2016/05/24 のログ
ご案内:「職員室」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 一足先の夏、と言わんばかりの日差しの昼下がり。
「失礼します」という少女らしいソプラノで、職員室に入ってくる華奢な人影。
美澄 蘭である。
彼女が向かうのは、確率物理学の担当教員のスペースだ。

「すみません、どうしても初歩的なところがしっくり来なくて、相談したいと思って…」

そう言って頭を下げると、講義用ノートと筆記用具を取り出した。

美澄 蘭 > 教師は『気にしなくて良いよ、やる気がある生徒の相手は楽しいし』と、鷹揚に笑う。

この学園は、色んな意味で通常の「学生」の枠から『はみ出す』者が多い。
なので、職員室で学業を話題にする者の多くは、その「逸脱」故に講義についていけなくなっていたり、講義にさほど顔を出さなかったりして呼び出される者が多いのだ。
自発的に学ぶ意欲から職員室に教員を訪ねてくる生徒の割合が低いわけではないのだが、どうしてもそうした「逸脱」へ対応する日常の中に埋もれがちである。

「ありがとうございます。
…その、自然現象の根本を確率で扱うっていうのが、どうにもピンとこなくて。
統計の方は、頑張って覚えてるんですけど」

そう言って、ノートの最初の方を開く。

美澄 蘭 > 『あー、そこからかー…
確か美澄さん物理基礎と一緒にとってるんだっけ。それじゃあ頭こんがらがっちゃうよねぇ』

括流先生に続き、こちらの担当教員も苦笑いだ。

『物質の大元を辿ると量子に辿り着くのは、美澄さんには説明するまでもないかな。
で、粒子がたくさん集まって私達の目に見える物質になってる時はいいんだけど…』

という感じで、説明がされていく。
神妙な顔をして頷きながら、ノートに適宜端書きを加える蘭。

美澄 蘭 > 「………まだ、量子の動きとかについては分かっていないことが多いんですね」

説明を聞いて、真顔でそう言い放つ蘭。
酷い着地の仕方をしました。

『そうなんだよねー。おまけに21世紀に入ってから《大変容》もあったでしょう?
世界の混乱の中で、今までの法則の再検証だけでも物理学者は大わらわだよ。
それでも、粒子レベルの動きは確率とか統計の考え方を入れないとどうしようもないのは、今のところ大体変わってないみたい』

でも、先生は大らかに受け止めてくれます。

美澄 蘭 > 『確か美澄さん、魔術の講義も結構とってたよね』

先生にそう尋ねられると、

「はい。
…確率物理学を先走ってとったのも、早くとりたい魔術の講義があったからなんです」

「ご迷惑をおかけしています…」とはにかみがちに苦笑いをすると、確率物理学の先生は『いやいや』とにこにこしながら首を横に振り

『勉強したいことがあって、その目標のために段階が踏めるのは悪いことじゃないよ。
…欲張り過ぎな感は、だいぶあるけどね』

と言って、少しだけ意地悪く笑います。

「………やっぱり、そうですよね…」

流石に、引きつった笑いを浮かべざるを得ませんでした。

美澄 蘭 > 『確か、確率物理学使うのは…元素魔術特論とか、魔方陣学だっけ?』

「はい、くくる先生の魔方陣学を勉強したいと思ってるんです。
…魔術のことは親からも聞いてきたんですけど、実際に効果を体感して、感動したのは初めてだったので…」

そう言って、少し気恥ずかしそうに俯く。学びたい意欲のあまりに先走ったことへの羞恥心があるようだ。
その様子を見て、蘭の羞恥心を吹き飛ばすように、先生がからからと笑う。

『先走ってでも勉強してみたいことがあるのは良いことなんだから、そんな顔しないの。
でも、そこまでしても学びたい気持ちがあるなら、時間をかけてでも折れないように、丁寧に勉強する、っていう手もあるんじゃないかな。

「あえて卒業試験を受けない」って選択肢、普段はあんまり提示したくないんだけどね。
美澄さんがここで学びたいことが明確にあって、それには時間が必要で…折れないで頑張れるっていうなら、立派な選択肢の1つだと、私は思うよ』

最後の方は、真摯な瞳で蘭を見据える先生。

美澄 蘭 > 「ありがとうございます…そういえば昔、くくる先生にも同じようなことは言ってもらってたんですよね。
将来やりたいことも考え始めてたとこなので…4年生の後のことも、真面目に考えてみます」

気が楽になったのか、やや力の抜けた柔らかい表情で頷く蘭。
それを見て、先生は満足そうな笑みで頷くが…

『あ、でもこの講義はこの講義できちんと評定出すからね?』

と、釘を刺すことは忘れなかった。

「…頑張ります」

苦笑いで応じる蘭。
それでも、勉強についての気の持ちようが、少しだけ軽くなったのは確かだった。

美澄 蘭 > 「それでは、今聞いたことの復習をしようと思うので、今日は失礼しますね。
…色々、ありがとうございました」

そう言って、頭を下げる蘭。
先生は、

『うん、頑張って。
でも、根は詰めすぎないでね。さっきはああ言ったけど、また来期もあるんだし。
時間かけて勉強するつもりなら、尚更だよ』

と、励ましながらも、蘭の心身を気にするのも忘れなかった。

「…ありがとうございます。ほどほどに、頑張りますね」

そう言って柔らかく笑ってから、蘭は勉強道具をブリーフケースにしまい、そして。

「今日は、本当にありがとうございました」

と、改めて頭を下げてから、職員室を出て行く。
無論、出る際に「失礼しました」と挨拶をするのを忘れない。

美澄 蘭 > (…多分、本土の普通の高校じゃ、「自分のペース」を考えたりすることもなかったんでしょうね…
やっぱり私、ここで勉強出来て良かった)

そんな感慨を改めて噛み締めながら、蘭は自習のため、図書館へ足を向けたのだった。

ご案内:「職員室」から美澄 蘭さんが去りました。