2017/09/01 のログ
時坂運命 > 青年が丁度ココアのボタンを押すのと同じタイミングで、背後から声がする。

「残念無念、それはココアだよ」

それは随分と楽しそうな声だった。
少女は組んでいた腕を解くと、スッと自販機に手を伸ばして、トンッとガラスを叩く。

「君がほしかったコーヒーは……多分これじゃないかな?」

いくつかあるだろうコーヒーの中から、勘で選んだのか一つの商品を指さしていた。
それが当たっているかどうかはさておいて、反対の手に握った小銭をじゃらりと鳴らして青年に視線を送る。
少女も自販機に用があるらしい。

筑波 察 > 「あちゃー、ココアだったかぁ。
 えーっと、すごく申し訳ないんだけど、もう一回お金を入れるから、
 そのコーヒーのボタンを押してくれないかな?」

自分が購入した飲み物がココアであると告げられると、
残念そうに肩を落とす。そして財布からお札……
たぶん英世さんが印刷されている紙幣を取り出して、
手探りで紙幣の投入口にお札を入れる。
じゃらじゃらと音がする当たり、彼女も自販機に用事が……

「ん?ところで君は僕の知り合いかい?
 声を聴いた感じはたぶん初めましてだと思うんだけど」

すごく普通に声をかけられていたのでスルーを決め込むところだった。
今自分に話しかけてきたのは誰なのだろう>

時坂運命 > 「僕は構わないけれど、うっかり魔がさしてもう一度ココアのボタンを押してしまうかもしれないよ?」

見るからにがっかりする様子を見て、少女は相変わらず楽しげな笑みを浮かべながら冗談めいて言った。
が、すぐに笑みは苦笑に変わり、肩を竦めて見せる。

「――まぁ、そんな嫌がらせを見ず知らずの少年にするほど僕は捻くれてはいないけどね。
 君が言うとおり、僕と君は“はじめまして”だよ」

捻くれていないと言うのなら、購入する前に教えればいい物を……。
わざわざ間違えて買った直後に教えるのだから、この少女は性質が悪いのだろう。

手探りで紙幣を入れている様子に、はて?と首を傾げつつ言葉を続ける。

「それで、君が飲みたい銘柄は―――― で、合ってるかな?」

今度こそ間違いがないように、念のためコーヒーの名前を読み上げた。
合っているなら、そのままボタンを押してしまおう。

筑波 察 > 「あはは、そんなことされたら君がちゃんとコーヒーを買ってくれるまで
 お金を入れてはお願いするのを繰り返すさ」

それが冗談かどうかはとても微妙なところだ。
その時の気分によってはやりかねない。

「やっぱり初めましてだよね。初めて聞く声だもん。
 そうそう、僕が飲みたかったコーヒーはそれであってるよ」

初めましてだと言われれば腑に落ちたようにうなずく。
最近相手のことを声で覚えるようになったが、今のところ精度は100%だ。
そして銘柄を確認すると、ボタンを押してもらう。
ガコンッという音とともにコーヒーが落ちてくれば、
取り出し口のカバーを上げて手探りで缶を取り出し、自販機を譲る>

時坂運命 > 「おいおい、普通そこは怒るところなんだぜ?
 とは言っても、そんな愉快なことになるならやってみても良かったかなー。
 なんて心が揺らいでしまいそうだよ」

ちょっと想像するとシュールな光景だった。これはこれでありかも?
にんまりと笑みを深めながら、コーヒーのボタンを押した。
青年は目当ての物を手に入れて、そのまま自販機を譲ってはもらったのだが――

「さて、と……」

少女は自販機ではなく、青年に一歩近づき。
左手の中で鳴らしていた小銭を彼の目の前に差し出して言う。

「僕はね、今日はココアの気分なんだ。
 君が持ってるそれを売ってくれないかな?
 なぁに、まだ開封されてもいないんだ。
 君から買っても自販機から買っても大した問題は無いだろう?」

筑波 察 > 「別に怒っていないなんて言ってないよ?
 普通に怒ってもつまらない。
 何なら相手が怒らせたことを後悔するほど拘束して、
 考えを改めさせようってだけだよ」

