2015/09/15 のログ
ヨキ > 「――が取った近代的な視点と、その意義についてレポートを……ッくしょん!ぶしゅん!」

(『美学研究』の講義が行われている教室に響き渡る、大きなくしゃみ。
 いかにも喉を痛めていそうな下手くそな音に、くすくすと失笑が漏れる)

「……はあ、失敬。誰かがヨキの噂をしていたらしい。二回は悪い噂と言う。
 さておき、レポートの提出は……そうだな、21日の15時までで。
 以上。これで今回の授業を仕舞いにする」

(言い終えると同時、チャイムの音。
 ふふん、と小さく笑って、四本指のピースサイン。
 学生たちが各々席を立ち、出席票と前回のレポートを提出して退室する。
 ヨキは教壇に座り直し、それらの書類を回収してはまとめてゆく)

ご案内:「教室」に牧瀬 莉那さんが現れました。
ご案内:「教室」に鏑木 ヤエさんが現れました。
ご案内:「教室」に牧瀬 莉那さんが現れました。
ご案内:「教室」に牧瀬 莉那さんが現れました。
ご案内:「教室」に牧瀬 莉那さんが現れました。
ご案内:「教室」から牧瀬 莉那さんが去りました。
ご案内:「教室」に牧瀬 莉那さんが現れました。
鏑木 ヤエ > (ばあん、と勢いよく教室の戸が開かれた。
 レポートを提出する生徒の波に一際小さな頭が埋もれる。
 濁ったクリーム色の内巻きの腰まで伸ばした癖っ毛。
 美学研究の担当教師が犬の獣人であるならば此方は羊とでもいったものか。
 ゆうくりと波を掻き分け、彼の目の前に)

「どうも、やえですが。
 一応履修登録だけはきちんとしてたんですけどこう、こう。
 寝過ごしのプロと話題のやえなので初めての出席になるんですけども。
 えーと、ヨキ、で間違いねーですか」

(こてり、小さく首を傾げる。
 申し訳なさそうな雰囲気など微塵も見せずにぐるり渦巻く紫色の瞳を向けた)

ご案内:「教室」から牧瀬 莉那さんが去りました。
ヨキ > (生徒たちと談笑していたところで、扉が開く音に振り返る。
 現れた小柄な姿にぱちぱちと瞬く。
 話していた生徒たちは、自然と会話を切り上げて次の授業へと別れてゆく。
 先生じゃあねえ、と手を振る様も、それに挨拶を返すヨキも、なかなか軽い)

「やあ、こんにちは。そう、自分がヨキだ。
 『やえ』?やえ、やえ……。

 ……ああ、鏑木・彌重。鏑木君か。初めまして」

(名簿から相手の名前を探し出し、合点がゆくと小さく目礼する。
 座っていながらにして、ヨキは鏑木よりも随分と背が高かった。
 鏑木の語調にも平然として、朗らかに笑う)

「はは、寝過ごしのプロか。それは結構。
 授業の単位か、寝過ごしのプロ免許か、どちらかひとつに絞ってもらえると教員としては有難いんだが」

鏑木 ヤエ > (談笑する生徒の間をガン無視して図々しく割り込めばじろりと向いた視線が刺さる。
 知った顔ではなかったからか少しばかり眉を顰めるさまに「ハローハロー」、と。
 ごとん、と見た目以上に重い足音が鳴いた)

「ええ、鏑木彌重とはやえのことですよ。
 やあやあどうも初めまして。いやあ、思った以上におっきーんですね。センセイは」

(頭の上から降って落ちる声には慣れたものだが、
 座っている相手よりも目線が低いというのは中々新鮮な感覚だった)

「ああ、そうだ。そうです。授業の単位をいただけねーかと思いましてね。
 さっきの授業出席扱いにして貰って構わねーですか?
 3年連続の2回生って中々に辛い字面になりそうでそこそこ焦ってんですよねやえ」

(んー、と唇に人差し指を宛てがう。
 頼み事をする生徒の態度にしては些か横暴であるが、それが当たり前だと言わんばかりに)

ヨキ > 「ヨキは良くも悪くも上背には不自由していなくてな。
 君と足して二で割ればさぞ丁度のよい美男美女となろう。……なに、単位?」

(鏑木の言葉にじろりと相手を見る。
 睨め付けるような眼球の動き。
 ふは、と吐息混じりに笑い出し、書類の束を捲る)

「言ってくれるな、君は……。
 いかんいかん、ヨキは代返とて許さんでな。オマケはせん。
 その代わり……今回のレポートを提出して、次回から寝過ごさずに出席したまえ。
 それなら少しは加味してやろう」

