2015/09/17 のログ
ご案内:「屋上」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 屋上。そこは、本土の学校では施錠されていてそもそも入れないことが多かった。
理沙が元々通っていた学校もそうだった。
だが、この常世学園はそもそもとんでもなく広大であるためか、それ相応に屋上もだだっ広い。
故になのか、屋上は見ての通り一部校舎では一般生徒に向けて開放されており、ベンチやらもいくらか置かれている。
その分フェンスはかなりの高さではあるが、まぁそれは仕方がないというか当然の安全管理であろう。
そんな宛ら鳥籠のような屋上の隅っこで、新入生、日下部理沙はベンチに座ってサンドイッチをつまんでいた。
一人飯である。

日下部 理沙 > 飯時の時間ではあるが、少しばかり交通の便が悪い場所であるせいか、理沙以外に人はいない。
むしろ居ないからこそ選んだところはある。
ぼさっと空を眺めながら食事をとることが、理沙はそれなりに好きであった。
こうしている間は何も考えなくていいからだ。
考えずに済むことは気楽なことである。
ただ、空を眺めながら、口中に広がる野菜とチーズの味だけ楽しんでいればいい。
それだけで、概ね理沙は幸せであった。

日下部 理沙 > 蒼い空の中を綿雲が流れ、それの上をさらに鳥が横切っていく。
洋上に浮かぶ常世島では海鳥や渡鳥を見ることも珍しくない。
今日なども種類はわからないが、何やら大きな鳥の編隊がそのまま南西の空へと消えていく。
理沙はただそれをぼさっと眺めながら、自らの翼を揺らしつつ、空の一部始終を観察していた。
それでも、相変わらず分かることはトマトは美味であり、チーズやベーコンとの相性は最高であるということだけである。
当然ではあるが理沙は鳥ではないので、理沙には鳥の気持ちはわからなかった。

日下部 理沙 > ゆっくりとサンドイッチを味わいながら、相変わらず理沙は空を見る。
見上げた先の空は相変わらず蒼く、突き抜けていて、それは本土で見たそれと寸分違わず同じだった。
所詮は同じ日を仰ぐ空の下でしかないのかと思えば、どこもかしこも同じように思えてくる。
なら、多分此処と外も本質でいえばそれほどの違いはないのだろう。
いや、よそう。考えても仕方がない。
理沙はそれについて考えることは好ましく思わない。
考えたところで必ず答えに辿り付けるわけでもなければ、その答えが自分好みの味であるとも限らないのだ。
それなら、大人しく自分の好みのトマトやレタスの味を楽しんでいた方がいい。
世間ではそういったことを逃避というのかもしれないが、理沙からすればそれは理沙なりのお粗末ながらも一生懸命な処世術であった。

日下部 理沙 > 此処は外とは違う。違うはずだ。違うはずであってくれなければ困る。
だから、ここは外とは違うのだ。それで決めつけてしまうべきなのだ。
本質は違わないのかもしれないが、それだけだ。他は違う。
ならそれは違うものだ。それ以上、考えないようにしよう。
理沙はそう結論付けて、またサンドイッチの味を楽しむべく思考を切り替えていく。
頭の中はすっかりトマト畑になり、その傍らの麦畑は穂がたわわに実った金の海原と化し、その波間からは時折豚が顔を覗かせている。
トマトサンドは美味しい。それだけで今はいいじゃないか。
だだっ広い空に浮かぶ千切れ雲の数を数えながら、理沙はただサンドイッチをもそもそと食べ続ける。
幸せはそれだと思えばもうだいたい幸せなものだ。
なら、これで幸せと思えば、もうそれ以上の幸せも恐らくないのだろう。

日下部 理沙 > しまいにサンドイッチも食べ終えて、理沙は指先についたトマト汁を舐めとりながら、ベンチに横になる。
どうせ誰もいないのだ。
翼も大いにひろげてだらりと背中からはみ出させて、そのまま仰向けに寝そべる。
寝転がって見上げた空は、少しだけ高く見える。
完全な錯覚であるが、でも、そう思えるのだ。
こうやって寝転がりながら空を眺めることが、やはり理沙はそれなりに好きだった。
こうしている間は、ただ空を眺めていればいいだけだからだ。
何かしらカッコつけた理由があればいいのだが、特にそういうものはなく、単純に何も考えなくていい時間が理沙は好きなだけだった。

日下部 理沙 > だが、そんな風になるたけ思索を遠ざけてごろりと寝転がれば、腹は既にくちくなっている昼下がりである。
日差しも心地よく、九月の秋風も具合がいい。
校舎の喧騒も人気のない屋上ではどこか遠く、生徒たちの談笑も囁き程度にしか聞こえない。
そうともなれば、終いに理沙の瞼が下がっていくのは自明の理であり、それはもう環境から見れば至って仕方がない事であった。
言い訳はともかくとして、数分後にはだらしなく翼を広げたまま、惰眠を貪る少年が一人。
ただ屋上の片隅のベンチで、規則正しく寝息を立てていた。

ご案内:「屋上」から日下部 理沙さんが去りました。