2015/09/12 のログ
ビアトリクス > ガコン、と取り出し口に冷たいお茶のペットボトルが落ちる。
それを屈んで取り出す。
少年の言葉に少し首をひねって。

「落し物か……
 すると、生活委員会か、職員室かどっちかかなー。
 ……ここからだと職員室が近そうだな。
 なんならついてってあげようか?」

軽い調子でそう提案する。

「……新しく編入した人、かな?
 べつに敬語はいいよ。ぼく、一年だし。
 ところでその立派な翼は生まれ持っての?」

日下部 理沙 > 「是非お願いします。あ、はい、そうです。
九月からの新入生の、日下部理沙といいます。
よろしければ、以後お見知りおきを」
 
そういって、頭を下げる。
一緒に翼も揺れて、僅かに傾いだ。
しかし、敬語や翼について問われれば、表情こそ動いていないが、申し訳なさそうに翼を竦ませる。
 
「あ、敬語の方はこれは、癖みたいなものでして。
翼のほうは……異能で後から生えたものです。やっぱり、ちょっと目立ちますかね」
 
そういって、これまた申し訳なさそうに翼を竦ませた。
表情のほうは、最初からほとんどずっと同じだ。

ビアトリクス > 「これはご丁寧にどうも。
 ぼくは一年の日恵野ビアトリクス、よろしく」
つられて小さく頭を下げた。

「へえ、異能なんだ。
 白くて綺麗だし、てっきり空の上から落ちてきた天使か何かかと。
 ……それだったら光輪もないとおかしいか」
背の翼をしげしげと眺める。
ビアトリクスはビアトリクスで始終真顔だった。

「んじゃ、行こうか。職員室は下の階だから……」
ペットボトルを片手に、先導して階段のある方向へと向かった。

日下部 理沙 > 「はい、日恵野さんよろしくお願いします……綺麗だなんてそんな、ヨキ先生以外には初めて言われました。
生憎と天使ではないので、光る輪っかもないただの人間ですが、そういって貰えると嬉しいです。
ありがとうございます」 
 
そういって、理沙はまた頭を下げた。
表情こそ起伏のないものであったが、背中の翼はまた嬉しそうにひょこひょこと動いている。
そして、ビアトリクスの先導に任せるまま理沙は後ろを歩く。
階段の方向すら覚束無い理沙からすれば完全にビアトリクス頼みである。
ずっとこれではまずかろうと理沙も思うので、一応、道を覚えようときょろきょろ周囲を見回しながらついていってはいる。
だが、多分数日後に同じ道を通れといわれたら理沙は迷うであろう。

ビアトリクス > 「ヨキ先生か。あの人も美術に携わってて、審美眼は確かだからね。
 理沙はそれほど気に入っているわけではないみたいだけど。
 ……異能で生えたって言ってたけど、引っ込めたり、飛べたりはしないの?」
他者から見れば見目麗しい物でも、収納不可能なのであれば
人間にとって翼というのは厄介ものでしかないのかもしれない。
先ほどベンチに座っていた時も、少しすわりの悪そうに見えた。

「……地図とか用意したほうがいいんじゃない?
 その調子だと、歓楽街とか行ったら大変なことになるな」

階段をゆっくりと下りながら……
小刻みに動く翼と、明らかにおぼつかない様子に、苦笑を浮かべて提案する。

日下部 理沙 > そう、翼について言及されると。
 
理沙は、歩みを止めた。
 
階段の踊り場で足を止めて、少し強張った……どこか、哀しそうな表情をしたあと……理沙は笑った。
初めて動いたその表情は明らかな嘲笑で、それは……理沙自身に向けられた自嘲の笑みだった。
その笑みは、自らの翼にただ向けられていた。
 
「……はい、飛べません。人間は、翼が生えたくらいで飛べるようにはできてませんので。
ひっこめたりもできないんで、正直にいえば……邪魔なだけですね。これ。
気に入ろうとは思っているんですけど、なかなか難しいです」
 
