2016/01/10 のログ
ご案内:「教室」に蘆 迅鯨さんが現れました。
蘆 迅鯨 > 一般の教室群が並ぶ区間から、やや離れた場所に位置する小教室。
並んでいる机や椅子の数も極端に少ないその教室の中で、少女は目覚めた。

「……ん」

つい先程まで机にぴったりと着いていた頭をゆっくりと起こし、目をこする。
陶器のように白い顔を覆う漆黒のフードから、緑がかった銀髪が覗いていた。

「寝ちまってたか……」

深い溜め息の後、そう呟く。
決して少なからぬ心身の疲労のためか、授業を終えた途端、倒れ込むように眠りについてしまっていた。
もっとも、少女――蘆迅鯨の心配はそのこと自体よりも、別のところにあったのだが。

蘆 迅鯨 > 「(よりによって、ここで、かよ)」

迅鯨の異能は、他者に自らの心中の声をテレパシーとして送信するものだ。
これまでに常世島で出会った人々の中にはこのテレパシーが聞こえない相手もいたが、ほとんどの人間には聞こえてしまう。
さらに睡眠中はその効果の強さ、範囲ともに制御不能になるため、特に危険性が強い。
彼女が一般の教室から隔絶されたこの小教室で授業を受けているのも、この異能のためだ。
迅鯨は周囲に自身の異能による影響を受けた者が居ないか――恐らく居ないはずはないが――それを案じていた。
まず周囲を見渡すと、教室の窓にはカーテンが掛かっていることから、時刻は夕方か夜だろうと察する。
そして席を立ち、教室の外へ出ようとするが――脚が動かない。

「(……くそっ……こんな時に)」

蘆 迅鯨 > 迅鯨の両脚は、某国のサイバネティクス技術が用いられた義足である。
関節部を除いて遠目には判断しがたいほど素肌との見分けがつかず、
またリハビリの成果もあり、激しい運動にもある程度耐えるようになっていた、はずだった。
その義足が、どういう訳か急に動かなくなったのだ。
思い当たる節はいくつかある。迅鯨はこれまでに、落第街において自身を襲った者を退けたり、
またある時は、歓楽街の不良集団から一方的な暴力を受けたこともあった。
そのような衝撃が度重なったことに加え、この所はメンテナンスの間隔も空けがちになっていた。

「(へっ……ツケがまわったってわけか)」

小教室の椅子に座ったまま、迅鯨は自嘲的な笑みを浮かべる。