2015/10/06 のログ
ご案内:「ロビー」に日下部 理沙さんが現れました。
■日下部 理沙 > 自販機の前の長椅子に座り込み、新入生、日下部理沙は溜息をついていた。
あまり人のいる時間でもないので、翼もそのままだ。
右手には炭酸飲料、左手にはファイルケース。
中身は能力査定通知表である。
理沙は一応、異能特待生の一種なので能力査定は定期的に受けなければいけないのである。
といっても、結果は毎度同じ。
今回も「権能無し」だ。
昔から何も変わらない。
■日下部 理沙 > 理沙の背中には確かに翼は生えているが、それでも飛べないのである。
あたりまえだ。人間にそのまま翼が生えただけなのだから飛べる筈がない。
鳥や虫が飛行を可能としているのはその尋常ではない筋力と何よりギリギリまで軽量化された骨格のお陰である。
軽量化どころかむしろ翼の分だけ体重が増えている理沙が飛行など、物理的に不可能である。
故に、昔から結果は何も変わらない。変わるはずもない。
理沙もとっくに諦めているし、義務以上の事は何も感じていない。
こんなものは、異能の観察保護という御題目と大義名分の元、軽い人体実験に付き合っているだけである。
無論、そのおかげで理沙の学費はそこそこの額が免除されている。
故にどんなに気乗りしなくてもサボるわけにはいかないのだ。
しかし、けだるいものはけだるいし、かったるいものはかったるい。
そんなことで何日も時間を潰されては、そりゃあ溜息の一つもでるというものだ。
■日下部 理沙 > 既にこの能力査定は数えて五日目。
そこでようやく最終プログラムを回り、今しがたおわったところである。
飛行以外の部分も当然ながらテストされ、調べられたが、別に何が変わるわけでもない。
羽箒の出来損ないが背中に二本くっついたという当たり前の結論がいつも通りに出ただけだ。
しいて言えば翼の筋力が体の成長にあわせて少しだけ発達した程度のものか。
だから何だとしか言いようがない。
理沙からすればそれはたったそれだけの事なのだが、研究者からすればそれはそれで大事なデータらしい。
「変化がない」という立派な「変化」ということなのだろうか。
まるで頓智である。
■日下部 理沙 > 「はぁ……」
誰にともなく虚空に向けて嘆息し、気の抜け始めた炭酸飲料を流し込む。
査定日の授業は免除となるため、やることもない。
あとは帰るだけなのだが、バスの時間まではまだ間がある。
普通の生徒は授業があるのだから、こんな半端な時間に頻繁にバスは出ていないのだ。
もう1時間強は最低でも待たないといけない。
柱にかけられた時計を眺めながら、ただただ深く座り込む。
ご案内:「ロビー」に真乃 真さんが現れました。
■真乃 真 > 独特なリズムを刻みながら廊下を走る音がする。
楽しげな音にも聞こえるし、ただ元気が有り余っているだけのようにも聞こえる。
授業中にも関わらず鳴り響くその音は少なくとも暗い感情とは無縁のものだった。
少年の前の自販機まできて立ち止まると勢いよく硬貨を自販機に叩き込み。
「うぇい!」
奇妙な掛け声とともに飲み物のボタンを押す。
男は流れるような動作で缶を取り蓋を開けると飲み物を一気に飲み干し翼の少年に対してこう言った。
「さては少年何か困っているな!!」
白いタオルがはためく
無駄にさわやかで変な男だった。
■日下部 理沙 > その男は、まるで閃光のような。
いや、稲妻のような男だった。
閃光は音を伴うとは限らないからである。
掛け声一閃、正しく流水のような動作でジュースを飲み干し、そのまま叩き付ける激流のような声でそう一喝してきた男に。
「え、あ、はい」
つい、理沙はそう答えてしまった。
■真乃 真 > 「ふむ、やっぱりか!」
男は腕を組んでうんうんと頷いた。
やはり、自分の困ってる人を見つける目は確かだ。
こんな時間にロビーでため息ついてる人が困ってないわけがないし!
