2015/09/16 のログ
ご案内:「廊下」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
不凋花 ひぐれ > 薄暗い日だ。
否、それは真っ暗な日だ。
夜も更けた廊下にかつんかつんと剣の鞘が音を立てる。
静寂の中に空気を割る音が燦々たる。迷いがちに音はどこぞと消えていく。

「……はぁ、このような時間に忘れ物を取りに来ることになるとは」

たちばな学級からの帰り際にうっかり忘れてしまったノートを取りに、行きから帰りまで時間をかけてしまった。
手提げかばんを片手に、剣をもう片方でしっかりと握り締める。
こう暗ければ見えにくい。月明かりさえ映さない。
それでもこの空間であれば、彼女は普段よりも見えやすくなる為幾分か楽だった。

不凋花 ひぐれ > 本来なら介助が必要だっただろうが、無断で外に出歩いた。
最もこれほど"好条件"であれば多少眼が見えなくとも生活に支障はない。慎重に歩いていれば良いのだ。
右へ、左へ。足元を突いていると少し高さが変わった。
眼を薄く開く。半眼でよく見ようとする行動。その結果見据える先に坂道があった。
階下へ降りるための代わり。大きな手摺を頼りにしながら慎重に歩みを進める。
眼に頼らず、僅かな音の感覚で周囲の地形を把握する。目はあくまで補正に過ぎない。

「やはり、何かと不便ですね」

ゆっくり進むは亀の歩み。そんなからかうような速度ではないものの、比喩としては間違っていない。

不凋花 ひぐれ > 何とか降り切った。少し疲れたので安息を求めて壁に手を付ける。
反動で髪を結う簪と鈴がしゃらんと鳴る。

「ふー……」

両手で剣の柄と鞘を握る。瞼を下ろして呼吸を浅く、短く。
数分して落ち着いたところ、ゆっくりと背を離して周囲の床を叩く。
周囲に危険物がないことを悟ると、再び歩き始める。体感としてもう少しの筈だ。ここまでの道のりは体で覚えねばならない。
まだ来始めて2日目。昼夜問わず出入りすることの多い環境。歩きなれておくに越した事はないのだ。
しかしどうしても大変なものは大変なもので、これはバレては大目玉を食らうだろうかと思案を重ねた。

不凋花 ひぐれ > 「あちらは職員室、向こうには保健室。……となると出口はあちらでしたね」

遺跡探検をするよう、進行方向を迷わないように進路を見据える。
やがてたどり着いた分かれ道も迷うことはなかった。
夜間の学生とてもう既にいない。警備員さんによろしく言いながら外に出るべきだろう。
軽く打ちつける音。鈴の鳴る音。

「夜の学校というのも、面白いものかもしれません」

ご案内:「廊下」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 「はぁ……」

日下部理沙は深夜の学校で、大きく溜息をついていた。
教室に財布を忘れるという大失態を犯した理沙は駅前でようやくそれに気づき、急いで校舎にまで引き返したが、既に校門はしまっていた。
しょうがないので守衛さんのいる詰め所にまで遠回りをして、そのあとやっとこ中に入れて貰って財布を取ってもどったら、もうこんな時間である。
大きな背中の翼をぐったりとしな垂れさせたまま、とぼとぼと夜の廊下を歩く。
真っ白な月が出ているお陰で丸きり視界が無いわけではないが、それだって見えづらいし、何より怖い。
理沙はホラーが苦手である。
正直、深夜の学校など本来なら出来うる限り遠慮したいスポットでしかない。
とはいえ、来てしまったものはしょうがないので、なるべく明るい場所を通りながら、若干挙動不審な様子で廊下を歩いていると。
 