(ほれ、と、A3用紙二枚組のレジュメ、その余りを鏑木へ差し出す。
 目の前の教員は見るからに異邦の服装をしていたが、レジュメの文面はパソコンによって体裁を整えられている。
 テーマは『映画における美意識の変遷』。文末に、授業の終わりにヨキが語っていた課題の一文がある。
 さる1900年代の古典映画を題材に論ずる、レポート課題だ)

「生憎と、他の者たちには授業中に上映してやったものでな。
 観逃したからには、自分でDVDをレンタルしてくれたまえ」

鏑木 ヤエ > (ち、と隠す気もなく舌をひとつ打った。
 差し出されたレジュメを半ばぶん取るようにして受け取った。
 はらはらと頁を捲る。
 胸中でオモシロそうな授業してたんじゃねーですか、と溜息をひとつ)

「………なるほど。
 
 どうもありがとうございます、ヨキ。
 代返くらいは許してくれてもいいんじゃねーかとは思いますがありがたく。
 獅南蒼二とは違って超優しいですね、やえは超嬉しいですよ」

(先日全く同じようなシチュエーションで同じように話をした教諭の顔が思い浮かぶ。
 やったら偏屈な気がして、やたら愚直さすらも感じた教師。
 ポケットにはいつも煙草が突っ込まれている、彼)

「ひとつ常世学園の教師といえどいろんな教師がいるのはオモシロいモンですね。
 中々ヨキとは正反対ですよ。
 だって聞いてくれます?聞いてくれなくても言うんですけど。
 やえが適当な課題くれって言ったらやったら難しい課題投げて寄越したんですよ?
 やえにできるか!っつーハナシですよ。まったく」

(全く明らかに悪いのは自分であるのをガン無視した横暴な発言が零れた。
 この性質はどこにいても、誰といても何ら変わらないスタンスなのだが一部の教師からは敬遠されている。
 誰もデッドボールしか投げてこない生徒とのバットを持たない野球なぞ望まないのは当然である。
 また早口で言葉を並べ立てれば思い出したかのように口を開いた)

「うわー、寝過ごさなかったらよかったですねえ。
 レンタル……歓楽街のほうにあったりしますかね、やえは詳しくないモノで」

ヨキ > 「バカを言うでない。
 出席と講義とレポート提出と、獅南に比べて単位のハードルがえらく低いのだぞ。
 その上代返など認めては、ヨキ当人の美学も何もあったものではない」

(鏑木の物言いを諌めるでもなく、くつくつと可笑しげに笑う)

「獅南の課題が簡単ならば、それはきっと彼の皮を被った偽者だろう。
 生徒らから評判を聞くに、かの授業はなかなかの難関らしいではないか」

(レジュメを渡したあとの書類ファイルを、机でとんかとんかと角を揃える。
 ヨキ自身、次のコマは空いているらしい。紙束を置いて、教壇に肘を突く)

「歓楽街なら、異邦人街側から入ってすぐ……ゲームセンターとコンビニのある角な。
 そこを入った先に、一軒ある。小さいが、品揃えは悪くない。
 旧作なら七泊百円。その代わり、新作が入るのが遅い」

(歓楽街のレンタルショップについて、つらつらと淀みなく答える)

鏑木 ヤエ > 「あ、参考になります。
 ………、存外ヨキって結構に普通な生活してるんですね。
 異邦人って言われるとどっか自分と全く違う────」

(暫しの逡巡。
 自分のここ数日で出会った異邦人を思い出す。
 ギルゲイオス。アーヴィング。………、自分と大して変わらない生活をしてそうだ、と思う。
 ギルゲイオスに至っては間違った日本像全開のTシャツを着ていた。
 変わることはなにひとつないらしい。溜息をひとつ)

「ニホン本土に住んでる外国人、みたいなノリなんですかね。
 馴染んでやがる人の方が多い気がしますね、やえの周りだと。
 ヨキはここに来て何年くらいになるんです?
 ユーは何しにニホンへ、じゃねーですけどもね」

(軽いノリで世間話をひとつ。
 一度話し始めると止まらないのは紛れもなく彼女の悪癖であった。
 悪癖にも関わらず直そうとしないあたりは随分と図々しいものだが)

「獅南蒼二の授業は難しかったですよ。
 補講はしてもらったようなものでしたが結局話題逸れちゃいましたし。
 なんでしたっけ、異能者に対抗できる力がーマジュツがー、みたいな話。
 やえにとっては異能もマジュツも同じにしか思えませんけどねー」

(ひょっこりと机に飛び乗り腰を掛ける。ぱたぱたと底の厚いブーツを揺らした)

