け続けると卒業まで一般の四倍近くの時間がかかる。

座学の授業を行うだけなら通信教育でも問題ないことも手伝い、
いつ仕分け対象になってもおかしくない学科であった。

「…………」

手にしていたアイスがなくなった。
教壇の脇においてあったクーラーボックスから
追加のアイスを引っ張りだしてかじる。

ご案内:「教室」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
蓋盛 椎月 > 蓋盛がたちばな学級で授業を行うさい、多くの場合クーラーボックスで
大量のアイスを持参する。これは予算で落ちた。
もちろん《ホットスポット》対策ではあるが、他にも用途はある。
冷たい食べ物は麻酔効果があるのだ。
食べ過ぎるともちろん後で体調を崩すが、それはどうでもいい。

「よし、よく理解出来てるねー」

天田がうまく解を導き出せた。
人懐っこい笑みを浮かべて褒めてやると、また室温が少し上がった。
……天田勝臣は年頃の男子らしく、女性に弱い。

(うへへへ……やっぱあたし向いてないよ……)
人手の少なさを痛感させられる。

奥野晴明 銀貨 > そっと、音もなく教室の扉が開かれる。
中に入ってきたのは14歳ぐらいの無機質にも思える少年だ。
静かに、足音すら立てないように中を窺うと、後ろの壁に背をつけて静かに授業を見学する。

天田勝臣とは昔自分がたちばな学級に通っていた時に見知った仲だ。
彼の異能の効果もよく知っている。
緊張をさせないように、彼と目線が合えばそっと微笑む。
よく出来ているよというお兄さん風を吹かせるように。

そしてこの授業を取り仕切る蓋盛教諭ともまた、銀貨は顔見知りだ。

《ホットスポット》の効果範囲に入っているにもかかわらずその人形めいた陶磁器のような肌には汗一つ浮かんでいない。

蓋盛 椎月 > 新しく教室に入ってきた生徒――銀貨の存在に気づき、
蓋盛はちょっと驚いた素振りを見せて、そのあと笑んで手を挙げてみせた。
天田もまた同じように、少し恐縮した様子で頭を下げた。

蓋盛が軽く式についてのおさらいをすると、そこで終業のチャイムが鳴る。休み時間だ。
天田が多少落ち着きを見せたのか、少しずつ室温は快適なものに近づいていく。

「銀貨くんじゃないか、久しぶりだね。常世に来てたんだ。
 ただのアイス食べる?」
クーラーボックスからアイスキャンデーを二本取り出して、
一本は天田に渡し、一本は銀貨へと差し出そうとする。

奥野晴明 銀貨 > 「お久しぶりです蓋盛先生、一昨日ここに戻ってきました。
 お変わりはありませんか?天田くんも、元気そうで良かったです」

薄い笑みを浮かべ、蓋盛と天田へ会釈する。
彼の笑みは独特で、どうもなにか人形めいたものがある。
何もかもが整いすぎているからこそ、違和感を感じるのだ。

差し出されたアイスキャンディーには快くいただきますと受け取る。

「天田くん、前よりもずっと異能の制御が身についてきたね。
 今日は全然すぐに干からびそうには無かったよ」

そう言って、天田の授業の成果を褒めてやる。
以前自分がそうだったように、彼にもまた頑張って欲しいからだ。

蓋盛 椎月 > 天田は少し照れたようにはにかんで、
銀貨の言うとおり、少しずつではあるがコントロールが可能になってきたこと、
すぐにとは言わないまでも、この調子なら『卒業』も現実的かもしれない、
というようなことを口にした。
それは『たちばな学級』の成果でもあり、天田自身の努力の賜物でもある。

蓋盛は首筋の汗をタオルで拭い、アイスを口にする。

「ここは相変わらず混沌としていて“平和”だよ……
 特に妙な事件に巻き込まれることもないし、壮健にやってるよ。
 そっちこそどうだった。留学していたんだっけ?」
そう言って見せる表情は、変わらない人好きのする笑い方である。