それは、聞こえた。
 
「……!?」

カツン、カツン、カツン……と杖か何かを突く音。
チリン、チリン、チリン……と鈴か何かが鳴る音。
 
そして、その音の先……廊下の闇の向こうにいたのは。
 
白磁のような髪と肌をもった小柄な少女。
色々な意味で、出来過ぎであった。

「ひっ……!!」

つい、理沙はびくりと肩と翼を震わせ、小さく悲鳴をあげた。

不凋花 ひぐれ > こんな時間、外に出る人はおれど中に入りたいなんて人は中々いない。
とはいえそれも普通の学校ならではで、深夜であろうと居残る学生の多いらしいここでは、そう珍しくないのだろう。
守衛さんも手馴れた感じの対応だったしベテランの筈だ。諦めの境地か"慣れ"の果てかはいざ知れず。
それもまた、彼女からすれば些細なことだ。

カツン、チリン――シャラン。

規則的な音が突如として止まったのは、彼女自身が歩みを止めたから。
挙動不審な、妙に大きな影が見えた気がした。少し遠くだが人間にしては黒い部分が可笑しい。
震えている。悲鳴が聞こえた。耳ざとい彼女の聴覚は聞き逃さない。
こんな時間に人がいるとは"思えない"。だからこそ彼女は、自分自身に驚いているのだろうと察した。
剣を抜いて白銀のなまくらを見せ付けたらどんなリアクションをするのか、それはそれで興味深かったものの。

「……おや」

声を発した。そちらに歩み寄る。かつんかつんと鞘で地面を叩きながら薄目を開いて彼の姿を認識しようと。

「迷い鳥にしては随分と大きなお方です。
 口の利ける鳥様とお見受けしますが、どうも。」

一定の距離を置いて、彼に挨拶を述べた。

日下部 理沙 > 杖と思ったそれはよくみれば刀。
甲高く地を突く音は鞘越しにそれが廊下を叩く音。
白磁の肌と髪の中に浮かぶ、鮮血のような紅眼がまた一層『それ』らしい。
 
とり殺される……!
 
不甲斐無くそんなことを思いながら、一歩後ずさった理沙であったが……声をかけられれば、流石にいくらか平静を取り戻す。
学校の怪談になるには、少しばかりユーモアがある台詞だ。
少女のウィットに富んだ言い回しは、理沙を安心させたのだった。
 
「あ、はい、どうも……とりあえず、鳥じゃないですけど、口はきけます」
 
そう言いながら、少女を漸く観察する余裕が出た理沙は、そこで彼女が同じ学生であるという事に気付いた。
彼女が着ているのは、青を基調とした学生服である。
 
「えと、もしかして、忘れ物か何かでもしたんですか?」
 
そう尋ねる。
自分がそうなのだから相手もそうなのかなといった、安直な考えであった。

不凋花 ひぐれ > 殺意はあらず、気配は殺し、ただそこにあることがそうあれかしと決め付けるような自然な立ち振る舞い。
白髪に紅眼は神聖な証として神と奉られることもあるそうな。
白い生き物はそれだけ運気が上がると聞き及ぶ。同時にそれは妖であることにも繋がることはある。
されど声をかけるのは幾分か相手に対し、気持ち穏やかに感じさせるもの。
何も本当に取って食おうと思う理由もない。理由がなければ刀は抜かない。

「それは失礼を」

瞼を落とし、紅眼の宝石は内側におさまる。

「その通りで。つい教室にノートを置き忘れてしまいまして」

腕にかけたかばんをこれ見よがしに掲げた。肩を竦めて彼女は首肯する。
彼の姿を見返す。自らの髪色と似た白い翼と、学校指定の征服が目に付く。
翼を生やした人間か。鳥じゃないという言葉から、そういった種族ではないと推測できる。

「その出で立ち。警備員ではなく学生の方とお見受けしますが、そちらも同様でしょうか。
 態々忘れ物、というお言葉が出たのなら、目的は同じかと思いまして」

日下部 理沙 > 「え、ああ、はい、そうです。九月からの新入生で、一年の日下部理沙といいます。
まさに貴女の思った通り、私も忘れ物をしまして……ノートじゃなくて財布ですけども」
 
