2015/11/21 のログ
ご案内:「保健室」にヨキさんが現れました。
ご案内:「保健室」に蓋盛 椎月さんが現れました。
ヨキ > (レジュメを挟んだクリップボードで肩をとんかとんかと叩きながら、廊下を歩いてくる。
 通りがかった保健室の中に蓋盛の姿を見つけると、足を止め、室内へ入ってゆく)

「――やあ、蓋盛」

(ほかに人がいないことを確かめてから、言葉を続ける)

「奥野君に会った。
 言っていたよ、君に叱られたと。
 君にも面倒を掛けた」

蓋盛 椎月 > ぼんやりとした様子で、書類をパラパラとめくっていたが、
入室するヨキの姿を認めると書類を閉じて、事務椅子ごと振り返る。

「――ああ、ヨキ先生。
 連絡差し上げるのが遅れてすみません。
 一応は、落着した感じですかね……多分。
 彼ももうあんなことはしないでしょうし……」

言って、微妙な違和感を覚えた。

「ふたりきりで会ったんですか?」

銀貨の行ったことは背景はどうあれ強姦であり、ヨキはその被害者である。
……しかし、平然とそう言うからには、彼らの面会には大した問題も起こらなかったのだろう。

「ともかく、そちらこそお疲れ様でした。
 面倒をかけた、のは、こっちのセリフでしょうね、たぶん……」

どこか実感の伴わない浮ついた声でそう言って、
茶の準備を始める。

ヨキ > 「それなら良かった。
 彼にはきっと、君の言葉がいちばん響くのだろうから。
 ……二人きりで?」

(きょとんとした様子で瞬く)

「そうだ。どうしているかと思って、ヨキの方から奥野君にメールを送って……ほれ、美術準備室で。
 彼はヨキの教え子なのだから、一対一で話すのは当然だとも」

(平然として答えた。学内で会った、ということを差し置いても、
 当時の自分と奥野晴明銀貨が二人きりで会うことに、何の違和感もないらしい)

「いや。ヨキの方こそ、君には感謝している。
 君の言葉がなかったら、こちらもいつまでもぐずぐずしていたことだろうと思う」

(支度に立つ蓋盛を目で追う。
 手近な椅子に腰掛けながら、その背中に向かって話す)

「それで……奥野君とは、どうなったんだ。
 『恋人』を辞めた訳ではなさそうだが」

蓋盛 椎月 > 「…………銀貨くんになんか言われませんでした?
 あたしが銀貨くんのことをこう言うのもおかしいですけど、
 もう少し、用心というか、その……」

言葉の途中で諦めたように目許を手で覆い、ため息を吐く。
銀貨が銀貨なら、ヨキもヨキである。
この男はどうにも危なっかしい。あまり人のことは言えないかもしれないが。

「どうなった、か……
 言葉で説明するのは難しいですねえ。なんて言えばいいんでしょう。
 まあ、当面は、そのー、『恋人』(ここで首をかしげた)を
 継続? みたいな……?」

自分でもよくわかっていないのが明らかな胡乱な口調。
ともあれ、二人分の緑茶を淹れてヨキの前に湯のみを出す。

ヨキ > 「……彼も、まさかヨキから連絡が来るとは思っていなかった、とか、
 処罰を与えるなら奥野氏に伝えるでも生徒会に掛け合うでも構わない、とさえ言っていた。
 だがヨキは、彼のことを信じておるゆえに……何もしないと決めた。
 君の言葉に懲りたのならば、もうそれ以上は構わんと」

(蓋盛に溜め息を吐かれる自覚がないらしかった。
 何でもないことのように、肩を竦めてみせた。

 差し出された茶に短く礼を告げる。
 蓋盛を見上げ、その言葉の曖昧な調子に笑う)

「何だ、君にしては随分とあやふやだな。
 …………。
 普段『ごっこ遊び』と軽く言ってのける君が、それほど言葉を濁すとは……。
 ……君、何か心境の変化でもあったか?」

(湯呑を取る。
 口元でそっと冷ましてから、大きな口に不釣り合いなほど小さな一口を啜った)

蓋盛 椎月 > 「そうですか……」

どこか疲れたようにそう口にする。
説教を重ねることもできたが、所詮ただの同僚でしかないヨキに
そこまでしてやる義理はなかった。
この話題はそこで終えることにする。

「心境の変化、か……そうかもしれませんね。
 彼、いままでの相手とは、少し違いましたから。
 既存の言い方をうまくあてはめられなくて」

ヨキに向かいあうようにして腰を下ろす。
卓に肘をついて、目を伏せる。
少しの間、湯のみの湖面を見つめてから、たぶん、と切り出す。

「きっと殺してくれるから。
 彼なら、あたしのことを」

凪いだ水面のように静かな表情。

ヨキ > (蓋盛の表情を、静かに見つめる。
 湯呑を置いて、相手の緩やかな言葉を待つようにして聞く)

「……きっと殺してくれる、か」

(その言葉に、ふっと笑って目を伏せる。
 瞼を開いて、穏やかに蓋盛を見る)

「不死の怪物を、死に至らしめる毒……与えれば救いに、裏切れば滅びに。
 君は『愛』をそう評していたな」

(少ない蓋盛の言葉を遮らぬようにしているのか、ぽつぽつと口を開く)

「たったひとり、死に場所になり得る相手を見つけたか。
 うらやましいよ」

(笑う。
 『羨ましい』。その語もまた、いつか蓋盛に言われたものだ)

