2016/07/16 のログ
ご案内:「廊下」に界雷小羽さんが現れました。
界雷小羽 > 美術室沿いの掲示板を見ながら、小羽はぶつぶつと呟いていた。

視線の先には、鉄で作られた花器。
本人の自覚は無いにせよ、小羽のセンスではその良さの1割程も理解は出来ないような、
ともかく、恐らく世間一般では個性的、
あるいは芸術的と称されるそれの画像がメインに据えられたフライヤーと、
金工担当のヨキだ、という文言からはじまる「お知らせ」が張られている。
考え事をしている時に、腕を組み、顎に手を当てるのは、小羽の癖だ。

あと、あまり、周りを見ない事も。

界雷小羽 > 「教師である以前に美術家、という事は分かるんですけど、
 いくらなんでも教員という立場を私物化しすぎなんじゃないですかね?
 教師の個展、とあれば、何となく行かなければならないと感じてしまうのが生徒の常だと思うのですが。
 
 成績に少し色を付けて貰えるかも、という打算もあるでしょうけれど、
 それ以上に、教員という立場から生徒に発せられるお知らせ、というのは何となく抗いがたいもの、といいますか。
 後学の為に見ておけ、という無言の圧力があるといいますか。」

界雷小羽 > 「美術教師という立場を乱用して、自らの作品を広め、あわよくばそのまま卒業後もファンになって貰おうというのは、
 美術家としても浅ましい、といいますか、あまりに公私混同、といいますか。

 個人的に主催していて、自発的に参加する街でやっているような教室なら兎も角、
 生徒はあくまで生徒であり、自分のファンとは違うと思うのですけれど。」

ご案内:「廊下」に巓奉さんが現れました。
界雷小羽 > 大分早口で、聞き取りにくい、形容するならぶつぶつ、としか言いようがない。
そんな風に一人、張られたお知らせに向けては呟いては居ても、
それを書いたであろう本人に言いに行こうというほどの正義感、
あるいはやる気、あるいは勇気を、小羽は持ち合わせて居なかった。

悲しくも、小羽も一生徒であり、教師に立てついて余計な波風を立てたくはない。
………という、大変に浅ましく思考からであり、大変に私利私欲。
仮に小羽がぶつぶつと呟いた事が真実でも、目糞鼻糞を笑う、五十歩百歩。

何にせよ、不平不満を言いながらも、溜息をついた小羽はその個展の情報を持ち歩いている手帳に書きこんだ。
無論、これまた先ほど小羽が呟いたような効果を狙っての事。

つまり、不満を言いながらも、
小羽は件の個展に足を運ぶつもりでいる、という事だ。

巓奉 > 暇潰しに学生集う学び舎を野良猫のように気まぐれにブラブラと練り歩く巓奉。
すれ違う学生達をそれとなく視線で追っていると掲示板の前で何やらぶつぶつと呟く女生徒を見つける。
そんな彼女に興味を持った巓奉が掲示板に視線をやればある一枚のお知らせで。

「ふふん?」

にやー、と口角を上げ音を立てないようにそーっと背後を取ろうとするだろう。

界雷小羽 > 小羽は、後ろからそーっと忍び寄る巓奉には気が付いていなかった。
けれど、目当ての情報を手に入れ、一通り不平不満を言って満足した小羽は、
くるりと180度身体を返し、歩きだそうとした所で巓奉に気が付いた。

しかし、車も小羽も、急には止まれない。
ドン、と、ぶつかって、小羽は咄嗟に頭を下げた。

界雷小羽 > 「……ああ、すみません。
 いきなり後ろに立つと危ないですよ。気を付けてください。」

巓奉 > 「ふぎっ!?」

背後を取り襲い掛からんとする巓奉。
だがそれは相手の予期せぬ振り向きであっけなく失敗、何とも間抜けな声を漏らしてよろめいた。

「てて……何だいキミは。
無防備な背後を取ったから襲い掛かってやろうとしていたのに……。」

何様のつもりだろうか『ぶーぶー』と口を尖らせて抗議をしている。

界雷小羽 > 謝っているのか喧嘩を売っているのか、あるいは怒っているのか。
小羽は実際、ぶつかった瞬間は反射的にごめんなさいという気持ちを持っていたが、
冷静になった今はそうではない、ぶつかる直前に見えた巓奉の顔がにやけていたからだ。