ヨキ > 「それは勿論。
 ……先日も別の教員に言われたものだが、ヨキとて学外ではTシャツにカーゴパンツとか、そういう格好だぞ。
 コンビニで新しいスイーツを買ったり、スマートフォンでゲームをやったり、インターネットでニュースを読んだりする。
 日本の生活に馴染んでいることが不服かね」

(溜め息を吐く鏑木に、目を細めてゆったりと笑う。
 腕組みをした両肘を机に突き、リラックスした様相で話に応じる)

「ここに来て?十三……いや、もう十四年、になる頃か。
 短くはない。既に日本人のようなものだ、このヨキは。
 『門』を潜ってきて、それきり住んでいる……別段、帰ることもないでな。
 何をしに、どころか、美術をやるくらいしか能がなかった」

(机に腰掛けた鏑木と向き合う。
 続く言葉に、ふうむ、と呟いて)

「獅南が魔術について一席弁じたか。
 ……そうだな、ヨキも君とそれほど変わらん考えをしているつもりだ。
 異能も魔術も、取り立てて立場を異にするものではないとヨキは考えている。
 彼にしてみれば、ヨキの考えと彼とは、全く相容れないらしい。
 はは。そのうち彼とやり合うことになったりしてなあ」

(『やり合う』。それはそれで遠からぬ話ではあるのだが――今は知る由もない。
 ぺらぺらと喋って、友人のように笑う)

鏑木 ヤエ > 「ははん、中々以外でオモシロいじゃねーですか。
 やえそういうの超好きですよ。トコッターとかもしてたりします?
 もしかしたら相互フォローかもしれねーですね、なんて。
 いえいえ、そんなことはないんですよ。ただオモシロいなあと思いまして」

(ごくごく普通の世間話。
 耳を垂らした彼と平々凡々なニンゲンの対話。
 お互い違うものの筈なのに生活は殆ど変わらないことにまた小さく笑う。
 一瞬だけ何か思いついたかのような表情を浮かべるもすぐに仮面被った表情に戻る)

「ほう、やえがちっさい頃からいるんですねえ。
 この島においてはセンパイ、って訳ですか。ヨキせんぱーいなんて。
 でも帰ることもない、っていうのは───、ほら、お盆とかねーんですか?
 マートカやオイツァはヨキを待ってたりとかはしねーんです?」

(こてん、と首を傾げた。
 とんとんと自分の唇を叩きながら言葉を選んでいく。珍しく考えて)

「やえは異能もマジュツもてんでダメでいやがりますからね。
 伊達に留年生のラクダイセイをやってる訳じゃねーでしょうと。
 やえからしたら手前らいいモン持ってんですから余計に騒ぐな、ってトコです。

 ………まあ。喧嘩はそこまでお勧めしませんけどもね。
 二人してチョーカイメンショクなんて話になったら堪ったモンじゃねーですよ。
 ヨキも獅南蒼二も生徒に囲まれてるのはオンナジでしょうて。
 考えられるってのはニンゲンとそれに準じる知的生物の優位性でしょうに」

(知ってか知らぬか。ただ無責任に言い放った。
 そこに意味があるのかないのかすらも知ったことじゃないと言わんばかりに。
 少しばかり小声で、そう囁いた)

ヨキ > 「トコッターだって、勿論だとも。オープンに使う用と、友人らと狭く使う用とでな。
 残念ながら、プライベート用は教えられんな」

(にやりとして、小さなメモの一枚にさらさらと書き付ける。
 アットマークで始まるトコッターのID。
 常世学園の教員と造形作家であることが記されたそのアカウントでは、この一連の会話に似て、
 軽やかでいて逸脱しすぎない文言が繰り広げられている。
 鏑木の表情の変化には、然して言及もしなかった)

「ふ、かわいい後輩ができて嬉しいよ。
 お盆?ああ、帰らぬのではなくてな。実際のところ、帰れんのだ。『門』が閉じたきり、手段がないのだ。
 ヨキには家族もないでな。

 ……何だ、君はポーランドかぶれか。それともそちらの血か?
 残念だったな。君の寝過ごした前回の授業で、そういう方面の作品をやったんだ」

(ポーランド人作家の小説を題材とした、ソビエト時代のSF映画だ。
 これにはレジュメの余りもないらしく、わざとらしくにやりと笑ってみせた)

「異能も魔術もないから落第生になるのなら、学園は元から無能力者の入学を認めんよ。
 隔てなく君ら生徒を受け入れるからには、落っこちるのに他の原因があるとは思わんか。
 例えば授業に出ないとか。レポートの締め切りを守らないとか?」