そう、先ほどよりも少し毒のある表情で、蒼い瞳を細め……翼の先を睨みつけた。
真っ白な、その翼の羽先を。

ビアトリクス > 「…………」
手摺に手を付いて、理沙と同じように足を止め、無表情に振り返る。
次いで自分の胸元を見下ろした。

「……理沙はぼくに似ているね。
 ぼくも、自分のことが――自分の身体が嫌いだった。
 いや、多分いまも嫌いだ」

ペットボトルのお茶を一口飲み、喉を潤す。

「……無理に好きになったり気に入ったりしようとする必要はないんじゃない?
 余計嫌いになるだけだよ。ぼくがそうだったから」

日下部 理沙 > 能面のようなビアトリクスの無表情と、嘲笑象る理沙の顔。
互いに向き合って、ただ、理沙は『また』、此処も外と結局同じかと内心思ったものだが。
 
返ってきた答えは、意外なものだった。
 
「似て、いる?」 
 
そう、呟き、今も自分を嫌いと語るビアトリクスの表情は、理沙のそれと似ていた。
そうなるしかなかったが故に、そうなってしまった鉄の仮面。
自らの胸元を見下ろすビアトリクスのことは、理沙はまだほとんど知らない。
だが、それでも、自嘲の笑みを浮かべる自分をして『同じ』といってくれたビアトリクスのその言葉には、重みがあった。
自らの体を厭うモノ特有の……沼底の澱のような重みが。
だからなのか。
理沙は、問うた。
問うてしまった。
 
「日恵野さんも……異能で……いや、身体のことで、嫌な思いをしたんですか?」
 
本来、初対面で問う様なことではない。
だが、理沙はそれには気付けなかった。
相手も、その澱を持つのではないかという期待だけが先走り、そう問うてしまった。
 

ビアトリクス > 「ああ、似ている」
静かに答える。
その卑屈な笑い方が、対面する人間にどんな感情をもたらすか――
むかしは知らなかった。

「ぼくはそんなふうな翼に憧れていたんだ。
 けど、飛べないんじゃあ、意味が無い」

自身の異能も、身体も、ビアトリクスのかつての憧れとは離れていた。

階段を登り、踊り場で理沙の近くに並ぶ。小柄な身体。
右腕を折り曲げて、手の甲を口元近くに持ち上げる。
へし折れそうに華奢な腕。

「でもさ、身体が嫌いだからって、切り離せるわけじゃない。
 だから、折り合いを付ける、っていうのかな。
 ……『許してやる』しかないんだよ」

穏やかな諦め、あるいは受容を感じさせる声。

日下部 理沙 > 「……」

その声色は……その諦観を思わせる声色は、確かに似ていた。
挑んだ末に地へ叩き落ち、かといって冥府へ至り、越えることもなく、ただ常世を彷徨う。
理沙はつまりは、それだった。
そして、ビアトリクスの声色にある諦観は……確かに、理沙の諦観と、それは似ていた。
小柄なビアトリクスの蒼瞳を見返す、理沙の蒼瞳。
互いの瞳に互いの蒼を映し合いながらも、奥にある光彩は互いに見えない。
問いに答えないことが正に答えであろうビアトリクスの『返答』に、理沙はただ目を細めた。
 
「日恵野さんは……『許した』んですか? 『諦めた』のではなくて」

聞くべきではないのかもしれない。
だが、それでも、理沙は聞いてしまった。
諦めるしかできなかった自分よりも、救われる答えがそこにあるのかもしれないと、期待してしまった。
それほどまでに、ビアトリクスの語る言葉は……理沙の諦観を柔らかく撫でるものであった。 
 

ビアトリクス > 「どうかな。
 『諦めて』しまったことを、いいほうに解釈しただけかもしれない。
 ただ、まあ、皮肉を舌に乗せるぐらいはできるようになったよ。
 きっとそのあたりが、諦めとは違うところだろう」

ゆるゆると首を横に振る。

「どうしてそうなったかは、ぼくにはわからないし……。
 ぼくの身体は十五年の付き合いだけど、
 きみの翼はわりかし最近だろう。
 だからきっと微妙に抱える物は違うし、
 参考になれるようなことは言えないね、残念ながら」

心の奥底では、なんとなく検討がついていたが、それを初対面の相手に口に出すにはさすがに憚られた。
横切るようにひとつ歩を進め、理沙の背に回る。

「この翼、触れてもいいかい。
 ……手触りを確かめたくて」

日下部 理沙 > 「十五年……」

ビアトリクスの察した通り、理沙のそれはここ五年程度のもの。
ビアトリクスのそれの三分の一くらいしか付き合いのない身体的特徴である。
ならば確かに、その答えは自分のそれとは違うのかもしれない。
見えているものも違うのかもしれない。

