2016/06/13 のログ
古志野 緋色 > 「へぇ……また便利な…」

どちらかと言えば地味な異能の持ち主であることも手伝い、素直に関心する。

「ゴールのない修羅の道……ねぇ
 どうりで芸術家って奴は、少しズレた連中が多い訳だ
 いや、その道を歩むからズレたのか、ズレていたからこそその道を選んだのか……」

「というか、芸術関係でなくとも、専門家ってやつは変人が多い気がしますね」

一つの道を追い求めるからこそ起こる事なのかもしれない

ヨキ > 「実に便利だ。
 酒を飲むことになったがコップが足りない、とか、ワインのコルクを開けるのにオープナーがない、とか……
 差し入れで果物をもらったけどナイフがない、とか、そういうときにすごく役立つ異能だよ」

食べ物と酒の話ばかりの使用例だった。

「ヨキなどは犬が人間の芸術を覚えようとしているようなものだから、まだまだ芸術家の足元にも及ばんがな。
 そう呼ばれる者たちは、きっと我々と違うものの見方や感じ方をしているのかも知れない。
 我々にできるのは、芸術家の作品を目の当たりにして、その感覚の一端を味わったり、何とかして見習ってやろうと試みるばかりだ」

専門家、と聞いて、しばし視線が上を向く。
明らかに数名の顔を思い浮かべた様子で、ふっと吹き出す。

ペットボトルを置くと、再び掲示板に向かう。
少なくなった作品を、丁重に残りのスペースへ貼り付けてゆく。

顔だけで振り返って、会話を続ける。

「なりふり構わぬ姿勢が、携わらない者にとっては異質に見えるのであろうな。
 何かを突き詰めるというのは、そういうことだ。
 たとえ専門家でなくとも、人が何かに打ち込む姿は、見る者に何かしらの感慨を与えるものさ。

 君には何か、そういうものはないのかね。
 趣味でも特技でも、それに触れている間は現実を忘れてしまうようなことは?」

古志野 緋色 > 「……あー、小学生の頃に合気道を始めてから、武道とか格闘技とかに凝り始めましたね
 今でもよく、その手の教本を借りて読んだりしてますよ」

まだ彼が小学生だった時、些細なきっかけからいじめに遭い
いじめられないほど強くなろう、と思って始めたのがきっかけであった。
それがいつの間にやら、純粋に武術や格闘技を好むようになっていったのだ。

「風紀委員の仕事にも役に立ちますしね
 どっかの格ゲーみたいに、俺より強い奴に……なんて事にはさすがになりませんけど」

脳味噌筋肉という訳でもないらしい

「……っと、そろそろいかねぇと
 先生、失礼しました」

缶をごみ箱に放り込み、そそくさとロビーを後にする
どうやら仕事の時間らしい

ご案内:「ロビー」から古志野 緋色さんが去りました。
ヨキ > 「格闘技か。良いことだ。
 身体を動かして正しく統御することは、己の心を律して導くことにも繋がる。

 やあ、君は風紀委員であったのか。
 であれば、ヨキは間違いなく君の味方であるという訳だ。
 公安も、風紀も、共に常世のために努める仲間であるからな」

緋色の身の上を聞いて、嬉しげに目を細める。

「ああ、君のお陰でどうやら展示は恙なく出来そうだ。
 引き続き職務に励みたまえよ、風紀委員?」

にやりと笑って、歩み去る緋色を見送る。

ヨキ > 「さて、それでは最後の一枚……と、」

眺める。
裏面に記名はされているが、これまた難解な一枚だ。
先ほど緋色に語ったように、“見えているものが違う”芸術家の目に違いない……。

「……お、」

通り掛かった教え子の女生徒を捕まえて、この絵はどちらが上だと思うか、と尋ねる。

いやだ先生、また見えてないの?どう見たってこっちじゃない。
事もなげに言って、女生徒はヨキが手にした絵をくるりと引っ繰り返して去っていった。

黄緑の草っぱらの中に咲き誇る、黄色やオレンジの鮮やかな花々。
要するに――ヨキの目には、ひたすら真っ黄色に見えていたのだ。

「………………。侭ならんな……」

その場に立ち竦んでぽりぽりと頭を掻き、最後の画用紙を貼り付ける。
隅に科目や指導者のキャプションを添えて、目にも鮮やかな展示コーナーの完成だ。

それからおよそ二週のあいだ、子どもらの絵は教室棟のほんの片隅を彩ることになる。

ご案内:「ロビー」からヨキさんが去りました。