そういって、背中の翼を揺らしながら、同じように財布を掲げてみせた。
何の変哲もない普通の財布である。
 
「良ければ、昇降口まで一緒にどうです? 怪我なさってるようですし」
 
刀を杖代わりについているのをみて、理沙はそう声をかけた。
学校とはいえ夜の暗がりを杖を突く女子が一人でうろつくのは物騒であろうと思ったからでもあったが、それ以上に理沙が一人だと怖いからであった。

不凋花 ひぐれ > 「奇遇ですね。私も同じく9月から新入生として学園に来ました。1年の不凋花ひぐれです」

流石に忘れ物の内容までは異なっていたが。相手のそれは結構致命的なものだし。

「怪我……えぇそうですね。一応。 ではご一緒させていただきます」

本当は病気、でしかも先天的なものだから特に気にすることでもない。しかし相手の言葉に同意しない理由はない。
暗がりを歩くのは慣れているが、この周囲の地理状況までは掴みきっていない。利害が一致するのなら乗らない手はなかった。
昇降機はどちらでしたでしょうか、と口にしながら視線を巡らせ一瞥した。

日下部 理沙 > 「おお、それは奇遇ですね。よろしくお願いします、不凋花さん」
 
そう、頭を下げて、不凋花を先導するように理沙はちょっとだけ前を歩く。
ほとんど隣である。
理沙も別に校舎内構造に詳しいわけではないが、それだって怪我している女子を先に歩かせるのは気が引ける。
だが真っ暗な校舎を先に歩くのはそれはそれで怖い。
そうなると、折衷案はまぁこのへんであった。
 
「不凋花さんは剣士か何かなんですか?」
 
杖のかわりにつく刀をみて、理沙はそう声をかけた。
会話が無いのが気まずいと思うせいもあったし、単純に気になったからでもあった。
理沙も一応年頃の男子である。
かっこいい武器を目にすればそれなりに心は躍る。

不凋花 ひぐれ > 「この時期になると転校してくる学生も少なからずいるようですね。そう数はいないようですが」

こちらも礼をしながら、杖代わりの剣で周囲を突いて足元を探る。
斜め前、やや横。隣から先導する姿はこの立ち位置からだと見えやすい。
何より彼は存在感がある。五感の鋭い彼女には測れないものではなかった。

「――はい。剣士とは少々勿体無いお言葉ですが、有体に言えばそういったものに分類されます」

カッコイイとする武器もなまくら。質の高いものでもなく、この地域で安売りされていたものを買っただけだけど。
本来持つ剣とは異なるものの。

「これもきちんとした真剣です。とはいえ学校で帯刀しているものですから、ざっくりと斬らない様に刃先を調節していますけど」

それでも下手をするとすっぱり行きます。悪戯をしかける子供みたいな言い回しで、空に指先を縦に向かわせた。

日下部 理沙 > 「それはなんかちょっと怖いですけど、でもカッコいいですね」
 
素直に理沙はそう思った。
漫画やテレビに出てくる剣士のそれといえば、得物を一閃して抜き放ち、ざっくりと目標を切り裂く剣舞的な艶姿だ。
それらと無縁な世界にいた理沙からすれば、感想はそれに尽きる。
故にか、わくわくとした心のそれを示すかのように翼もわさわさと揺れる。
 
「でもそういうことなら、剣の為にも怪我が早く治るといいですね」
 
そう、何と無しに理沙はそういった。
何も知らない理沙からすると、杖をついている不凋花の怪我は多分足腰が悪いのだろうと想像したからである。
足が悪ければ、武道の類を嗜むのは難しかろう。
これまたそういう、非常に安直な見当による発言であった。

不凋花 ひぐれ > 「冥利に尽きます」

そういった羨望を受けて嬉しくない、ということはない。相手の向ける感情は非現実的なものを生で見る感覚だろう。
テレビで見たアイドル、達人、古美術、それが目の前にあるとすれば感動もしよう。
とはいえ非現実的なものを直視するのはこちらとて同様。