そのために費やすお金なんて、大したことない額だろう?
となんとも歪な考え方を口にする。
伊達に好かれたり嫌われたりすることに注力してきたわけではない。
それでも、正しくコーヒーのボタンを押してくれた相手にお礼はする。

「……それ、本気で言ってるのかい?
 ならこのココアは君にあげるよ。
 もしかしたらココアを何十本も買ってたかもしれないからね。
 お礼として、はい」

彼女の提案に露骨に困惑する。
本意なのか、善意なのかわからないあたり困った。
そこでこちらも一つ提案して、ココアを差し出す>

時坂運命 > 「なるほど、そう言う静かな怒り方もあり得るんだね。勉強になるよ。
 僕としては、長時間拘束されるのは退屈そうだから勘弁願いたいところだけど」

珍しい変化球に一度目を丸め、納得すればおかしそうにクスクスと笑った。
そう言う歪さも人間らしくて実に良いと。

「うん? 冗談で商談を始める人間はいないよ。
 え、あー……なんと。これは予想外かもしれない。
 善行がこうも早く、それも直接返って来るなんて。
 うんうん、お礼と言うことなら君の気持として僕は受け取ろう」

疑問符が返されるとは思いもよらず、こちらも笑顔のまま首を傾ぐ。
迷うと言うよりは驚き、少し感動に近い面持ちで頷きながらココアを受け取る。

筑波 察 > 「相手が自分の選択を後悔して、改めるまで自身の行動を制限される。
 とても静かだけど、とても精神的に屈辱的な復讐だ」

それでもなお、クスクスと笑う彼女は、
自身と似通った神経の図太さがあると思う。

「それはまぁ、確かに。
 善行の報いかはぜひ神様に聞いてほしいね。
 僕は単純に発生したかもしれない損失と、
 ココアを天秤にかけただけさ」

相手がシスターだとはつゆ知らず、
答えを神に求めたのは、少し無粋だったかもしれない。
そしてココアを渡せば、自分が座っていたテーブルのある場所に戻るのだ>

時坂運命 > 「君の考え方はユニークで、君自身はとても執念深いことが良くわかったよ。
 普通の人間は、そんな些細なことで、そこまで他者に怒りを燃やし続けられない。
 たかがジュース一本で馬鹿馬鹿しいと悟ってしまうからね。
 ――でも、その執拗な執念深さ、嫌いじゃぁないぜ?」

つらつらと余裕ぶった物言いで饒舌に語る。
受け取ったココアがぬるくならないように、
端の方を持ちながら彼が進む方へ視線を向け。

「いや、窺わずとも分かるよ。
 単純なことさ、これは報いでも何でもなく君の善意だよ。
 純粋かどうかは別としてね」

ツカツカと、踵で床を叩きながら少女も後に続き、彼の荷物が置かれているテーブルの前で足を止めた。

「ねぇ、さっきから見ていて思ったのだけれど、君は随分と目が悪いようだね。
 そこに置いてある大きな機械は何か関係があるのかな?
 そしてついでに、このココアを飲み終わるまで、相席させてもらっても良いかな?」

頼むよりも早く、空いている席を引いて腰掛ける。
断ることなど許さないと言う強引さが、楽しげに弾んだ声の中にあった。

筑波 察 > 「あはは、よく言われる。
 僕は誰かの特別になりたいと願ってやまないからね。
 そのためならそういう些細なことだって利用するさ」

もっとも、最近は嫌われない方向に努力はしているが。

「善意のつもりで返したわけじゃないから、
 たぶん純粋さは期待できないね」

そんな冗談を交わしているうちに、お互い席についた。

「ん、悪いって言うか、肉体としての眼球は全然見えない。
 このゴーグルとか、携帯のカメラから間接的に視界を受け取ってる。
 もっとも、このゴーグルを使えば肉眼以上の視界が手に入るけど」

生憎ゴーグルは絶賛不調な最中だ。
相席して良いかを聞かれると、それにうなずいて快諾する。
そしてテーブルの上にあったスマホを手探りで探し出せば、
カメラを起動して相手を見る。

