2016/07/01 のログ
ご案内:「屋上」に蓋盛さんが現れました。
■蓋盛 > 世紀が何度移り変わろうと喫煙という退廃的文化は根絶されることはないらしい。
うっとおしい日差しに辟易しながら、
屋上のフェンスに凭れかかって、白衣のポケットを探る。
そうして出てきた煙草を一本指に挟んで、火をつける。
煙を呑まずとも、この動作だけでなんとなく気分が軽くなってしまう。
「あたし頑張らないから、太陽もがんばらなくていいよ」
空の彼方に語りかけてみるが、返事はなかった。
ため息代わりに煙を天に上らせる。
ご案内:「屋上」にメルル博士さんが現れました。
■メルル博士 > 空に浮かぶ円盤型の飛ぶ施設、可動式ラボ。
屋上に、その可動式ラボが着地する。
ラボのハッチが開くと、メルル博士と数名の助手(制服を着ているアンドロイドやバイオノイド)が降りてくる。
「今日も良い日差しで、実験日和ですね。
太陽も頑張っている事ですし、メルル博士も頑張っていきましょう」
そう言いながら、メルル博士は無表情で周囲を確認する。
これからここでとある実験を行うのだが、やはり誰もいない方が都合がいいからである。
しかし、フェンスに凭れて煙草を吸っている白衣の教員がいた。
「残念、人がいましたか。
それなら、今日は屋上からの大胆登校という事にとどめておきましょうか」
無感情にそう言ってのける。
その発言通り、メルル博士は学園の生徒であった。
■蓋盛 > 「うわっUFOだ」
時折ドラゴンが空を舞っている常世学園であるからして、
空飛ぶ円盤で登校する生徒がいたところで驚くには値しないが、
さすがに辟易とした表情を浮かべざるを得ないのが一般人というものだ。
「一応所定の入り口から登校したほうがいいんじゃなーい?
生活指導とか風紀委員に怒られるよ」
煙草をふかしながら声をかける。
万が一にも真似してUFO登校しはじめる生徒が続出したら
屋上の平穏は失われてしまう。
おそらく校則的にもアウトなのではないだろうか。
■メルル博士 > 白衣のポケットに手をつっこみながら、『こんにちは』と軽く一礼。
「それは確かに厄介です……。
怒られるのは、実験に失敗してしまった時でもうごりごりですからね」
わりと生活指導や風紀委員のお世話になっている経験あるようで──。
なにせ、メルル博士は優秀な科学者である反面、もし実験に失敗してしまった時は壮大にやらかすのである。
「ですが、今日は屋上で実験を行おうと思ったのですよ。
地上から装置を運ぶより、屋上からの方が容易です」
淡々と説明する。
■蓋盛 > 「フーン……。じゃあなおさらきちんと風紀とかに話通しておいたほうが良いんじゃない?
一応学校の屋上は公共の場所なんだぜ、お嬢ちゃん」
見たところ子供だしそういう一般常識の教育が為されていない可能性がある。
蓋盛としても真面目に決まりを守る方ではないがあまりおおっぴらにルール無視されると
こそこそルールを破る方としても困ってしまうのだ。
「ちなみにどんな実験を?」
なんとなくあまり関り合いにならないほうがいい予感がしてきたが、一応尋ねておく。
白衣仲間としてのよしみだ。
何か学校の屋上でなくてはならない理由があるのだろうか?
■メルル博士 > 「もし何かあった時は、風紀委員に事後報告という事に致しましょう。
申請しても通らない事もあるのですよ」
全く実験場の申請をしないわけでもないが、今回は無許可である。
メルル博士は、一般常識や倫理といったものに欠けている。
「《門》についての実験です。
少々危険な実験になりますので、大衆がいない屋上を選んだわけですよ。
関係のない人が巻き込まれては、惨事になりかねません」
白衣仲間としての好感、メルル博士の方にもあるようだが、表情からはそれが読みとり辛いだろうか。
屋上以外でも人がいない所なら出来るが、場所によっての効果の違いも計測の一つとしてメルル博士は考えていた。
一応、最低限無関係の人を巻き込まないよう配慮するぐらいの心得はあるようだ。
■蓋盛 > 「……」
どこからツッコミを入れるべきか、顎に手を当てて考える。
この子供に常識や決まりを説くのは無意味ではないかという考えが頭をよぎった。
ただ、一応自分は教員であり、相手は一応生徒ではあるのだ。
「ふむ、なるほど、面白い考えだね。
で、屋上で実験するとして、途中であたしみたいな一般人が迷い込んできたらどうする?
惨事が起こっちゃうんじゃない?
別に迷いこまなくたって影響が階下に及ぶかもしれないだろう?」
声の温度が低くなる。口元だけが笑っていた。
「《門》はちょっと子供の玩具にしちゃ過ぎた代物だとは思うけど?」
■メルル博士 > 「その可能性は否定しません」
蓋盛の言葉をあっさり認める。
一般人が迷い込む可能性、また階下に影響を及ぼす可能性も考慮していたようだが、
そこまで配慮できているなら、実験トラブルは大分減らせるだろう。
結局、常識とか倫理観に欠けて、頭のネジが吹っ飛んでいるのである。
「起きてしまった時は起きてしまった時。
実験というのは、ある程度のリスクを負ってしまうものです。
迷い込んでしまった生徒に関しては、運がなかったのかもしれません。
それに屋上に誰かが迷い込んだからと言って、それでいきなり惨事になる程には危険ではありませんよ……多分」
つまりは、生徒が屋上に迷い込む事を考慮した上で、そうなったら仕方がないと切り捨てた。
「メルル博士は見ての通り天才です。
《門》のメカニズムは、数々の実験結果で分かってきていますので大丈夫ですよ」
何が『見ての通り』なのかは不明だが、天才と自称。
数々の実験とは、あくまで《神なる頭脳》を持ったメルル博士の実験であり、世間一般の科学者の実験ではない。
科学者の実力としては《門》を実験対象とするのに何の問題もなかった。
だが別の所に問題がある。《門》を扱うには、いささか常識が足りない。
■蓋盛 > 「……………………。
ふ~~~~~~ん」
煙草の吸い殻を地面に投げ、その手の指でぐりぐりと耳を掻きはじめた。
ひとしきり飽きるまでそれをした後、唇を吊り上げる。
「何だそれ。
悪いけど、喧嘩を売る相手を間違えてるぜ。
あたしさあ、そういうキャラじゃないんだよね、ごめんねぇ」
白衣のポケットに手を突っ込み、
あっはは、とさもおかしそうに肩を揺らして笑う。
「あたしはただの養護教諭で、この学園を守るのは仕事じゃないし……
そういうおもしろ可笑しい話をするなら、風紀か公安にでもしとけよ。
きっとまじめに取り合ってくれるさ」
嘲った調子でそう言い捨て、背を向ける。
もはやまじめに取り合おうというつもりは、彼女にはなかった。
「じゃあね。実験でもなんでもすれば?
あたしは止めないよ」
そうしてあっさりと屋上を後にしてしまった。
ご案内:「屋上」から蓋盛さんが去りました。
■メルル博士 > 「……」
メルル博士は無感情に、おかしそうに笑う蓋盛を見据える。
質問に答えていると喧嘩を売っているという扱いを受けたので、メルル博士もきょとんと首をかしげるしかない。
だが相手がそれで満足しているならもう何も言うまいと、蓋盛から視線を逸らしてぼんやりと空を仰ぐ。
「さようなら」
去っていく蓋盛を見送る事もなく、ただ短い言葉をかけるだけだった。
ご案内:「屋上」からメルル博士さんが去りました。