奥野晴明 銀貨 > 彼の話には頷きながら、我が事のように喜んで聞く。
たちばな学級に所属する生徒は多かれ少なかれ『卒業』を一つの目標として定める子が多い。
自分たちが他の人達と同じように並び立てることを求めて、
自分たちは厄介者ではなく、一人の人間として立てることを証明するため。
『たちばな学級』にいるのは仕方なくだとかそういう諦めの末に来たのではなく、自分たちが前に進むために居るのだということをいいたいがために。

もしかしたらそう思っているのは自分だけかもしれないが、少なくとも目の前の天田は同じような感情を持っていてくれるだろうかという予感。

自分もアイスを一舐めしながら、蓋盛の話をじっと聞く。

「ええ、欧州の方のここと似たような学園都市に1年ほど居ました。
 あちらもまた常世を踏襲した都市として運用されていますが、なかなか苦労している様子でした。
 まだまだ異能者にしろ、魔術師にしろ異邦人にしろ、扱いは非常にデリケートなものですから。

 妙な事件、ですか。それが起こること自体は想定の範囲内であり確かに”平和”そのものですね。
 先生や学級のみんなが、いえ学園が壮健ならば嬉しいです」

穏やかだが淡々と蓋盛へ返事をする。

蓋盛 椎月 > 危険で制御の行えない異能を持つ人物を、ただ隔離することで済ませるだけではなく、
社会に参画できる人間として『卒業』させる、それはたちばな学級の意義のひとつである。
天田もそれを目標としていた。

教員の足らないこの学級では専門的な教育を行うことは難しいが、
ただ参考書と向き合うだけでは得られないものを与えたい、という理念のもとに
この学級は創設された。
しかし、一線を越えて危険すぎる存在は、たちばな学級ですら扱うことはできない。
例えばかのロストサインの元メンバー、吸血鬼ウェインライトなどがそうだろうか。
そのことから、たちばな学級の存在を偽善であり、無能であると糾弾する向きもある。

「ふむふむ……なるほど。
 ここを参考にしたケースはいくつかあるらしいけど、
 多様な異能者や異邦人を扱いきれずに破綻した、って話も珍しくない。
 きみのほうではそういうことはなかったようで何よりだ。
 常世学園はうまくやってるほうだけど、お外からは危険組織扱いされていたり
 することもあるらしいし……」

机のひとつに着席して、アイスを頬張りながら銀貨と話す。
天田は板書し切れていなかったところをノートに写し直し、
復習をはじめていた。

「なあに、こちとら一般市民よ。頭低くしてりゃ、運が悪くなきゃ大丈夫さ。
 時々、これはこの島マズいんじゃね? って思っちゃう事件も起こったけどね。
 転移荒野とか落第街で怪物がハデに暴れまわったりとかさ……
 有名なのは『炎の巨人事件』とか、名前ぐらいは目にしたんじゃない?」

奥野晴明 銀貨 > 確かにすべてを救うにはこの学級は小さすぎるのかもしれない。
しかしだからといって、たちばな学級を偽善で無能の存在だと銀貨自身は思いたくない。
蓋盛教諭を代表に、異能や魔術を制御できない人間に教科書だけでは足りない経験を補うという理念のもと創設されたこの学級は
少数ながら自分のようなものを確実に救い上げているのだ。
そこに効率性やコスト面の問題を上げていくこと自体が間違いであると思う。

銀貨はかつてたちばな学級で学んでいたものとして、その有用性を広く示すことでかつて世話になったこの学級の存続への手助けをしたかった。
自分という優秀なケースが出てくれば、反対派の人々の見方も変わるかもしれない。
制御できない異能というのは往々にして強力なものでもあるということだから。

「モスクワあたりの都市が確か破綻したと言われているところだったと記憶しています。
 あそこは軍学校を拡張したような形で広げていましたから、
 仕方ないといえばしかたがないことなのかもしれませんが……

 ええ、留学中はここのことも世界からの目線として見ることが出来ました。
 多くの国々がこの学園の、島の動向に注目しています。」

天田がノートを写す所をなにとはなしに眺めながら、アイスをかじる。

「『炎の巨人事件』……ネットニュースでのものなら見ました。
 元公安委員の一人が首謀者として違法薬物による異能強化と制御を試みた事件、でしたよね?
 その影響で公安委員会と風紀委員会に対立をもたらし、その違法薬物が島中に蔓延。
 かつての『ロストサイン』の面々や違法部活の生徒たちの暗躍等による治安の悪化……。