「あっと、シスター……なのかな?」

すこし、いや、かなり意外だったのか、
面食らったように聞く必要すらない問を投げかけた>

時坂運命 > 「――……、そうなれるといいね。
 そして、君がいつか背中を刺されないことを僕は祈っているよ」

ふと、一瞬笑みが消えるがすぐにニッコリと微笑んで、また縁起でもないことを言う。
彼がその努力を続けている限りは、こんな未来は来ないだろう。

「そっか、じゃあ気まぐれで返されたお礼ということで」

お互いが席に着いたら、缶をテーブルに置いてプルタブを引き封を切る。
冷たいのでココアの香りは微かなものだが、一口飲めばその甘さが体に染み渡って行った。

「ふーん、つまり盲目なんだね。
 どう言う理屈かはわからないけれど、機械が目の代わりになってるんだ。
 このゴーグルが本調子なら、君の目は鷹にも負けないと……」

機械に疎く、携帯端末さえ基本操作しか出来ない少女には難しすぎたらしい。
ざっくりとした感想を返すくらいしかできず、こちらに向けられたカメラに首を傾げた。

「うん、そうだよ。ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。
 僕の名前はトキサカ サダメ。
 一般人で、優等生で、気まぐれで、お茶目で、可憐で、か弱い、ただのシスターさん。
 人は僕のことを『ウンメイさん』と呼ぶ。
 ――まぁ、実際に呼んでる人はごく一部だけどね?」

一度、缶をテーブルに置けば、芝居がかった調子で名乗りを上げた。
パチリと閉じた左目がウインクを飛ばす。

筑波 察 > 「あはは、残念だけど僕は後ろも見えるからね。
 まぁ、刺してきそうな人は結構心当たりがあるけど。
 刺し殺しに来るくらい僕のことを思ってくれてると思うとまたねぇ」

変態か。そう突っ込まれそうだが、間違っていないのが余計に質が悪い。
けらけらと笑いながら、お互い缶のプルタブを引いて飲み下していく。

「まぁ、なくても見えるんだけど、
 それをやると5分と持たずに吐き気やら吐血やらいろいろヤバくて。
 このゴーグルがあれば基本なんでも見えるね。
 鷹と張り合うどころかそれ以上さ」

実際、薄い壁くらいなら透視ができるくらいだ。
バッテリーが持たないのと、
有って無いような倫理観の都合でやらないが。

「ん、僕は筑波察だ。観察の察でミルって読む。
 好きなように呼んでくれていいよ。
 ――その自己紹介、たぶんいろんな人に突っ込まれてそうだから、
 あえて僕は突っ込んだりしないよ?
 それと、ウンメイさんとはまた、変わったあだ名だねぇ?」

彼女のウィンクがカメラ越しに放たれる。
たぶん一定数の男性は落とされると思う。
それくらいの破壊力はあった>

時坂運命 > 「ふふふ、君も愉快で素敵な性格をしているじゃないか。
 好きの反対は無関心と言うからね、いやはやある意味素敵な思考だよ?」

突っ込むでもなく、小さく拍手を送って笑っていた。
ケラケラと笑う青年を見て、少女は思う。
こうまで歪んでいると一周回って清々しささえあると。

「むぅ? 無くても見える? んー、それは……やばいね。
 そう言う無理は、あまり僕もお勧めしないかな。
 ほほう……、君の前ではプライベートなんてあってないような物と。
 しかし残念だよ、いつか本調子になった君を見てみたいものだね」

どう言う理屈かはやっぱり理解できないが、壁の向こうが見えるとなると……
色々と犯罪の臭いがしないでもないが、そこについては触れずにいよう。
感心したような、少し残念そうな声音で言う。

「ミル君か……、変わった名前だね。
 では遠慮なくミル君と呼ばせてもらうよ。
 はっはっは、君のスルースキルの高さに僕は脱帽だぜ。
 ちなみに、サダメは運命と書いてそう読むんだ。だからウンメイさん。
 僕のことも好きに呼んでもらって構わないから、
 これからどーぞ、よろしくね?」

