2015/11/03 のログ
ご案内:「保健室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (少しお休みになってはいかがですか、と勧められたのが切っ掛けだった。
 常世祭、その展示、特別講義、閉会後の授業の予定、国立常世新美術館での催し、来場者の対応。
 やるべきことはいくらでもあったし、それらが済むまで休む訳にはいかん、とヨキも説明した。

 だがそれでいて結局、周囲からの説得に根負けして渋々保健室に辿り着く。
 真っ白なシーツを見遣ると、衣服の襟元を寛げてブーツを脱ぐ。
 そうしてふかふかのベッドに仕方なく身を横たえた瞬間――

 寝た。

 まるで、ぷつりと糸が切れたように眠りに落ちた。
 常日頃死人のように眠るという評判が立つヨキの、更なる熟睡である。

 ごく薄らと開いた唇から、呼気が漏れているかも怪しい静けさだった)

ヨキ > (横向きにゆるく身体を曲げた寝相。
 掛け布団から腕を半端に覗かせて、左手にはスマートフォンを掴んでいた。
 その本体に力なく指が絡んだ様子から、不意に寝付いたことが察せられる。

 画面にはアラームの設定画面が表示されていて、バックライトがやがてふっと消える。
 いつもはきちんと時計をセットして眠るヨキが、珍しく設定をし損ねていた。

 無人の保健室で申し訳程度に残されていた照明が、ヨキの頭上を照らしている。
 時刻は午後、まだ日は高い。その明るさにも目を覚ます様子はなく、
 身じろぎひとつせず横になっていた)

ご案内:「保健室」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
不凋花 ひぐれ > 【ヨキは人の良い先生だ。
 嫌味な言い方になるものの、その内にあるのは生徒からの一定以上の評価足りえるものである。
 常に尽力を尽くし、常に忙しそうにしている。特に常世祭の実行に携わっているのならその労力は一塩だろう。
 だからこそヨキの周囲の者達は休むことを提唱した。そのことを小耳に挟んだものだから、気になったからきた――ということは、口にはせんのだけど。】

「……失礼します」

【カラカラ――と横開きの扉を恐る恐る開く。4分の1にも満たない開き方で顔を出す。遠くは見えないが、音の気配からして誰もいない。
 正確にはこの場でアクティブに活動をしている人間がいないのであって、意識をベッドへと向ければ、ほんの僅かだが寝息が聞こえた。
 起こさないよう最低限の音のみとし、中へと入り、扉を閉める。】

「……寝てらっしゃる」

【それこそ、泥のように眠るヨキへと忍び足で傍によると、落としていた瞼を薄目に開き、眠る彼を一瞥した。】

ヨキ > (人の気配。扉を閉めるごく小さな音――光を遮る人影。
 そのいずれにもヨキは反応しなかった。
 肩がわずかに上下している以外は、寝息もひどく静かだ。
 いびきの一つも掻かず、ひぐれと向き合う形でじっと眠っていた。
 外した眼鏡は枕元に無造作に置かれ、左手にはスマートフォンが緩く握られている。

 不意に、柔らかな布地を擦る音。
 スマートフォンがヨキの大きな手を離れ、滑り落ちる。

 かしゃん、と音がして、スマートフォンが床を鳴らす。
 ひぐれの足元に転げた本体は、幸いにもカバーで覆われていた。
 その音にヨキがようやく気が付いて、喉奥から呻き声を漏らす)

「…………、んう。……んんんんむう……」

(目が開いていない。
 寝ぼけているのか、空っぽの左手が闇雲にうろうろと動いた)

不凋花 ひぐれ > 【極僅かな音しか発さないヨキの音を、それでも感知できたのは己の得意とする目以外の五感の特化具合が所以だ。
 身じろぐ音も吐息も、ベッドの軋みも上げないからいないものだと勘違いされそうである。
 ――己が日光を遮ったからだろうか。わずかばかりの変化があった。】

「……っ」

【ヨキの顔へと向けられていた紅眼が揺れる。突如聞こえた異音に肩を揺らす。
 片手に持った杖代わりの刀の鞘を立てて、己の足元に目配せをする。
 特徴的な長方形とすべらかな手触りから、スマホであることが窺える。
 その音が原因なのか、スマホがなくなったことで深層の奥で違和感を覚えたのかは定かではないか、目を閉じたままうめき声を上げ、闇雲にうろついている。
 彼女が認識することはやや遅れたものの、睡眠時によくある行動原理であろうと片付けて顔を上げた。
 ちょうど空っぽだった左手が未だ動くのなら、スマホを持ち上げて顔を上げた彼女の頭か頬に触れられるだろうか。スマホとは異なる硬さのそれが。】

ヨキ > (左手は自分の枕元で、何かを探すように動いていた。
 寝ぼけた者特有の胡乱さで、ふらりと腕が伸びる。

 指先がひぐれの頬を掠めて、ひたりと手のひらが触れる。
 死人のような寝姿のみならず、死人の肌のように冷たい手。
 布団の中で衣擦れの音を立てて、ひぐれへ身を寄せてゆく。

 ベッドの端までずりずりと動いて、あまつさえ抱き寄せんとさえする。
 緩んだ唇から、言葉にならない声が漏れる)

「……なんでそんなに離れて寝……」

(ひどく油断した、甘えるような低い声だった。
 明らかに普段見せる様子とは異なる調子で囁いて――

 ぱっと目を開いた)

「!」

(ひぐれから手を放し、がば、と飛び起きる。
 裸眼を手のひらで擦って、迂闊に口走った唇を手で抑え込んだ)

