2015/08/28 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (夜の屋上。巡回を行った者の特権という訳で、公園の方角で行われている花火を見ていた。
 見ればフェンス越しの景色にスマートフォンを翳している。
 どうやらビデオ通話を使って、通話相手に花火を見せているらしい)

「ほう、けっこうでか……うん?
 でかいな。あれは本当に花火か?
 またどこかの委員会で襲撃でもされているのではあるまいか」

(ひとつは龍と、もうひとつは太陽と。
 打ち上がった光がいやに大きく見えて、首を傾げた)

ヨキ > 「まあいい。見えたか?」

(スマートフォンに向き合う。
 画面に映っているのは、本土であれば就学して間もない頃であろう、幼い顔立ちの少年だった。
 ベッドに寝かしつけられた彼の、体調のよいときにはヨキが絵画教室で面倒を見ている。
 その子もまた普通学級と特別支援学級――『たちばな学級』への編入を案じられているひとりだ。

 大きな音が苦手で、花火を見たことがないと聞いていた。緊張が高まると、異能が暴走しやすいとも。
 柔和な顔がけたけたと笑っているのを見て、つられてヨキも笑う)

「そうか。そうかあ。楽しかったか。うん。ヨキも楽しい。
 ほれ、今日はもう寝るがいいぞ……うん?
 はは。だめ。起きてていいのは今日だけだ。
 また学校でな。うん。うん……わかった。おやすみ」

(まるで自分の子のように笑い掛ける。指先で小さく手を振って挨拶とし、通話を切る)

「………………、」

(息をつく)

ヨキ > (ぽりぽりと頭を掻く)

「……風紀委員はまたも襲われたというし。
 バロム・シインの出所も早まったというし。
 全く、みな何を考えておるのだ……安寧はないのかこの島は」

(現に先ほどの花火を上げたのは他ならぬバロム・ベルフォーゼ・シインで、図書館の禁書庫では今しがた破壊が行われたところだった。
 それらの顛末を今は知ることもなく、難しい顔でぶつくさと文句を垂れながらスマートフォンを弄っている)

ご案内:「屋上」に梧桐律さんが現れました。
梧桐律 > 祝祭の夜だった。
夏もしだいに終わりへと近づきつつある。
夜天には大輪の花が咲いて、誰もが空を見上げていた。

だからと言ってサボっていい理由はどこにもない。
静かな場所を探し、教室棟のあたりをあてどなく彷徨っていた。

屋上へ続く扉を開け放つ。

「―――ん」

先客がいた。見覚えのある顔だった。

ヨキ > (もう一度頭を掻く)

「まあ、よい。襲撃など風邪のようなものだ。
 風紀や公安がきちんと仕事をこなす限り、ヨキの関知するところではない……」

(スマートフォンの画面を閉じる。懐に仕舞い込む。
 振り返って、手近なベンチに向かおうとして――)

(少年と目が合う。絵に描いたような真紅の髪。
 眼鏡を押し上げる。その顔を見定めようと目を凝らして、声を掛ける)

「……やあ、こんばんは。楽器の練習かね?」

梧桐律 > 見られて困る顔でもないが、この教師だけは別だ。
劇団との縁が深すぎる。
何より死人が化けて出たんだ。

俺なら白目を向いて仰け反ってるところだが。

「ああ、こんばんは。余所に行った方がいいだろうか」

長身の教師を見上げて、眼鏡の奥の瞳を目にして思い出す。

「そうだ、譜面台―――」

依頼してしばらく経ってる。もうとっくに出来ているはずだ。
悪いことをしたな。
何かと立てこんでいたとはいえ、それはこちらの事情だ。

第一、このことを「俺」は知らないはず。
どう言い繕ったものか。

ヨキ > (何気ない足取り。悠々とした足取りで歩み寄る。
 いつもの通りに、生徒と歓談を交わす心算で)

「いや。どうせヨキも暇をして――」

(びく、と肩が強張って足が止まる。
 少年が何者であるか、気付いた表情だ。

 無理もない。脳裏に焼き付いた『劇団』のカーテンコール。
 その『伴奏者』として現れた彼。故人として知られた――

 梧桐律。

 けれどもこの男の困惑は、少年の言葉によってすぐに払われたものらしい)

「……『譜面台』。
 ちょうど連絡を入れようと思っていた。
 それを知っているということは――

 君、……『本物』か?」

(少女にして少年のような物言いの奇神萱。
 彼女に襲われたことで知られる梧桐律。
 偽者の『伴奏者』とは遊んでやれ、と言われていたヨキ。
 自分に譜面台を頼んだのは奇神萱――

 すべては憶測に過ぎない。
 それでいて何らか確信を得たように、にやりと尋ねる)

梧桐律 > 「しばらく前の話になる」

『橘』で会って以来だ。死ぬほど暑い日だったのを憶えている。
『バスク奇想曲』。『ジャマイカン・ルンバ』。
それから、『ただ憧れを知るものだけが』。あの日は三曲演った。

「似たような道具を抱えた女に頼まれたものがあったはずだ」
「俺でよければ代わりに受け取っておく」
「あいつはもうここにはいない。始末がついたんだ」
「……取りにいけなくなってすまないと言っていたよ」

にやりと笑うと猟犬めいた精悍さが増して見える。

「本物も偽物もないさ」
「鳥たちは飛び立っていった。もう二度と戻らない」
「俺は梧桐律。ただの梧桐律だ。地獄めぐりを終えてきた」

軽口を叩いて笑い返す。
あの日、劇場跡で見たものの答えを俺はまだ知らない。
問いかけるなら今しかなさそうだ。

「『脚本家』に会ったな。どうしてた?」

ヨキ > 「……『俺でよければ』。さあ、どうしたものかな。
 『伴奏者』をどこかで見かけたら、そいつは偽者――
 遊んでやってくれ、と言われていたよ。
 『奇神君』からな」

(奇神萱と当然ながら異なる声をして、しかして同じ語り口。
 視線の動き。身振り手振りに小さな身じろぎ。
 そのひとつひとつを『記憶の中の奇神萱』と重ねるように、じっと見る)

「譜面台はこのすぐ真下……準備室に置いてある。
 悪いがこちらも職人の端くれだ。
 事情を曖昧にしたまま『受取人』を変える訳にはいかない。

 詳しく教えてもらおうか。
 君と奇神君は、互いに何者だったかを。
 どちらが誰で――誰が誰を装っていたのかを」

(『脚本家』の名前を聞くと、小さく笑って)

「…………。彼女から、ヨキのことを聞きでもしたか?
 劇場跡で、一条君に会ったよ。真面目な娘だと思った。
 彼女とまた会うことを楽しみにしているのだが……一向に姿を見んでな」