茶目っけに溢れた語り口調のままそこまで一気に語ると、
またココアに手を伸ばして缶を傾ける。

筑波 察 > 「まぁ、そうはいっても、最近じゃあまり嫌われたくはないなぁと
 思うようになってきてね。
 できることなら多くの人と仲良くしたいと思ってるよ」

思ってるだけで、実行できていないのが実情だが、
何年も歪な状態で生きてきたのを、
いきなりうまく収まる形にするのは難しい。

「お勧めされたってやらないさ。
 もっといい方法を見つけて、克服した方が何倍もマシ。
 あはは、瞬間移動やテレポーター、
 心を読む力に認識されない魔術、
 僕の異能に限らず異能や魔術は悪用しようと思えばいくらでもできる。
 幸い、僕は他人のプライベートに興味なんて微塵もないし、
 こんな生き方をしていても倫理観の残りカスくらいはあるからねぇ?」

実際問題、異能なんて倫理観がなければ犯罪の道具だ。
その点、この島の人々は上手くコントロールしていると思う。
幸運にも、自分もその一人だ。

「変わった名前とはよく言われるねぇ。
 皮肉にも肉眼は全く見えないわけだけど。
 あえてガン無視しない優しさにも脱帽してほしいね。
 じゃあ僕はサダメさんと呼ぼうかな」>

時坂運命 > 「ふむふむ、多少まともな思考に落ち着いて来たと……。
 いや、別に君の在り方を異常だとかは思ってないよ? 思ってはないからね?」

にまにまと笑みを浮かべながら白々しいフォローを入れつつ、
真っ当な人間関係を築けていることは素直に喜ばしいと思った。
すぐには難しくても、いわゆる落としどころと呼ばれる場所に彼もいつかは落ち着くのだろう。

「そうだねぇ、普通はそうだよ。 それが効率的で賢いやり方だよ。
 ふむ……確かにそう言われればそうなのだけれど。
 異能も魔術も兵器と同じ、結局は使う人間次第ということだね。
 ――おや、意外だ。 そこに興味は無いんだね?」

特別に思われたいのに、他人に興味を抱かない。
そこに矛盾を感じて首を傾げた。どう言う理屈があってのことなのかと。

「名は鄭を現すを真逆に突き進んでいるね、見事なほどに。
 いや、君の異能?魔術? から考えれば、至極ぴったりの名前かもしれないけど。
 ガン無視されたら流石の僕も堪えるかもしれないね?
 うん、じゃあそれで」

筑波 察 > 「まともなのかねぇ?
 僕から言えば自分の感情や行動を制限してまで没個性を貫くことの方が
 おかしいと思ったりするけど。
 おかしい人をおかしいと言えない、
 特別になりたいと思っているのにそうできない、
 そんな抑圧された状態が嫌ってだけさ」

あくまで以上ではなく、そういう形もまた普通と言いたいようだ。

「たぶん僕の中に特別な存在を作ると、
 ほかの人に見向きもしなくなると思うんだ。
 それにそういう存在が欲しいと、今は思ってないしねぇ」

つまり、世界がその人一色になってしまうことを危惧しているようだ。
矛盾と言えば矛盾なのだが、どうにも心にときめく人がいない。

「まま、この名前は良くも悪くも僕にぴったりだと思っているよ。
 ちょっと皮肉を感じるくらいが楽しいしね」>

時坂運命 > 「うーん、それを言われると否定は出来ないね。
 十代の若者的には、アイデンティティを失わないために足掻くのも青春の在り方の一つらしいから。
 僕にはそう言うのはよくわからないけど……
 無理をして合わせるのも、無茶をして尖ってみるのも、微笑ましいことこの上ないね。
 残念ながら君は無理せず自分を貫いているわけだから、見守っていたい対象とは外れてしまうのだけど」

からかう口調から一転、腕を組みながら小難しく頭を捻る。
最後の一言は笑顔を添えて、実に残念だと言わんばかりだった。

「ふーん、なるほど。君は意外と一途なわけだ。
 そして、特別な人間だったら興味を持つこともあると言うことだね。
 ……、そう言う存在はほしいと思って出来るものではないし、
 自然とそう思えるようになった時に気付けば良いと思うよ」