「それでも……参考になりました、ありがとうございます。日恵野さん」
 
それは、理沙にとっては間違いのないことだった。
あらゆる違いはあれど己の体を憎んだものとしてのその言葉は、頼もしかった。
それによって、自分が今少しでも救われたことに違いはない。
理沙にとっては、それだけでも礼を告げるには十二分なことであった。
 
「どうぞ、いくら触ってもいいですよ。結構、研究者のみなさんにはベタベタ触られるので、慣れてます」
 
そういって、少し翼を動かしてみせる。
純白の翼が、柔らかく揺れた。

ビアトリクス > 「……では失礼して」
目を細めて、そっと翼に手を伸ばす。
息がかかるほどに顔を近づけて観察しながら、
羽根の流れに沿うようにして、丁寧に撫でるようにして触れる。
少しの間それを続け、やがて離した。

「……うん、ありがとう、満足した。
 ぼくは好きだよ、この翼」

表情をほころばせて、そう口にした。

再び理沙を追い抜いて、職員室へと案内する。
しばらくすれば、目的の場所にたどり着くだろう。

日下部 理沙 > 翼を撫でられている間、理沙は動かなかった。
ただ、触れられるままに任せて、目を閉じていた。
丁寧になぞる様に触れるビアトリクスの指先を羽越しに感じる。
研究者のそれとは異なる触れ方。
観察するにしても、単純な学術興味や計測の為のそれとは異なる様に思える。
実際のところどうなのかは理沙にもわからなかったが、心地よい事は確かであった。
 
「私のほうこそ、ありがとうございます。日恵野さん」

一通り終わったところで、職員室につく前からそう告げる。
ほころぶような笑みに、理沙は上手く笑顔は返せなかった。
それでも、翼はそれに合わせて柔らかく揺れた。
 
職員室に無事辿りつき、筆箱を落し物として教師に届け終えたところで、理沙は声をかける。
 
「あの、日恵野さん」 

ビアトリクス > 「終わったかな……」
用は終わったらしく、ならば自分も用済みかな、
と退散しかけていたところに、理沙の声がかかる。

「ん? なんだい」
アルカイックな笑みで応じる。

日下部 理沙 > 「また……」

理沙は、言い淀んだ。
その笑みはただありがたかった。ただ嬉しかった。
それでも、言い淀んだ。すぐに言えなかった。
でも、それでも、理沙は。何とか問うた
何とかただ、単純に。

「また……会えますか?」

ただ、単純に、理沙は問うた。 
何とかそう、問うた。
理沙の問いは、ただ、それだけだった。
たったそれだけの問いだった。
それでも、それは理沙にとっては恐ろしい程の重労働で。
それは、なんとかやっとこ臓腑の底から絞り出した、質量のある一言であった。
それが証拠か、理沙の蒼い瞳はその問いを発したまま、ずっと揺れていた。

ビアトリクス > 数秒の間、自分の言葉に戸惑うように揺れる瞳を、眺めて。
瞬くこと数度。ふ、と息を吐き出す。

「もったいぶるから何かと思えば。
 構わないよ、それぐらい。
 皮肉ばかりが上手なやつだけど、それでよければ」

軽くそう返すと、きざな所作で、くるりと踵を返す。
ふわりとスカートが翻った。

「それじゃあ、ぼくはこの辺で。またね、理沙」

そのまま、廊下のむこうへとビアトリクスは姿を消した。

ご案内:「廊下」からビアトリクスさんが去りました。
日下部 理沙 > 「あ、はい。また……また、お願いします。
今日は、ありがとうございました。日恵野さん」
 
そういって、去っていく背中を見送って、手を振る。
見えなくなるまで手を振ってから、理沙は、漸く手をさげて……自らの震える手をみた。
快諾してくれたビアトリクスのその言葉は、嬉しかった。
だが、だからこそ。
 
少しだけ、理沙には恐ろしかった。
 
「此処は……外と違うのかな」
 
その答えは、未だ出ない。
 

ご案内:「廊下」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「屋上」に山頭火 紅さんが現れました。
山頭火 紅 > 授業終了の鐘が鳴る。
アカズキンは授業終了と同時に立ち上がり覚束ない足取りで人気のない場所、
前情報では屋上が人気が少ないという話を聞いていた為に屋上へ向かった。