界雷小羽 > 「襲い掛かってやろうとした、というその言葉と、
 その口を尖らせていかにも私が悪いと責めるような態度が全く一致していませんが。

 ああ、盗人猛々しい、という言葉はこういう場面で使うのでしょうね。
 
 さっき言ったすみませんという言葉は取り消します。
 言うべきなのは、どうやらあなたのようですから。」

巓奉 > 「まったく……その胸を揉みしだいてやろうと息巻いてみればコレだよ。
ああ、なんてつまらない。」

何て事を言いやがるのだろうかこの娘は。
反省するそぶりは全く見せず、むしろふてぶてしさの塊であった。
先程の自分の行動を棚に上げ言葉を続ける。

「まあ謝罪を求めている訳ではないし別に良いけどさ。
キミは一体こんな場所で何をしているんだい? 何かぶつぶつと独り言を言っていたようだけど。」

彼女を見かけて感じた疑問をストレートに聞く巓奉。
もとい、話を逸らしたと言えなくも無いが。

界雷小羽 > 「揉みしだ―――ッ」

小羽は、咄嗟に自分の胸を抑える。
……が、すぐに誤魔化すように腕組みの姿勢になってコホンと喉を鳴らした。

「あのですね、いくら同じ学校の生徒、同性の生徒と言えど、私とあなたは他人です。

 あなたにとってはそうではないのかもしれませんが、
 少なくとも私はあなたの顔も名前も、少しも記憶していません。

 それをいきなり襲おうとしておきながら、
 軽々と他の話題に変えて、謝罪の言葉も態度も無いと言うのはどうかと思いますよ。

 ………とはいえ、そうですね、無視するのもあなたが可愛そうですから答えておくと、
 こちらのお知らせを確認していたんです。
 
 美術教諭のヨキ先生からのお知らせだそうですよ。
 こんな場所にまでわざわざセクハラ発言、
 セクハラ行為を働きに来たというわけではないでしょうから、
 あなたもこれ目当てで来たんじゃないですか?」

小羽は、後ろの掲示板を示しながらも、巓奉から少し距離を取るような、
あるいは、場所を開けるような動きを取った。

無理も無い、目の前に居るのは、いきなり赤の他人に襲い掛かろうと言う、
小羽が知っている言葉で形容するなら痴女、としか言いようがない女なのだから。

界雷小羽 > 小羽は、巓奉のふてぶてしい態度にも、
その遠慮の無い発言にも、心底うんざりしていた。

出来る事なら、さっさとこの場を明け渡して逃げ出したい。
そんな事を考えながら、この場から立ち去る、
いや、逃げ去るタイミングを、先ほどからずっと伺っている。

とはいえ、先の無礼を謝って貰う前にこの場を立ち去るのは負けだ、という、
そんなほんの針の穴ほどの馬鹿な意地が、小羽の後ろ髪を引いていた。

針の穴ほどの馬鹿な意地で留まって、きっと、態度を見るに、
巓奉にとっては服の上から縫い針の先でちょみっとつつかれるくらいの、
全くもって届いていない、嫌味を言っている。

ちくちく、ちくちくと。

巓奉 > 道理、いや常識を語る彼女を前にしても尚態度は改めない巓奉。

「えー、お堅いなあ。ちょっとしたスキンシップくらい良いじゃないか。
袖振り振り合うも多少の──と古人は言ったものだよ?
あ、自己紹介しておこうか? 私は巓奉、しがない鍛冶師さ。」

『これでもう知らない人じゃないよね?』と再びにやついた表情で手をワキワキさせている。
だが、そう言いつつも襲い掛かることはせず空けてもらったスペースに身をするりと滑り込ませた。
目を左右に走らせ、内容を確認すると頷き彼女に再び視線を送り口を開く。