「そちらも翼が生えている人間というのを拝見するのは初めてです。それは異能か何かの類でしょうか」

それともそういう種族だろうか。薄く目を開きながら彼を見上げて問いかけた。
そしてこちらに語りかける『治るといいですね』という言葉。
彼女は少し困ったように「ん、」と間をおいてから。

「……いえ、実は怪我ではなく先天的なものでして。目のほうが悪くて。
 エンターテイメントで言えば盲目の剣士という二つ名がつきましょうか。そちらもまたカッコ良くありませんか?」

相手の勘違いの言葉に対してやんわりと否定しながら、相手を傷つけないよう言葉を選ぶ。
悪気があって言ったわけでも皮肉を吐いている風でもない。
あくまで純粋な態度から"やりにくさ"を感じるものの、率直なそれはけして悪いものとは思わない。
感覚ひとつがほぼ機能しない分、機微には聡くなる。

日下部 理沙 > 「あ、はい、御察しの通り異能で生えたものでして……まぁでも、この島だと異邦人の人たちもいますから、多分見慣れますよ」
 
理沙もまた困ったようにそう言ったところで、不凋花の困惑の声色が被さる。
それを怪訝に思ったのか、理沙も視線を下げて、彼女の紅の瞳を見返しながら話を聞けば。
帰ってきた答えは正に、理沙の眉を顰めさせるに十分な内容であった。
その紅玉のような瞳を覗き込みながら、蒼い瞳を細めて、理沙は頭を下げた。
 
「それは……知らずとはいえ、無神経な事をいってしまいました……すいません……」
 
先天性。なら、それは恐らく治らないのだろう。
しかも、五感……その中でも特別情報量が多い視覚の喪失である。
景色を見晴らすこともできなければ、本を読む事も、絵を見ることもできない。
それは、理沙からすれば想像も出来ない世界だ。
いや、想像したくない世界だ。
それは、理沙が一人でいるときに己を支えてくれるあらゆる娯楽に触れられないということだ。
考えるだけで、恐ろしい。
そんな世界に、不凋花はいるのだと思えば、なおの事、理沙は申し訳ない気持ちになった。
だからこそかもしれない。理沙が下げた頭は……中々あがらなかった。

不凋花 ひぐれ > 「とはいえ、外見そのものが変化するタイプは中々お見受けする機会がありませんでした。見慣れてしまうと新鮮味も薄れてしまいそうです」

初めてのワクワク感やドキドキ感。見慣れないものを見るのも一興。
目にしにくいぼんやりとした世界で見るものはどれもきっと飽きさせてはくれないはず。
そんな風に考えていると、彼はこちらを覗きこんできた。背の高い――とはいえ平均的な男子の身長と大差ない――姿がより存在感を強調する。
彼は頭を下げた。謝罪の意。申し訳なさが流れ込んでくる。

「……どうか頭を上げてください。私は"見えにくい"だけ。耳で見ることも、舌先で触れることも、手足で戯れることもできます。
 それはそれは聊か不便ですが、そう悲嘆するものでもありません。これが私にとっての世界であり常なのです」

それでも申し訳ない気持ちはそう変わらないだろう。こちらから言えるのは『気にしていない』その言葉だけ。
本心から思う言葉だけど、人間というのは中々に頑固で強情な生き物。
嘆いたところで手に入れられない世界など初めから無いに等しいというに。きっと真面目な人なのだろう。良い人だろう。

「ですからどうか。表をあげてください」

日下部 理沙 > 不便が日常であり、己の常である。だから、気にしないでほしい。
不凋花はそういった。
それは確かに、彼女にとってはそうなのだろう。
何せ彼女は先天的といった。
ならば、その見えにくい世界は彼女にとって『当たり前』なのだ。
その当たり前を嘆くことが真の無礼なのではないかと思い至った理沙は、ハッとなって頭をあげた。
彼女の世界は彼女だけのものだ。
それを手前勝手に嘆くのは、それこそが極大の失礼ではないか。

「重ね重ね、すいません……」
 
それだけ言い返すのが、やっとだった。
それ以上は何を言っても失礼になる。
己の不足を理沙は嘆いたが、それもまた心中で己を慰める行為に他ならない。
だからこそ、理沙はただただ、己が情けなかった。
 