それくらいの心構えでいれば良い。
危惧して線を引いていたとしても、出会ってしまえばそれまでだ。
ただ、そんなことを語っていた青年は少し不器用な子供に見えた。

「ふふふ、本当に君は良い性格してるねぇ」

筑波 察 > 「アイデンティティかぁ、
 確かに足掻いている自覚はないけど、
 半ば後戻りできなくて意地を張ってる部分はあるかもしれないねぇ
 サダメさんは見守るのが好きなのかい?
 まぁシスターっぽいといえば確かにそうだけど」

自分のことを一通り話したので、
今度は彼女の方に話題をシフトしていく。
実際、彼女はどういう人間なのか。そういう興味はあった。

「かもしれないねぇ。自分で言うことではないんだろうけど。
 そのうちそういうビビっとくる人が現れるのか、
 今知っている人たちの中からそういうそんざいが出てくるのか、
 はたまた僕は今後そういう人を見ないままなのかは
 興味があるところだけどねぇ」

自分の事だというのにまるで他人事。
興味の抱き方としては生き物を観察する感じに近い。
自分自身ですら観察対象なのかもしれない。

「嫌われることの方が多いけどね。
 いい性格をしているっていうのは、皮肉を込めてよく言われるよ」>

時坂運命 > 「後戻りできないなら突っ走ってしまえ、と僕はアドバイスするよ。
 だってその方が君の人生はきっと輝いて見えるぜ?
 んー、好き嫌いで言うなら好きかな。
 まぁ、それが役割だから僕の嗜好はあまり関係ないけどね」

人を見ているのは好き、足掻いているのも、諦めていたとしても。
シスター的には迷っていたなら話を聞くこともあるだろう。
人々の変化を見守るのもまた一興。

「さぁ、どうだろうね。
 それは君の行動と努力、そして成長次第かな。
 願わくば、君がそう言う人物に巡り合えますように」

無責任な希望と願いを口にするのはシスターとしての行動か。
それとも少女自身の意思なのか。
それはさておき、彼の今後の成長は見ものであると言える。

「嫌われてる自覚はあるけど直さないし、否定しない。
 それ故に君はそう評される。
 ――ああ、ちなみに僕のは『面白い』良い性格してるねって感じかな?」

筑波 察 > 「あはは、この性格で突っ走ったら刺される日もそう遠くはないかな。
 でもやりたいことはまだまだあるからね。
 生き方を変えてやりたいことできるなら、
 生き方を変えていこうと思うよ。
 君は肩書に縛られるタイプなのかい?
 そういうふうには見えないけどねぇ」

嗜好は関係ないという彼女を、少し意外だといった感じで見る。

「出会えたら、僕の生き方もガラリと変わるだろうねぇ
 僕が望んでそういう人と出会うことはなさそうだけれど。
 それとも望むようになったら成長したってことなのかな?」

だとすれば自分は昔よりも退化していると言えなくもないが、
きっとタイミングや時期の問題だろう。
そして無責任にも見守るというのは、シスターらしいと笑う。

「だって、性格を直したところで好かれるってわけじゃないからね。
 最終的な評価は相手にゆだねられてて、僕が干渉するところじゃない。
 だったら、僕は好きなように生きるさ。
 君の評し方も、なかなか変わってるけどねぇ?」>

時坂運命 > 「おっと、それは僕も責任を感じてしまう日が来るかもしれないと言うことかな。
 とりあえず、君は君のやりたいように生きればいいよ。
 それでどう言う未来が待っているかはわからないけど、君なら上手くやるんじゃないかな?
 ――さぁ、どうかな?
 僕はこう見えて、第一印象だけは真面目な優等生として通ってるんだぜ?