「ふーん、個展。これを見に行くかどうかで考え事でもしていたのかい?」

界雷小羽 > 「多少の、ではなく、多生の、です。
 多少のと言っているのは古人ではなく現代人ですよ。」

小羽は、その細々としたイントネーションの違いを指摘する。
変な所で細かい、あるいは、良く言えば真面目な小羽は、
昔からそういった、無視しておけばいいような事をねちねちと言う性格だった。

毎度、言ってから無視しておけばよかった、と思うのだが、
今回は相手が相手だった為か、小羽は気に留めなかった。

「私は界雷です。
 もし戦うのなら、それこそ異能なんて便利な武器が出来たのに、
 鍛冶屋なんて、随分と時代錯誤な商売をしているんですね。
 まして、ここは学校ですよ、武器を売るなら、
 もっと人がたくさん死んでいるような場所に行った方がいいと思いますけど。
 
 ああ、ついイメージで話してしまいましたけど、
 包丁でも作っているんですか?あとは、そうですね、草刈り鎌とか。」

小羽は、巓奉のわきわきと動く手を深夜に台所を這っているゴキブリを見るような目で見ながら、
名前でもフルネームでもなく、自分の名字を告げた。
小羽なりの反抗、これも、針の穴ほどの小さな意地だ。

界雷小羽 > あと、自己紹介したからといって他人じゃない、というのはいくらなんでも暴論が過ぎますよ。

と付け加えながら、小羽は、どう答えたものか、と、言葉を詰まらせた。
確かに、行こうと考えてはいたけれど、興味があって、というわけではない。
あくまで私利私欲の為、浅ましい欲望の為に行こう、
というだけで、この個展について意見交換をしようという気持ちが無かったからだ。

ついでに言うのなら、一緒に行こうなどと言われると非常にめんどくさい。
という自己保身的な考えが、どうにも小羽の舌を絡め取って動かさなかった。

結局悩みに悩んで、「先生のお知らせだとなんとなく行かないといけないと思って。」と、
出来る限り印象に残らないように付け加えて答えると、
困ったように頬を掻いて、視線を天井と壁の境目あたりに泳がせた。

巓奉 > 「言葉とは、生き物の様に常に変化しているものだよ。」

こまけーこたぁーいいじゃねえか!と言わんばかりの仕草を見せる巓奉。
その辺りに関しては基本的にフリーダムを貫く人物のようだ。

「異能ね、うん。便利だよね?
だけどキミが言った時代錯誤とされる刀剣も"便利な"異能も私にとっては道具にしか考えてないなあ。」

感情を感じさせない淡々とした言葉。
それは一見茶化しているようにも、真面目に言っているようにも捉えられて。
『まあ、そんな事はどうでもいっか。』と肩をすくめてその場でくるりと一回転。

「それにしても見て分からないかなあ、一応学生なんだけどねえ。
鍛冶師と言えど私は一介の学生でしかないのだよ!」

個展についてはついぞ触れられることは無かった。

界雷小羽 > 「そうですね、はい、それについては同意します。
 時代も変われば人も変わりますし、話す言葉も変わると思います。
 ですが、巓奉さんは、古人は、とあえて言いましたから。」

こまけーこたぁいいじゃねえか、と大きく構える巓奉、
対して小羽は、そのこまけーことがどうしても気になる性質である。

ですがですがと噛み付いて、でも豆腐に鎹と分かると、諦めたように首を振って、
まぁいいですけど、覚えておいて下さいね。
と、泣き言とも捨て台詞とも取れるような言葉を最後に、
少なくとも、この事に関しては先に白旗を上げた。

