2016/10/22 のログ
ご案内:「屋上」に久藤 嵯督さんが現れました。
久藤 嵯督 > 風紀の仕事がなく昼以降も続けて授業のある日の昼休みは、よく屋上を利用している。
転校当初こそ教室にいるだけで異物を放り込まれた大鍋のようにピリピリとした空気を感じられたのだが、時間が経てば流石に慣れられるもの。
自分と同じ空間にいる誰かが和気藹々としていることにうんざりして、こうして屋上で時間を潰す事が多くなった。

(……悪意に晒されておらんと、ここまで落ち着かんとはな)

困った性分だと自嘲しながら、魔法瓶の弁当箱に入れられた赤いスープを口にする。
辛味によって上げられた体温を涼しい風が攫い、秋の訪れを予感させる。
毎年のように思うことだが、どうにも気候がズレているような気がしてならない。
だが、昔がどうだったかなど細かく覚えてはいない。思案するだけ無駄だろう。

久藤 嵯督 > ここ最近の仕事は可も不可もなく。いつものように手柄を立てて、毎日のように点数を引かせる。
いざと言う時は汚れ役を被る役割関係から、あまり持ち上げられると困るのだ。
「それでいいのか」と聞かれても「それが仕事だ」と言う。
他人からの評価を個人的な面で気にしたことはないし、戦って勝利を得られる環境さえあれば他はどうでもいい。
今は風紀委員だから、風紀委員をやる。ただそれだけの事だ。

「……ん」

デバイスから着信音が鳴ったのを確認し、ポケットから取り出す。
SNSの通知は基本的にミュートにしているので、上司からの連絡だということは容易に予想できた。

「……」

つんつんとおぼつかない指使いで文字を打ち込んでいく。
打ち間違えては消してゆき、消し間違えては打ち直し……タッチパネルは苦手とすることろであり、今後の課題だ。
いよいよイライラが溜まってくると、眉間に皺が寄っていた。
風紀の鬼も、文明の利器には形無しである。

「よくぞこんな構造もわからんものを平気で使うもんだな、庶民ってヤツは」

久藤 嵯督 > 無視してしまいたいのが正直なところだが、流石に個人間でのやり取りで決め込むのは信用に関わる。
故に、面倒を押してでも返事だけはする。

5分かけてようやく打ち終えた嵯督は、送信ボタンに指を当てる。
しかしタッチパネルの反応が思ったものとは異なり、音声入力機能が機動した。もちろん嵯督は、そんな機能があることなんて知らない。

「……おい、なんだこれは」

『おい、なんだこれは』

書き上げた文章が、全て上書きされてしまった。
(約五分間)苦労して書き上げた返事をこんなことで台無しにされてしまうとは。

「……クソが!」

ここで冷静になって思い返す。この何というか嵯督は知らないのだが、言ったことがそのまま文章になる機能を使えば手で打つよりずっと早いのではないのか。
送信ボタンの近くにある音声入力機能を起動すべく、慎重に指先をマイクのアイコンに重ねていく―――その時。

『無限の出会いがキミを待ってる♡(以下省略とする)』

いかがわしい広告がマイクを遮り、勝手にブラウザを起動させられた。

「ん゛んっ!」

憤りから思わず変な声が出る風紀の男。眉間がブラックホールのような影を帯び、ちょっとだけ髪がスパークしたようなしなかったような。
気を取り直して、ブラウザを閉じた後すぐに音声入力を起動する。

久藤 嵯督 > 「こちら久藤 嵯督。用件は何だ? 前にも言った通り、くだらん用件で呼ぶなよ」
『こちら工藤 佐助。用件は何だ? 前ニモ行った通り、下らん用件で呼ぶなよ』

ところどころ、漢字が違っていたりする。
仕方がない。無駄に難しい漢字が使われているんだもん。
文字と文字の間にバーを入れることなんて当然できる訳もなく、全部書き直しだ。

「……こちら、久藤 嵯督。何の用だ?」
『こちら工藤 佐助。何の用だ?』

「……こ」
『こ』

「……ち」
『ち』

当然、『こ』は『ち』で上書きされる―――

「あ゛あ゛ああああ!!!? ふざけてんのかこのポンコツが!!
 中途半端に便利そうな機能を付けておきながら何の役にも立たねえじゃねーかクソッタレ!!!」
『ああああああ? ふざけてんのかこのポン骨が
 中途半端に便利そうな機能を付けておきながら何の役にも立た姉じゃねーか糞ったれ』

このまま送信してやろうか、と思ってすぐ消そうとしてやっぱり削除キーの上の送信ボタンが反応して

「あ゛あ゛ああああ!! この!!! ざけんな!!!」

ついに屋上の床にデバイスを投げ捨ててしまった。
案外頑丈なので、壊れてはいないだろうが。