 ……まぁ、冗談はさておいて。
 僕はただの敬虔なる信徒で、神の忠実なる駒だよ」

ひとしきり笑って茶化した後、一つ息を付いて笑みを浮かべたまま言った。
ぬるくなり始めたココアをコクコクと喉に通して行く。

「心境の変化は成長と言っていいんじゃないかな?
 退化は戻るって感じだしね、君は過ごした時間を巻き戻せるわけじゃないだろう?」

笑う青年を横目で見ながら、顎に指を添えて首を傾げる。

「そこは否定しない。
 直して普通になったら、他の人と同じレベルになるってことだからね。
 どちらかと言うとスタートラインに立ち戻ったって感じだよ。
 いやいや、僕は普通だよ。君はユニークだ、だから面白いって言ってる。ただそれだけだよ」

筑波 察 > 「ま、君の一言で本当に突っ走るような馬鹿正直でもないからね。
 君が責任を感じるような日はきっとしばらく、
 下手したら永遠に来ないさ。
 ――……冗談なんだ?
 一瞬君を評価している人間の価値基準を疑いそうになったけど、
 よかった。その神への忠誠は本心かな?」

遠回りに真面目そうには見えないというが、
それは笑って話せる冗談だ。
真面目ではないが、不誠実ではない。と言ったところ。

「変化は成長かもしれないけど、
 僕が自身の中に特別を作るっていうのは、
 昔の心持ちに戻るってことだからねぇ」

これでも僕だって昔は人を好きになることくらいあったんだよ?
と笑う。今はもしかして感情が欠落しているのかもしれない。

「スタートラインに戻るのはやりたくないね。
 元の場所に戻るくらいなら、
 今いる場所を新しいスタートラインとして上書きしたい。
 こんな僕でも、今までやってきたことに意味はあると思っているし」>

時坂運命 > 「なーんだ、心配して損しちゃったじゃないかー。
 君は意地悪だなぁー。
 おいおい、そこは『第一印象だけかよ!』と突っ込む所なんだぜ?
 そして何気に酷いことをさらりと言われた気がするけれど……
 ぼ、僕のアイアンメイデンにしまったハートは傷ついたりしないんだぜ。
 ……さぁて、そんなの疑う余地はないよね?
 僕はシスターさんなんだからさ」

語尾を伸ばす棒読みは、にまにま顔できっと鬱陶しいことこの上ないだろう。
目に見えて落ち込む姿はわざとらしく、ふざけているのが一目でわかる。
そして、青年の問いにははっきりとは告げず、クスクスと笑いながら何処か不透明な答えを返した。

「そうなんだ、それは今日一番の驚きだね。
 そして、どうして君がこうなってしまったのだろうと疑問が絶えないよ。
 最初からここまで歪な人間なんて、そうはいないからね」

傾げた首を戻し、テーブルに両肘をついて頬杖を突く。
ジッと青年の顔を覗き見る瞳には好奇心が宿っている。

「うん、その方が良いよ。
 そうじゃなきゃ、君は君を辞めることになりかねない」

筑波 察 > 「君が本心から人を心配するっていうのも、
 にわかには信じがたいけどねぇ?
 あはは、大抵の人ははじめいい人を演じるモノさ。
 鉄の処女に入ったハートは手を下すまでもなく
 ぼろぼろな気がするけどねぇ?
 わからないよぉ?
 この島には見た目によらない人がたくさんいるからねぇ?」

相も変わらずふざけた語り口の彼女は、本心が読めない。
彼女もやはり見た目で判断すると危険なタイプの人間なのだろうか。
そんな疑問を抱くが、今この時点では大して問題ではないように思えた。

「それはそれでなかなか失礼な驚きだと思うけどねぇ…?
 なんでだろうねぇ。失恋したショックとかかねぇ?」

そういってわざとらしく落ち込む。
彼女に負けず、この青年もわざとらしさとうざったい態度はなかなかだ。

「まぁ答えを言っちゃえば周りが僕に気を遣い過ぎてね。
 それが息苦しくてきずけばこんなふうに成長してたわけ。
 あくまで周りは僕をほかの人と同じように扱うもんでね。
 それに合わせて振る舞ってたら疲れちゃってさ」>

時坂運命 > 「まったく、なんとも人間不信な考え方だな君は。
 おーっと、痛いところを突かれた。
 ボロボロだと思うなら少しは手心を加えてほしいものだよ。
 この島の現状がいかに恐ろしいか分かる一言だね……。