界雷小羽 > 「どちらも道具である事に変わりはないでしょうけど、
 一応、学内に持ち込む武器については事前申請が必要ですし、
 
 そちらの機能は、あまり、機能しているとは思えませんが。

 人に向けた時の殺傷性、機能性、そして汎用性、
 あらゆる面で異能のほうが優れた道具だと思います。
 
 加えて、歴史的に見れば、劣った道具は淘汰され消えていくものです。
 道具でなく、美術品や、文化、知識としては残りますけれど。

 ですから私は時代錯誤、と言ったんです。

 よくこんな時代に、刀なんて買う人が居ますね。」

ぺらぺらとよく喋ったあと、小羽は、すぅ、と息を吸った。

「痴女だと思いましたが、学生だったんですね。
 学生なら猶更、一般常識や規範は守った方がいいと思います。
 
 悪ふざけで済むのは学生の内だけですから、
 癖になる前に正さないと、ろくな大人になれませんよ。」

界雷小羽 > 個展について触れられなかった事に安堵しながら、
小羽は「じゃあそういう事で」、
と軽快かつ自然に話を切り上げるタイミングを探していた。

言おうとして口を開こうとしては、すぐに巓奉の言葉がかぶさってしまう。
小羽は、人と話すのがあまり得意ではなかった。

人に話す、のは得意、と小羽は思っているが、
人と会話する、のは、小羽自身、苦手という自覚があった。

人と会話するペースが上手くつかめないのだ。
細かい所ばかり気になる、思った事はすぐに口に出る。
それらの性格も、それを助ける事は無く、
むしろ、悪い方向にぐいぐいと足を引っ張ってばかりだ。

話している間に、相手は次の話題を出す。
だから、いつまでも返事に辿り着かない。

だからいつも、本当に話したい事は、いつも口の入口で止まってばかりなのが、小羽の常だった。

巓奉 > 「はー、キミは真面目だねえ。」

ため息ではなく感心した調子の声を漏らしつつやれやれと首を振って『覚えておく』とだけ答えた。

「いやあ、改めて聞かされると耳が痛いなー。概ねキミの言うとおりさ。
時勢の移り変わりで武器の流行り廃りは当たり前、銃器が世に出てから刀剣の類は見なくなった。」

そのまま反転し、背中越しに語る。

「だけど私はそうは考えないかな。キミからしたら時代遅れだのと感じるだろうけど。
結局道具は道具でしか無いのさ、異能だって万能じゃない使い手次第で化けるのさ。
さあて、そろそろお暇するとしよう。」

顔だけ彼女に向け『逃げたそうな顔してるし』と人が悪そうににやりと笑い、鼻歌交じりで立ち去っていく。

ご案内:「廊下」から巓奉さんが去りました。
界雷小羽 > 「不真面目よりは良いと思いますけど。
 概ね、真面目というのは褒め言葉ですから。」

覚えておく、という言葉に、小羽は満足そうに頷いた。

界雷小羽 > 「使い手による、あるいは、使い方による、というのは、変わらないでしょうが、
 銃や、異能なんてものまで出てきたこの時代に、鍛冶屋なんてものをやっているのは、

 どちらかといえば、合理性がない。
 実用性を度外視して、他の何かを求めるような。
 そう、芸術家に近いような気がしますが。」

小羽は振り返って、さっきまでぶつぶつと見ていたフライヤーに再び目を留めた。
あまり実用性は無さそうなそれと、刀のような、小羽の言う時代遅れな武器は、
少なくとも、小羽にとっては合理性の無い、同じようなものと感じられた。

同時に、小羽にとっては、それらは理解の及ばないものだ。

界雷小羽 > 結局、最初の無礼を謝って貰っていない、と思いながら、
小羽は巓奉の鼻歌を、ただ悔しく見送った小羽は、
そそくさとトイレに駆け込むと、憎しみを込めて、むにっと自分の頬を引っ張った。

そんなに逃げ出したいと、顔に出ていたのだろうか。
小羽はため息をつくと、メモ帳に巓奉と名前を書きこんだ。

怨みはらさでおくべきか、末代まで祟ってやることは出来なくても、一言は絶対に謝らせてやる、
そんな小羽の決心は、メモ帳がパラパラと送られていく中でわりとさっさと忘れられた。

だが、メモ帳を開いた時にその名前を見れば、
また、今日の日の小さな意地を思い出すのだろう。

ご案内:「廊下」から界雷小羽さんが去りました。