2015/08/28 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (夜の屋上。巡回を行った者の特権という訳で、公園の方角で行われている花火を見ていた。
見ればフェンス越しの景色にスマートフォンを翳している。
どうやらビデオ通話を使って、通話相手に花火を見せているらしい)
「ほう、けっこうでか……うん?
でかいな。あれは本当に花火か?
またどこかの委員会で襲撃でもされているのではあるまいか」
(ひとつは龍と、もうひとつは太陽と。
打ち上がった光がいやに大きく見えて、首を傾げた)
■ヨキ > 「まあいい。見えたか?」
(スマートフォンに向き合う。
画面に映っているのは、本土であれば就学して間もない頃であろう、幼い顔立ちの少年だった。
ベッドに寝かしつけられた彼の、体調のよいときにはヨキが絵画教室で面倒を見ている。
その子もまた普通学級と特別支援学級――『たちばな学級』への編入を案じられているひとりだ。
大きな音が苦手で、花火を見たことがないと聞いていた。緊張が高まると、異能が暴走しやすいとも。
柔和な顔がけたけたと笑っているのを見て、つられてヨキも笑う)
「そうか。そうかあ。楽しかったか。うん。ヨキも楽しい。
ほれ、今日はもう寝るがいいぞ……うん?
はは。だめ。起きてていいのは今日だけだ。
また学校でな。うん。うん……わかった。おやすみ」
(まるで自分の子のように笑い掛ける。指先で小さく手を振って挨拶とし、通話を切る)
「………………、」
(息をつく)
■ヨキ > (ぽりぽりと頭を掻く)
「……風紀委員はまたも襲われたというし。
バロム・シインの出所も早まったというし。
全く、みな何を考えておるのだ……安寧はないのかこの島は」
(現に先ほどの花火を上げたのは他ならぬバロム・ベルフォーゼ・シインで、図書館の禁書庫では今しがた破壊が行われたところだった。
それらの顛末を今は知ることもなく、難しい顔でぶつくさと文句を垂れながらスマートフォンを弄っている)
ご案内:「屋上」に梧桐律さんが現れました。
■梧桐律 > 祝祭の夜だった。
夏もしだいに終わりへと近づきつつある。
夜天には大輪の花が咲いて、誰もが空を見上げていた。
だからと言ってサボっていい理由はどこにもない。
静かな場所を探し、教室棟のあたりをあてどなく彷徨っていた。
屋上へ続く扉を開け放つ。
「―――ん」
先客がいた。見覚えのある顔だった。
■ヨキ > (もう一度頭を掻く)
「まあ、よい。襲撃など風邪のようなものだ。
風紀や公安がきちんと仕事をこなす限り、ヨキの関知するところではない……」
(スマートフォンの画面を閉じる。懐に仕舞い込む。
振り返って、手近なベンチに向かおうとして――)
(少年と目が合う。絵に描いたような真紅の髪。
眼鏡を押し上げる。その顔を見定めようと目を凝らして、声を掛ける)
「……やあ、こんばんは。楽器の練習かね?」
■梧桐律 > 見られて困る顔でもないが、この教師だけは別だ。
劇団との縁が深すぎる。
何より死人が化けて出たんだ。
俺なら白目を向いて仰け反ってるところだが。
「ああ、こんばんは。余所に行った方がいいだろうか」
長身の教師を見上げて、眼鏡の奥の瞳を目にして思い出す。
「そうだ、譜面台―――」
依頼してしばらく経ってる。もうとっくに出来ているはずだ。
悪いことをしたな。
何かと立てこんでいたとはいえ、それはこちらの事情だ。
第一、このことを「俺」は知らないはず。
どう言い繕ったものか。
■ヨキ > (何気ない足取り。悠々とした足取りで歩み寄る。
いつもの通りに、生徒と歓談を交わす心算で)
「いや。どうせヨキも暇をして――」
(びく、と肩が強張って足が止まる。
少年が何者であるか、気付いた表情だ。
無理もない。脳裏に焼き付いた『劇団』のカーテンコール。
その『伴奏者』として現れた彼。故人として知られた――
梧桐律。
けれどもこの男の困惑は、少年の言葉によってすぐに払われたものらしい)
「……『譜面台』。
ちょうど連絡を入れようと思っていた。
それを知っているということは――
君、……『本物』か?」
(少女にして少年のような物言いの奇神萱。
彼女に襲われたことで知られる梧桐律。
偽者の『伴奏者』とは遊んでやれ、と言われていたヨキ。
自分に譜面台を頼んだのは奇神萱――
すべては憶測に過ぎない。
それでいて何らか確信を得たように、にやりと尋ねる)
■梧桐律 > 「しばらく前の話になる」
『橘』で会って以来だ。死ぬほど暑い日だったのを憶えている。
『バスク奇想曲』。『ジャマイカン・ルンバ』。
それから、『ただ憧れを知るものだけが』。あの日は三曲演った。
「似たような道具を抱えた女に頼まれたものがあったはずだ」
「俺でよければ代わりに受け取っておく」
「あいつはもうここにはいない。始末がついたんだ」
「……取りにいけなくなってすまないと言っていたよ」
にやりと笑うと猟犬めいた精悍さが増して見える。
「本物も偽物もないさ」
「鳥たちは飛び立っていった。もう二度と戻らない」
「俺は梧桐律。ただの梧桐律だ。地獄めぐりを終えてきた」
軽口を叩いて笑い返す。
あの日、劇場跡で見たものの答えを俺はまだ知らない。
問いかけるなら今しかなさそうだ。
「『脚本家』に会ったな。どうしてた?」
■ヨキ > 「……『俺でよければ』。さあ、どうしたものかな。
『伴奏者』をどこかで見かけたら、そいつは偽者――
遊んでやってくれ、と言われていたよ。
『奇神君』からな」
(奇神萱と当然ながら異なる声をして、しかして同じ語り口。
視線の動き。身振り手振りに小さな身じろぎ。
そのひとつひとつを『記憶の中の奇神萱』と重ねるように、じっと見る)
「譜面台はこのすぐ真下……準備室に置いてある。
悪いがこちらも職人の端くれだ。
事情を曖昧にしたまま『受取人』を変える訳にはいかない。
詳しく教えてもらおうか。
君と奇神君は、互いに何者だったかを。
どちらが誰で――誰が誰を装っていたのかを」
(『脚本家』の名前を聞くと、小さく笑って)
「…………。彼女から、ヨキのことを聞きでもしたか?
劇場跡で、一条君に会ったよ。真面目な娘だと思った。
彼女とまた会うことを楽しみにしているのだが……一向に姿を見んでな」