 ――まぁ、僕としては神様はいるし、信じているよ。
 ただ、頼りにはしない……ってところかな」

呆れ半分、諦め半分。ジト目で青年を見てため息をついた。
青年の心境、疑念を感じる詮索には、一度目を閉じ、改めて微笑程度の笑みを浮かべる。
語る声は静かに、まるで言葉を選んでいるようだった。

「そうかな? 至極まっとうで当然の反応だと僕は思うのだけど。
 でも君が傷ついたなら謝っておくね、悪気はないけど傷を抉ってごめんよ。
 ……しかし、失恋ねぇ。
 それが事実なら、昔の君はとても繊細だったようだね」

落ち込む仕草を見ても少女の笑みは浮かんだまま、むしろにっこりと微笑んで口だけの謝罪を返す。
失恋、そう言った声に嘘だとは思わず、ただ興味深そうにじーっと眺めていた。

「――って、失恋ではないんだね。
 まぁ、この学園は君にとって新しい鳥籠となったわけだ。
 好きに飛びまわって、思う存分羽を伸ばすと良いよ」

筑波 察 > 「これでも僕は見た目で判断している方だよ?
 ただそれで痛い目を何度も見ているもんだからね、
 そろそろ学習しないと。
 あら、望んで鉄の処女に入ったんだと思ったけど、
 違うのかい?
 頼りにはしない、その考え方は結構面白いし好きだねぇ」

スマホのカメラ越しでもわかるジト目に苦笑いをすると、
軽く謝る。
そんなやり取りも半分以上は冗談だ。

「あはは、僕が失恋したくらいで生き方を変えたりしないよ。
 ……いや、まぁ、失恋したことも関係あるのかな?
 直接的な原因は今言った通りなんだけど、
 案外関係はあるのかな」

少し考えるようにするが、自分でもよくわからない。
当時の自分が何を考えて、どう変遷して今のようになったのか。
ところどころ記憶が怪しい。

「そうだねぇ。
 この島は大分心地がいいねぇ。
 卒業するのを先延ばしにしたくなるくらいには居心地がいい」>

時坂運命 > 「なら僕のことも真面目な優等生と信じてくれても良かったのに……
 ミル君、学習して疑り深くなってしまったなんて、悲劇でしかないよ。
 違うよ!誰が望んで拷問器具に入るのさ!僕のはただのうっかりだ!
 ――そう? そう言ってもらえると嬉しい限りだね」

服の袖で涙をぬぐうようなまねをするが涙は最初からなく、
抗議して張り上げた声は変な沈黙を産み、最終的に何事もなかったかのように落ち着いた声音で返す。
冗談と真面目を行き来する会話は喜劇的だ。
ただ、青年の謝罪に笑って肩を竦めた。

「人の心と言うのは複雑なものだね。
 どう言うことがあったのかは、君の胸の中にしまっておけばいいよ。
 抱えきれずに誰かに話したくなったら話せばいい。
 もし話し相手がいなかったら……僕に言ってみるのも良い。
 僕はシスターさんだからね、話を聞くのは得意だよ」

迷っているのか、それとも自分でもわからないのか、考え込んでいるように見えた青年に言った。
まだまだ君の人生は長い、気長に行こうと。

「……それは先生の前で言わない方がいいと思うよ」

筑波 察 > 「信じてほしい割にはちょっと含みが多いようにも思えたけどねぇ?
 死んでしまったら信じることなんてできないからね。
 優先順位が変わっただけさ。
 うっかりで入った拷問器具に、好き好んで入っているのかい?
 それとも誰かが助けてくれるのを待っているとか?
 生憎、僕は無宗教だからね、基本的に見えざる存在には頼らないから」

少しリアクションがオーバーな彼女とは対極的に、
こちらの口ぶりは静かに、しかしふざけた風だ。
どうにも彼女は一番深い部分が見えない。

「複雑だけど、一つ一つ分けていけば簡単な部分の集合さ。
 時間が足りないだけ。
 別にひた隠しにしているわけではないけど、
 自分から話すのもすこし違う気がするんだよね。
 誰かに聞かれれば答える感じ?」

