2016/06/21 のログ
■ヨキ > よろり、よろ、ふらふら。
まだ昼になる前の午前中、千鳥足のヨキが保健室に辿り着く。
「じゃ……邪魔するぞ……」
棚や机に手を突いて無人の保健室に足を踏み入れ、真っ直ぐに(?)ベッドへ向かう。
ブーツを脱ぐ間もなく斜めにベッドへ倒れ込むと、うつ伏せの体勢でそのまま動かなくなった。
そもそもこの日は、朝から暑くなる予報だった。
年少の子どもたちと共に世話をしている花壇の水やりを終えたら、すぐに屋内に避難する予定だった。
そして結局、ヨキ一人が早々にダウンする羽目になった。
失神して台車で運ばれるような恥を掻いてはならないと、最後の気力を振り絞って保健室に辿り着いたのだ。
水分も塩分も欠かさなかったし、日差しは極力浴びないように努めていた。
だがヨキの鉄塊のごとき身体はぐんぐんと初夏の気温を吸収して、今や彼はちょっとしたフライパンのように熱かった。
照明を落とした日陰の室内に、そよそよと気持ちのよい風が吹き込んでいる。
汗一つ掻いておらず、顔色だけは相変わらず土気色をしたヨキだけが独り、ベッドの上で微動だにしなかった。
■ヨキ > 料理の油が跳ねるのはいつものことで、魔術の爆炎も凌いでみせたし、
何より金工に携わっていれば熱い思いをすることなどしょっちゅうだ。
だがこの洋上に浮かぶ島の、茹だるような暑さはそれらとはまた別種であるらしい。
日差しを避けるためのローブとはいえ、湿気には些か参ってしまう。
「……………………」
眼鏡を掴んで漸う外すのが精一杯で、寝台の傍らに置かれたチェストへ腕を伸ばすのも侭ならない。
枕に埋まり掛けた金色の眼差しはえらく茫洋として、心なしかいつもより瞳の奥の光が弱々しかった。
「…………、へう……」
何を言おうとしたのかも定かでない。
■ヨキ > スローモーションのごとき鈍さで襟元を緩め、ゆっくりと片足ずつブーツを脱ぐ。
脱ぐと言っても、ベルトを緩めて自重に任せて脱げるのを待つだけだ。
一揃いのブーツが、床に脱ぎ捨てたかのように無造作に倒れる。
首元に手をやると、異能で造られていた首輪が音もなく消え失せて、ヨキにしては珍しく首の素肌を晒した。
(…………。尻尾を……出したい……)
人型のヨキの尻尾は、耳と同じく無毛の肌色をしている。
それがどうにも恥部を晒すように思えてならず、彼はむやみに尻尾を表に出すことを良しとしていなかった。
■ヨキ > 間もなくして、ヨキの腰にも満たない小ささの子どもが数人、他の教諭に連れられてやってくる。
しゃんしぇ、だいじょぶ、と舌足らずな声を掛ける子どもらへ手を伸ばし、汗ばんだ幼い頭を撫でる。
せんせえの手あっつーい、と子どものはしゃぐ声がいやに甲高く聞こえたが、居心地は悪くなかった。
新任の同僚が用意してくれた氷嚢が肌に触れると、ひんやりと心地よかった。
ヨキに掛かれば氷嚢が異様に早く溶けてしまうことにも、夏の終わりにはすっかり慣れてしまうことだろう。
午前の予定は空いていたから、今のところ講義に支障はない。
身体がクールダウンすれば、またいつもどおりのヨキに戻るんだろう。
寝相を整えて人が再び出払ったのち、夏が来るのだな、と小さく呟いた。
ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。