「…………。しッ、……失敬した」

不凋花 ひぐれ > 「ちょ、っとっ」

【目を見開いて狼狽を露にする。片膝立ちで不安定だった態勢を持ち直しながら、こちらの体がヨキへと引き寄せられた。
 頬に触れた冷たい指先は、暖房の付いていない部屋の空気の所為だろうか――。】

「………」

【抱き寄せられ、彼の唇から漏れる睦言のような囁き。耳に掠められた音が聞こえた。
 血流が早くなる。脈拍が進行する。心臓の駆動音が聞こえる。親との挨拶のときに見せた声とも、普段のそれとも、子供のように輝かせたものとも異なる。
 寝言はもはや蚊帳の外。彼が目を見開けば、交わる紅眼と金眼が一瞬。】

「……、……い、ぁ ……いえ
 すみません、……ぐっすり眠られていたので」

【スマホを手にしたまま瞼を落としてそっぽを向いた。要領を得ない謝罪を重ねる。
 熱におかされる頬に自分の指先を這わす。触れる己の指もまた冷たかった。】

ヨキ > 「……はあ、不凋花君であったか……済まなかった。
 いかんな、つい寝すぎてしまって」

(深く深く息を吐く。
 口に宛がっていた手のひらで顔を擦り、額を抑えて首を振る。
 眼鏡を拾って掛け直し、払った掛け布団を均して居住まいを正した)

「迂闊にも無様な真似を……犬ではあるまいし」

(『犬』。実際は犬どころか、はるかに大層な無礼を働いたはずなのだが、
 ヨキにとっては『何事か寝言を口走り、ひぐれに近づいた』――それほどの認識で止まっているらしい。
 動揺するひぐれに反して、ふう、と息を吐き出せば元通りのヨキである)

「お疲れ様、見回りの途中だったかね。
 ……あ、ヨキの……。済まん、寝ぼけて落としたらしい」

(ひぐれの手に収まったスマートフォンを見遣る。
 眉を下げ、頭を掻いて笑った)

「ちょうど君を、常世祭を見て回るのに誘おうと思っていたんだ。
 このあと空いているかね?」

不凋花 ひぐれ > 「お、お疲れのようでしたから、気になさらないでください。ヨキ先生だって人なんですから」

【寧ろ寝ることを推奨したいくらいである。相手をビックリさせてしまったから、次にまた寝るという提案をするのは少々精神には酷なこと。
 杖を持つ手に力が加わる。深呼吸をひとつ。】

「犬、というか………狼」

【もっと凶悪な肉食動物を思い浮かべた。二句を紡げず口ごもる。
 たいそうな無礼であろうと、彼女は言葉を処理することで精一杯であった。とはいえ悪気が合ったわけでも冗談でもないらしい。】

「あ、はい。
 ……こちらのみっともない姿まで見せてしまって、ガッカリです」

【申し訳なさそうに眉を垂らして、ヨキへとスマホを手渡す。
 ひとつひとつの工程に時間をかけていると、多少常通りの調子に戻ってきた。
 また、随分と興味深いものが見れた気がする。】

「え、っと……そういえばそんな話もしていましたね。
 勿論。ちょうど見回りも終えてこちらに様子を見に来たので、これからはフリーです」

ヨキ > 「気遣わせてしまったな、ありがとう。
 いやはや、生徒らに『休め』と言われて来てみたものの……知らずに疲れが溜まっていたようだ」

(先ほどの腑抜けた甘え声が嘘のように笑う。
 狼と評されたことには、その意を汲みきれずに暫しぽかんとした)

「ははは、狼?寝ぼけていたというのに、随分と格好いい喩えをしてもらえたな」

(盛大な勘違いをしていた。
 受け取ったスマートフォンに故障がないことを確かめて、礼を告げる)

「おお、一仕事終わったところか。それはお疲れ様であったな。
 それでは……校舎の中、ヨキと回ってみるか。
 小腹も空く頃合いであろう?風紀委員への労いだ、買い食いと洒落込もうではないか」

(馳走というよりは、むしろ自分が腹を空かせているようにも見える。
 衣服を直してブーツを履き、いそいそとベッドから立ち上がる)

「仕事以外に、もう会場は回ったかね?
 もし行っていないところがあれば、ヨキが案内するぞ」

(行こうか、とひぐれの一歩前を歩き出す。
 彼女の杖を妨げぬよう、付き添って歩く形)

不凋花 ひぐれ > 「お疲れさまです」

【はにかんで笑って返した。まだ頬が赤い気がするがこの際気にしないことにした。無視。無視。
 彼も勘違いしているのだから、これは穏便に受け流しておくべきだろう『そうですね』と相槌を打って返す。】

「よろこんで。ヨキ先生が好きなものであれば、私は何でも良いので。」

【生憎、どこに何があってと情報を把握するのは得意だが、行く先々を適当に練り歩くなら彼の希望に沿う形が良い。
 奢ってくれるのならば、それはそれで甘んじることにする。それ故の彼の優先権だ。】

「テーマパークみたいにあまりにも多すぎるので、回ってないところも沢山ありますが――最低限、一通り見て回りました。
 ですが満足に見れていないところもあるので」

【どこへいこうか逡巡する。どうしたものかと考えあぐねる。
 結果『先生がイチオシしたい場所など』と、委ねる形に落ち着くことになった。
 彼が前へと歩き出すのなら、こちらもその足音と気配を頼りに歩き出す。杖を左右に動かしながら、後を追いかけた。】