「さぁなんでも言うといい!!この僕にかかれば落とした財布を探すことなど朝飯前さ!!」
やけに具体的な内容だった。
「もちろん家のカギも見つけられるぞ!!」
■日下部 理沙 > 「な、何故それを……!? い、いや、今は違いますけども……」
どっちもやらかしたことがあるので理沙は心底驚いた。
さてはエスパーだろうか。いや、異能者の島なんだからそりゃいるだろうが。
では理沙が今考えていることも筒抜けなのだろうか。
まさに今口に出たことなのであんまり関係ないが。
それはともかくとして、理沙は素直に今困っていることを口にする。
「……えと、今は、えーと、帰りのバスが来なくて、困ってます。
あと1時間ちょっとしないとこないので」
とっても小さな「困った」ではあるとおもう。
だが真実なのだ。
■真乃 真 > 「なるほどそのパターンか!それなら解決可能だ!」
凄い深い悩みだったらどうしようかと思った恋の悩みとか!
その言葉と身軽な手荷物から見るに彼は今日異能の査定だったのだろう。
近くない場所に家を構えていればそういうことも起こるだろう。
「さてバスを引っ張ってくるか!ここで一時間潰すかだ!!さあどっちがいい!!」
ちなみに前者は不可能であるが男の顔に冗談をいった様子はない。
■日下部 理沙 > 「じゃ、じゃあここで一時間潰そうかと……」
引っ張るってなんだ、引っ張るって。
タクシーじゃないんだぞと内心で理沙はおもったが、ここは天下の常世島だ。
マジで異能か何かで引っ張ってくる可能性もある。
念動力だの重力操作だのでバスを動かさないとも限らないのだ。
流石にそんなことされてもあらゆる意味で困るので理沙は素直に後者を選んだ。
「あ、えーと……一年の日下部理沙といいます。そちらは?」
とりあえずは自己紹介である。
間が持たなかった。
■真乃 真 > 素直な選択に安堵する。
引っ張る選択肢を選ばれたらごまかすしかなかった。
そんな思いを顔には出さずに
「うん、賢明な判断だ!」
とだけ答えた。
「僕は二年の真乃真!よろしく!!」
自信のあるカッコいいポーズで答えた。
「そういえば日下部君はその羽で家までは飛んで帰ったりはできないのかい?」
大きな羽だしきっと空を飛べるんじゃないかと浅い考えで質問する。
あまり長い距離は飛べないのだろうかとも考えながら
■日下部 理沙 > そういわれると、理沙は途端に顔を曇らせて、小さく首を振る。
いや、そう聞かれるのは当然だろう。
この翼を見て、そういわれることは慣れている。
だからこそ、返答も慣れたものだった。
「これは、ついてるだけなんで……飛べないんです。
私の体はただの人間の体なんで……翼がついたくらいでは、とても。
……すいません、ややこしい見た目で」
そう謝罪しつつ頭を下げた。
ここでは、そうするべきだと思う。
外でも、そうするべきだと思う。
だって、ここでは翼がついていれば飛べるのが普通だ。
実際に飛べる異能者も異邦人もいるのだから。
外でも、翼がついていれば飛べるんじゃないかと思うのが普通だ。
実際に翼がついた人なんてそういないんだからわからない。
だから、どっちでもない自分が悪いのだ。
いつも、理沙はそう思っていた。
■真乃 真 > 「いや、申し訳ない!こっちの配慮が足りなかったもっと考えて言うべきだったよ!」
深く頭を下げながら言う。
失言だった。
そりゃそうだ確かにあの羽は大きいがまあ飛べないだろう。
きっとあの羽は目立つし人に色々と言われたこともあったのだろう。
自分の短絡的な思考が憎い。
慌ててフォローに入る。
「でも、ほらあれだろ!こう強い風を起こしたり、鋭い羽を飛ばしたりそんなかっこいいことができたりするんだよね!そういうのも僕はカッコいいとおもうよ!」
以前にそんな相手を見たことがある日常生活では約に立たないなんて言ってたがかとてもっこよかった!
きっとそんな能力があると考えなしにそう言った。
■日下部 理沙 > ぎりと、音がなった。
それは理沙が制服の裾を握りしめる音で、同時に奥歯を鳴らす音でもあった。
「本当に……すいません」
真に対して悪感情があるわけではない。
それが証拠に、理沙の声には怒りも悲しみもなかった。
真のその感性は、正しい。
間違っていない。
翼があるなら、普通と違う何かを持っているのなら、「普通ではない」と判断するのがそれこそ「普通」なのだ。
それらが出来ることが当たり前で、出来ないほうが可笑しいのだ。
憐れまれて当然である。
だからこそ、理沙の所作とは裏腹に……その声色には強張りも、力みもなかった。
ただ、弛緩したような、諦めだけがあった。