 ずいぶんとまたバランスをとるのが難しそうな問題ですね。
 これもまた……この島が模索する一つの未来の手段だったのだろうか、というのが個人的感想です。

 先生は、実際目の当たりにされていたのですか?どのようにお考えでしょうか」

蓋盛 椎月 > この常世学園自体、厄介払いのような形で異能の発現者が放り込まれることは多い。
常世学園は巨大な『たちばな学級』であるとも言える。
そういう意味でもここは社会の縮図の一部であるのだ。

「軍学校、か。
 ここも攻撃のための異能や魔術の扱い方を教えたりもしてるからね……
 もちろん、手放すことは出来ない危険な武器の扱い方を学ぶって意味でも重要なんだけど。
 実は露骨に軍事について教育している教員もいて……いやこの話はよそう」

かぶりを振って話を中断する。蓋盛個人の領分を越えた話になりかけていた。

「うわさではロストサインメンバーへの対抗が動機だったらしいけど、
 その混乱で捕縛されていたメンバーの脱走を許すことにもなったらしいし、
 それが事実なら皮肉な話だ」

どう考えているか、と訊かれれば困ったように首を捻った。

「……こいつらあたしの仕事を減らすつもりはないんだな、としか。
 いやまあ、思わないことがないわけでもないよ。
 でもお上、常世財団の意向ってのは、少なくとも学園の治安に関しては『現状維持』にしか見えない。
 実際、こういった混沌の上に気づかれた安寧、って状況はずっと続いてる。
 そうなるとさ……島の未来について考えることに、あんまり意味ってのを感じないわけよ。
 日々の生活でいっぱいいっぱいだからな、あたしみたいな小市民は」
疲れたようにため息。

奥野晴明 銀貨 > 「魔術の秘技が一般に公にされている以上
 それについて正しい知識を得ることならば間違いではないと僕は思います。
 間違った情報や知識は恐怖を生みやすい。
 それによってかつての魔女狩りのような事態が引き起こされにくくなるのならばやむを得ません」

軍事教育を行う教員について話を聞くと、微かに片眉を動かす。

「そうですか……モスクワの二の舞いにならなければ良いですが」

そう言うにとどめ、話を『炎の巨人事件』へ戻す。
蓋盛の困ったような態度、その疲れたような声音とため息に完璧な苦笑を浮かべる。

「たとえロストサインへの対抗力をつけるにしても
 強大すぎる力は制御が難しいことを僕が身を持って示していたならば
 もしかしたらそんな事件も、起こらなかったかもしれませんね。
 いえ、仮定の話に意味はありませんでした。すみません。

 先生らしいお考えです。僕があなたに教えを乞うていた時から変わらない。
 今のところ常世財団らはきっと何かが起こったとしてもそれを平らかにならすことしか考えないでしょうね。
 その点については僕も同意します。

 でも先生のような小市民のおかげで僕も天田くんも智鏡ちゃんも……助けられていますよ。
 そこに具体的な未来がなくとも、僕達の未来を確実に近づけて頂いている」

 ありがとうございます、先生と穏やかな声音と整いすぎた笑顔。
 最後の一欠片のアイスを口にするとくじ付きの棒を振った。ハズレだ。

蓋盛 椎月 > 実際のところ、蓋盛の持っている考えというのは、徹底した我関せずの態度……
常世財団の考えと(おそらく)同じ、『現状維持』である。
凄惨な事件が起これば顔をしかめはするものの、それだけ。
自分の領域が乱されず、秩序が保たれる限り、それで問題はないのだ。
――しかし、そういう考えを、少なくとも生徒に直截に話すことはためらわれた。

机に肘を付いて目を細める。

「あたしはなんていうかさ、未来とか理想について考えるのは疲れちゃったから……
 代わりにきみらに現実へ立ち向かえるような力を与えたいと思ってるのかもしれんね。
 あたしは頭悪いからさ……地味なことしかできないわけよ」

