2016/06/29 のログ
ご案内:「教室」に久藤 嵯督さんが現れました。
■久藤 嵯督 > 今は誰もいない、黄昏時の美術室。
そこにいるのは珍しい風紀委員の男が一人、カンバスと向き合っていた。
水彩絵の具で筆を撫で続けること三時間。
隣に立てられているのは、写真のように精巧だが、どこか無機質な印象を受ける校舎。
今現在描画しているものは、こう、色鮮やかとでも言うべきか。
その物の持つ色を滅茶苦茶に取り換えっこしたかのような、あり得ない色をした校舎。
灰色の壁はマゼンタに、金色のエンブレムはアクアグリーン、
茶色い木の幹はローズピンク、深緑の葉は黄橙色、水色の空はダークオーキッド。
そして光は暗く、影は明るい。
しかしその形だけはまた写真のように精巧で、それが絵の異質さを際立たせている。
それの持っている色彩を徹底的に否定したその絵は、見ているだけで目……もとい頭が痛くなりそうだ。
人に見せるものとして描いた作品と、潜在意識からなる色を描画した作品。
それがどうして、こうも違ってくるのだろうか。見比べる度に自分でも首を傾げる始末。
■久藤 嵯督 > 芸術に没頭するという行為が凝り固まった頭を解すことになることは置いておいても、
こういった時間を取ること自体は嫌いではない。少なくとも非番の時を割く程度にはそうだ。
課題に関して言えば一枚描けばいいものを、わざわざ二枚、同じモノをそれぞれ違った描き方でやる程度には。
常在戦場から解放される、数少ないひと時。
(………)
無我―――
四六時中周囲の動きや気配を注意深く観察しているものだから、
一つの物事に集中する機会には中々恵まれない。
全神経を集中させなければならないほどの強者と、一対一で戦える状況にあれば話は違ってくるのだろうが。
こうしている間は背中ががら空きで、後ろから忍び寄られても気付かないのだろう……
……とは、ちょっと前に本人が考えていた。
■久藤 嵯督 > 筆を置いて一度立ち上がり、三歩引いた位置から作品を観察する。
いつも見ている景色のようで、しかし明らかに違っているが、紛れもなく深層意識から引き出したはずのモノ。
それを見て嵯督は、底知れぬ高揚感を抱いていた。
この異質な世界の中に入って、狂おしきもの共を相手取り続けたい。
”染めてみろ”。”構わずここにいるぞ”。
―――その時点で嵯督は、自分が何を描いていたのかを理解した。
そうと決まれば善は急げと、片付けに取り掛かる。
課題提出用の作品と一緒に、趣味で描いた作品を並べて。
■久藤 嵯督 > 間もなくして両手を汚した風紀委員は美術室を後にした。
正気を疑うような作品が飾られたかどうか、それはまだ、明らかではない。
ご案内:「教室」から久藤 嵯督さんが去りました。