「その、なら……段差とかはおりにくいですよね。良かったら、手を貸しましょうか」
 
最初から『そうなっている』相手にそんなことをいうのはそれこそどうなのか。
普段の理沙ならそう思ったのかもしれないが、今の理沙にはそんな余裕もなかった。
ただ、今謝罪になるような手助けをしたかったのかもしれない。
それもまた、己の罪悪感を和らげるための免罪符を欲しただけなのかもしれないが。

不凋花 ひぐれ > 「あまり、同学年に謝られるのは慣れていません」

瞑目した目を開かず、深く息をついた。
しかし何を言っても似た反応を示すのは明らか。どうしたものかと思いながら、彼の提案に顔を向けた。

「……では段差のある場所に付いたら教えてください。
 それと昇降機に乗る際お手をお貸しください。刀と足が其処にあってはつっかえてしまいます」

つんのめって転ぶとか。幼い頃はよくやってしまったもの。
彼は兎角罪悪感に駆られていた。だからこそ役に立ちたい、あるいは罪の意識をすり減らしたいと考えている筈だ。
故にこちらからの提案は素直に呑むであろう。そして安堵してくれる。
こうすることでわやにできる。なれば問題はあるまい。

そうこうしている内に目的地である昇降機の前にたどり着いた。
階下を降り、軽い坂道や段差、外に繋がる道まで出れば後は問題ないだろう。
最も彼をそこまで付き合わせてしまう形にはなるものの。

「ゆっくり話をしながら歩きましょう。気負いなさらず。こちらも遠慮は致しません」

そう、出来る限り言葉を柔らかくして。

日下部 理沙 > 「はい……それじゃあ、その、段差のある場所は声をかけます」 
 
内心を察せられているとは気付きもせず、そう何とか理沙は言い返して、当たり障りのない世間話をしながら目的地にまで向かう。
理沙は彼女と話し込みながら階段を降り、坂道を下り、まだ鍵のかかっていない裏門にまで彼女を先導した。
それもこれも不凋花の気遣いあっての事ともいえたが、それに気付けるほど理沙は敏い男ではなかった。
 
「ここまで。ですね。私は駅までいきますけど、不凋花さんはどちらまで?」
 

不凋花 ひぐれ > 「宜しくお願いします」

実に素直な殿御。授業は同だった、どんな科目をうけているか。周辺の施設などなど。
浅くなく深くも無いことを滔々と述べて歩いた。坂道と階段は中々にハードだったものの、一人ではもっと時間が掛かった。
もう少しスロープのある場所とルートをきちんと覚えておかねばならない。彼女自身の課題である。

「指定の寮のほうまで。電車は不慣れなので、私は迎えの車で帰ります。夜道は暗いですからお気をつけてお帰りください」

白の髪と鈴を揺らし、ゆるりと頭を垂れた。

「ではまた。明日でも、どこかで会う機会がありましたら」

同じ1年。学級は少々異なるからクラスも異なるのは必然だけれど、会えないことは無いはずだ。
彼女は夜の街へとゆっくり、けれど確かな足取りで、不安を感じさせない姿で背中を見せて歩いていることだろう。

ご案内:「廊下」から不凋花 ひぐれさんが去りました。
日下部 理沙 > 「はい、また、どこかで。不凋花さんもお気をつけて」
 
送迎車付きとはこれまたリッチだなとか思いつつ、見送る。
背が見えなくなるまで見送ってから、手をおろして、理沙はため息を吐いた。
自嘲のそれである。
理由はどうあれ初対面の相手に不躾を働いたことに違いはなく、その事実は理沙の気持ちを暗澹とさせた。
 
「……やっぱり私は、ここでも場違いなのかな」
 
誰にともなくそう呟いて、理沙もまた駅前の雑踏へと向かっていく。
真っ白な月だけが、理沙の背中を照らしていた。

ご案内:「廊下」から日下部 理沙さんが去りました。