棒の頭と後ろを指でつまんで、最後に中心に残ったアイスをかじり取る。ハズレ。

「しかし見事な表情の作り方だね、きみは。
 あたしにもご指導ご鞭撻願いたいものだ……」
皮肉とも素直な賞賛ともつかぬ声色。

奥野晴明 銀貨 > 蓋盛のある意味厭世的な、外野側に立つ態度。
未来や理想を語ることに疲れた大人。
それを責めるでもなく、彼女という人の一部であると受け入れて眺める。

「その地味なことが最も僕らには大事なことですよ。
 僕らは……世界に大仰に大掛かりに、迷惑と害を与えることでしか触れられませんから」

あくまで無機的な表情で声音だけ寂しそうにそう語る。

「僕のこれは生まれつきのものですから指導したくても出来ませんよ。
 何より、僕は先生のそういう人懐っこい表情ができる方が羨ましいし好きです。
 こういう固まってしまった不気味な表情より、ずっと素敵です」

すいと目を細める。本気かどうかもわからない言い方。
ゴミ箱へポイとアイスの棒を放り込むと、そろそろ行きますと宣言する。

「お邪魔しました、先生。またみんなの所へも挨拶に行くと思います。
 アイス、ごちそうさまでした。
 天田くんも元気でね、またおみやげを持って学級へ遊びに行くよ」

そういって柔らかく作った口元で微笑み、彼へ手を振る。

蓋盛 椎月 > 「やれやれ、大人びた言い方だな……ここはそういう生徒が多すぎだ」

寂しげな声に、くすと笑い声を漏らす。

「どうかな。あたしはきみの笑い方も、言うほど捨てたものじゃないと思うけど。
 でも、素敵って言ってもらえるのはうれしいな。
 あたしも、自分の表情には自信がないんだよ、ほんとは」

一度瞑目して。

「おう、じゃあね。学級のこと除いても、あたしの仕事は生徒の健康を守ることだ。
 なんかあったらまたおいで」

そろそろ休み時間も終わりだ。
肘を付いたまま、去ろうとする銀貨に控えめに手を振って見送る。
天田も手を振って、元気よく挨拶をした。

奥野晴明 銀貨 > 「みんな、自分の表情なんて鏡がなければ見ませんから
 そんな風に思っているのかもしれませんね」

でも素敵というのは本当ですよ。と確かに伝える。

「ええそれでは、また。失礼しました」

天田の挨拶にまた笑顔を浮かべ、そっと蓋盛の脇を通り過ぎる。
体がすれ違う際にそっと2枚、冷却の魔術刻印を刻んだ指先2つ分ほどの大きさの金属片を彼女の白衣のポケットに入れておいた。
この金属片を忍ばせておけば、多少天田の能力もゆるやかなものになるだろう。
天田には見えぬような位置で、しかし蓋盛なら気づくであろう手際で何食わぬ顔をして通り過ぎると、
そのまま教室の扉を開いて静かに去っていった。

ご案内:「教室」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。
蓋盛 椎月 > すれ違い様に白衣のポケットに放られた微かな重さに気づき。苦笑する。
(気が利きすぎるよ)
ともあれ、いただけるのであればありがたくもらっておこう。

ずいぶんと前にたちばな学級を必要としなくなった生徒、その背中。
どこか一抹の寂しさを感じずにはいられない。
この学園は、あるいはこの世界は、子供のままでいられない子供が
あまりにも多すぎる、と思う。
もちろん、一足飛びに大人になることを望んだ結果であれば、それもいいだろう。
しかし奥野晴明銀貨という生徒に関しては、それは外部からの要請であったろうことは想像に難くない。

(だからこの世界は地獄だ……)

もはや手のかからない、かける必要にない場所へと行ってしまった彼。
自分であれば銀貨の心を守れただろうか、という考え、それ自体が傲慢なのだろう。
たちばな学級がすべての生徒を救うにはあまりにも小さすぎるように、
蓋盛椎月の出来る事も限りなく少ないのだから。
しかしそのことについて考えを巡らせてしまうのは止められないことだった。
そういった寂寥とした思いを笑みとともにずっと飲み込んできた……。

チャイムが鳴る。

ご案内:「教室」から蓋盛 椎月さんが去りました。