2015/10/15 のログ
ご案内:「教室」に茨森 譲莉さんが現れました。
■茨森 譲莉 > 「よろしく。」
そんな言葉にとっさに反応して「はい」と受け取ったアタシは、
受け取ったものを見て思わず「うげ」と情けない声を漏らした。
常世学園、非日常が蔓延るこの学園に来てから数週間が過ぎた。
『学園祭が終わるまでの間』という予定の交換留学は既に半分、いや、2/3は経過し、
アタシの非日常はゆるやかに日常へとシフトしていっていた。
以前のように、異邦人の外見に一々驚く事は……。
「うぉぅ!!……あ、ノートね、ごめんなさい。変な声だして。」
相変わらず、異邦人の風貌には慣れない。
「別にいいのよ」とにこやかに笑って去って行く角の生えた獣人を見送りながら、
アタシはその異邦人が寄ってくる原因になった、アタシの胸に抱えられたものを見下ろした。
ずしりとアタシの腕を地面に押し付けようとするそれは、次の授業で使うノートだ。
アタシにこのノートを預けた先生は、とっくの昔に教室を後にしている。
今頃、職員室でコーヒーでも啜っているだろう。どうにも眠そうだったし。
学園祭の準備は生徒は勿論、先生にもなかなかの重労働なのだろう。お疲れ様です。
■茨森 譲莉 > そんな件の眠そうな先生はおそらく次の授業の先生から託され、さらにそれをアタシに託した。
今回の授業で使うから授業前に配っておけというのが、先の「よろしく。」という言葉の意味である。
休み時間という事もあり、教室内に居る生徒は思い思いに談笑に励んでいる。
ここでいきなりアタシが「カモノハシさーん」とノートに書かれた名前を読み上げ、
それにハイハイと返事して来てくれると非常に助かるのだが、アタシにはそんな度胸は無い。
……ともすれば、教室内を見渡して名前の人物を探して、それはもう伝書鳩のようにパタパタと走り回って、
「カモノハシさん、ノートです。」と手渡して回るのが無難なのだが―――。
先に言った通り、アタシはこの学園に来てから数週間。非常に微妙な時期だ。
つまり、クラスメイトの名前を憶えてないわけではないけど、ぶっちゃけ物凄く怪しい。
アタシの名誉の為に言っておくと、別に覚えていないわけではない。断じてない。
ないが、もし間違えてしまえば、
『アイツ来てからもう何週間だっけ?まだクラスメイトの名前も憶えてねぇのかよ。
うわーないわー、私アンタの名前言えるよ?茨森さんでしょ?
でもそっちは覚えてない、へーーーーッ!!』
―――的な視線を向けられる事になる。
いや、実際にはそんな事言われないし、やんわり笑って
『違うよ茨森さん。カモノハシさんはあっちの子。』なんて言ってくれちゃったりするが、
アタシはそんな事を言われたら、曲がり捻り狂った卑屈な根性でもって先の解釈をしてしまうわけだ。
つまり、私は名前覚えてるのにアンタは覚えてないのアピール。
あえてアタシの名前を呼ぶあたりにアタシは悪意を感じる。
■茨森 譲莉 > 「………。」
上から順に、ノートに書かれた名前を確認する。
この人は確実にあの人だ、この人は多分あの人、この人は……あの人かな。
やっぱり不安だ。さっきみたいに自分から取りに来てくれないだろうか。
それか、アタシの抱えたノートを見て手伝ってあげるよ
なーんて言ってくれる心優しい人が現れてくれると助かる。
……むしろ、私が配っておいてあげるよ、言ってくれる人を希望したい。
■茨森 譲莉 > そんな現実逃避をしていても仕方無い。とりあえず、さっさと配ろう。
ようは、間違えなければいいのだ、ここ数か月で覚えた名前と顔。
プライバシー保護の為、顔は画像加工がされてます。
とでも書かれてそうなぼんやりとした記憶を頼りに、ノートの持ち主の元に歩いて行く。
まずは、クラスでも特別目立っていて、名前と顔がしっかり思い出せる人から。
「あの、ノート。」
相手に名前が見えるように、ノートを差し出す。
名前を確認すると「わり、ありがと。」と短くお礼を言って受け取った。
ふぅ、どうやら最初の一人から失敗、なんて事はなかったらしい。
段々難易度が上がって行くタイプのクイズ番組を思い出しながら、順番にノートを手渡して行く。
手渡すたびに、今まであった事を思い返して、
改めて「残り少しなんだな。」と寂しい気分になったのは内緒だ。
■茨森 譲莉 > ノートの山は難易度順に減って行き、ついに残り2冊。
―――つまり、最後まで顔と名前が一致しなかった2冊だ。
ぶっちゃけ分からないノートもあったが、喋る為に固まってるグループの内一人に渡して、
「後の人も勝手に取ってー。」と声をかけて回避した。セウトだ。
仲良しグループの人だと「あれ、どっちがどっちだっけ?」なんてなる事はよくあると思う。
まだ配っていない生徒は当然2人、
男子と女子ならまだ良かったのによりにもよって、どちらも同じ性別だ。
うち一人は、クラス内では比較的目立つポジションに居て、
当然、アタシもこの人を呼ぶ事が無いわけじゃない。
ただ、呼ぶときはあだ名だ。
クラスに一人二人は居るだろう、常にあだ名で呼ばれている二人なのだ。
………だから、アタシには本名は分からない。
あだ名が名前に関わりがあるようなモノなら予想もつけれたのに、
どうやら一切合財関係ないモノらしく、名前と睨めっこしてもピコーンと電球が灯る事は無い。
もう一人は、そもそも名前すら知らない。
確率は半々。もう勘で渡して、間違ったら素直に謝ろうかと二冊のノートを見る。
折角ここまでノーミスだったのに、ここで間違えるのは何だか癪だ。
ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (数枚のプリントを手に、休み時間の廊下を行く。
時おりすれ違う生徒と挨拶を交わし、やり取りをし、暢気にのんびりと。
辿り着いた教室のひとつをひょいと覗き込む。
顔を知って手を振る生徒もあれば、取り立てて反応を示さない者もある。
ぐるりと教室を見渡したのち、どうやら目的らしい相手を見つけて、軽く手を挙げる)
「――“ ”君。先日言っていた、学園祭の出店の――」
(果たして譲莉が、その名を聞き取れたかどうかは判らない。
はあい、と返事をして立ち上がったのは――譲莉が『そもそも名前すら知らない』方だった。
顔見知りのフランクさで、会話を交わす。
ヨキはと言えば、立ち尽くして苦悩する譲莉の姿にはまだ気付いていなかった)
■茨森 譲莉 > 廊下のほうから、自分の苦境を打開するような会話が聞こえた。
その落ち着いた低い声は、自分の見知った素敵な先生のモノだ。
本当、アタシのピンチにはいつも助けてくれる。いや、たまたまだろうけど。
……たまたまでも、なんだか運命を感じてしまうのが乙女心というものだと思う。
「はい、ノート。」
小さくお礼を言って、その名も知らぬ生徒はノートを手に取る。
これで後は、もう一人にノートを手渡して終わりだ。……無駄に疲れた。
アタシはこれ見よがしにあだ名で声をかけて、はい、ノート、と手渡す。
皆からあだ名で呼ばれてるならもうノートとかに書く名前もそれにしとけばいいのに。
そしたら、アタシがここまで苦労する事も無かった。
「あ、ありがとー。ところで、なんで私が最後だったわけ?
もしかして、名前が分からなかったーとか。私、いっつもあだ名で呼ばれてるしー。
先生もあだ名で呼ぶとか、もう少し公私わけろって感じだよねぇ。」
最後に渡したらそんな疑いが立つのを失念していたアタシは、
気まずげに髪の毛をくるくると指先で弄んだ。………くそが。
「………た、たまたま、ノートが一番下だったってだけよ。」
「ふーん、そっか。じゃ、今度は最初に渡してね、茨森さん。」
アタシは、渡す前に名前を確認しなかった事を後悔しながら、
その見知った先生、ヨキ先生のほうに歩いて行く。
次に配る事になる前に、アイツの本名を探っておかないと。
……なんで電話帳まであだ名にするんだ。
もしかして、本名を知られると困るような事があるんだろうか。
「ヨキ先生、助かりました。ありがとうございます。」
……いや、いきなりこんな事言われても意味不明だろ。
■ヨキ > (プリントを渡し、用事を済ませる。
会話を終えた生徒が引き返し、ノートを受け取ったところで、ようやく譲莉の姿に気がついた。
遠目には、クラスメイトと談笑を交わしているようにしか見えない。
譲莉の心中で一波乱あったことを知る由もなく、やあ、と笑って挨拶する)
「こんにちは、茨森君。……助かった?」
(何のことだろう、と笑って首を傾ぐ。
通り道を塞がぬよう、教室のすぐ外、出入口の傍らの壁に身を寄せる。
教室の賑わいを覗き込んで一瞥しながら、相手へ笑い掛けた)
「この学園にも慣れたかね?クラスメイトと話をしていたようだったから」
■茨森 譲莉 > 「こんにちは。……ああいえ、こっちの話です。」
教室を出入りする生徒の邪魔になっていることに気がついて、
ヨキ先生に倣って、出入り口の傍らに身を寄せる。
「そうですね、慣れ……。」
そこまで言ってから、先の出来事を思い出して苦笑いする。
あんな事があった後では、自信を持って「慣れました」なんて口が裂けても言えない。
「多少は、慣れました。」
「……学園祭の準備は順調ですか?」
■ヨキ > (こっちの話、と答えが返ってくると、納得してそれ以上は訊かなかった。
譲莉と隣り合って話を交わす前を、幾人もの生徒が通り過ぎてゆく)
「そうだな……外の学校からここへやって来て、数週間で十全に慣れる、という訳にも行くまい。
君にはきっと、何もかもが別世界であるだろうから」
(窓から差し込む秋の日に中てられたように、ゆったりと目を細める。
学園祭の準備について尋ねられると、ああ、と頷いて)
「お陰様で。教えている生徒たちも、よくやってくれているよ。
毎年毎年、どんどん良くなってゆく。楽しいものだ」
(生徒たちの可愛くて仕方ないことが滲むような、朗らかな顔)
「常世祭は、島中が賑わう大イベントだからな。君にもぜひ楽しんでいってほしいんだ。
…………。それにしても、祭は来月の頭まで続くとして……
茨森君の交換留学は、いつまでだったろうかな?
うっかりしていたよ。ずっとここに居てくれるような気ばかりしてしまう」
■茨森 譲莉 > 「正直、アタシもずっとここに居たいくらいなんですけどね。」
交換留学は学園祭が終わるまでの間、だ。
……予定通りなら、あと3週間程。だろうか。
急に冷え込んだ最近にしては珍しくぽかぽかと差し込む日差しの中、
先の緊張で冷えた手をぎゅっと握りしめる。
「……学園祭が終わるまでの間なので、あと3週間くらいでしょうか。」
上手に笑えてるかは分からないが、にっこりと笑って軽くそう返す。
毎日変わった事が起こる、全てが別世界のような学校。
素敵な先生と、その先生が心の底から可愛がっている生徒達。
残り僅か、と考えれば当然のように寂しい。
来るときには早く帰りたいと思っていたのに、現金なものだ。
「最後の思い出と思って、学園祭は全力で楽しませて貰いますよ。」