蓋盛 椎月 > 「いやだ、覚えてたんですかそんなこと。
 恥ずかしい」

小さく苦笑する。

「そうですね。きっと、『愛』と呼ぶものなのでしょう。
 あたしが受け取ろうとしているものは。
 そうしてあたしは、おそらく、朽ち果てる、緩やかに……
 あの子とあたし、愚か者同士、お似合いでしょう。

 予断はできませんけどね。
 嘘を吐かれたり、裏切られるのには、慣れてますから」

吐き捨てるように言うその表情には、『愛』を得た人間特有の
浮かれた調子は一切見受けられない。
両手で湯のみを持ち、少しずつ啜る。

「うらやましい……か。
 さてね……葡萄の味なんて、取ったものにしかわかりませんよ。
 あなたはそういう相手を見つけるのは大変そうですね。
 あたしのような、半端で不徹底な人間ではないから」

口を離して薄く笑う。

ヨキ > 「覚えているとも。
 理解の及ばぬ言葉ほど、ヨキのうちには強く残る」

(椅子の肘掛けに両肘を乗せ、背凭れに身を預ける)

「……ヨキは生徒を、送り出すために教師の仕事を続けてきた。
 自分で生きる道を見つけ出し……選び取り、
 
 こんな『常世』などと銘打たれた地に、長居すべきではないと。

 ……だが君と奥野君がそう決めたのならば、ヨキはそれが叶うよう、心のうちへ留めておくだけだ」

(見守るでも、応援するでもなく――ただ黙して秘すると。
 肘掛けに立てた手でこめかみを支え、目を細める)

「ふふ。君の手に入れた葡萄など、酸っぱくて不味いに決まっている、か。
 ……奥野君にも、君と同じようなことを言われた。
 揺らがぬものを欲するならば――揺らぎのある、曖昧なものに恋をするべきだと。
 ひどく呆れられてしまった」

(そうしてゆっくりと、茶で口を潤す)

「たしかに……ヨキが死するならば、徹底的にやり尽くしてもらわねば気が済まない。
 一片の容赦もなく完全でなければ、美しくないと」

(少し黙る。
 自分でも言葉に表しあぐねているかのように、ぽつりと零す)

「………………。
 だが……ヨキも『あれ』に殺されるならば、おそらく後悔はないだろう、と思うものが……

 居る。ひとりだけ」

蓋盛 椎月 > 「ご立派な考えです。尊敬いたしますよ。
 ……そして感謝します」

 表情に皮肉を混ぜて、小さく頭を下げる。

「あたしにはいまいち理解できませんけどねえ、それ。
 だって常世って来る社会のモデルケースで縮図なわけでしょう。
 きっとどこに行ったって地獄がついて回りますよ。
 そのことを教えてあげたほうが生徒のためじゃないです?
 ……なァーんて」

おどけたように肩を竦める。

「へえ、あの子、あなたに説教をしたんですか。
 まったく大したタマですね……」

くつくつと愉快げに喉を鳴らして笑う。
殺されるに足る相手がいるとヨキの口から漏れれば、
ますます関心を深めたように瞳をぱちりと開いた。

「ほぉ、いらっしゃるんですか、そんな人が。
 誰ですかー、あたしにだけこっそり教えて下さいよー、このー」

まるで恋話をする女学生のようにニコニコと笑ってヨキを指でつつきだした。

ヨキ > 「はじめはモデル都市として『作られた』……それはつまりこの先、変化する可能性もあるということだ。
 こんな、地獄が長続きする社会に可愛い教え子らを放り出すなど、ヨキには認められんよ。
 地獄を作り変えるほどの力を……身に着けてもらわねばならん」

(来るべき変化と、それそのものを齎す力を。
 自分でそう口にしておきながら、ふっと小さく笑って)

「……ヨキ自身が、誰より固着したきり変わらんというのにな。
 奥野君は随分としっかりしている。
 そんな姿勢は空しいだけだと、一蹴されてしまったよ」

(蓋盛の笑みに呼応して、まったくだ、と頷く。
 自分の話に機嫌のよさそうな蓋盛に、うん、と呻いて、天井を仰ぐ)

「…………。
 あれほど自らの大望に徹底しているものは、他に類を見ない。
 そつがなく、冷静で……筋が通っている。

 おそらくヨキは……殺されるのだろうと思う。
 いつかは分からない。だが確実に。

 あれに消される者たちの、所詮は大勢のひとりに過ぎないとしても――」

(顔を引き戻し、『君にだけだぞ』と前置きする。
 蓋盛の様子に反して、ひどく落ち着いて、淡々とした声)

「獅南だよ。魔術学の」

蓋盛 椎月 > 「ふ~~ん……前向きですねぇ……」

身を反らして、腕を自分の頭の後ろに組む。
大した感慨も受けなかったような、ひどくつまらなさそうな表情。

そして、ヨキの告げた人物に、
深くため息をついて、がりがりと頭を掻いた。

「《レコンキスタ》……」

その名前をつぶやいて、しばらく、頭を抱えた姿勢。
やがて、肩を小刻みに揺らして笑い始める。

「……なんだ、知らない間に随分と楽しそうなことになってたんだな、お前ら。
 わたしを羨む必要もないぐらい、充実した生を送ってんじゃあないか」

大きく息を吸い、吐く。
行儀悪く椅子の上に脚を組む。
あまり人前に見せることのない、左右非対称の嘲りの笑い。

「わたしに言わせれば、お前ら馬鹿どものほうがよほど羨ましいよ。いい大人がよ」