2017/08/27 のログ
ご案内:「屋上」に筑波 察さんが現れました。
筑波 察 > 「やっぱりここが一番落ち着くかなぁ」

夕刻。まだ太陽が沈むまでに少しだけ余裕がある時間帯。
教室棟の階段を上って、少し古臭い金属の扉を開けると、
青に少しだけ橙が混ざったような空が見えた。
屋上にひっそりと置いてあるベンチに足を運んで、腰を下ろす。

「ここはなんだかんだ言って人がいることが多い場所だから、
 先客でもいるかなぁと思ったけど、
 どうも誰もいないようだねぇ」

昼間ならまだまだ日照りが熱くて、焼けてしまうような場所だが、
この時間帯になるとそれも少しはましになって、
時折吹く風も心地よかった>

筑波 察 > 「特に何をするってわけじゃないけど来ちゃうよねぇ」

そういうのをお気に入りの場所、とでもいうのだろうか。
別にこの屋上に特別な思い入れがあるわけではないが、
居心地のいい場所であることは間違いない。
不意に携帯をポケットから取り出して、画面を見る。
通知欄に表示されるのはその日のニュースと天気くらいだ。

「なんか、あまり携帯を持ってる意味ないなぁ」

とはいうものの、ゴーグルが使えなくなればこれが目の代わりになるのだ。
無いわけにはいかない。
連絡先に登録されているのはごく少数の人だけ。
ゲームもやらない。
そんな携帯を操作しながら、今日一日のニュースに目を通していく>

筑波 察 > 「ん、電話?
 ……ああ、親か」

ニュースアプリで記事をいくつか斜め読みしていると、携帯が振動した。
表示された番号は登録されていないが、誰のものなのかはハッキリわかる。
紛れもなく親、母親だ。たぶん電話をとれば父親も近くにいるだろう。

「もしもし、筑波です。
 うん。ああ、いや別に。それで不便はしてないけど。
 そう。前から言ってるけど、異能でもお金でも困ってないよ。
 何事もなく。うん。じゃあ」

電話に出て一番最初に聞かれたのは異能のことだ。
これでも未成年。実験なんかに参加すれば通知が届くのだろう。
きっと、目が見えなくなったことも。
心配しているという旨の電話だったが、別にうれしくはなかった。
それでも、あの親が異能のことを話題に出してくるようになったのは、
少し気持ちとしては思うことがある。

「親も馬鹿ではないのかな」

変化しているのは自分だけじゃないと思うたびに、
少し面白くなるのだ>

筑波 察 > 「いや、でも『目、見えなくなったの?』に対して
『それで不便はしてない』って答え方もたいがいだよねぇ。
 しかもそれ以上何も聞いてこない当たり、まだ気を使ってるのかなぁ」

電話を切った後に、今の会話を振り返るが、
会話のやり取りとしては酷いものだ。
その酷さには思わず笑いがこみ上げてくるくらい。

「まぁ、普段から話すわけでもないしねぇ。
 距離感とかわからないんだろうねぇ」

それは自分も大概なのだが。
そして携帯の画面から視線を空に向けると、
その色は橙色の方が強くなってきていた>

筑波 察 > 「でも見えないっていうのは正確じゃないしなぁ。
 代わりになるものたくさんあるわけだし」

現にこうして自分で見て足を進めている以上、
見えないというのは正しくない。
だからこそ不便はしていないのだが。

「むしろよく見えるいい目だと思うんだけどねぇ」

そういって無機質を突き詰めたようなゴーグルをなぞる。
肉眼ではまず見ることのできないものを見せてくれるのは、
紛れもなくこのゴーグルと異能だ>

筑波 察 > 「でも何だろうな。
 この異能に関わって失ったものや、得られなかったモノも、
 結構あるような気がするな」

誰もいない屋上。独り言は消え入るように消えていった。
数人しか登録されていない連絡先、
特別に拘って望む形で切った人間関係、
能力のために失った視力。
今まではなんとも思わなかったのに、突然取り戻したいと思うことがある。

「少し、寂しいかな」

誰に向けるわけではない、そんな言葉がこぼれる。
気が付けば、空はすっかり色味を失って、
金星に続けと言わんばかりに星が出ていた。
すこし、一人でいる時間が長かったのかもしれない。
そう思って、どこか人のいる場所に移ろうと立ち上がった。

「新しい出会い、とかじゃなくて、
 普通に友達を増やせるようにしないとなぁ。
 まずはこの性格からか」

屋上の重い扉を開けて、階段を下りる。
階段は真っ暗だが、
ゴーグルはそんなことを気にしなくて済むような視界を見せてくれていた>

ご案内:「屋上」から筑波 察さんが去りました。