屋上に到着して人気が無い事を感じれば備え付けられてるベンチ一つ丸々占領するように俯せで倒れこむ。
木製ベンチに勢い良く何かが当たった鈍い音と痛みが身体に響くがそれ以上にアカズキンの体調を悪くさせた要因があった。

「いや…いや、ユダヤそんな扱い酷かったの…?
 迫害対象とか怖すぎるでしょ…」

ベンチで俯せになりながらブツブツと喋ってる様子はホラーそのものだが、アカズキンは特にそれらを気にする様子はない

山頭火 紅 > 今日受けた授業がどうやら歴史の授業だったらしく、更にその内容が世界史で運が悪くも世界大戦時期の授業内容だったようだ。
アカズキンが本に封印される前、大凡400年前でもユダヤ教追放の流れがあったのは幼いアカズキンでも知っていた。

しかしそれ以上の迫害があると知ってしまった以上、
流石に今はもう生きていないだろうが自分の家族の最後も気になってしまう。

「知らぬが仏なのかなぁ…」

ボソリと呟くがどこまで興味本位で踏み出してしまっても構わないのか、
どこから引き返しても無害で済むかという計算をしているが、その結果皆目見当もつかない。
それこそ異能の持ち主が過去の出来事を再生出来るとかそういう持ち主じゃないと分からないだろう

山頭火 紅 > 「そういう可能性も生まれてしまうとかこの学園、島怖いなぁ…
 出てくる場所間違えたとかないかな…無いよね」

もしも現れるならもう少し平和な場所に現れたかった、と心から切に思う。
昨日も図書館で本を読んでる間にヒーローと筋肉モリモリの2m越えの巨人が殴り合いをしてたとか。

「今思い返せば家に帰ってメズーザーに手を合わせて祈ったりとか、安息日とかあったの懐かしいなぁ…
 金曜日に夜とかちょっと多めに料理作ったりとかして、それを安息日に食べたりとか…」

別の場所に来てからやっと自分のいた宗教の大事さというものを痛感したのだろうか、
やっと普通にベンチに座って手を合わせてお祈りしている。

山頭火 紅 > 「…土曜日なのに何かしなきゃいけないって、この島は窮屈だよね」

それは宗教上の問題なのか、それともこの島自体の政令なのかは知らない。
アカズキンにとっては学業よりも農業よりも何より安息日が優先される環境にいた為にやはり窮屈に思うらしい。

「まぁ、日曜日が休みって人もいるらしいし、あまり押し付けすぎるのも、ねー」

この学園にとって安息日は日曜日なのだろう…それでも、アカズキンは土曜日に休みたいらしいが
山頭火紅の単位が危ないらしく、土日も学校に行かなければならない。

「おのれ、山頭火紅…」

思わず呟いてしまったが、あくまで今自分は山頭火紅であることを忘れそうになった為にその発言を取り消す様に首を振って取り消す。

山頭火 紅 > 「そういえば…」

今の今までそんなに意識してなかったが、今までは少し短めのスカートに膝まで届く靴下に靴だったが、
今は長袖のワイシャツに長ズボンのローファー…所謂革靴らしい。

「たまたま前任が身長がそれなりに小さかったから良かったけど、大きかったら…不味かったよね」

ブカブカのワイシャツの海に溺れ、長ズボンに全身が入ってしまい、ローファーを履けば歩く度に天気を占う羽目になる。
まずそんな見た目で外を歩ける訳もない。所謂引き篭もり状態になってしまうところだった。

「これも神様の思し召しって奴?」

あんな事を神様が見ればまず罰が当たる事間違い無しだろう。

山頭火 紅 > 気付けばもう日が暮れそうな時間だった。

「ひがくれたなら かえろう…だっけ。
 いやこれ全然俳句じゃないよね」

少し前に見た『手前の細道』を読んだ時から少し俳句に興味が湧いたらしく、一人の時だけだが、俳句を口にしているらしい。
しかしそんな急に扱える訳もなく俳句と言えるような俳句が言える訳でもなく、試行錯誤の日々が続く。

ご案内:「屋上」から山頭火 紅さんが去りました。