記憶があいまいなのは、
きっとほかにやることや大事なことがあったからだろう。

「あはは、これでも座学の成績は結構いいんだよ?」>

時坂運命 > 「まるで僕のせいだと言わんばかりだね、その通りだと思うけど。
 うーん……やっぱり、この学園は明るく楽しいだけではないということかな。
 いやいや、それ以外にハートを守れそうな物が見えなかったんだ、必要に迫られてと言う奴だよ。
 ある意味引きこもりとも言うね。
 おいおい、僕は助けを待つお姫様じゃないんだぜ?
 助けなんて端から来ないと承知の上の狂気の沙汰さ。
 うんうん、僕は無宗教がどうとかはとやかく言わないよ。
 自分自身で道を切り開く、やっぱり人間はそうあるべきだよね」

つらつらと戯言と冗談を並べては、返される淡々としつつも愉快な彼との掛け合い。
楽しげに答えながら少女はただ笑っていた。

「つまり、君の心のドアを優しく、時に激しくノックしろってことかな?
 ――まぁ、それは次の機会に取っておこう。」

彼の話にも興味はあるが……
時計を見れば良い頃合いとなっていた。
ココアの残りを一気に飲み干し、スッと席を立つ。

「ご馳走さま、ミル君。
 君のお陰で中々有意義な時間が過ごせたよ、ありがとう。
 また何処かで偶然にも、必然的にも、運命的にも出会ったら……
 その時はまた、お話ししてね?」

別れの言葉はにこやかに、また芝居がかった様子で語りクルリと回ってスカートを翻す。
同時に高く放り投げた空き缶が、カコンッ。 と、ゴミ箱の中に落下した。
その音を聞きとげて、ロビーから立ち去る。が、

「――ああ、そのゴーグル。
 けっこう成績がらしいミル君なら、絶対すぐに直るよ。
 じゃあ、がんばってね」

思い出したように一度振り返ってにっこりと無邪気な笑みを浮かべてエールを送った。
そうして、騒々しいシスターは教室へと戻って行った。

ご案内:「ロビー」から時坂運命さんが去りました。
筑波 察 > 「それ、わかってて言ってるよね。
 あはは、ナイフで背中を刺されるなんてどこに行ったって同じさ。
 この島も例外に漏れてないだけ」

この島は社会の縮図だ。
外の世界で起こることは島の中でも起こる。

「必要に迫られて、ねぇ。
 そのうちもっと居心地のいい入れ物が見つかるといいねぇ?
 人間は考える葦だからね。
 神様に頼りっきりは人間として名が泣くよ」

必要に迫られて鉄の処女に入った。
彼女も何か"そういう事情"でもあるのか。
それをこの場で聞くのは、なんだか野暮な気がした。

「そのうち何かの機会で話すときがきそうだけどね。
 こちらこそ、コーヒーをありがとう。
 そして、確率的にも偶然、どこかで会えたら
 その時は僕からもよろしく」

僕にとって神と言える存在は数学だ。
神様がいるならきっと数学者だろう。
そう信じている。

「――?
 どういう意味だろう。
 まぁ、直さなきゃいけないのは確かなんだけど」

別れ際に彼女に欠けられた言葉に首をかしげる。
まるで未来を確信したような語り口だ>

筑波 察 > 「って、は?
 ……本当にすぐ直った。
 サダメさんは未来でも見えてるのか?」

彼女が去るとすぐ、ゴーグルの修理を再開した。
すると先ほどまであれだけ苦戦していたのがまるで嘘のように、
ゴーグルが正常な値をパソコンに返し始めた。

「もし未来が見えているなら、
 そりゃあ僕の目よりも高性能だぞ?」

ちょっとした皮肉を込めてつぶやくと、
楽しそうに笑ってゴーグルをつける。
ちゃんとした視界が得られれば、広げていた道具をしまって、
コーヒーの残りを飲み下す。
そして缶をゴミ箱に捨てれば、
少し楽しそうにして帰路についた>

ご案内:「ロビー」から筑波 察さんが去りました。