(喧嘩と聞いて、は、と明るく笑う)

「まさか。ヨキは彼と本当に喧嘩をするつもりはないよ。
 意見が対することがあるならば、論じて戦うのが学者の本分だ。
 ヨキはここをクビにはなりたくないし、彼をも失うには惜しいでなあ」

鏑木 ヤエ > 「あ、ありがとうございます。
 あとでフォローしときますね───、って鍵垢あるんですか。
 女子高生もビックリってヤツですよ」

(マジマジとそのIDを見つめながら軽々しく言葉を紡いでいく。
 実に何の変哲もない世間話。心地のいい時間がゆうくりと流れる)

「───、おや。
 それはちょっとばかし聞いちゃいけないこと聞いちゃった気がしなくもねーですね。
 スイマセン。家族もない、ですか。やえも似たようなモノですよ、たぶん」

(少しばかり眉を下げる。
 家族もない、の意味合い。既に他界しているのか、それとも天涯孤独であったのか。
 これ以上は踏み込む話でもないと判断したのか、やや渋い表情を浮かべた)

「やえは生まれは東欧──、ええ。ポーランドの生まれです。
 なので常世島の異邦人とオンナジオモシロ外国人、ってヤツですね。
 はああ、なあんで先にそういう授業やるって教えてくれないんですかあ!?
 自分で管理するものだとは思ってますけどお!」

(珍しく頬を膨らませて落胆を。
 「意地悪ですねえ」、とひとつ悔しげに語った)

「気を付けてるんですけどねえ。
 学費を払う為に委員会街のラウンジで忙しく働いた結果朝起きれないんですよ。
 かれこれ2年そんなセーカツです。負の連鎖、ってヤツですねえ」

(暫し口を噤んだ。彼の口から紡がれる言葉を一字一句聞き漏らさんと)

「なら一安心ですよ。
 獅南蒼二はマジュツに長けてるのは間違いねーですし、あぶねーですよ。
 使い方を誤ったりはしねーと思いますけどね。
 冗句を間に受けちまったのはやえとしては痛手ですね。
 オモシロ外国人の名が廃る、ってモンです。

 ────、あ」

(ちら、と時計を見遣った。時刻は放課後。
 ──つまり、)

「スイマセン、やえバイトあるんでした。
 お金稼がねーといけないものですから、ちょっとばかしお暇しますよ。
 バイトのない日に、よかったら補講をオネガイします」

(小さく頭を下げればひらりと重々しいスカートの裾を揺らして駆けだした)

ご案内:「教室」から鏑木 ヤエさんが去りました。
ヨキ > 「はは。ヨキは日本人よりも日本人を楽しんでおるぞ。
 身体のつくりも文化も違う者らと暮らすからには、渡り合えるほどに順応せんとな」

(鏑木の暴言めいた言葉遣いにも、渋い表情にも。
 穏やかに笑って受け答え、気を害した風さえない)

「いや、謝ることはないさ。そんなようなものだ、異邦人というのは。
 ――なるほど、君はそちらの産まれか。
 ならば確かに、気を使う必要もないな。我々は、揃って異国で額に汗する同志らしい。
 ヨキの働いた汗に、君の寝坊した冷や汗、と。

 まあ、それは冗談にしてもだな。
 ……くく。真面目に出席していれば、毎回授業の最後に予告をしてやっておるわい」

(相手の生活について聞くと、指先で頬を掻いて)

「ふむ……委員会街のラウンジか。覚えておく。
 ヨキは異邦人であるから、生活委員会には何かと世話になっていてな。
 少しは君の労働に貢献してやるとしよう。

 学費は君らにとっては死活問題だが……根無し草の異邦人でも籍を置ける学園だからな。
 アルバイトせねば学費を払えず、学業に支障が出る――というのは、なかなかに本末転倒だ。
 学生課にでも相談をしてみては如何かね?何かしらの救済措置はあるやも知れん。
 休んだ授業の単位がもらえる、以外の方法でな」

(鏑木を見遣って、二三頷く)

「獅南とて、短絡的ではなかろう。
 そうそう危険を冒すような男ではないと思っているのでな。
 生徒に余計な心配を掛ける訳には行かんさ。

 ……ああ、話した傍から仕事の時間か。
 お疲れ様。金を稼ぐのは大事だが、身体は壊すでないぞ。
 ヨキの講義は楽しいのがウリであるから――楽しんでもらえなくなるのは、困る」

(不敵ににやりと笑って、鏑木を見送る。
 軽薄な、それでいて空疎でない会話の余韻に、目を伏せて微笑んだ)

ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。